今日も君の心はハカれない

本田ゆき

文字の大きさ
51 / 88

第48話 君と感想戦

しおりを挟む
「静夜くん!」

「……何? 葵さん」

 遥に呼びかけられ静夜が半ば面倒そうに声のする方へと振り向いて問いかけると、静夜の席まで来ていた遥がにまにまと満面の笑みで答えた。

「呼ぶ練習してるの!
 静夜くん、静夜くん、せーやくん♡
 うふふ~!」

「うん、用事ないならよそで練習してきてくれる?」

 名前を連呼してくる遥を静夜が適当にあしらおうとしたが、遥はそんな静夜を見て嬉しそうに謝る。

「ごめんって! 嬉しくてついね!
 あ、それと用事はちゃんとあるよ!
 こないだ借りた本全部読んだから返そうと思って持ってきたの!」
「ああ、そう言えば貸してたっけ」

 静夜がすっかり貸した事を忘れていた中、遥が本の入った紙袋を静夜へと差し出した。

「めっちゃ面白かった! シリーズもののファンタジーは初めて読んだけど続きが気になってどんどん読んじゃってさー」
「面白かったんなら良かった」

 遥から感想を聞きながら静夜は紙袋を受け取り中の本を確認する。

 すると、遥は大真面目に口を開いた。

「ちゃんと本は丁寧に扱ったよ!
 静夜くんの私物を汚しちゃいけないと思って、塩化ビニール手袋装着したから!」
「何もそこまでしなくても……別に指紋が付着したくらいでは怒らないのに」

 静夜がそう答えると遥は少し照れながら答えた。

「そ、それに静夜くんの部屋の匂いがついてないかチェックするなんてそんなやましい事してないからね!」
「本に部屋の匂いなんてついてないだろ。そんな事言わなくていいよ怖いから」

 ドン引いている静夜に遥はニヤけながら話す。

「いやぁ、最近引いてる静夜くんの顔を見るのが癖でつい」
「嫌な癖だな」

 呆れる静夜の顔を見て遥は目にハートマークを浮かべる。

「はぁ……めっちゃ幸せ……」
「……何か知らないけど葵さんが幸せそうならもういいよ」

 これ以上踏み込むと良くない気がした静夜は突っ込みを放棄した。

「まあまあそれより静夜くんや、たまには読んだ本の内容でも共に語らおうじゃないか?」

「突然その口調どうしたの?
 ……まあ、いいけど」

 唐突に変な口調で提案してくる遥に静夜は嫌な予感がしつつも了承する。

「ぶっちゃけ静夜くんと語りたくて雪野猫先生の他の作品も全部読んだんだけどね?」
「マジかよいつの間に?」

 遥の急なカミングアウトに静夜は驚いた。

「静夜くんから借りた本を読んだ後に書店ハシゴして片っ端から揃えてったの!」
「相変わらずの行動力だなぁ」

 感心する静夜に遥は真面目に訂正する。

「あ、でも静夜くんが好きな作者だから買ったんじゃなくて純粋に作風にハマったんだよ!
 なんというか独特な世界観にどんどん引き込まれるというかさ。私普段本とか読まなかったけど、静夜くんが何で本好きなのか納得したというか」

 遥の言葉に静夜は思わず目を見開いた。

「え、マジでちゃんとハマってたんだ?」
「そりゃあ勿論! こう見えても私嘘はすぐ顔に出るタイプだからさ!」
「あー、それは確かに」

 そう話す遥の言葉に静夜は納得する。

 それから静夜は呟く様に過去の事を話し出した。

「俺さ、子供の頃陽太の仕事に連れられてスタジオ行ったりしてたんだけど、そこで待ってる間の暇つぶしに本読む様になったんだけどさ」

「(静夜くんの過去話!
 これは貴重な話なのでは!?)
 そうだったんだ……!」

 遥は目を輝かせながら静夜の話に耳を傾ける。

「最初は図書室の本適当に借りてただけだったんだけどさ、たまたま借りた雪野先生の本読んで、凄い本の世界に引き込まれたというか……こういう世界が本当にあるみたいに錯覚させられたというか。
 それでハマって初めて自分の小遣いで買った本が葵さんに貸したこれなんだ」

 静夜はそう答えながら紙袋の中の本に視線を移した。

 その事実を聞いて遥は衝撃を受ける。

「えぇ!? じゃあ静夜くんが初めてハマって初めて買ったという大事な思い出の本を私は借りていたというの?
 そんな命の次に大事なものを!?」
「いや流石に命の次までは言わないけど。
 まあでも大事ではあるかな」

 遥が戦々恐々としている中静夜は淡々と話を続ける。

「なんというかさ、雪野先生の本の主人公って毎回全然違うタイプで、それも自分とは全然違う考え方とかあって考えさせられるというか」
「あー! 確かに分かる! 私だったらこうするだろうなーって思ってたら主人公がことごとく逆の事やったり! でも何故か不快になったりしないんだよね。
 あ、そんな方法もあったのか! みたいに気付かされたりさ」
「そうそう、毎回裏の裏をかかれるというかさ、絶対先の展開を読ませないみたいな感じかと思ったら、急に王道展開になったり」
「本当緩急の付け方が凄いよね!
 人物描写も丁寧だからそれぞれ感情移入もしやすいし」
「脇役とかもキャラ立ってて魅力的なキャラが多いんだよな。
 引き出しの多さが凄いというか」
「分かるー! 本当雪野先生の頭の中どうなってんのって覗きたくなっちゃうよね」
「普段何考えたらそんな展開思いつくんだろってなるよな……って、もう昼休み終わる時間か」

 時計を見た静夜は時間が結構経っていた事に驚いた。

「話してるとあっという間だったね~!」

 にこにこと笑顔でそう言う遥に静夜も同意する。

「そうだな……なんか、普段周りに本読んでるやつとかいないから、普通にこういう感想言い合えて楽しかった。
 ありがとう葵さん」

「いやいや! こちらこそ逆にオススメしてくれてありがとうだよ!」

 素直に静夜に礼を言われた遥は戸惑い照れながらも頭を下げる。

「静夜くんのおかげで読書感想文もう書き上がったし!」

「え? マジで書いたの?
 それただ単に話題作りで言ってたんじゃなかったんだ……」

 まさかの遥の発言に今度は静夜が戸惑う。

「私はいつだってマジだよ!
 それじゃそろそろ席に戻るねー!
 また語ろうねー!」

 そう言ってバタバタと後ろの席に戻っていく遥の背中を静夜は見届けた。

(なんか、葵さんと本の話するのめっちゃ楽しかったな……これまで本の感想言い合ったのって葵さん除けば小野さんくらいしかいなかったしな……)

 静夜はふと思い出した少女の顔を思い浮かべる。

(小野さん……元気にしてるのかな……?
 多分もう会う事はないと思うけど……)

 静夜がそう物思いに耽っていると、後ろの席からハルに声をかけられた。

「東くん、随分ルカちゃんと仲良しになったね?」
「え? そうか……?
 まあ、そうかも」

 そう頷く静夜を隣で見ていた明宏も口を挟んだ。

「よ! リア充爆誕まで秒読みか~?」
「確かに~そのまま爆発しちゃいなよ2人とも~♡」
「何故に爆発させようとするんだよ?」

 そうして2人に茶化される静夜なのであった。

 一方席に戻った遥はと言うと。

「はぁ……静夜くんともっと話してたかったな……」

「何か今日はやけに会話が弾んでたみたいで良かったな」

 ユウにそう言われて遥はにこにこと笑顔で話す。

「まあね! 静夜くんと本の感想話してたら気付いたら時間経っちゃってさ!
 ……でも」
「でも?」

 笑顔だった遥は一変して急に悲しそうに顔を歪める。

「うぅ! やっぱり静夜くんに本返す前にこっそり一度嗅いでおけば良かった!」
「お前がいつも通りで逆になんか安心したわ」

 遥の平常運転ぶりにユウはツッコミより先に安堵したのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

ケダモノ、148円ナリ

菱沼あゆ
恋愛
 ケダモノを148円で買いました――。   「結婚するんだ」  大好きな従兄の顕人の結婚に衝撃を受けた明日実は、たまたま、そこに居たイケメンを捕まえ、 「私っ、この方と結婚するんですっ!」 と言ってしまう。  ところが、そのイケメン、貴継は、かつて道で出会ったケダモノだった。  貴継は、顕人にすべてをバラすと明日実を脅し、ちゃっかり、明日実の家に居座ってしまうのだが――。

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

処理中です...