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第48話 君と感想戦
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「静夜くん!」
「……何? 葵さん」
遥に呼びかけられ静夜が半ば面倒そうに声のする方へと振り向いて問いかけると、静夜の席まで来ていた遥がにまにまと満面の笑みで答えた。
「呼ぶ練習してるの!
静夜くん、静夜くん、せーやくん♡
うふふ~!」
「うん、用事ないならよそで練習してきてくれる?」
名前を連呼してくる遥を静夜が適当にあしらおうとしたが、遥はそんな静夜を見て嬉しそうに謝る。
「ごめんって! 嬉しくてついね!
あ、それと用事はちゃんとあるよ!
こないだ借りた本全部読んだから返そうと思って持ってきたの!」
「ああ、そう言えば貸してたっけ」
静夜がすっかり貸した事を忘れていた中、遥が本の入った紙袋を静夜へと差し出した。
「めっちゃ面白かった! シリーズもののファンタジーは初めて読んだけど続きが気になってどんどん読んじゃってさー」
「面白かったんなら良かった」
遥から感想を聞きながら静夜は紙袋を受け取り中の本を確認する。
すると、遥は大真面目に口を開いた。
「ちゃんと本は丁寧に扱ったよ!
静夜くんの私物を汚しちゃいけないと思って、塩化ビニール手袋装着したから!」
「何もそこまでしなくても……別に指紋が付着したくらいでは怒らないのに」
静夜がそう答えると遥は少し照れながら答えた。
「そ、それに静夜くんの部屋の匂いがついてないかチェックするなんてそんなやましい事してないからね!」
「本に部屋の匂いなんてついてないだろ。そんな事言わなくていいよ怖いから」
ドン引いている静夜に遥はニヤけながら話す。
「いやぁ、最近引いてる静夜くんの顔を見るのが癖でつい」
「嫌な癖だな」
呆れる静夜の顔を見て遥は目にハートマークを浮かべる。
「はぁ……めっちゃ幸せ……」
「……何か知らないけど葵さんが幸せそうならもういいよ」
これ以上踏み込むと良くない気がした静夜は突っ込みを放棄した。
「まあまあそれより静夜くんや、たまには読んだ本の内容でも共に語らおうじゃないか?」
「突然その口調どうしたの?
……まあ、いいけど」
唐突に変な口調で提案してくる遥に静夜は嫌な予感がしつつも了承する。
「ぶっちゃけ静夜くんと語りたくて雪野猫先生の他の作品も全部読んだんだけどね?」
「マジかよいつの間に?」
遥の急なカミングアウトに静夜は驚いた。
「静夜くんから借りた本を読んだ後に書店ハシゴして片っ端から揃えてったの!」
「相変わらずの行動力だなぁ」
感心する静夜に遥は真面目に訂正する。
「あ、でも静夜くんが好きな作者だから買ったんじゃなくて純粋に作風にハマったんだよ!
なんというか独特な世界観にどんどん引き込まれるというかさ。私普段本とか読まなかったけど、静夜くんが何で本好きなのか納得したというか」
遥の言葉に静夜は思わず目を見開いた。
「え、マジでちゃんとハマってたんだ?」
「そりゃあ勿論! こう見えても私嘘はすぐ顔に出るタイプだからさ!」
「あー、それは確かに」
そう話す遥の言葉に静夜は納得する。
それから静夜は呟く様に過去の事を話し出した。
「俺さ、子供の頃陽太の仕事に連れられてスタジオ行ったりしてたんだけど、そこで待ってる間の暇つぶしに本読む様になったんだけどさ」
「(静夜くんの過去話!
これは貴重な話なのでは!?)
そうだったんだ……!」
遥は目を輝かせながら静夜の話に耳を傾ける。
「最初は図書室の本適当に借りてただけだったんだけどさ、たまたま借りた雪野先生の本読んで、凄い本の世界に引き込まれたというか……こういう世界が本当にあるみたいに錯覚させられたというか。
それでハマって初めて自分の小遣いで買った本が葵さんに貸したこれなんだ」
静夜はそう答えながら紙袋の中の本に視線を移した。
その事実を聞いて遥は衝撃を受ける。
「えぇ!? じゃあ静夜くんが初めてハマって初めて買ったという大事な思い出の本を私は借りていたというの?
そんな命の次に大事なものを!?」
「いや流石に命の次までは言わないけど。
まあでも大事ではあるかな」
遥が戦々恐々としている中静夜は淡々と話を続ける。
「なんというかさ、雪野先生の本の主人公って毎回全然違うタイプで、それも自分とは全然違う考え方とかあって考えさせられるというか」
「あー! 確かに分かる! 私だったらこうするだろうなーって思ってたら主人公がことごとく逆の事やったり! でも何故か不快になったりしないんだよね。
あ、そんな方法もあったのか! みたいに気付かされたりさ」
「そうそう、毎回裏の裏をかかれるというかさ、絶対先の展開を読ませないみたいな感じかと思ったら、急に王道展開になったり」
「本当緩急の付け方が凄いよね!
人物描写も丁寧だからそれぞれ感情移入もしやすいし」
「脇役とかもキャラ立ってて魅力的なキャラが多いんだよな。
引き出しの多さが凄いというか」
「分かるー! 本当雪野先生の頭の中どうなってんのって覗きたくなっちゃうよね」
「普段何考えたらそんな展開思いつくんだろってなるよな……って、もう昼休み終わる時間か」
時計を見た静夜は時間が結構経っていた事に驚いた。
「話してるとあっという間だったね~!」
にこにこと笑顔でそう言う遥に静夜も同意する。
「そうだな……なんか、普段周りに本読んでるやつとかいないから、普通にこういう感想言い合えて楽しかった。
ありがとう葵さん」
「いやいや! こちらこそ逆にオススメしてくれてありがとうだよ!」
素直に静夜に礼を言われた遥は戸惑い照れながらも頭を下げる。
「静夜くんのおかげで読書感想文もう書き上がったし!」
「え? マジで書いたの?
それただ単に話題作りで言ってたんじゃなかったんだ……」
まさかの遥の発言に今度は静夜が戸惑う。
「私はいつだってマジだよ!
それじゃそろそろ席に戻るねー!
また語ろうねー!」
そう言ってバタバタと後ろの席に戻っていく遥の背中を静夜は見届けた。
(なんか、葵さんと本の話するのめっちゃ楽しかったな……これまで本の感想言い合ったのって葵さん除けば小野さんくらいしかいなかったしな……)
静夜はふと思い出した少女の顔を思い浮かべる。
(小野さん……元気にしてるのかな……?
多分もう会う事はないと思うけど……)
静夜がそう物思いに耽っていると、後ろの席からハルに声をかけられた。
「東くん、随分ルカちゃんと仲良しになったね?」
「え? そうか……?
まあ、そうかも」
そう頷く静夜を隣で見ていた明宏も口を挟んだ。
「よ! リア充爆誕まで秒読みか~?」
「確かに~そのまま爆発しちゃいなよ2人とも~♡」
「何故に爆発させようとするんだよ?」
そうして2人に茶化される静夜なのであった。
一方席に戻った遥はと言うと。
「はぁ……静夜くんともっと話してたかったな……」
「何か今日はやけに会話が弾んでたみたいで良かったな」
ユウにそう言われて遥はにこにこと笑顔で話す。
「まあね! 静夜くんと本の感想話してたら気付いたら時間経っちゃってさ!
……でも」
「でも?」
笑顔だった遥は一変して急に悲しそうに顔を歪める。
「うぅ! やっぱり静夜くんに本返す前にこっそり一度嗅いでおけば良かった!」
「お前がいつも通りで逆になんか安心したわ」
遥の平常運転ぶりにユウはツッコミより先に安堵したのであった。
「……何? 葵さん」
遥に呼びかけられ静夜が半ば面倒そうに声のする方へと振り向いて問いかけると、静夜の席まで来ていた遥がにまにまと満面の笑みで答えた。
「呼ぶ練習してるの!
静夜くん、静夜くん、せーやくん♡
うふふ~!」
「うん、用事ないならよそで練習してきてくれる?」
名前を連呼してくる遥を静夜が適当にあしらおうとしたが、遥はそんな静夜を見て嬉しそうに謝る。
「ごめんって! 嬉しくてついね!
あ、それと用事はちゃんとあるよ!
こないだ借りた本全部読んだから返そうと思って持ってきたの!」
「ああ、そう言えば貸してたっけ」
静夜がすっかり貸した事を忘れていた中、遥が本の入った紙袋を静夜へと差し出した。
「めっちゃ面白かった! シリーズもののファンタジーは初めて読んだけど続きが気になってどんどん読んじゃってさー」
「面白かったんなら良かった」
遥から感想を聞きながら静夜は紙袋を受け取り中の本を確認する。
すると、遥は大真面目に口を開いた。
「ちゃんと本は丁寧に扱ったよ!
静夜くんの私物を汚しちゃいけないと思って、塩化ビニール手袋装着したから!」
「何もそこまでしなくても……別に指紋が付着したくらいでは怒らないのに」
静夜がそう答えると遥は少し照れながら答えた。
「そ、それに静夜くんの部屋の匂いがついてないかチェックするなんてそんなやましい事してないからね!」
「本に部屋の匂いなんてついてないだろ。そんな事言わなくていいよ怖いから」
ドン引いている静夜に遥はニヤけながら話す。
「いやぁ、最近引いてる静夜くんの顔を見るのが癖でつい」
「嫌な癖だな」
呆れる静夜の顔を見て遥は目にハートマークを浮かべる。
「はぁ……めっちゃ幸せ……」
「……何か知らないけど葵さんが幸せそうならもういいよ」
これ以上踏み込むと良くない気がした静夜は突っ込みを放棄した。
「まあまあそれより静夜くんや、たまには読んだ本の内容でも共に語らおうじゃないか?」
「突然その口調どうしたの?
……まあ、いいけど」
唐突に変な口調で提案してくる遥に静夜は嫌な予感がしつつも了承する。
「ぶっちゃけ静夜くんと語りたくて雪野猫先生の他の作品も全部読んだんだけどね?」
「マジかよいつの間に?」
遥の急なカミングアウトに静夜は驚いた。
「静夜くんから借りた本を読んだ後に書店ハシゴして片っ端から揃えてったの!」
「相変わらずの行動力だなぁ」
感心する静夜に遥は真面目に訂正する。
「あ、でも静夜くんが好きな作者だから買ったんじゃなくて純粋に作風にハマったんだよ!
なんというか独特な世界観にどんどん引き込まれるというかさ。私普段本とか読まなかったけど、静夜くんが何で本好きなのか納得したというか」
遥の言葉に静夜は思わず目を見開いた。
「え、マジでちゃんとハマってたんだ?」
「そりゃあ勿論! こう見えても私嘘はすぐ顔に出るタイプだからさ!」
「あー、それは確かに」
そう話す遥の言葉に静夜は納得する。
それから静夜は呟く様に過去の事を話し出した。
「俺さ、子供の頃陽太の仕事に連れられてスタジオ行ったりしてたんだけど、そこで待ってる間の暇つぶしに本読む様になったんだけどさ」
「(静夜くんの過去話!
これは貴重な話なのでは!?)
そうだったんだ……!」
遥は目を輝かせながら静夜の話に耳を傾ける。
「最初は図書室の本適当に借りてただけだったんだけどさ、たまたま借りた雪野先生の本読んで、凄い本の世界に引き込まれたというか……こういう世界が本当にあるみたいに錯覚させられたというか。
それでハマって初めて自分の小遣いで買った本が葵さんに貸したこれなんだ」
静夜はそう答えながら紙袋の中の本に視線を移した。
その事実を聞いて遥は衝撃を受ける。
「えぇ!? じゃあ静夜くんが初めてハマって初めて買ったという大事な思い出の本を私は借りていたというの?
そんな命の次に大事なものを!?」
「いや流石に命の次までは言わないけど。
まあでも大事ではあるかな」
遥が戦々恐々としている中静夜は淡々と話を続ける。
「なんというかさ、雪野先生の本の主人公って毎回全然違うタイプで、それも自分とは全然違う考え方とかあって考えさせられるというか」
「あー! 確かに分かる! 私だったらこうするだろうなーって思ってたら主人公がことごとく逆の事やったり! でも何故か不快になったりしないんだよね。
あ、そんな方法もあったのか! みたいに気付かされたりさ」
「そうそう、毎回裏の裏をかかれるというかさ、絶対先の展開を読ませないみたいな感じかと思ったら、急に王道展開になったり」
「本当緩急の付け方が凄いよね!
人物描写も丁寧だからそれぞれ感情移入もしやすいし」
「脇役とかもキャラ立ってて魅力的なキャラが多いんだよな。
引き出しの多さが凄いというか」
「分かるー! 本当雪野先生の頭の中どうなってんのって覗きたくなっちゃうよね」
「普段何考えたらそんな展開思いつくんだろってなるよな……って、もう昼休み終わる時間か」
時計を見た静夜は時間が結構経っていた事に驚いた。
「話してるとあっという間だったね~!」
にこにこと笑顔でそう言う遥に静夜も同意する。
「そうだな……なんか、普段周りに本読んでるやつとかいないから、普通にこういう感想言い合えて楽しかった。
ありがとう葵さん」
「いやいや! こちらこそ逆にオススメしてくれてありがとうだよ!」
素直に静夜に礼を言われた遥は戸惑い照れながらも頭を下げる。
「静夜くんのおかげで読書感想文もう書き上がったし!」
「え? マジで書いたの?
それただ単に話題作りで言ってたんじゃなかったんだ……」
まさかの遥の発言に今度は静夜が戸惑う。
「私はいつだってマジだよ!
それじゃそろそろ席に戻るねー!
また語ろうねー!」
そう言ってバタバタと後ろの席に戻っていく遥の背中を静夜は見届けた。
(なんか、葵さんと本の話するのめっちゃ楽しかったな……これまで本の感想言い合ったのって葵さん除けば小野さんくらいしかいなかったしな……)
静夜はふと思い出した少女の顔を思い浮かべる。
(小野さん……元気にしてるのかな……?
多分もう会う事はないと思うけど……)
静夜がそう物思いに耽っていると、後ろの席からハルに声をかけられた。
「東くん、随分ルカちゃんと仲良しになったね?」
「え? そうか……?
まあ、そうかも」
そう頷く静夜を隣で見ていた明宏も口を挟んだ。
「よ! リア充爆誕まで秒読みか~?」
「確かに~そのまま爆発しちゃいなよ2人とも~♡」
「何故に爆発させようとするんだよ?」
そうして2人に茶化される静夜なのであった。
一方席に戻った遥はと言うと。
「はぁ……静夜くんともっと話してたかったな……」
「何か今日はやけに会話が弾んでたみたいで良かったな」
ユウにそう言われて遥はにこにこと笑顔で話す。
「まあね! 静夜くんと本の感想話してたら気付いたら時間経っちゃってさ!
……でも」
「でも?」
笑顔だった遥は一変して急に悲しそうに顔を歪める。
「うぅ! やっぱり静夜くんに本返す前にこっそり一度嗅いでおけば良かった!」
「お前がいつも通りで逆になんか安心したわ」
遥の平常運転ぶりにユウはツッコミより先に安堵したのであった。
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