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四章 初恋の花束
第十三話 今度は、ちゃんと呼ぶから
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あたりはすでに暗く、幕屋の中は外から差し込む篝火のあかりで、ゆらゆらと揺れていた。
(そうだ、あのあとすぐ寝ちゃったんだ)
満身創痍で幕屋に戻った伽耶は、寝台にたどり着くなり、そのまま意識を手放していたのだった。
「姫様! お目覚めになられたのですね。お加減はいかがですか?」
むくりと身体を起こした伽耶に、女官が慌てて駆け寄る。
眠りにつく前に感じていた不快感は、すっかり消えていた。
「大丈夫よ。もう、すっかりいいみたい」
伽耶が微笑むと、女官は安心したようにほっと胸を撫で下ろした。
「それはよかったです。何か召し上がられますか? 医官の指示で、お粥はご用意しております」
確かに、空腹感がある。
今日は朝から“あの”特別訓練があり、今はもうすっかり夜。
「じゃあ、いただこうかしら」
「はい、すぐお持ちします!」
ぱたぱたと女官は幕屋を出ていった。
「ごちそうさま」
鳥だしの利いた温かいお粥は、骨身に染みた気がした。
それだけで、体力が戻ってくるのを感じる。
「姫様、すっかりお元気そうで、よかったです。……陸誠様なんて、それはもうご心配されておりましたよ」
(誠……)
別れる直前の、あの心配そうな顔が頭に浮かぶ。
そして昨晩、怒ったあの表情も。
伽耶はふと顔を上げ、ぽつりと呟いた。
「……誠を、呼んでもらえる?」
女官がきょとんと目を丸くする。
「わたし、どうしても、今日、誠に話したいことがあるの」
「えっ……今からでございますか!? まだそれほど遅くはありませんが、もう日も耽っておりますし――」
伽耶は小さく首を横に振り、にっこりと微笑んだ。
「どうしても今日がいいの。明日は、帰るんでしょ?」
それから少しだけイタズラっぽく、声をひそめて付け加える。
「……それとも、また抜け出しちゃおうかしら?」
「そ、それは困ります……!」
女官が慌てて立ち上がると、伽耶はくすっと笑って見送った。
「姫様、陸誠、参りました」
幕屋の外からくぐもった声が響き、伽耶は静かに入室を促した。
ゆっくりと布が持ち上がり、入ってきた誠は、どこか憔悴した様子だった。
そのまま伽耶の前まで進み出ると、迷いなく膝をつく。
「姫様。此度の件、まことに申し訳ありませんでした……!」
突然の謝罪に、伽耶は目を丸くした。
「ど、どうして……あなたが謝るの?」
「姫様を、危険な目におあわせしてしまいました。まさか、あのような……私が、もっと早く察しておくべきでした。本当に、申し訳ございません」
その声音は真剣で、頭を下げる姿は、まるで土下座せんばかりだった。
思わず伽耶はくすり、と笑った。
「……あなたのせいじゃないわよ。それより、お願いがあって呼んだの」
そっと手を伸ばして、誠の肩に指を置く。
驚いたように顔を上げた誠の瞳は、少し困惑を含みながら、伽耶をまっすぐに見つめていた。
「……お願い、とは?」
「星を、見に行きたいの」
ぱっと花が咲くように、伽耶はにっこりと微笑んだ。
「……い、いまからですか? お身体のほうは……」
「もう大丈夫。それに、あなた、言ったでしょ?」
伽耶は得意げに胸を張り、勝ち誇ったように微笑んだ。
「抜け出したい時は、自分を呼べって」
その一言に、誠はふっと肩の力を抜いて、わずかに笑みをこぼした。
「……では。参りましょう。少しの時間だけ、ですよ」
(そうだ、あのあとすぐ寝ちゃったんだ)
満身創痍で幕屋に戻った伽耶は、寝台にたどり着くなり、そのまま意識を手放していたのだった。
「姫様! お目覚めになられたのですね。お加減はいかがですか?」
むくりと身体を起こした伽耶に、女官が慌てて駆け寄る。
眠りにつく前に感じていた不快感は、すっかり消えていた。
「大丈夫よ。もう、すっかりいいみたい」
伽耶が微笑むと、女官は安心したようにほっと胸を撫で下ろした。
「それはよかったです。何か召し上がられますか? 医官の指示で、お粥はご用意しております」
確かに、空腹感がある。
今日は朝から“あの”特別訓練があり、今はもうすっかり夜。
「じゃあ、いただこうかしら」
「はい、すぐお持ちします!」
ぱたぱたと女官は幕屋を出ていった。
「ごちそうさま」
鳥だしの利いた温かいお粥は、骨身に染みた気がした。
それだけで、体力が戻ってくるのを感じる。
「姫様、すっかりお元気そうで、よかったです。……陸誠様なんて、それはもうご心配されておりましたよ」
(誠……)
別れる直前の、あの心配そうな顔が頭に浮かぶ。
そして昨晩、怒ったあの表情も。
伽耶はふと顔を上げ、ぽつりと呟いた。
「……誠を、呼んでもらえる?」
女官がきょとんと目を丸くする。
「わたし、どうしても、今日、誠に話したいことがあるの」
「えっ……今からでございますか!? まだそれほど遅くはありませんが、もう日も耽っておりますし――」
伽耶は小さく首を横に振り、にっこりと微笑んだ。
「どうしても今日がいいの。明日は、帰るんでしょ?」
それから少しだけイタズラっぽく、声をひそめて付け加える。
「……それとも、また抜け出しちゃおうかしら?」
「そ、それは困ります……!」
女官が慌てて立ち上がると、伽耶はくすっと笑って見送った。
「姫様、陸誠、参りました」
幕屋の外からくぐもった声が響き、伽耶は静かに入室を促した。
ゆっくりと布が持ち上がり、入ってきた誠は、どこか憔悴した様子だった。
そのまま伽耶の前まで進み出ると、迷いなく膝をつく。
「姫様。此度の件、まことに申し訳ありませんでした……!」
突然の謝罪に、伽耶は目を丸くした。
「ど、どうして……あなたが謝るの?」
「姫様を、危険な目におあわせしてしまいました。まさか、あのような……私が、もっと早く察しておくべきでした。本当に、申し訳ございません」
その声音は真剣で、頭を下げる姿は、まるで土下座せんばかりだった。
思わず伽耶はくすり、と笑った。
「……あなたのせいじゃないわよ。それより、お願いがあって呼んだの」
そっと手を伸ばして、誠の肩に指を置く。
驚いたように顔を上げた誠の瞳は、少し困惑を含みながら、伽耶をまっすぐに見つめていた。
「……お願い、とは?」
「星を、見に行きたいの」
ぱっと花が咲くように、伽耶はにっこりと微笑んだ。
「……い、いまからですか? お身体のほうは……」
「もう大丈夫。それに、あなた、言ったでしょ?」
伽耶は得意げに胸を張り、勝ち誇ったように微笑んだ。
「抜け出したい時は、自分を呼べって」
その一言に、誠はふっと肩の力を抜いて、わずかに笑みをこぼした。
「……では。参りましょう。少しの時間だけ、ですよ」
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