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三章 ただ、君を信じて
第八話 二人だけの約束
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帰路は、行きとはまるで違っていた。
行きは、早馬で突き進み、空気すら張り詰めていた。
けれど、今は。
伽耶を連れ、慎重に進む長い隊列。
無事を喜ぶ安堵の空気と、春のあたたかさに包まれながら、時折休みを入れ、ゆっくりと戻る道。
そして、西の空が茜色に染まりはじめた頃、
ふたりが乗る馬の先に、見慣れたあの城門が見えてきた。
「……帰ってきた」
伽耶がぽつりと呟いた。
その門の前には、ずらりと並ぶ人々の姿。
父・景仁を筆頭に、烈翔、華蘭、家臣たち。
そして、傷ひとつなく救出された同行の女官ふたりの姿もあった。
兵のひとりが駆けて前へ出ると、城門の上から旗が振られる。
「帰還の隊列、城門前に到達!!」
声が響いたその瞬間、城の前に集まっていた人々が、一斉に息を呑んだ。
そして――
「伽耶!!」
真っ先に叫んだのは華蘭だった。
彼女は制止も聞かずに駆け出し、馬から降りようとする伽耶を、地面に降りる前に、ぎゅうっと抱きしめた。
烈翔も駆け寄り、華蘭と伽耶、二人まとめて強く抱きしめる。
「……もう、ほんと、無事でよかった……っ!!」
「心配したんだぞ、伽耶…!」
「華蘭姉様、烈翔兄様……っ、わたし……っ」
抱き合ったまま涙ぐむその横に、静かに近づいてきたのは、景仁だった。
堂々たる姿で、しかし、夕陽が照らすそのまなざしは、どこかやさしげだった。
陸誠がすぐに一歩前へ出て、深く頭を下げる。
「伽耶姫様、無事に帰還されました。
賊の情報、被害の詳細については――」
「……よい」
その声が、重く、でもやわらかく響いた。
「あとでよい。今は、戻った娘の顔を見させてくれ」
陸誠は、その言葉に驚いたようにわずかに目を開き、すぐに、深く頭を垂れた。
そして景仁は、まだ抱きしめられている伽耶の頭を、大きな手で、ぽん、と静かに撫でた。
「……よく、帰ってきたな」
その一言に、伽耶の目から、また新しい涙がこぼれ落ちる。
「あっ……」
はっとして、伽耶は涙を拭おうと手を上げる。
「も、申し訳ありません、わたし……
こんなところで、泣いたりなんか……!」
小さく震える声。
人前で涙を見せてはいけない。
そう教えられてきた。
けれど。
その手を、景仁がそっと止めた。
「よい」
そう言って、ふっと、やさしく笑った。
それは、父としての顔だった。
伽耶の目が、潤んだまま見開かれる。
「……とうさま……っ」
そのまま、伽耶は景仁にぎゅうっと抱きついた。
景仁は何も言わず、その小さな肩をしっかりと抱き返す。
春の風が、ふたりの間をすり抜けていった。
そのあとは、まるで堰を切ったように、人々が次々に彼女のもとへ駆け寄ってきた。
城の誰もが、彼女の無事を喜んでいた。
その中心で伽耶は、少し圧倒されながらも、笑って、みんなに「ただいま」と何度も返す。
そのときだった。
「皆様、静まりなさいませ!!」
キレのいい声が響いた。
芳蘭が、腕をまくりながらずかずかと突入してくる。
誰も逆らえない、城でも一、二を争う“恐れられている存在”。
「お気持ちはわかりますが!
姫様はこれから医官の診察と、ご休息が必要でございます!!
感動の再会はけっこうですが、道を空けていただきます!!」
「えっ、でも……わたし、特に、怪我は……」
「そういうことではありません、姫様!
靴のまま倒れる前に、さあ、こちらへ!」
「きゃっ!? ちょっ、ほ、芳蘭……っ!」
ぐいぐいと引っ張られて、伽耶は人混みの中を後ろ向きに連れていかれる。
「せ、せめて皆に、一言お礼を……!」
「それもあとでございます!皆様もお仕事はどうなさいましたか!!」
もはや“お祭りモード”から“片付けモード”に突入しかけた広場。
けれど、連れ去られるその途中。
伽耶は、何かを探すようにきょろきょろと顔を巡らせた。
「……っ、どこ……」
誰の目にも留まらないように。
でも、自分にとってはどうしても、見つけたかった“誰か”。
――いた。
人々の隙間の向こう、少し離れた場所で、静かに佇む誠の姿。
見つけたその瞬間、伽耶は、連れていかれながらも、しっかりと目を合わせて、
『……また、あした』
声を出さずに口を動かす。
彼女のその言葉に、誠の瞳が、わずかに揺れたように見えた。
そして、誰にも見られぬように、ほんのすこし、頷いた。
春の光が、ゆっくりと傾いていく。
“日常”が戻ってきたその城の中で交わされた、ふたりだけの小さな約束だった。
行きは、早馬で突き進み、空気すら張り詰めていた。
けれど、今は。
伽耶を連れ、慎重に進む長い隊列。
無事を喜ぶ安堵の空気と、春のあたたかさに包まれながら、時折休みを入れ、ゆっくりと戻る道。
そして、西の空が茜色に染まりはじめた頃、
ふたりが乗る馬の先に、見慣れたあの城門が見えてきた。
「……帰ってきた」
伽耶がぽつりと呟いた。
その門の前には、ずらりと並ぶ人々の姿。
父・景仁を筆頭に、烈翔、華蘭、家臣たち。
そして、傷ひとつなく救出された同行の女官ふたりの姿もあった。
兵のひとりが駆けて前へ出ると、城門の上から旗が振られる。
「帰還の隊列、城門前に到達!!」
声が響いたその瞬間、城の前に集まっていた人々が、一斉に息を呑んだ。
そして――
「伽耶!!」
真っ先に叫んだのは華蘭だった。
彼女は制止も聞かずに駆け出し、馬から降りようとする伽耶を、地面に降りる前に、ぎゅうっと抱きしめた。
烈翔も駆け寄り、華蘭と伽耶、二人まとめて強く抱きしめる。
「……もう、ほんと、無事でよかった……っ!!」
「心配したんだぞ、伽耶…!」
「華蘭姉様、烈翔兄様……っ、わたし……っ」
抱き合ったまま涙ぐむその横に、静かに近づいてきたのは、景仁だった。
堂々たる姿で、しかし、夕陽が照らすそのまなざしは、どこかやさしげだった。
陸誠がすぐに一歩前へ出て、深く頭を下げる。
「伽耶姫様、無事に帰還されました。
賊の情報、被害の詳細については――」
「……よい」
その声が、重く、でもやわらかく響いた。
「あとでよい。今は、戻った娘の顔を見させてくれ」
陸誠は、その言葉に驚いたようにわずかに目を開き、すぐに、深く頭を垂れた。
そして景仁は、まだ抱きしめられている伽耶の頭を、大きな手で、ぽん、と静かに撫でた。
「……よく、帰ってきたな」
その一言に、伽耶の目から、また新しい涙がこぼれ落ちる。
「あっ……」
はっとして、伽耶は涙を拭おうと手を上げる。
「も、申し訳ありません、わたし……
こんなところで、泣いたりなんか……!」
小さく震える声。
人前で涙を見せてはいけない。
そう教えられてきた。
けれど。
その手を、景仁がそっと止めた。
「よい」
そう言って、ふっと、やさしく笑った。
それは、父としての顔だった。
伽耶の目が、潤んだまま見開かれる。
「……とうさま……っ」
そのまま、伽耶は景仁にぎゅうっと抱きついた。
景仁は何も言わず、その小さな肩をしっかりと抱き返す。
春の風が、ふたりの間をすり抜けていった。
そのあとは、まるで堰を切ったように、人々が次々に彼女のもとへ駆け寄ってきた。
城の誰もが、彼女の無事を喜んでいた。
その中心で伽耶は、少し圧倒されながらも、笑って、みんなに「ただいま」と何度も返す。
そのときだった。
「皆様、静まりなさいませ!!」
キレのいい声が響いた。
芳蘭が、腕をまくりながらずかずかと突入してくる。
誰も逆らえない、城でも一、二を争う“恐れられている存在”。
「お気持ちはわかりますが!
姫様はこれから医官の診察と、ご休息が必要でございます!!
感動の再会はけっこうですが、道を空けていただきます!!」
「えっ、でも……わたし、特に、怪我は……」
「そういうことではありません、姫様!
靴のまま倒れる前に、さあ、こちらへ!」
「きゃっ!? ちょっ、ほ、芳蘭……っ!」
ぐいぐいと引っ張られて、伽耶は人混みの中を後ろ向きに連れていかれる。
「せ、せめて皆に、一言お礼を……!」
「それもあとでございます!皆様もお仕事はどうなさいましたか!!」
もはや“お祭りモード”から“片付けモード”に突入しかけた広場。
けれど、連れ去られるその途中。
伽耶は、何かを探すようにきょろきょろと顔を巡らせた。
「……っ、どこ……」
誰の目にも留まらないように。
でも、自分にとってはどうしても、見つけたかった“誰か”。
――いた。
人々の隙間の向こう、少し離れた場所で、静かに佇む誠の姿。
見つけたその瞬間、伽耶は、連れていかれながらも、しっかりと目を合わせて、
『……また、あした』
声を出さずに口を動かす。
彼女のその言葉に、誠の瞳が、わずかに揺れたように見えた。
そして、誰にも見られぬように、ほんのすこし、頷いた。
春の光が、ゆっくりと傾いていく。
“日常”が戻ってきたその城の中で交わされた、ふたりだけの小さな約束だった。
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