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四章 初恋の花束
エピローグ 友情の栞 後編
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時は少し流れ――
翡国の離宮、その最も静かな東の間。
朝の光が白い帳のすき間から差し込み、
窓辺の椅子に凭れた翡 陽珀が、静かに書類を繰っていた。
そのとき。
……トン
控えめに扉が叩かれる。
「殿下、岑 晶真にございます」
「……入れ」
声をかけた陽珀は、顔を上げて扉の方を見る。
やがて静かに入ってきた晶真は、
なぜかどこか“気まずそう”に手紙を抱えていた。
「……どうした? 珍しく面を伏せているな?」
「……いえ。殿下宛に、季国よりお手紙が届きまして」
「――!」
その名を聞いた瞬間、
陽珀の瞳がぱっと光を宿す。
「姫からか!」
顔が喜びに染まり、勢いよく立ち上がる。
晶真はそっと目を逸らしながら、手紙を差し出した。
「……ただ、その……お見せして良いものか、少々迷いましたが……」
「なにを言うか、見せよ」
陽珀は迷いなくそれを受け取り、封を解いた。
中には――
押し花にされた、薄紫色の花。
陽珀はそれを愛おしげに指先で摘み、陽の光にかざした。
「……これは……ライラックか」
その色、その香り、その柔らかさ。
すべてが、姫を思わせた。
陽珀は静かに文を広げ、目を落とす。
『翡 陽珀殿下
季国はすっかり新緑の候となりました。
花々が咲き、虫たちも空に歌を添える頃。
殿下におかれましては、いかがお過ごしでしょうか。』
陽珀の指先が、わずかに震える。
その震えに気づかぬまま、文は続く。
『先日は、共同訓練にて大変お世話になりました。
桜華をいただき、本当にありがとうございます。
初めての馬の世話に慣れないこともありましたが、
最近はようやく、桜華も満足してくれているようです。』
「……ふふ。気に入ってくれたようだな」
陽珀は小さく笑い、晶真の方を振り返る。
だが晶真は、なぜかそっぽを向いていた。
「?」
首を傾げながら、陽珀は続きを読む。
『栞を同封しました。
この栞は、先日初めて桜華と外出した時に、
誠と摘んだものです。』
「………………」
指先が、ぴたりと止まる。
晶真は、そっと一歩後ずさった。
『とても綺麗な栞にできたので、御礼としてお送りします。
あとから調べたら、この花の花言葉は“友情”だそうです。
私たちの素敵な友情にぴったりだと思って、嬉しくなりました。』
陽珀の呼吸が、ぴたりと、止まった。
『是非季国にも遊びにいらしてくださいね。
桜華も、きっと喜ぶと思います。
では、感謝をこめて。
季 伽耶』
「…………“誠と摘んだ”……“友情の証”……」
呟いたその声は、どこまでも静かだった。
晶真は、じっとその場で息をひそめる。
陽珀はそっと手紙を畳み、
机の上に、栞を宝物のように置いた。
そして――にっと、笑った。
「……良いだろう、晶真」
「……は、はい」
「返書をしたためるぞ。わたしからの心ばかりの“親愛の証”を、姫にお贈りしようではないか」
その瞳には、火を灯したような光が宿っていた。
晶真は、かすかに肩をすくめた。
翡国の離宮、その最も静かな東の間。
朝の光が白い帳のすき間から差し込み、
窓辺の椅子に凭れた翡 陽珀が、静かに書類を繰っていた。
そのとき。
……トン
控えめに扉が叩かれる。
「殿下、岑 晶真にございます」
「……入れ」
声をかけた陽珀は、顔を上げて扉の方を見る。
やがて静かに入ってきた晶真は、
なぜかどこか“気まずそう”に手紙を抱えていた。
「……どうした? 珍しく面を伏せているな?」
「……いえ。殿下宛に、季国よりお手紙が届きまして」
「――!」
その名を聞いた瞬間、
陽珀の瞳がぱっと光を宿す。
「姫からか!」
顔が喜びに染まり、勢いよく立ち上がる。
晶真はそっと目を逸らしながら、手紙を差し出した。
「……ただ、その……お見せして良いものか、少々迷いましたが……」
「なにを言うか、見せよ」
陽珀は迷いなくそれを受け取り、封を解いた。
中には――
押し花にされた、薄紫色の花。
陽珀はそれを愛おしげに指先で摘み、陽の光にかざした。
「……これは……ライラックか」
その色、その香り、その柔らかさ。
すべてが、姫を思わせた。
陽珀は静かに文を広げ、目を落とす。
『翡 陽珀殿下
季国はすっかり新緑の候となりました。
花々が咲き、虫たちも空に歌を添える頃。
殿下におかれましては、いかがお過ごしでしょうか。』
陽珀の指先が、わずかに震える。
その震えに気づかぬまま、文は続く。
『先日は、共同訓練にて大変お世話になりました。
桜華をいただき、本当にありがとうございます。
初めての馬の世話に慣れないこともありましたが、
最近はようやく、桜華も満足してくれているようです。』
「……ふふ。気に入ってくれたようだな」
陽珀は小さく笑い、晶真の方を振り返る。
だが晶真は、なぜかそっぽを向いていた。
「?」
首を傾げながら、陽珀は続きを読む。
『栞を同封しました。
この栞は、先日初めて桜華と外出した時に、
誠と摘んだものです。』
「………………」
指先が、ぴたりと止まる。
晶真は、そっと一歩後ずさった。
『とても綺麗な栞にできたので、御礼としてお送りします。
あとから調べたら、この花の花言葉は“友情”だそうです。
私たちの素敵な友情にぴったりだと思って、嬉しくなりました。』
陽珀の呼吸が、ぴたりと、止まった。
『是非季国にも遊びにいらしてくださいね。
桜華も、きっと喜ぶと思います。
では、感謝をこめて。
季 伽耶』
「…………“誠と摘んだ”……“友情の証”……」
呟いたその声は、どこまでも静かだった。
晶真は、じっとその場で息をひそめる。
陽珀はそっと手紙を畳み、
机の上に、栞を宝物のように置いた。
そして――にっと、笑った。
「……良いだろう、晶真」
「……は、はい」
「返書をしたためるぞ。わたしからの心ばかりの“親愛の証”を、姫にお贈りしようではないか」
その瞳には、火を灯したような光が宿っていた。
晶真は、かすかに肩をすくめた。
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