曖昧なパフューム

宝月なごみ

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未熟な関係

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『なん、で……?』

 怪訝そうに眉根を寄せながら、呟く。貴人は『うーん』と曖昧に微笑みながら首を傾げ、正直な心境を口にする。

『朱夏さんが、〝助けて〟って言ってるような気がしたんです』
『え……?』
『たぶん、俺の勝手な思い込みですけど。どうしても、放っておけなかった。……迷惑でしたか?』

 朱夏は答えにくそうに、下唇を噛んで目を逸らす。あれだけ派手に乱れておいて、今さら迷惑だったなんて説得力がない、とでも思っているのだろう。

 貴人は優しく彼女を抱き寄せ、しなやかに波打つ長い髪を撫でながら話す。

『沈黙はいい意味に受け取っておきます。……そろそろ、行きますか? 買い物』
『……うん』

 腕の中で素直に頷いた彼女は、先ほどまでとは打って変わって、まるで少女のよう。

 この手で、彼女を悩ませるこの世のすべてのものから守ってやりたい。もし彼女が必要とするなら、肉体的な寂しさを紛らわせる作業をまた手伝ってもいい。

 あんなにも美しく淫らな姿を見せられ、その劣情を密かに収めなければいけないのは至難の業だが、彼女のためならば耐えてみせる。

 そうして彼女の心の傷が癒えたなら、その時には本当の意味で彼女の肌に触れたい――。

 貴人は抱きしめた朱夏の体越しに、寒さで曇った窓の外を見る。一枚残らず葉を落としてしまった街路樹。ちらちらと舞う、儚げな白い雪。

 今は寂しい景色だけれど、あの木にもいつかは花が咲く。俺たちにもきっと、春は訪れる。

 彼はそう信じて、彼女の背中に回した腕に力を込めた。





「ねえ、朱夏さん」

 朱夏が忘れたくても、貴人にとっては恋が始まるきっかけになった、大切な記憶。あのとき垣間見た朱夏の弱さや狡さも含めて、自分は彼女を愛している。その話には触れない約束だったけれど、きちんと伝えよう。

「なに?」

 しかし、貴人の発言ですっかり食欲をなくしてしまったらしい朱夏は、浮かない顔で紅茶を飲むばかり。視線も合わせてくれない。

 貴人は少し寂しかったが、なんとかして朱夏に笑ってもらおうと、フォークで彼女の皿のショートケーキをひと口分取り、それを朱夏の口もとに近づける。

「あーん、してください」
「えっ? 恥ずかしいよ……」
「口開けないと、せっかくメイクした唇にクリームが付いちゃいますよ」

 ニコッと微笑んで促すと、朱夏は不本意そうにしながらも口を開ける。そうしてショートケーキを咀嚼していると、やがて彼女の仏頂面もやわらかいものになっていった。

 貴人は微笑して思わずつぶやいた。

「今日のデート、スイーツビュッフェにしてよかった」
「なんで?」
「朱夏さんの機嫌が取りやすい」
「ちょっと! それじゃ私が食べ物につられる単純なヤツみたいじゃない」

 思わず頬を膨らませる朱夏だが、貴人がクスクス笑っているのを見ると怒っているのが馬鹿らしくなり、観念したようにケーキを食べ始める。

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