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―――平成五年
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三月になって、安藤は高校を卒業していった。
安藤の彼女の小林あけみも一緒だ。
胸に偽物のカーネーションをつけた安藤は、図書室で映子たち下級生の図書委員の前でありがとうございましたと丁寧に頭を下げた。
去っていく安藤の背中を呼び止めることは、映子にはできなかった。
当たり前の話だが、ただ黙って見送るしかできなかった。
「そういや安藤先輩って彼女と別れたらしいよ」
放課後の図書室。
開け放した窓の向こうにはすっかり花を散らし、緑の葉を茂らせた桜の木が見えている。
本を棚に片付けていると倉橋が話しかけてきた。
二年生でも映子はまた図書委員になった。
倉橋とはクラスは分かれたがまた同じ図書委員だ。
そのことで恵一と祥子は映子の好きな人が倉橋なのではと再び疑った。
二年連続で同じ図書委員に立候補するなんて怪しいと。そのとき、
「そいつって彼女おるん?」
それまで大人しく恵一と祥子の推測を聞いていた保が割って入った。
「おらんと思うで。俺今年倉橋と同じクラスやけどそんな話は聞かん」
「恵一が知らんだけやなくて?」
保が更に突き詰めてくる。祥子が横から助け舟を出した。
「倉橋くんは彼女おらんってわたしも聞いたことあるよ」
「ふうん」
保はちらりと映子を見た。
「ほなそいつと違うな」
断定したので恵一と祥子は怪訝な顔をした。
「えらいはっきり否定するよな。保なんか知ってるん?」
恵一の追及にも保はそ知らぬ顔で、ストローで中のカルピスを一気に吸い込んでいた。
勝手にうわさされていたとも知らず、その倉橋はいつもと変わりない様子だ。
片付け途中の本を数冊肩に担ぐように載せている。
「ふうん」
倉橋の話に、映子は気のない返事を返した。
安藤とは当然卒業して以来会っていない。
視界から消えてしまうと始めのうちは寂しさもあった。
それでも数日も経つと思い出さない日が多くなった。
実際今となってはどうでもよかった。
あけみと親しげに寄り添う姿に、憧れていただけなのかなと今では思う。
なので、それを知ったからといってこの先どうなるものでもない。
しかしあまりに素っ気ない返事だったかと思って付け加えた。
「なんでそんなこと知ってるん?」
「俺の姉ちゃんが、彼女やった小林先輩と友達やねん」
「へえ」
意外なところでつながっている。
「小林先輩に新しく好きな人ができたらしいで。大学行ったら目移りしたみたい。せっかく二人一緒の大学行ったのに何の意味もないよな」
倉橋はふんっと鼻で笑った。
恵一が以前指摘したとおり顔立ちは悪くない。
恵一や保より幾分か小柄で線が細い。
色も白く、並みの女子よりよほどきれいな肌をしている。
話しやすいけれど鼻につくしゃべり方が映子は苦手だ。
いつもどことなく人を見下したような話し方も気にかかる。本人はそんな気は全くないのかもしれないが。
「わたしあと向こう片付けるから」
映子は話を早々に切り上げて倉橋から離れた。
安藤の彼女の小林あけみも一緒だ。
胸に偽物のカーネーションをつけた安藤は、図書室で映子たち下級生の図書委員の前でありがとうございましたと丁寧に頭を下げた。
去っていく安藤の背中を呼び止めることは、映子にはできなかった。
当たり前の話だが、ただ黙って見送るしかできなかった。
「そういや安藤先輩って彼女と別れたらしいよ」
放課後の図書室。
開け放した窓の向こうにはすっかり花を散らし、緑の葉を茂らせた桜の木が見えている。
本を棚に片付けていると倉橋が話しかけてきた。
二年生でも映子はまた図書委員になった。
倉橋とはクラスは分かれたがまた同じ図書委員だ。
そのことで恵一と祥子は映子の好きな人が倉橋なのではと再び疑った。
二年連続で同じ図書委員に立候補するなんて怪しいと。そのとき、
「そいつって彼女おるん?」
それまで大人しく恵一と祥子の推測を聞いていた保が割って入った。
「おらんと思うで。俺今年倉橋と同じクラスやけどそんな話は聞かん」
「恵一が知らんだけやなくて?」
保が更に突き詰めてくる。祥子が横から助け舟を出した。
「倉橋くんは彼女おらんってわたしも聞いたことあるよ」
「ふうん」
保はちらりと映子を見た。
「ほなそいつと違うな」
断定したので恵一と祥子は怪訝な顔をした。
「えらいはっきり否定するよな。保なんか知ってるん?」
恵一の追及にも保はそ知らぬ顔で、ストローで中のカルピスを一気に吸い込んでいた。
勝手にうわさされていたとも知らず、その倉橋はいつもと変わりない様子だ。
片付け途中の本を数冊肩に担ぐように載せている。
「ふうん」
倉橋の話に、映子は気のない返事を返した。
安藤とは当然卒業して以来会っていない。
視界から消えてしまうと始めのうちは寂しさもあった。
それでも数日も経つと思い出さない日が多くなった。
実際今となってはどうでもよかった。
あけみと親しげに寄り添う姿に、憧れていただけなのかなと今では思う。
なので、それを知ったからといってこの先どうなるものでもない。
しかしあまりに素っ気ない返事だったかと思って付け加えた。
「なんでそんなこと知ってるん?」
「俺の姉ちゃんが、彼女やった小林先輩と友達やねん」
「へえ」
意外なところでつながっている。
「小林先輩に新しく好きな人ができたらしいで。大学行ったら目移りしたみたい。せっかく二人一緒の大学行ったのに何の意味もないよな」
倉橋はふんっと鼻で笑った。
恵一が以前指摘したとおり顔立ちは悪くない。
恵一や保より幾分か小柄で線が細い。
色も白く、並みの女子よりよほどきれいな肌をしている。
話しやすいけれど鼻につくしゃべり方が映子は苦手だ。
いつもどことなく人を見下したような話し方も気にかかる。本人はそんな気は全くないのかもしれないが。
「わたしあと向こう片付けるから」
映子は話を早々に切り上げて倉橋から離れた。
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