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3.盗賊からの依頼
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※
俺たちが魔王を倒したという知らせは、直後に世界中に行き渡った。あっという間に俺たちは「世界を救った英雄」とみなされ、どこにいっても丁重にもてなされるようになった。
しかし、こうした扱いを嫌ったのは、何を隠そう俺たち自身だった。俺たちはそんなご立派な人間ではない。それに闘いを終えた今、平穏な生活を送りたい。ミネルヴァもマチルダも同じ考えだった。
だから、魔王を倒してから数ヶ月が経った今、俺たちは喧騒から離れた山奥に居を構え、便利屋を営んでいる。仕事内容はシンプル。依頼を通して人びとの悩みを解決するだけ。収入は大したものではないが、やりがいのある仕事になっていた。
※
「アレン、あの三下盗賊から依頼が来ているぞ。いや…これは依頼というより脅迫文だな」
「何だって!?」
そんなある日、俺たちの元にただならぬ依頼が届いた。依頼主はヤーザム。俺たちが魔王退治の旅を始めたばかりの時、コテンパンにした三下の盗賊だ。秀でているのは筋骨隆々の巨体のみ。頭は悪く、知恵も回らない。体格はいいが剣術の心得がないため、力任せに武器を振り回すだけ。だから、あっという間に俺たちにやられてしまい、牢屋送りになった男だ。
「依頼内容は、『俺をコテンパンに痛めつけたあの女魔道士に復讐してやる!例のアジトで待っているから魔道士一人で来やがれ!こっちには人質がいるから言う通りにしろよ』だそうだ」
「あいつ、捕まったんじゃないのか!?」
どうやら、ヤーザムはミネルヴァへの復讐を果たしたいようだ。そういえばヤーザムの下衆な所業に一番腹を立てていたのはミネルヴァだった。必要以上にヤーザムを痛めつけて、「もうしません」と何度も泣いて謝らせていたな…
「どんな細工をしたのか知らんが、あのバカはどうやら脱獄をしたようだ。その上でこんな手紙を送りつけるとは…相変わらず救えないな」
「そ、そうだな…」
「望み通り、私一人で乗り込んでやろうじゃないか」
ミネルヴァは淡々とした口調で話を続ける。しかしその瞳には怒りの炎がメラメラと込み上げているのが分かった。
俺は震え上がっていた。こういう時のミネルヴァは本当に怖い。ミネルヴァは冷静沈着な素振りと神秘的な外見からは想像もつかぬほど、心には熱い情熱を秘めているのだ。
とはいえ、いくら相手があの三下盗賊だろうと、こんな手紙を送ってきたのだ。何か勝つ算段があるのだろう。
「魔道士、気をつけるんだ。きっと…」
「分かっている。罠が張り巡らされているのだろう。だから油断はしない。その上で二度と悪さができないよう、徹底的にお灸を据えるつもり」
すでにミネルヴァは支度を済ませていたのだろう。俺の話を遮ると荷物を取り、移動魔法の詠唱を始めた。
するとあっという間に、俺たちの前に六芒星が出現した。この六芒星の上になれば空間を自由に行き来できるというわけだ。実はかなり高度な魔法なのだが、ミネルヴァはいとも簡単に唱えてしまう。
「状況は逐次報告する。危ないと思った時にはすぐに助けに来ればいい。マチルダにもそう伝えておいて」
「ああ、分かったよ」
「それじゃあ行ってくる。すぐに戻るようにする」
そう言い終えるとミネルヴァは六芒星に足を踏み入れた。六芒星が光り輝き、その光がミネルヴァの体を纏ってていく。そしてひときわ強烈な光を放つと、ミネルヴァの姿は消えていた。ヤーザムのアジトに向かったのだ。
「ミネルヴァ…無事に帰ってきてくれ」
残された俺はミネルヴァの無事を祈るようにぽつりと呟いた。
俺たちが魔王を倒したという知らせは、直後に世界中に行き渡った。あっという間に俺たちは「世界を救った英雄」とみなされ、どこにいっても丁重にもてなされるようになった。
しかし、こうした扱いを嫌ったのは、何を隠そう俺たち自身だった。俺たちはそんなご立派な人間ではない。それに闘いを終えた今、平穏な生活を送りたい。ミネルヴァもマチルダも同じ考えだった。
だから、魔王を倒してから数ヶ月が経った今、俺たちは喧騒から離れた山奥に居を構え、便利屋を営んでいる。仕事内容はシンプル。依頼を通して人びとの悩みを解決するだけ。収入は大したものではないが、やりがいのある仕事になっていた。
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「アレン、あの三下盗賊から依頼が来ているぞ。いや…これは依頼というより脅迫文だな」
「何だって!?」
そんなある日、俺たちの元にただならぬ依頼が届いた。依頼主はヤーザム。俺たちが魔王退治の旅を始めたばかりの時、コテンパンにした三下の盗賊だ。秀でているのは筋骨隆々の巨体のみ。頭は悪く、知恵も回らない。体格はいいが剣術の心得がないため、力任せに武器を振り回すだけ。だから、あっという間に俺たちにやられてしまい、牢屋送りになった男だ。
「依頼内容は、『俺をコテンパンに痛めつけたあの女魔道士に復讐してやる!例のアジトで待っているから魔道士一人で来やがれ!こっちには人質がいるから言う通りにしろよ』だそうだ」
「あいつ、捕まったんじゃないのか!?」
どうやら、ヤーザムはミネルヴァへの復讐を果たしたいようだ。そういえばヤーザムの下衆な所業に一番腹を立てていたのはミネルヴァだった。必要以上にヤーザムを痛めつけて、「もうしません」と何度も泣いて謝らせていたな…
「どんな細工をしたのか知らんが、あのバカはどうやら脱獄をしたようだ。その上でこんな手紙を送りつけるとは…相変わらず救えないな」
「そ、そうだな…」
「望み通り、私一人で乗り込んでやろうじゃないか」
ミネルヴァは淡々とした口調で話を続ける。しかしその瞳には怒りの炎がメラメラと込み上げているのが分かった。
俺は震え上がっていた。こういう時のミネルヴァは本当に怖い。ミネルヴァは冷静沈着な素振りと神秘的な外見からは想像もつかぬほど、心には熱い情熱を秘めているのだ。
とはいえ、いくら相手があの三下盗賊だろうと、こんな手紙を送ってきたのだ。何か勝つ算段があるのだろう。
「魔道士、気をつけるんだ。きっと…」
「分かっている。罠が張り巡らされているのだろう。だから油断はしない。その上で二度と悪さができないよう、徹底的にお灸を据えるつもり」
すでにミネルヴァは支度を済ませていたのだろう。俺の話を遮ると荷物を取り、移動魔法の詠唱を始めた。
するとあっという間に、俺たちの前に六芒星が出現した。この六芒星の上になれば空間を自由に行き来できるというわけだ。実はかなり高度な魔法なのだが、ミネルヴァはいとも簡単に唱えてしまう。
「状況は逐次報告する。危ないと思った時にはすぐに助けに来ればいい。マチルダにもそう伝えておいて」
「ああ、分かったよ」
「それじゃあ行ってくる。すぐに戻るようにする」
そう言い終えるとミネルヴァは六芒星に足を踏み入れた。六芒星が光り輝き、その光がミネルヴァの体を纏ってていく。そしてひときわ強烈な光を放つと、ミネルヴァの姿は消えていた。ヤーザムのアジトに向かったのだ。
「ミネルヴァ…無事に帰ってきてくれ」
残された俺はミネルヴァの無事を祈るようにぽつりと呟いた。
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