4 / 25
4.失踪
しおりを挟む※
「ミネルヴァのやつ、遅いな…」
「ああ…」
いつも能天気で豪快なマチルダが、この時ばかりは心配そうに呟いた。俺もマチルダもミネルヴァの安否が気になり、不安な気持ちになっているのだ。
ミネルヴァが三下盗賊ヤーザムの退治に向かってから数日が経った。いつものミネルヴァなら、そろそろ帰ってくるころだ。少なくとも状況報告の連絡がくれるのだが…珍しいことに何の音沙汰もないのだ。
「無事だといいんだが…」
「んー…あと少しして何の連絡もなかったら、アタシとアレンで様子を見に行こう」
「そうだな。もしも危険な目に遭っていたのだとしたら、すぐに助けに行かないとな」
マチルダと今後の方針について話し合っていたまさにその時だった。突如空間に六芒星が出現したのだ。それを見て俺たちは安堵した。
「どうやら、取り越し苦労に終わったみたいだな」
そして間もなく、六芒星から一人の女性が現れた。言うまでもなく、ミネルヴァだった。傷ひとつない身体で何事もなく帰ってきたようだ。
「ただいま。どうやら心配させてしまったようだな」
※
ミネルヴァは俺たちに何があったのか経緯を説明してくれた。
「ヤーザムが罠を張り巡らせていると思って、かなり慎重に行動したんだ。しかし結局取り越し苦労に終わってな。あのバカにもちゃんとお灸を据えておいた」
「なんだぁ、アタシ心配したんだぞ」
「連絡が遅れてしまったな。2人には申し訳ないことをした」
ミネルヴァは申し訳なさそうに頭を下げた。そんなミネルヴァの姿を見て、改めて思う。ミネルヴァは淡々としていて、ぶっきらぼうに見えるけど、実は感情豊かだ。
「ところで、新しい依頼があるんだ」
俺がそんなことを考えていると、ミネルヴァはいつの間にか頭を上げていた。そしてどうやら、別の話題を切り出したようだった。
「あの三下バカ盗賊が近隣の村を随分と荒し回ったみたいなんだ。それで、復興の手伝いを依頼されたんだ」
「ヤーザムのやつ、相変わらずゲスだな」
俺は思わずため息をついてしまう。世界に平和が訪れたのに、あいつは生き方を変えられずにいる。あいつだけが、いまだに混沌とした時代を生きているのだ。
「それで、マチルダの力を借りたいんだ」
「アタシの力かい?」
「ああ、私一人では手が回らなくてな。アレンはしばらく一人で他の依頼をこなすことになるが…問題ないか」
そういうことならば問題ない。確かに負担は大きくなるが、最近は依頼も数件しかない。俺一人でもこなせる量だ。何より、マチルダがいけば力仕事もこなせるはずだ。百人力だろう。
「ああ、大丈夫だよ」
「ありがとう。それでは一休みしたらまた出発することにする。マチルダも準備をしておいてくれ」
「もちろん!腕がなるね!」
※
数時間後、身支度を済ませたミネルヴァとマチルダは村の復興のために出発しようとしていた。
「二人とも、気をつけてな」
「おう、ありがとう。だけど心配すんな。戦いに行くわけじゃないんだ。さっさと依頼を済ませて、元気に帰ってくるからさ」
「アレンの方こそ、一人で大変だったらすぐに連絡をしてくれ」
二人で行動するなら安心だ。むしろ俺の方こそ、依頼が大量に舞い込んでしまったらてんてこまいになってしまうかもしれないな。
「じゃあ、アタシたち行ってくるわ。すぐ戻るからよ」
「それじゃあ呪文を唱えるぞ」
そしてミネルヴァが移動魔法を唱えて、二人の姿は消えてしまった。
「さてと…俺も仕事に取り掛かるか」
二人の姿が見えなくなり、俺はぽつりと呟いた。三人で分担していた仕事を一人でやるのだから負担も大きくなる。できることを今のうちに早く済ませよう。
「そうだ。せっかくなのだから、二人が帰ってきた時には依頼を完璧にこなした状態にしておくか」
そんなことを考えながら俺は仕事に取り掛かった。
………
……
…
しかし、その時は訪れなかった。この日を境に、ミネルヴァとマチルダは行方不明になってしまったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる