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第三章

戒心散花 22

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「何だ、今の音?」

 大きな爆発音に、ローガンのみならず近くを歩いていた数人の通行人も路地の方を見つめていた。

「まさか、あの路地に爆弾の犯人がいるのか!?
あいつの言ってた通り、俺を狙って……!?」

 ローガンは自分が狙われてるのでは? と顔を青ざめて路地から逃げようと反対方向に走り出した。

 が、走り出したローガンの足に誰かがスッと片足を出し、慌てていたローガンはそれに気付かずまんまと相手の足に引っ掛かり転んでしまう。

「うぎゃあ!!」

「アラ♡
オニイサン、何処に行くつもりデスか?」

「お、お前は! ランホアちゃん!?」

 すっ転んだローガンが顔を上げると、そこには意地悪く、しかし可愛らしく笑っているランホアの姿があった。

「貴様一体何を!? というか、財布を盗んだのは君だろう!?」

「そんな事より、随分と慌てた様子デシタけど、一体ナニから逃げようとしてたんデス?」

 ランホアに問われローガンはすぐ様事態を思い出し慌てて立ち上がると、また路地より遠くへ逃げ出そうとした。

 しかし、そんなローガンの腕をがっしりとランホアが掴む。

「ランホアちゃん! 今俺は忙しいんだ!」
「浮気するのがそんなに忙しいという事デスか?」

「なっ!?」

 ランホアから急に出てきた浮気という言葉にローガンは目を見開く。

 ランホアはそんなローガンにニッと更に意地悪く笑ってみせた。



 ◇


「やっぱり石楠花か……。
しかも薄桃色から大分濃い赤に変わってるね。
それだけ殺意が増したって事?」

 薄暗い路地にて、爆発の煙の向こう側にいる人にアイリスは淡々と問い掛ける。

「五月蝿いわねぇ。貴女、邪魔なのよ。
こそこそと嗅ぎ回って、私の邪魔をしないでよっ!」

 煙の向こうからは女のヒステリックの様な叫び声が聞こえてきた。

「今晩は。爆弾魔のカミラさん」

 カミラと呼ばれた女性は風で煙が消えた路地の中、オレンジの瞳ではっきりとアイリスを睨んだ。

「ふん! 貴女もどうせアイツの金目当てで近づいたんでしょ!?
アイツの……主人の金は全部私のものよ!」

 そう叫んだカミラは右の手の平を前に差し出すと、その手の中からポンっと真っ赤な石楠花を作り出した。

「今すぐ私の前から消えてっ!」

「カミラっ!!」

 カミラが叫んだ瞬間、アイリスの更に奥の方から男性の声が聞こえてきた。

「これは、どういう事なんだ?」

 そしてアイリスの背後から現れた男性……ローガンはカミラを見て驚きと恐怖が入り混じった表情になった。

「あ、あなた……」

 カミラもローガンを見て同じ様に表情を歪める。
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