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四章 初恋の花束
閑話 誠の恋愛講義
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朝の光が障子越しにやわらかく差し込む中、静かな書房にその声は響いた。
「ねえ誠、恋愛について教えてくれるって言ったの、覚えてる?」
何の前触れもなく放たれたその一言に、誠の筆先がぴたりと止まる。
(……とうとう、この日が……)
額に手をあて、そっと目を伏せる。
もちろん、忘れるはずがなかった。
――『誠、わたし、恋とかそういう人の機微についてちゃんと勉強したほうがいいと思うの。帰ったら、教えてくれる?』
あの夜。幕屋の柔らかな灯火の中で、伽耶がふわりと笑って言った言葉は、いまも誠の記憶に鮮やかに焼きついていた。
その後、何事もなかったように日常が戻り、もしかすると忘れてくれているのではと密かに期待していた自分が、今はただ恥ずかしい。
――逃げられなかったか。
「……覚えております」
そう返すと、伽耶は満足げに頷く。
誠はそっと書棚から一冊の古びた本を取り出す。
「“目が合った、その時から”……なぁに、この本?」
伽耶が表紙の文字を読み上げながら、首を傾げる。
「……芳蘭殿と相談して決めました。……いわゆる“恋愛小説”というものです」
「恋愛小説……!」
伽耶の目がきらりと光る。
この本は実は娘というより子供向けだが、伽耶の程度を考え誠と芳蘭で決めた…というより、誠が提案した本は芳蘭に何度も物言いをつけられ、ようやく決まったのがこの本だった。
「じゃあ、これを読んで、わからないところは誠が教えてくれるってことね?」
振り返った伽耶が、ふわりと微笑む。
誠は、その笑顔に思わず目を奪われたまま、少し遅れて、静かに頷いた。
「……はい。……可能な限り、真摯にお答えします」
「ふふ、ありがとう。楽しみだわ」
そう言うと、伽耶は早速ページをめくりはじめた。
その横顔は、まるで宝物を見つけた子供のように嬉しそうで。
誠はそっと胸に手を置き、深く、小さく、ため息を吐いた。
(……覚悟を決めねばなりませんね)
それから、どれほどの時間が経っただろうか。
伽耶が手にしていた本を、ぱたん、と静かに閉じた。
顔を上げた彼女は、言葉もなく首をかしげ、なにやらひとりで考え込んでいる。
唸るような小さな声がもれ、眉間にはうっすらとしわが寄っていた。
それを見た瞬間。
(嫌な予感が…)
誠の手にしていた筆が、静かに止まる。
次の瞬間。
「……ねえ、誠。口付けって――なにかしら?」
その言葉は、あまりにも真剣な声音で発せられた。隅に控える女官がはっと息を呑む。
誠の脳裏で、何かがぱきん、と音を立てて砕ける。
「口付け……とは……その、唇と、唇が……触れる、ことでございます……」
ようやくの思いで絞り出した声が、震えているのが自分でも分かった。
「唇と唇……を?それは、なぜ……?」
伽耶の顔はいたって真面目で、からかう様子など微塵もない。
澄んだ瞳が、まっすぐに誠を射抜いてくる。
耐えきれず、誠はそっと目を逸らした。
「……その、親愛や信頼の証として……行われることがございます……」
言い終えると同時に、誰が呼んだのか、いつのまにか後ろに控えていた芳蘭が、すっと前に出る。
「――したくなるのです。姫様も恋をなされば、きっと分かりますよ」
穏やかな微笑みとともに発せられたその言葉に、伽耶は「なるほど……」と感銘を受けたように目を丸くする。
誠は、まさかの援護射撃にわずかに息を吐いたが――
それも束の間だった。
伽耶は再び本に視線を落とすと、何かを確かめるように頁をめくる。
そして、また顔を上げて言った。
「……ねえ。口付けって、いったい何秒くらいするものなの?」
誠は、言葉を失い、芳蘭も頭を抱えた。
「だってこの本、口付けをしながら考え事してるのよ?長いの。ずっとしてるの。呼吸は?苦しくないの?どうして唇を合わせたまま、考えるのかしら?」
「…………」
沈黙。
誠はただ、ごくり、と喉を鳴らした。
「……姫様。……呼吸は……鼻で……。時間は……人によるかと……」
「ふむ……」
伽耶が真剣に筆を走らせるその姿は、まるで学問の講義を受ける学者のようだった。
芳蘭は少し考え事をしていたが、面倒になったのか、
「お茶を用意して参ります」
そう告げると退室してしまった。
そのときだった。
筆が止まった伽耶がそっと顔を上げる。
「……じゃあ、試してみてもいい?」
伽耶の声は静かで、そして真剣だった。
眉を寄せ、まっすぐな眼差しで誠を見つめてくる。
彼女にとって、それはあくまで“理解のため”の問いなのだろう。
だが、誠には――
ぱきん。
筆が、折れた。
瞬間、顔に一気に熱がのぼるのを誠ははっきりと感じた。
「い、いけません!!姫様!!」
がたん、と椅子の脚が鳴り、誠は反射的に立ち上がっていた。
「え……?そ、そんなに驚くこと……なの……?信頼の証なんじゃないの…?」
伽耶は目を瞬かせ、わずかに困ったような顔を見せる。
対する誠は、まるで火のように顔を染め、深く息を吸い込んだ。
「そ、それはですね……っ」
言葉がうまく出てこない。
理性が警鐘を鳴らし続ける中、ようやく――
「ち、違うのです!信頼の証ではありますが、それは――
“恋人同士”の、極めて親密な信頼の証であって……!」
言いながらも、誠自身がその言葉に打ちのめされそうだった。
(――なぜ、こんなことを口にしているのだ、わたしは……!)
息も絶え絶えな誠の姿を見て、
伽耶は小さく瞬きを繰り返す。
(……誠がこんなに焦るなんて……)
彼女の胸に、小さな疑問と、ほんの少しの罪悪感がよぎった。
(そんなに……ひどいことを言ってしまったのかしら……?)
静かな空気に、誠の乱れた呼吸だけがかすかに響いていた。
そのとき。
カンカンカン…
昼を知らせる鐘が遠くで鳴り響く。
誠ははっと顔を上げると、机上の書類を乱れなくまとめはじめた。
それはもう、訓練を受けた兵の如く、無駄のない速さで。
「姫様! お時間となりましたので、本日はこれにて失礼させていただきます……!」
顔を上げた誠は、明らかに――少し、ほっとしていた。
ちょうど入れ替わるようにやってきた芳蘭が扉の脇で見守る中、誠は一礼もそこそこに、小走りで書房を後にした。
ぱたん、と扉が閉じられたあとの室内に残された伽耶は、小さく首をかしげながら、ゆっくりと手元の本を閉じた。
翌日。
容赦なく昇った太陽が、今日という一日がまた始まったことを、無言のうちに告げていた。
誠の足取りは、ひときわ重い。
書房への道を進むたび、胸の奥に小さな覚悟が蓄積されていく。
(……姫様のご質問は、昨日で終わり、というわけでは……ないだろうな……)
ようやく辿り着いた扉の前で、ひとつ深く息を吐く。
そして、いつも通りに控えめなノックをひとつ。
「待ってたわ! 入って!」
名乗るよりも先に返ってきた元気な声に、誠は小さく目を伏せた。
(……これは、逃げ場がない)
静かに扉を開けると、部屋の奥には目を輝かせた伽耶の姿。
その手には、昨日の“例の本”が、大切そうに抱かれていた。
「姫様、おはようございます。本日は――」
「さあ、座って!早く!」
朗らかな笑顔とともに、ぐいと背を押され、椅子へと導かれる。
逃げる間もなく腰を下ろした瞬間、誠は観念した。
「聞きたいことがあるの!昨日、あの本何度も読んだんだから!」
その声は、まるで宝の地図を見つけた子どものように弾んでいて。
本のあちこちには栞が挟まれ、伽耶の熱意がひしひしと伝わってくる。
「まずね、“心を奪われる”ってどういう状態なの?」
「……え?」
「だって、ここに書いてあるの。“彼は一目で心を奪われた”って。
心を奪われるって、物理的に?」
「ぶ、物理では……ございません」
誠の狼狽を、伽耶は気にも留めず目を輝かせながら答えを待つ。
「……例えば、気づけば目で追ってしまう。悲しんでいれば理由を知りたくなるし、笑っていればそれだけで嬉しい…… その方のことばかり、気になってしまう。そういった、お気持ちのことかと」
「やけに具体的ね?」
にこり、と伽耶が微笑んだ。
誠はひとつ咳払いをして、視線を少し逸らす。
「……心が勝手に、先回りしてしまうのです。
その方が笑えば理由もなく安心して、
誰かの隣にいれば、自分の居場所がなくなってしまったような気がして……」
「ふうん……なんだか、難しいのね。恋って」
伽耶はそっと、本の角をなぞるようにして呟いた。
その声音には、どこか遠くを見つめるような、静かな翳りが宿っていて。
「じゃあ、わたしが……ある鯉に餌をあげたか忘れちゃって、“あの子ちゃんと食べたかしら”って心配になるのも……恋?」
「……はい…?」
明らかに声のトーンが落ちた誠に、伽耶は無邪気な顔で首をかしげる。
「だって、“気になる”ってそういうことでしょう?
他に気になるのは……桜華かしら。あの子、夜寒くなかったかしらって思うし、ご飯ちゃんと食べたかしらって……」
「姫様。それは“慈愛”です」
返答はばっさりだった。
「……じゃあ、違うのね」
「違います」
伽耶はしばし黙ってから、本を静かにぱたんと閉じる。
「“恋”って……わたしの知らないことばかりなのね…」
その言葉には、どこか心細さが混じっていた。
その人の顔を思い出すだけで、胸がざわめくような感情。
手に入れたいと願っても、こぼれ落ちていくような距離。
伽耶には、まだきっと、それがわからなかった。
だからこそ、静かに漏れたそのひとことが、痛いほどに胸に残る。
そして誠もまた、言葉を失っていた。
目の前の姫君が、こんなにもまっすぐに“恋”を知らないことを、いま、初めて、痛いほど実感していた。
「じゃあ、“恋人”って、なに?」
ぱちり。
無邪気な問いかけとともに、伽耶の長い睫毛がふわりと揺れた。
その瞳は、まっすぐに、何の曇りもなく誠を見つめている。
誠は、ごくりと喉を鳴らし、そっと目を伏せる。
そして、ほんの一拍。心を整えるように、静かに息を吸った。
「……“心を奪われた者同士”、でしょうか」
答える声は、まるで自分に言い聞かせるように低く穏やかで。
けれど、その言葉が落ちきるより早く、伽耶の声が重なる。
「じゃあ、わたしと誠、そうかもしれないわね?」
「……はい……?」
あまりに自然に発せられたその一言に、誠の思考は数秒フリーズした。
伽耶は、なんのてらいもなく微笑んでいる。
「だって、わたし、毎日ちゃんと誠がご飯を食べたか気になるし。
誠もきっと、わたしが今日どこに行って何をしたか、気になってるでしょう?」
それはまるで、“正しい答えを導き出しました”と胸を張る学者のような表情だった。
「……姫様」
誠は、そっと顔を手で覆った。
(これ以上、何も聞かなかったことにしたい)
「ちがうの?」
心から不思議そうに首をかしげる伽耶に、誠は苦悩の末、ゆっくりと呟く。
「……いえ、ある意味では……間違っては、いないかもしれません」
「ほんとう? じゃあ、わたしと誠は恋人?」
「――違いますッ!!」
あまりの即答に、伽耶がびくりと肩を揺らす。
「えっ!? 今、合ってるって……!」
「恋人とは、そのような、こう……わたくしと姫様のような、それとはまた……!!」
言いながら、誠の顔が燃えるように赤く染まっていく。
と、伽耶がふと思い至ったように、指を立てた。
「でもね、わたし、お姉様のことも毎日心配してるし、お兄様たちのことも、今日元気かなって気になるの。
それに、あの方たちもきっと、わたしが何してたか気にしてるはずよ?」
一瞬の静寂ののち、伽耶はにっこりと微笑んだ。
「……ってことは、――わたし、お姉様やお兄様たちとも恋人ってことね?」
「違います」
即答。切実。真剣そのものだった。
「えぇ……でも、“心を奪われた者同士”なんでしょう?」
「その“心”ではございません!!」
「その心、というと?」
「姫様ぁぁぁあ……!!」
もはや誠の声は、悲鳴に近かった。
彼は頭を抱え、項垂れながら、震える声で必死に絞り出す。
「姫様のお心が……あまりに清らかで、無垢すぎて……
“恋”という概念が、もはや透明になってしまっているのです……!」
「へ?」
「ご兄妹への思慕と、恋慕とでは……まったく性質が異なります……!」
その言葉に、伽耶は不服そうに口を尖らせる。
「じゃあ、恋の“心”って、どんな心なの?」
その問いかけは、あまりに素朴で、あまりに深い。
そして、誠は……
「……その件につきましては、本日、持ち帰って再考の上、後日改めてご説明させていただければと……!」
完全に打ち砕かれ、書簡口調で逃げに入った。
机に突っ伏しかけた誠を、伽耶はそっと見つめる。
(……わたし、また、なにか悪いことを訊いてしまったのかしら……?)
胸の内にほんの少し、ちくりと罪悪感が芽生える。
伽耶はそっと手を伸ばして、机の端に置いてあった小さな菓子を一つ、誠の手元に差し出した。
言葉にできない気持ちの代わりに。
それは、ささやかな償いのつもりだった。
ふたりの間に、そっと沈黙が降りた。
どちらも口を開かないまま、ただ静かに時間が流れていく。
けれど、その空気は決して重たくはなく、ほんの少し、胸の奥がひりつくような、そんな沈黙だった。
やがて。
「……なんとなく、わかった気がするの」
伽耶がぽつりと呟いた声は、どこか遠くを見つめるように静かで。
けれど、その目元にはふわりと柔らかな笑みが浮かんでいた。
「……たぶん、わたしの場合は――
“恋”ってものを知ってしまう方が、きっと、辛いのかもしれないわね」
「……辛い、と申しますと?」
誠はそっと顔を上げた。
けれど、その瞳には戸惑いと、わずかな緊張が滲んでいる。
伽耶は目を伏せ、手元の本をゆっくり閉じる。
そして、その上に小さく手を重ねた。
「だって……“恋”なんてものを覚えてしまったら。
政のために選ばれた方が、その心を、わたしには向けてくださらなかった時――
……きっと、とても寂しくなるでしょう?」
言葉の最後に微かに揺れた声と、浮かべた笑み。
その横顔には、どこか影が落ちていた。
「……だから、今まで誰も教えてくれなかったのかなって。
わたしに“恋”なんて言葉を教えたら、
余計な寂しさまで、一緒に覚えさせてしまうから……」
それは、誰を責めるでもなく。
ただ、そっと胸の内をほどくような声音だった。
誠は、何も言えなかった。
その言葉が、あまりにもまっすぐで、痛みを孕んでいて。
そして、伽耶らしくて。
彼女がまだ知らないその感情の重みを、誠だけが、今、知っている。
静かに、時が止まる。
けれど、その静寂を破ったのは、やはり彼だった。
「……けれど」
その声は、低く、けれどどこか凛としていた。
「姫様は……明るくて、優しくて、聡明で、勤勉で……
何にでも前向きで、努力を惜しまれず。
誰に対しても気遣いを忘れず、笑顔を絶やさない方です」
言葉のひとつひとつが、丁寧に選ばれていた。
それはまるで、言葉という形を借りなければ崩れてしまいそうな、大切な想いを、必死に編み上げるようで。
伽耶は、思わず顔を上げる。
けれど誠は、彼女を見てはいなかった。
ただ、まっすぐ前を向いたまま、苦しげに、それでも言葉を繋げた。
「そんな姫様を、恋しく思わぬ者など、いるはずがありません。
……たとえ、政のために結ばれるとしても――」
一度、息を呑む音がわずかに響いた。
「きっと、その方は……姫様に、恋をします。……絶対に」
それは、願い。
それとも、祈り。
あるいは――
自分自身に向けた、精一杯の説得。
伽耶は、何度か瞬きを繰り返した。
そして、ふわりと微笑む。
その笑顔は、少し泣きそうで――けれど、とても優しくて。
「ふふ……ありがとう、誠」
伽耶は恋愛小説の本をそっと引き出しにしまうと、丁寧にその取っ手に手をかける。
ぱたん。
小さな音とともに、引き出しが静かに閉じられた。
それはまるで、“恋”という言葉を、
一度そっと胸の奥へしまい込むような。
そんな仕草だった。
「ねえ誠、恋愛について教えてくれるって言ったの、覚えてる?」
何の前触れもなく放たれたその一言に、誠の筆先がぴたりと止まる。
(……とうとう、この日が……)
額に手をあて、そっと目を伏せる。
もちろん、忘れるはずがなかった。
――『誠、わたし、恋とかそういう人の機微についてちゃんと勉強したほうがいいと思うの。帰ったら、教えてくれる?』
あの夜。幕屋の柔らかな灯火の中で、伽耶がふわりと笑って言った言葉は、いまも誠の記憶に鮮やかに焼きついていた。
その後、何事もなかったように日常が戻り、もしかすると忘れてくれているのではと密かに期待していた自分が、今はただ恥ずかしい。
――逃げられなかったか。
「……覚えております」
そう返すと、伽耶は満足げに頷く。
誠はそっと書棚から一冊の古びた本を取り出す。
「“目が合った、その時から”……なぁに、この本?」
伽耶が表紙の文字を読み上げながら、首を傾げる。
「……芳蘭殿と相談して決めました。……いわゆる“恋愛小説”というものです」
「恋愛小説……!」
伽耶の目がきらりと光る。
この本は実は娘というより子供向けだが、伽耶の程度を考え誠と芳蘭で決めた…というより、誠が提案した本は芳蘭に何度も物言いをつけられ、ようやく決まったのがこの本だった。
「じゃあ、これを読んで、わからないところは誠が教えてくれるってことね?」
振り返った伽耶が、ふわりと微笑む。
誠は、その笑顔に思わず目を奪われたまま、少し遅れて、静かに頷いた。
「……はい。……可能な限り、真摯にお答えします」
「ふふ、ありがとう。楽しみだわ」
そう言うと、伽耶は早速ページをめくりはじめた。
その横顔は、まるで宝物を見つけた子供のように嬉しそうで。
誠はそっと胸に手を置き、深く、小さく、ため息を吐いた。
(……覚悟を決めねばなりませんね)
それから、どれほどの時間が経っただろうか。
伽耶が手にしていた本を、ぱたん、と静かに閉じた。
顔を上げた彼女は、言葉もなく首をかしげ、なにやらひとりで考え込んでいる。
唸るような小さな声がもれ、眉間にはうっすらとしわが寄っていた。
それを見た瞬間。
(嫌な予感が…)
誠の手にしていた筆が、静かに止まる。
次の瞬間。
「……ねえ、誠。口付けって――なにかしら?」
その言葉は、あまりにも真剣な声音で発せられた。隅に控える女官がはっと息を呑む。
誠の脳裏で、何かがぱきん、と音を立てて砕ける。
「口付け……とは……その、唇と、唇が……触れる、ことでございます……」
ようやくの思いで絞り出した声が、震えているのが自分でも分かった。
「唇と唇……を?それは、なぜ……?」
伽耶の顔はいたって真面目で、からかう様子など微塵もない。
澄んだ瞳が、まっすぐに誠を射抜いてくる。
耐えきれず、誠はそっと目を逸らした。
「……その、親愛や信頼の証として……行われることがございます……」
言い終えると同時に、誰が呼んだのか、いつのまにか後ろに控えていた芳蘭が、すっと前に出る。
「――したくなるのです。姫様も恋をなされば、きっと分かりますよ」
穏やかな微笑みとともに発せられたその言葉に、伽耶は「なるほど……」と感銘を受けたように目を丸くする。
誠は、まさかの援護射撃にわずかに息を吐いたが――
それも束の間だった。
伽耶は再び本に視線を落とすと、何かを確かめるように頁をめくる。
そして、また顔を上げて言った。
「……ねえ。口付けって、いったい何秒くらいするものなの?」
誠は、言葉を失い、芳蘭も頭を抱えた。
「だってこの本、口付けをしながら考え事してるのよ?長いの。ずっとしてるの。呼吸は?苦しくないの?どうして唇を合わせたまま、考えるのかしら?」
「…………」
沈黙。
誠はただ、ごくり、と喉を鳴らした。
「……姫様。……呼吸は……鼻で……。時間は……人によるかと……」
「ふむ……」
伽耶が真剣に筆を走らせるその姿は、まるで学問の講義を受ける学者のようだった。
芳蘭は少し考え事をしていたが、面倒になったのか、
「お茶を用意して参ります」
そう告げると退室してしまった。
そのときだった。
筆が止まった伽耶がそっと顔を上げる。
「……じゃあ、試してみてもいい?」
伽耶の声は静かで、そして真剣だった。
眉を寄せ、まっすぐな眼差しで誠を見つめてくる。
彼女にとって、それはあくまで“理解のため”の問いなのだろう。
だが、誠には――
ぱきん。
筆が、折れた。
瞬間、顔に一気に熱がのぼるのを誠ははっきりと感じた。
「い、いけません!!姫様!!」
がたん、と椅子の脚が鳴り、誠は反射的に立ち上がっていた。
「え……?そ、そんなに驚くこと……なの……?信頼の証なんじゃないの…?」
伽耶は目を瞬かせ、わずかに困ったような顔を見せる。
対する誠は、まるで火のように顔を染め、深く息を吸い込んだ。
「そ、それはですね……っ」
言葉がうまく出てこない。
理性が警鐘を鳴らし続ける中、ようやく――
「ち、違うのです!信頼の証ではありますが、それは――
“恋人同士”の、極めて親密な信頼の証であって……!」
言いながらも、誠自身がその言葉に打ちのめされそうだった。
(――なぜ、こんなことを口にしているのだ、わたしは……!)
息も絶え絶えな誠の姿を見て、
伽耶は小さく瞬きを繰り返す。
(……誠がこんなに焦るなんて……)
彼女の胸に、小さな疑問と、ほんの少しの罪悪感がよぎった。
(そんなに……ひどいことを言ってしまったのかしら……?)
静かな空気に、誠の乱れた呼吸だけがかすかに響いていた。
そのとき。
カンカンカン…
昼を知らせる鐘が遠くで鳴り響く。
誠ははっと顔を上げると、机上の書類を乱れなくまとめはじめた。
それはもう、訓練を受けた兵の如く、無駄のない速さで。
「姫様! お時間となりましたので、本日はこれにて失礼させていただきます……!」
顔を上げた誠は、明らかに――少し、ほっとしていた。
ちょうど入れ替わるようにやってきた芳蘭が扉の脇で見守る中、誠は一礼もそこそこに、小走りで書房を後にした。
ぱたん、と扉が閉じられたあとの室内に残された伽耶は、小さく首をかしげながら、ゆっくりと手元の本を閉じた。
翌日。
容赦なく昇った太陽が、今日という一日がまた始まったことを、無言のうちに告げていた。
誠の足取りは、ひときわ重い。
書房への道を進むたび、胸の奥に小さな覚悟が蓄積されていく。
(……姫様のご質問は、昨日で終わり、というわけでは……ないだろうな……)
ようやく辿り着いた扉の前で、ひとつ深く息を吐く。
そして、いつも通りに控えめなノックをひとつ。
「待ってたわ! 入って!」
名乗るよりも先に返ってきた元気な声に、誠は小さく目を伏せた。
(……これは、逃げ場がない)
静かに扉を開けると、部屋の奥には目を輝かせた伽耶の姿。
その手には、昨日の“例の本”が、大切そうに抱かれていた。
「姫様、おはようございます。本日は――」
「さあ、座って!早く!」
朗らかな笑顔とともに、ぐいと背を押され、椅子へと導かれる。
逃げる間もなく腰を下ろした瞬間、誠は観念した。
「聞きたいことがあるの!昨日、あの本何度も読んだんだから!」
その声は、まるで宝の地図を見つけた子どものように弾んでいて。
本のあちこちには栞が挟まれ、伽耶の熱意がひしひしと伝わってくる。
「まずね、“心を奪われる”ってどういう状態なの?」
「……え?」
「だって、ここに書いてあるの。“彼は一目で心を奪われた”って。
心を奪われるって、物理的に?」
「ぶ、物理では……ございません」
誠の狼狽を、伽耶は気にも留めず目を輝かせながら答えを待つ。
「……例えば、気づけば目で追ってしまう。悲しんでいれば理由を知りたくなるし、笑っていればそれだけで嬉しい…… その方のことばかり、気になってしまう。そういった、お気持ちのことかと」
「やけに具体的ね?」
にこり、と伽耶が微笑んだ。
誠はひとつ咳払いをして、視線を少し逸らす。
「……心が勝手に、先回りしてしまうのです。
その方が笑えば理由もなく安心して、
誰かの隣にいれば、自分の居場所がなくなってしまったような気がして……」
「ふうん……なんだか、難しいのね。恋って」
伽耶はそっと、本の角をなぞるようにして呟いた。
その声音には、どこか遠くを見つめるような、静かな翳りが宿っていて。
「じゃあ、わたしが……ある鯉に餌をあげたか忘れちゃって、“あの子ちゃんと食べたかしら”って心配になるのも……恋?」
「……はい…?」
明らかに声のトーンが落ちた誠に、伽耶は無邪気な顔で首をかしげる。
「だって、“気になる”ってそういうことでしょう?
他に気になるのは……桜華かしら。あの子、夜寒くなかったかしらって思うし、ご飯ちゃんと食べたかしらって……」
「姫様。それは“慈愛”です」
返答はばっさりだった。
「……じゃあ、違うのね」
「違います」
伽耶はしばし黙ってから、本を静かにぱたんと閉じる。
「“恋”って……わたしの知らないことばかりなのね…」
その言葉には、どこか心細さが混じっていた。
その人の顔を思い出すだけで、胸がざわめくような感情。
手に入れたいと願っても、こぼれ落ちていくような距離。
伽耶には、まだきっと、それがわからなかった。
だからこそ、静かに漏れたそのひとことが、痛いほどに胸に残る。
そして誠もまた、言葉を失っていた。
目の前の姫君が、こんなにもまっすぐに“恋”を知らないことを、いま、初めて、痛いほど実感していた。
「じゃあ、“恋人”って、なに?」
ぱちり。
無邪気な問いかけとともに、伽耶の長い睫毛がふわりと揺れた。
その瞳は、まっすぐに、何の曇りもなく誠を見つめている。
誠は、ごくりと喉を鳴らし、そっと目を伏せる。
そして、ほんの一拍。心を整えるように、静かに息を吸った。
「……“心を奪われた者同士”、でしょうか」
答える声は、まるで自分に言い聞かせるように低く穏やかで。
けれど、その言葉が落ちきるより早く、伽耶の声が重なる。
「じゃあ、わたしと誠、そうかもしれないわね?」
「……はい……?」
あまりに自然に発せられたその一言に、誠の思考は数秒フリーズした。
伽耶は、なんのてらいもなく微笑んでいる。
「だって、わたし、毎日ちゃんと誠がご飯を食べたか気になるし。
誠もきっと、わたしが今日どこに行って何をしたか、気になってるでしょう?」
それはまるで、“正しい答えを導き出しました”と胸を張る学者のような表情だった。
「……姫様」
誠は、そっと顔を手で覆った。
(これ以上、何も聞かなかったことにしたい)
「ちがうの?」
心から不思議そうに首をかしげる伽耶に、誠は苦悩の末、ゆっくりと呟く。
「……いえ、ある意味では……間違っては、いないかもしれません」
「ほんとう? じゃあ、わたしと誠は恋人?」
「――違いますッ!!」
あまりの即答に、伽耶がびくりと肩を揺らす。
「えっ!? 今、合ってるって……!」
「恋人とは、そのような、こう……わたくしと姫様のような、それとはまた……!!」
言いながら、誠の顔が燃えるように赤く染まっていく。
と、伽耶がふと思い至ったように、指を立てた。
「でもね、わたし、お姉様のことも毎日心配してるし、お兄様たちのことも、今日元気かなって気になるの。
それに、あの方たちもきっと、わたしが何してたか気にしてるはずよ?」
一瞬の静寂ののち、伽耶はにっこりと微笑んだ。
「……ってことは、――わたし、お姉様やお兄様たちとも恋人ってことね?」
「違います」
即答。切実。真剣そのものだった。
「えぇ……でも、“心を奪われた者同士”なんでしょう?」
「その“心”ではございません!!」
「その心、というと?」
「姫様ぁぁぁあ……!!」
もはや誠の声は、悲鳴に近かった。
彼は頭を抱え、項垂れながら、震える声で必死に絞り出す。
「姫様のお心が……あまりに清らかで、無垢すぎて……
“恋”という概念が、もはや透明になってしまっているのです……!」
「へ?」
「ご兄妹への思慕と、恋慕とでは……まったく性質が異なります……!」
その言葉に、伽耶は不服そうに口を尖らせる。
「じゃあ、恋の“心”って、どんな心なの?」
その問いかけは、あまりに素朴で、あまりに深い。
そして、誠は……
「……その件につきましては、本日、持ち帰って再考の上、後日改めてご説明させていただければと……!」
完全に打ち砕かれ、書簡口調で逃げに入った。
机に突っ伏しかけた誠を、伽耶はそっと見つめる。
(……わたし、また、なにか悪いことを訊いてしまったのかしら……?)
胸の内にほんの少し、ちくりと罪悪感が芽生える。
伽耶はそっと手を伸ばして、机の端に置いてあった小さな菓子を一つ、誠の手元に差し出した。
言葉にできない気持ちの代わりに。
それは、ささやかな償いのつもりだった。
ふたりの間に、そっと沈黙が降りた。
どちらも口を開かないまま、ただ静かに時間が流れていく。
けれど、その空気は決して重たくはなく、ほんの少し、胸の奥がひりつくような、そんな沈黙だった。
やがて。
「……なんとなく、わかった気がするの」
伽耶がぽつりと呟いた声は、どこか遠くを見つめるように静かで。
けれど、その目元にはふわりと柔らかな笑みが浮かんでいた。
「……たぶん、わたしの場合は――
“恋”ってものを知ってしまう方が、きっと、辛いのかもしれないわね」
「……辛い、と申しますと?」
誠はそっと顔を上げた。
けれど、その瞳には戸惑いと、わずかな緊張が滲んでいる。
伽耶は目を伏せ、手元の本をゆっくり閉じる。
そして、その上に小さく手を重ねた。
「だって……“恋”なんてものを覚えてしまったら。
政のために選ばれた方が、その心を、わたしには向けてくださらなかった時――
……きっと、とても寂しくなるでしょう?」
言葉の最後に微かに揺れた声と、浮かべた笑み。
その横顔には、どこか影が落ちていた。
「……だから、今まで誰も教えてくれなかったのかなって。
わたしに“恋”なんて言葉を教えたら、
余計な寂しさまで、一緒に覚えさせてしまうから……」
それは、誰を責めるでもなく。
ただ、そっと胸の内をほどくような声音だった。
誠は、何も言えなかった。
その言葉が、あまりにもまっすぐで、痛みを孕んでいて。
そして、伽耶らしくて。
彼女がまだ知らないその感情の重みを、誠だけが、今、知っている。
静かに、時が止まる。
けれど、その静寂を破ったのは、やはり彼だった。
「……けれど」
その声は、低く、けれどどこか凛としていた。
「姫様は……明るくて、優しくて、聡明で、勤勉で……
何にでも前向きで、努力を惜しまれず。
誰に対しても気遣いを忘れず、笑顔を絶やさない方です」
言葉のひとつひとつが、丁寧に選ばれていた。
それはまるで、言葉という形を借りなければ崩れてしまいそうな、大切な想いを、必死に編み上げるようで。
伽耶は、思わず顔を上げる。
けれど誠は、彼女を見てはいなかった。
ただ、まっすぐ前を向いたまま、苦しげに、それでも言葉を繋げた。
「そんな姫様を、恋しく思わぬ者など、いるはずがありません。
……たとえ、政のために結ばれるとしても――」
一度、息を呑む音がわずかに響いた。
「きっと、その方は……姫様に、恋をします。……絶対に」
それは、願い。
それとも、祈り。
あるいは――
自分自身に向けた、精一杯の説得。
伽耶は、何度か瞬きを繰り返した。
そして、ふわりと微笑む。
その笑顔は、少し泣きそうで――けれど、とても優しくて。
「ふふ……ありがとう、誠」
伽耶は恋愛小説の本をそっと引き出しにしまうと、丁寧にその取っ手に手をかける。
ぱたん。
小さな音とともに、引き出しが静かに閉じられた。
それはまるで、“恋”という言葉を、
一度そっと胸の奥へしまい込むような。
そんな仕草だった。
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