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鋼鉄の華
6.第二皇子
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吹き荒れる革命の風
降り注ぐ戦の火種
自由を求め、権利を主張する決して生涯相成れないであろう民と貴族
己を道具としてしか認識しない王も、欲望のまま他者を憎み陥れる王妃も全てが愚かしく、全てが無意味だとヒュルツガルト帝国から遊学という名の人質に出された青年、ヒュルツガルトは第二皇子ことシュラム、齢19歳は、荒んだ瞳を笑みで誤魔化し、サニス王国での偽りの平穏に飽いていた。
この国は何もかもが遅れていて、なおかつ怠惰でどうしようもなく愚かだ。
しかも人と人の繋がりも利益でしか考えておらず、利害なしでの関係を築こうとしない。
そんな時である。
彼、――シュラムが、ルートン家の至宝、サニス王国の天使とも謳われ多くの人々から親しまれている少女と廻りあったのは。
彼女は貴賤を問わずに貧しい者達には食事を与え、時には歌で心を癒し、間違っていると思ったことがあれば身分に関係なく立ち向かってゆく。
その姿に、どうしようもなくシュラムが焦がれていると自覚するまでは時間はあまりかからなかった。
が、エマがシュラムが恋に落ちる場に居合わせたのなら、情け容赦なく「あなたには失望しました」と直接伝えたであろう。
なれど、彼は幸か不幸かエマがいる場には立ち会うことがなく、彼が初めて己が想いを寄せる相手の肉親を視界に入れることとなったのは、彼の従者が伯爵となったエマに何らかの詫びを入れてる場を目撃したからである。
シュラムの従者とは言え、それなりに生家は上位であり、女に頭を下げる立場ではない。何よりも従者は己のものであり、他人に媚びるものではないと言う無意識下のもと、シュラムはエマと従者のやり取りの場に乱入してしまった。
エマは突然の第二皇子の乱入にも表情を崩すことなく、チラリとヒュルツガルト帝国の第二皇子であると言う彼を一度見て、従者を労うように声をかけた。
「事情は分かりました。何か困った事があれば手を貸しましょう。ですが、過ぎた信頼は危険です。それを憶えておきなさい」
「は、はい、ありがとうございます、ありがとうございます」
ぺこぺこと何度も名も知らぬ女如きに頭を下げる従者の姿に、所詮皇子でしかない彼は憤った。だから彼は口にしたのだ、その思いを。
そこがどこで、自分がどんな立場にあるのかを理解していなかったゆえに。
「やめろ、女如きに頭を下げるなど。貴様はそれでも俺の従者か!!」
哀れにもその場に偶然居合わせてしまった他国の使節の役人や、他国の王族は、ヒュルツガルト帝国の後継争いが本格化した折には、決して第二皇子だけは擁護はしてはならぬと本国に伝えなければ、と、諦めと嫌悪でもって認識を改めてしまった。
そして従者にだけには労わりでもって対応をしようと、足の歩みを止めることなく、個々の役割を全うすべく先を急いだ。
彼は気付くべきだったのである。
理想だけでは国は立ち行かぬ
無意識下の差別に凝り固まった思考を捨てなければ味方を喪ってしまう
狭い視野での物事の曲解は最良の結末を導かぬ、と。
明らかに新しい時代へと変わりゆく中、幻想だけを抱き、何事も実行しないでいる愚者に、新しい時代は似合わない、と。
降り注ぐ戦の火種
自由を求め、権利を主張する決して生涯相成れないであろう民と貴族
己を道具としてしか認識しない王も、欲望のまま他者を憎み陥れる王妃も全てが愚かしく、全てが無意味だとヒュルツガルト帝国から遊学という名の人質に出された青年、ヒュルツガルトは第二皇子ことシュラム、齢19歳は、荒んだ瞳を笑みで誤魔化し、サニス王国での偽りの平穏に飽いていた。
この国は何もかもが遅れていて、なおかつ怠惰でどうしようもなく愚かだ。
しかも人と人の繋がりも利益でしか考えておらず、利害なしでの関係を築こうとしない。
そんな時である。
彼、――シュラムが、ルートン家の至宝、サニス王国の天使とも謳われ多くの人々から親しまれている少女と廻りあったのは。
彼女は貴賤を問わずに貧しい者達には食事を与え、時には歌で心を癒し、間違っていると思ったことがあれば身分に関係なく立ち向かってゆく。
その姿に、どうしようもなくシュラムが焦がれていると自覚するまでは時間はあまりかからなかった。
が、エマがシュラムが恋に落ちる場に居合わせたのなら、情け容赦なく「あなたには失望しました」と直接伝えたであろう。
なれど、彼は幸か不幸かエマがいる場には立ち会うことがなく、彼が初めて己が想いを寄せる相手の肉親を視界に入れることとなったのは、彼の従者が伯爵となったエマに何らかの詫びを入れてる場を目撃したからである。
シュラムの従者とは言え、それなりに生家は上位であり、女に頭を下げる立場ではない。何よりも従者は己のものであり、他人に媚びるものではないと言う無意識下のもと、シュラムはエマと従者のやり取りの場に乱入してしまった。
エマは突然の第二皇子の乱入にも表情を崩すことなく、チラリとヒュルツガルト帝国の第二皇子であると言う彼を一度見て、従者を労うように声をかけた。
「事情は分かりました。何か困った事があれば手を貸しましょう。ですが、過ぎた信頼は危険です。それを憶えておきなさい」
「は、はい、ありがとうございます、ありがとうございます」
ぺこぺこと何度も名も知らぬ女如きに頭を下げる従者の姿に、所詮皇子でしかない彼は憤った。だから彼は口にしたのだ、その思いを。
そこがどこで、自分がどんな立場にあるのかを理解していなかったゆえに。
「やめろ、女如きに頭を下げるなど。貴様はそれでも俺の従者か!!」
哀れにもその場に偶然居合わせてしまった他国の使節の役人や、他国の王族は、ヒュルツガルト帝国の後継争いが本格化した折には、決して第二皇子だけは擁護はしてはならぬと本国に伝えなければ、と、諦めと嫌悪でもって認識を改めてしまった。
そして従者にだけには労わりでもって対応をしようと、足の歩みを止めることなく、個々の役割を全うすべく先を急いだ。
彼は気付くべきだったのである。
理想だけでは国は立ち行かぬ
無意識下の差別に凝り固まった思考を捨てなければ味方を喪ってしまう
狭い視野での物事の曲解は最良の結末を導かぬ、と。
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