目に映った光景すべてを愛しく思えたのなら

ひかる。

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―――平成四年

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「最近映子ってちょっとかわいくなったよな」

 祥子と恵一、映子は隣りの商業高校の前で保を待ち伏せし、すぐ近くのドーナツショップの席に陣取っている。

 恵一と祥子は当然のように隣同士に座り、映子は保の隣りに座っている。
 同じ制服を着た生徒もちらほら店内にいる。
 甘い香りとドーナツを揚げる油の匂いが充満している。
 粉砂糖をまぶしたドーナツにかぶりついたところで、保がそう言ったので、映子は粉砂糖にむせた。

「あ、それ俺も思ってた。映子ってこんな顔してたかなって最近思っててん」

 恵一もそう言い出して、映子は慌てて口の周りの粉砂糖を拭った。

「二人ともやっと気がついたか」

 祥子が意味ありげに含み笑いをする。
 もったいをつけて紅茶を一口飲んでから恵一と保を順に見た。その先はなかなか口にしない。

「何やねん、祥子。そのためは」

 恵一が焦れて急かす。祥子は映子に顔を近づけた。

「ずばり、映子ちゃんは恋する乙女やね」

 映子は飲みかけのオレンジジュースをぶっと噴き出した。

「何やねん、映子。汚ねぇな」

 保がテーブルから紙を数枚取り出して映子に放って寄越す。

「そんな動揺するとこを見るとあたりやな」

 恵一がふーんと意味ありげな視線を向けた。映子は恥ずかしくなって

「ちょっと祥子ちゃん」
と祥子を軽くにらみつけた。

「いいやん別に。わたしらだけしか聞いてないんやし。それに恥ずかしいことじゃないやん」

「おお。映子にも春が来るんか」

 保がおどけて手にしたストローをくるくると回した。

「じゃあまずは告白やな」

 ストローをびしっと映子に向けて保が言う。

「いやいやまずは相手との距離をつめてからやろ」

 戦略家の恵一らしく、保のストレートな作戦は却下する。

「やっぱ自分磨きからでしょ」

 祥子は高校に入ってまた髪を伸ばしだした。
 恵一がその方がいいって言うからと祥子は言っていた。

「その相手って誰? 俺ら知ってるやつ?」

「いいよな、その会話。学校別やから俺絶対知らんやん」

 保がふてくされる。

「ほら、あの人やないの? 同じ図書委員の」

 祥子が同じ図書委員と言うから言い当てられるのかと映子はどきりとした。

「ほら、確か倉橋くん」

 祥子の回答に正直どっと疲れた。
 倉橋は同じクラスの図書委員だ。確かに同じ図書委員なので話す機会も多い。

「ああ、そいつ知ってる。背は低いけど顔はいい」

「どんなやつか今度教えろや」

 保は一人顔がわからないのを悔しがる。

「違うから」

 変に期待されても困る。映子は念のため間違いを正した。違うと言われて祥子は、うそやと口を尖らせる。

「映子ちゃんそんな隠さんでもいいやん」

「そうやで。何かと協力できるかもしれんし」

 恵一の協力は祥子とのことで実績があるから頼りにはなりそうだ。が、そもそもがんばりようのない相手だ。

「ほんまに違うから!」

 映子が強く否定すると、なんとなくその場は白けた雰囲気になってしまった。

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