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6.勇者捕縛
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今、世界では天と地がひっくり返ったかのような出来事が次々と起きている。俺と関わりのある女性が次々と失踪して…遂にはあの三下盗賊ヤーザムが国王になったのだ。
失踪に関して、俺は依然として何も状況を掴めずにいる。だけどヤーザムが国王になってしまったからには、やるべきことは一つだ。アイツを退治するしかない。
あのヤーザムが統治しているのだ。国は悪政によって荒廃しているに違いない。ならば、一刻も早く手を打つ必要がある。そこで俺は、ヤーザムが統べる王国へと乗り込むことにした。
※
「こ、これは一体…?」
しかし、俺の目論みは外れた。ヤーザムの手によって荒廃しているかと思われた街は、いたっていつも通りであったのだ。
活気に溢れた街の中で、人びとはいつも通りに商売をしたり、買い物をしたりしている。唯一違う点は、街の至る所にヤーザムの肖像画が飾られているところだ。それが一層、俺を不気味な気分にさせた。
「アレン、こんなところにいたんだな!」
街を歩いていると、不意をつくように、背後から突然話しかけられた。その声はどこか聞き慣れたもので、心当たりがあった。
しかし、その声の主が誰であるかを考える余裕はない。慌てて振り向くと…そこにはマチルダがいた。
「マチルダ!!無事だったんだな!」
この数ヶ月もの間、どれだけ心配したことか。どれだけ探し回ったことか。マチルダが無事であることに安堵する。
しかしすぐさま、安堵の気持ち以上に混乱が強くなる。ますます状況が理解できなくなったのだ。
なぜマチルダは失踪したのだろう。マチルダは今まで何をしていたのだろう。ミネルヴァは無事なのだろか。なぜマチルダはここにいるのだ。他の女性は無事なのだろうか。なぜヤーザムが国王になっているのか…俺の頭には疑問が次々と浮かんでいた。
「一体、何が起きているんだ!?なぜ君は失踪していたんだ!?ミネルヴァは無事なのか!?」
「お、落ち着けって…アタシ、そんないっぺんに答えられないってば」
「あ…ああ、すまない」
マチルダは矢継ぎ早に質問する俺に気圧されているようだ。そんなマチルダの表情を見ることで、俺は自分の動揺を自覚した。
そうだ。俺は…大事な人たちが大量に蒸発したことで、知らず知らずのうちに精神的な負担を抱えて、心がすり減っていた。それでも平静を保とうして緊張の糸を張り巡らせていて…マチルダにあったことで、その糸が途切れてしまったのかもしれない。
「とりあえず、落ち着いて話をしたいから…ついてきてくれ。こっちに店があるから」
「ああ、分かった」
俺は一度深呼吸をする。何があったのか分からないがマチルダと合流できたのは心強い。これで、今回の異変の全体像を掴むことができるだろうから。
「はい、隙ありっ!」
すると突然、マチルダは俺の背後に回り込んだ。そしてあっという間に腕を絡めて、俺の首を締め上げた。
その動きはあまりにも素早くて…何をされたのか把握した時には、すでにがっちりと極められてしまっていた。
「うぐううぅぅっ!?ぐうぅぅっ…!」
苦しい。苦しい。呼吸が出来ない。窒息する感覚が込み上げ、何も考えられなくなる…
「あはは。完璧にキマったな」
「ぐうぅぅっ…!」
「心配しなくても、起きた時、全部説明してやるよ。じゃあ、おやすみ!」
そう言い終えると、首を締め上げる力がさらに強くなった。首の脈がさらに締め付けられて…力が抜けていく。
マチルダ…どうして…
そこまで考えたところで俺の意識は途絶えてしまった。
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