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交換したいの!
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「はぁ、寒いわね……」
エマの誕生会とクリスマスも無事に終わり、今年も残りわずかとなった。
「私も来年の春にはこのお屋敷に来て一年が経つのか、何だか早く感じるわね……」
そう部屋で外の雪を眺めながらそんな事を考えていた時に、ドアがノックされた。
「オリヴィアちゃん、居るかしら?」
声や呼び方的にエマで間違いないだろう。
私は鍵を開けてドアを開く。
「何か用?」
「オリヴィアちゃん! 前に言っていたお礼の事なんだけどね」
そうだった、クリスマスパーティですっかり忘れていた。
私がいつかお礼をしたいと思っていた少年の正体は実はエマだったのだ。
「あのね、色々考えたんだけど、私もオリヴィアちゃんにお礼が言いたいなと思って」
「え?」
お礼に無理難題を押し付けられるのかと身構えていたが、逆にお礼を言われるとは思ってもみなかった。
「何で急にお礼?」
「私ね、あの時オリヴィアちゃんに出会わなかったら、まだずっと嫌な事から逃げて、周りの人の事なんて考えもせずに生きていたと思うの。
誘拐されて、本当は怖いのに、無理矢理笑って平気だって言うオリヴィアちゃんに、私は救われたの。
オリヴィアちゃん、本当にありがとう」
そう頬を緩ませながらエマは私に告げる。
「……違うわ、私、ただ痩せ我慢で平気って言っただけで、私はあんたが思っている様な人物じゃないわ」
昨日エマから聞いて、私は自分で言った別れ際のセリフを思い出していた。
あの時私は「逃げたくないの?」と訊かれて、本当は逃げれるものなら逃げたいと答えたかったんだ。
でも、そんな事現実に出来るわけがない。
どうしようもないという気持ちを押し殺して精一杯見栄を張って、平気だなんて嘘を吐いて。
本当は平気じゃないくせに。
すると、エマが私の事を優しく抱きしめる。
「オリヴィアちゃん……。
やせ我慢だって分かってるわ。
私だってその日誘拐されかけたんだから、平気じゃない事くらい分かってる。
だけど、その本音を隠してまで平気だって笑って言う貴女に私は感動したの。
私にはそれが出来ないから」
「私は……あんたのその正直な所が逆に羨ましいけどね」
私は小さくボソリと呟いた。
「え? 何か言ったかしら?」
「何でもない。
ところでまた何で勝手に抱きしめてくるのよ」
「え? 今そういう雰囲気じゃなかったかしら?」
「取り敢えず離れなさいよ」
私がそう言うとエマは渋々離れてくれた。
「まあ兎に角、私もあの時の女の子にはお礼がしたかったの。
だからオリヴィアちゃん、その、私と手作りの物を交換してくれないかしら?」
「手作りのもの? あんたの誕生日にハンカチあげたばっかりだけど」
「そうなんだけど、あれはプレゼントで交換じゃないし、何かお互いお揃いみたいなものが欲しいなって思って」
そう照れながらエマは提案する。
「ふーん、まあ、それならいいわよ」
正直もっと変な事をお願いされるんじゃないかと思っていたが、手作りの物を交換位なら全然許容範囲内である。
「それでお揃いってどういうのがいいのよ?」
「そうねぇ、出来れば毎日身につける物とかがいいわ!
毎日オリヴィアちゃんの温もりを感じられる様なもの!」
「体温付きのものなんて怖くない?」
私はシンプルに想像して気持ち悪く感じた。
「いやねオリヴィアちゃん! 温もりって何も体温の話じゃないわ!
でもオリヴィアちゃんの体温を感じられるものなら普通に欲しいけど!」
「いや、欲しがるなよ」
それからエマはうーんと考える。
そして私の机の上を見て何か閃いた様だ。
「そうだわオリヴィアちゃん!
手作りのアクセサリーなんてどうかしら?」
「アクセサリー?」
「そう! オリヴィアちゃんの蝶々のネックレスを見て思いついたの!
別にネックレスじゃなくてもいいんだけど、ブレスレットとか、ピアスとか!」
「まあ、ブレスレットとかならすぐに作れそうね」
ピアスは小さい上に針を扱ったりするから少し難しそうだし、ネックレスも着脱用の金具や鎖を付けなければいけないが、ブレスレットなら基本的にはゴムで簡単に作れる筈だ。
鎖を使ったり刺繍の様に編み込んだり、色々とアレンジも出来るし。
「じゃあオリヴィアちゃん! ブレスレットをお互いに作りましょ!
それで出来たら交換して、肌身離さず付けるの!」
「肌身離さず付けれるかは置いておいて、それがお礼って事でいいのね?」
「ええ!
うふふ、オリヴィアちゃん、愛情たっぷり込めて作るわね♡」
「はいはい、あんまり期待はしないでおくわ」
「酷い!
絶対オリヴィアちゃんが喜ぶブレスレットを作ってみせるわ!」
そう宣言してエマは部屋を去っていった。
私はふう、と椅子に座る。
エマに渡すブレスレットはどういうのにしようか?
ふと机の上に置きっぱなしにしていた蝶々のネックレスを手に取ってジーッと眺める。
「……そう言えば最近は付けてなかったっけ」
前はあんなに1人になりたがっていたのに、最近は3兄弟がやって来ても前ほど抵抗感が無くなっている。
寧ろ楽しいとすら思えてしまう。
「……これは、良い変化なのかしら、それとも」
何処まで仲良くなって、何処までなら許して良いのだろうか?
「このまま仲良くなり続けてもいいのかしら……?」
でもあの3兄弟は私の事を恋愛として好きなのだ。
私はその気持ちに応えるつもりは無いのに、ただ仲良くなるだけなんてあまりにも残酷ではないだろうか?
「どうしたら良いのかしら……」
いつもなら、ここで考えるのをやめてしまうのだが、前にアデックに言われた事が頭から離れない。
考えるのを途中で投げ出す癖がある。
そう言われてからなるべく投げ出さない様にしているのだが。
「かと言ってどれだけ考えたって分からないわよ」
……アデックなら分かるだろうか?
「猫も見たいし、友達なんだし、たまには私の方から手紙を送ってみようかしら」
そうして私は筆を手に取った。
エマの誕生会とクリスマスも無事に終わり、今年も残りわずかとなった。
「私も来年の春にはこのお屋敷に来て一年が経つのか、何だか早く感じるわね……」
そう部屋で外の雪を眺めながらそんな事を考えていた時に、ドアがノックされた。
「オリヴィアちゃん、居るかしら?」
声や呼び方的にエマで間違いないだろう。
私は鍵を開けてドアを開く。
「何か用?」
「オリヴィアちゃん! 前に言っていたお礼の事なんだけどね」
そうだった、クリスマスパーティですっかり忘れていた。
私がいつかお礼をしたいと思っていた少年の正体は実はエマだったのだ。
「あのね、色々考えたんだけど、私もオリヴィアちゃんにお礼が言いたいなと思って」
「え?」
お礼に無理難題を押し付けられるのかと身構えていたが、逆にお礼を言われるとは思ってもみなかった。
「何で急にお礼?」
「私ね、あの時オリヴィアちゃんに出会わなかったら、まだずっと嫌な事から逃げて、周りの人の事なんて考えもせずに生きていたと思うの。
誘拐されて、本当は怖いのに、無理矢理笑って平気だって言うオリヴィアちゃんに、私は救われたの。
オリヴィアちゃん、本当にありがとう」
そう頬を緩ませながらエマは私に告げる。
「……違うわ、私、ただ痩せ我慢で平気って言っただけで、私はあんたが思っている様な人物じゃないわ」
昨日エマから聞いて、私は自分で言った別れ際のセリフを思い出していた。
あの時私は「逃げたくないの?」と訊かれて、本当は逃げれるものなら逃げたいと答えたかったんだ。
でも、そんな事現実に出来るわけがない。
どうしようもないという気持ちを押し殺して精一杯見栄を張って、平気だなんて嘘を吐いて。
本当は平気じゃないくせに。
すると、エマが私の事を優しく抱きしめる。
「オリヴィアちゃん……。
やせ我慢だって分かってるわ。
私だってその日誘拐されかけたんだから、平気じゃない事くらい分かってる。
だけど、その本音を隠してまで平気だって笑って言う貴女に私は感動したの。
私にはそれが出来ないから」
「私は……あんたのその正直な所が逆に羨ましいけどね」
私は小さくボソリと呟いた。
「え? 何か言ったかしら?」
「何でもない。
ところでまた何で勝手に抱きしめてくるのよ」
「え? 今そういう雰囲気じゃなかったかしら?」
「取り敢えず離れなさいよ」
私がそう言うとエマは渋々離れてくれた。
「まあ兎に角、私もあの時の女の子にはお礼がしたかったの。
だからオリヴィアちゃん、その、私と手作りの物を交換してくれないかしら?」
「手作りのもの? あんたの誕生日にハンカチあげたばっかりだけど」
「そうなんだけど、あれはプレゼントで交換じゃないし、何かお互いお揃いみたいなものが欲しいなって思って」
そう照れながらエマは提案する。
「ふーん、まあ、それならいいわよ」
正直もっと変な事をお願いされるんじゃないかと思っていたが、手作りの物を交換位なら全然許容範囲内である。
「それでお揃いってどういうのがいいのよ?」
「そうねぇ、出来れば毎日身につける物とかがいいわ!
毎日オリヴィアちゃんの温もりを感じられる様なもの!」
「体温付きのものなんて怖くない?」
私はシンプルに想像して気持ち悪く感じた。
「いやねオリヴィアちゃん! 温もりって何も体温の話じゃないわ!
でもオリヴィアちゃんの体温を感じられるものなら普通に欲しいけど!」
「いや、欲しがるなよ」
それからエマはうーんと考える。
そして私の机の上を見て何か閃いた様だ。
「そうだわオリヴィアちゃん!
手作りのアクセサリーなんてどうかしら?」
「アクセサリー?」
「そう! オリヴィアちゃんの蝶々のネックレスを見て思いついたの!
別にネックレスじゃなくてもいいんだけど、ブレスレットとか、ピアスとか!」
「まあ、ブレスレットとかならすぐに作れそうね」
ピアスは小さい上に針を扱ったりするから少し難しそうだし、ネックレスも着脱用の金具や鎖を付けなければいけないが、ブレスレットなら基本的にはゴムで簡単に作れる筈だ。
鎖を使ったり刺繍の様に編み込んだり、色々とアレンジも出来るし。
「じゃあオリヴィアちゃん! ブレスレットをお互いに作りましょ!
それで出来たら交換して、肌身離さず付けるの!」
「肌身離さず付けれるかは置いておいて、それがお礼って事でいいのね?」
「ええ!
うふふ、オリヴィアちゃん、愛情たっぷり込めて作るわね♡」
「はいはい、あんまり期待はしないでおくわ」
「酷い!
絶対オリヴィアちゃんが喜ぶブレスレットを作ってみせるわ!」
そう宣言してエマは部屋を去っていった。
私はふう、と椅子に座る。
エマに渡すブレスレットはどういうのにしようか?
ふと机の上に置きっぱなしにしていた蝶々のネックレスを手に取ってジーッと眺める。
「……そう言えば最近は付けてなかったっけ」
前はあんなに1人になりたがっていたのに、最近は3兄弟がやって来ても前ほど抵抗感が無くなっている。
寧ろ楽しいとすら思えてしまう。
「……これは、良い変化なのかしら、それとも」
何処まで仲良くなって、何処までなら許して良いのだろうか?
「このまま仲良くなり続けてもいいのかしら……?」
でもあの3兄弟は私の事を恋愛として好きなのだ。
私はその気持ちに応えるつもりは無いのに、ただ仲良くなるだけなんてあまりにも残酷ではないだろうか?
「どうしたら良いのかしら……」
いつもなら、ここで考えるのをやめてしまうのだが、前にアデックに言われた事が頭から離れない。
考えるのを途中で投げ出す癖がある。
そう言われてからなるべく投げ出さない様にしているのだが。
「かと言ってどれだけ考えたって分からないわよ」
……アデックなら分かるだろうか?
「猫も見たいし、友達なんだし、たまには私の方から手紙を送ってみようかしら」
そうして私は筆を手に取った。
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