リアル異世界生活 The beautiful world[TBW]

たんぽぽ

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第1章

ダンジョンへの準備

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現在8時15分。いつもなら自分の部屋から狩り場まで走って
5分で着くところだが、今日はちょっと通りがけの武器屋に行って
新しい装備に交換する予定が入っているので早めに家を出た。
といってもそんなに遠くない。モンスター狩りをこの頃続けていた
おかげで、かなりのお金がたまった。<木の剣>をストレージにしまい、
<セイントポールの武器屋>と看板に大きく書いてあるドアをくぐる。

「いらっしゃい!」

男性亭主の威勢のいい声が奥のカウンターから聞こえる。
NPCと言っても、この声を聞いたら最初は誰でも本物の人間かと
思ってしまうぐらいリアルな声。どこの店に入ってもこんな声が聞けるとは
限らないが、この武器屋はそうらしい。
中は外より少しうす暗いためか、いかにも武器屋という感じがする。
両側の壁に掛けてある剣や盾を一回り見て回る。
いろいろ種類はあるが、レアアイテムなどは特に置いていないようだ。

「すみません、亭主さん。500ドルくらいで買えるイイ感じの剣はありませんか?」

「剣って大剣か?それとも片手で使う普通の剣なのか?」

「ああ、普通の剣で」

亭主NPCは一瞬黙りこむと、思いついたように手を叩く。
「それなら‥そこにかけてある錆びた鉄剣はどうだ?錆びてると言っても
 3ヶ月くらいは長持ちするだろうし、アタックダメージもなかなかだぞ」

亭主がさした方向を見ると確かに錆びてところどころに茶色が混じる鉄剣が見える。
サイズは普通。近づき、その剣をタップすると、

攻撃:200      防御耐性:98
攻撃耐性:150    酸化耐性:56
重量(コスト):300  命中:210

と出てきた。俺が持てる重量は今のレベルであれば1500。つまりこの剣を一気に5本
ストレージに入れることができるが、他はいろいろと回復アイテムで埋まっている。
今まで持っていた<木の剣>の攻撃:140と比べると確かにいいかもしれない。
酸化もしっかり行われるということに対してはちょっと設定が細かすぎると思うが。

「じゃあ、これ買います」
さらに2回タップすると、

購入しますか はい:いいえ

の画面が出てくる。そして「はい」を押す。別にカウンターに行く必要はなく、
その場で自動的に500ドル所持金から引かれる。


「マップ攻略頑張れよ!」
亭主からの励ましの声。
NPCと分かっているのに、

「あ、ありがとうございます」
と答えてしまう。といっても悪いことではないので特に気にせずそのまま店を出る。
ドアを開けると一瞬人影が見えた。!! 気づいて反応するまでが間に合わない。
極力、端のほうへ寄ってかわそうとするが‥

ド!

‥あたってしまった。
「す、すみません!怪我はありませんか?」

「あ、こちらこそ‥ってお兄ちゃんじゃん!」
全く気付かなかった。というかよけるのに精一杯だったので気づくはずもない。

「ああ、瑞姫か。全く気付かなかった。ごめんごめん」

「いや、それよりここで怪我するわけないし」

確かに‥そうだった。安全地帯だし。
「お前、もう陸上の練習終わったのか?宿題は?」

「‥それって私にここに来るなって聞こえるんですけど。
 陸上は毎週木曜は休み。宿題は30分で終わった」

うむ、優秀でよろしい、ではなくて‥
「ああ、そうだったっけ?ごめん忘れてた」

「で、今からどこ行くの?」

「いつも通り星矢と一緒にその辺に狩りに行ってくる。ついてくるなよ」

ちょっとぶすくれた顔をすると
「明日はついて行くから。星矢くんにも伝えといて」

「わ‥分かった。今日言っておく」
瑞姫は早足で店の奥のほうに行ってしまった。最近感じ始めたのだが、
どうやら瑞姫は小学5年生にもかかわらず、俺がいつも狩りに一緒に行く親友、
田中星矢(たなかせいや)に好意を持っているらしい。いつから星矢を好きに
なったのかはもちろん知らないが、俺と星矢で狩りに行く回数が増えるに
つれ、星矢と会話をはずませるようになっていった。もちろん星矢はそんなこと
気づいているわけではないようだが、いつも妹と楽しそうに会話してくれたいる。
そして今日も一緒に行きたいと言ってきた。
しかし今日は妹を連れていきたくない理由がある。それは、今日は星矢と
いつもと違い高度なダンジョンに行くことにしているからだ。
妹を危険なダンジョンに連れて行って、3回しか用意されてないライフを
削りたくないし、それによって悲しむ姿も兄としてあまり見たくない。
だから理由も説明せずに断ったのだ。さいわい、今日は特に反論せずに
「明日はついて行くから」という言葉を残して受け止めてくれた。

 ウィンドウを表示すると、時刻は20:19を指している。今日は大きな
買い物をしたせいで店の中での時間が長く感じた。しかし実際店の中にいたのは
6~7分。思った以上に時間は経っていない。ここからクリス平原のいつもの
入口まで残り250mくらいある。そこまで続く直線は、夜だと
いうのにこれから狩りに行く人たち、ギルドをつくって難関ダンジョンに
重装備で臨もうとする若者たちであふれかえっている。そして道のわきには

「4ドルで11級回復ポーション2個だよ! 安いよ~!」

「そこに4ドル払うより、この広島お好み焼きはいかが~?」

「あっちの広島お好み焼きよりこっちの東京もんじゃ焼きのほうが
 絶対おいしいよ~!」
ちょっと他の店を侮辱する内容が聞こえた気がしたが、このようにいつも
たくさんの屋台と威勢のいい声であふれている。
NPCが経営する屋台やレストラン、アイテム屋や武器屋が主にたくさん
並んでいるが、その中にたまに本物の人がいる場合もある。
そんなときは高確率でレアアイテムを売っているが、高すぎて買ったこと
はない。この時間帯は学校帰りや仕事帰りにダイブする人たちが多く、
現実世界の祇園祭りのときのように道は人で埋め尽くされ、たまに
迷子になることもあるとか。そして‥俺はそんな人ごみの中を250m
11分以内に通り抜けられる自信はないので、いつも裏通りを通り、進んでいく。
ここならさっきの通りよりは人は少ないが、重装備のギルドメンバーが
なぜかたくさんいる。ここで、俺の中の解釈なのだが‥

重装備=お金たくさん持ってる=たくさんモンスターを狩る=ゲームのやりこみ
=インキャ=暗い

インキャだから暗い所にいるのではないかとの予想。または取引に
イイ感じの場所とか‥考えたが、それは俺がレベル上げてから確かめることに
するとしよう。

歩くこと10分、予定通りにクリス平原の入口に到着。ここでいつも
装備している<木の盾>をストレージから出し、左手に持つ。
いくら<木の盾>といえども、この盾が一番コストがかからず、
速く動くことができる。耐久力は低いとはいえ、ストレージに10個くらい
予備に入れておくとなかなかの使い物になる。

「よお、ユウト。遅かったな」
気づくと後ろに星矢の姿。黒い服に赤い<錆びた赤褐色の銅剣>を片手に持つ
ごく普通のアバター。しかしさいわい、この世界は顔までもが
現実世界とほぼ同じに作られている。だから、一瞬で星矢と分かるが、
その凄いリアル性のせいで、いやおかげでたまに第2の現実世界と
呼ばれたりすることがある。
「っていま29分だけど。さっき<錆びた鉄剣>を買ってきた」

「それ何ドル?」

「500ドル」

「‥それもこれと同じようにやっぱり錆びるのか?」
星矢は自分の剣を胸の高さまで上げ、片手でそれを指さしている。

「うん。なんか‥はっきり言って、細かい。でもこれがあるからこそ
 <錆びた鉄剣>なんだろうけど」

「まあ、このTBWのリアル性を追究しようとしたらどこまでもきりがない。
 さっそく今夜のデザートとといきましょうか」

「デザート?メインディッシュとかじゃなくて?」

「メインディッシュはクリス・ミドル・ダンジョンだよ」
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