幼馴染でマジカルなアレが固くなる

余るガム

文字の大きさ
7 / 117
第一章 幼年編

実の姉は弟に対して基本横暴

しおりを挟む
 なじみの家は一軒家だったのだが、俺の家はマンションの一室だ。15階建ての6階。絶妙に中途半端である。
 上下左右から聞こえる近所の生活音はうるさくはあるものの、慣れればどうということはない。

 抱えた荷物をそのままにエレベーターで6階まで上がる。
 流石に朝というだけあって、誰かとすれ違うなんてこともなく、自宅前まで到着した。

 ポケットの中の鍵を鍵穴に突っ込んで回す。

 特に何の気負いもなくドアを開けた俺を迎えたのは、誰のものとも知れぬ抱擁だった。

「おかえり、弟よ」
「ふごふご」

 なにやら不満げな気配を感じるが、口を塞がれているのに『ただいま』と返せると思っているのだろうか。

「お姉ちゃんに、た、だ、い、ま、は?」
「ふごふご」

 せめてあと20センチばかり離れてくれると返事ができるのだが。

「ん、よろしい。許す」
「ふごふご」

 許された。
 むしろ許されざるのは姉さんだと思うが。

 そのままの勢いで離してくれたので、ようやくまともに返事ができる。

「ただいま、姉さん」
「さっき聞いた」

 嘘である。
 なぜならさっきまでの俺はマジで『ふごふご』としか言っていないのだから。

「姉さんはどうして玄関に? 部活?」
「違う。弟を待っていた」
「俺を? この時間帯に?」

 姉さんが玄関で出迎えるというのはよくあった。というか外泊の際は必ずだ。
 しかしそんな姉さんだからこそ、俺の帰る時間帯はおおよそ把握しているはずだ。蝶ヶ崎家に外泊したときはなじみに引き止められ大体昼前に帰ってくる。中学生なのだからそれぐらい気付くだろう。

 今回については朝に帰っているが、なじみが起きてこなかったというある種例外的な状況だ。だからこそ、今回のハグはないものだと思ってドアを開けたのだが。

「お姉ちゃんは前からずっとこれくらいの時間帯から弟を待っていた」
「ウッソだろお前?」
「本当。それとお姉ちゃんを『お前』呼ばわりとは何事か」
「それはごめん、姉さん」
「・・・許す。なぜなら私はお姉ちゃんだから」

 心なしか『お姉ちゃん』に力がこもっていたようにも感じるが、それはさておき。

「さあ早く家に上がる。シャワーも浴びて。そしたらお姉ちゃんの部屋に来る。わかった?」
「はいはい」
「おかしい。お姉ちゃんのほうが年下ような扱いをされている気がする」
「気の所為でしょ、姉さん」

 独特なしゃべり方と別の何かで代用するべきにも感じられるほどの無表情しかない綺麗な顔。
 お手本のようですらある黄金比のスタイル。
 謎の強引さ。
 歩くたびにさらさらと揺れるセミロングは、それ自体が光を放っていると錯覚するほど艶やかだ。

 そんな彼女こそ、俺の姉。
 安心院氷麗つららである。

 年齢差、実に7歳。



 姉さんの指示通り、シャワーを浴びて姉さんの部屋へ赴く。
 その部屋で何をするのかといえば、そう大したことではない。

「コンコーン」
「お姉ちゃん、突込みのやり方ってあんまりわからないんだけど」

 ノックを模した声を上げながらドアを開ける。
 ノックとは入ることを伝えるものではなく入っていいか伺いを立てる行為であることぐらい知っているが、今更姉弟の間に一体どんな遠慮が必要であろうか。つまりこの無礼は美しい兄弟愛の象徴なのである。いいね?

「ほら、早く」

 ぽんぽんと自分の膝を叩く姉さん。
 当然のようにそこに収まる俺。

「ヨシ!」

 何が? などと聞いてはいけない。
 言われている俺も何がどう良いのか知らないし。

 そうして椅子の上で俺を腕の中に格納した姉さんは、机に向かって勉強を始める。
 時々ぎゅっと抱きしめられて、ひたすら冷たい手のひらに身震いしながら姉さんの勉強を眺める。

 まあ言ってしまえば、子供体温を利用したカイロだ。
 俺の負担ときたら差し込まれる冷えた手に奪われる体温と、後頭部を押し続けている胸の所為で首にかかるものくらいだ。

 ハッキリと冷たくてしんどくて俺に大した得もない状況である。姉でなければ絶対断っている。

 さりとてこの状況こそ自分への罰と考えればしばらく耐えようとも思う。

 表面に出してこそいないが結構落ち込んでいるのだ。
 大切にするだのなんだのと語りながら、結局自分の欲望と衝動を制御しきれず、結果なじみに対して冒涜的な行為をしてしまった。最終的になじみは強姦紛いの行為を受け入れるような所作こそしたが、それだって『一刻も早くこの蹂躙を終わらせるための行動』と取れるし、そもそも受け入れていたのかさえ疑問だ。
 よしんば受け入れていたとしても、同意を得なかった時点でそれは強姦である。日々紳士たれと言い聞かせておいてなんという様だ。

 無論俺の罪と比べれば、些細極まる罰だろう。そんなことは俺が一番わかっている。
 しかし現状で俺が受けることのでき、なおかつ俺以外の人間を誤魔化せる罰がこれぐらいしかないのだ。

 今度会ったら、なじみには謝ろう。それで許さないと言われるなら身を引くこともやむなし、そう腹を括る。

 俺にできることなんて、それぐらいしかないのだ。

「やはりあのメスガキの匂いが残っている・・・おのれ私の可愛い弟に・・・」

 姉の声を無視しながら、俺は自責の念を重ねていくのだった。



 俺の姉はショタコンだと思う。
 中学生でショタコンとは何とも業が深く、まさに日本人という感想しかわかないわけだが、その姉さんが手軽に摂取できるショタ成分こそ俺なのである。

 何せ七つ下の弟だ。
 おおよそなにをしても『姉弟のスキンシップ』でまあ通る。
 流石に一線を超えれば近親相姦で犯罪者になってしまうが、とりあえず昨日今日でなじみと行ったことはキスを除きほぼ全て可能だろう。国によってはキスすら合法だ。

 俺の全身を包み込む姉さんのパーカーから顔を出しながら、俺はそんなことをつらつらと考えていた。

「姉さん、流石に苦しくない?」
「苦しいならもっとお姉ちゃんにすり寄ると良い。今のお姉ちゃんはブラ付けてないから大丈夫」
「何一つ大丈夫じゃないと思うよ」

 年頃の娘が・・・などと思わなくもないのだが、そんなこと言えば確実におっさん認定を受ける。やめておこう。

 姉さんのペンが止まる。

「どうしたの?」
「・・・」
「姉さん?」

 そのままパーカーの中身がじっとりしてきた。多分考えすぎて脂汗をかいているのだろうが、その考えが空転しているのは不動のペン先から読み取れる。

 ノートを見てみれば、数学の暗記系の所で躓いているようだ。まだ覚えきっていないのだろう。

 暗記系はパッと出てこないならほとんど出てこないし、何とか捻りだした奴も大体外れだ。
 忘れたのなら教科書なりなんなりを見て、それを繰り返した結果覚えられるという流れなのだが、なぜ姉さんは教科書を見ないのか。目の前のラックにおいてあるのに。

「わかんないの?」

 子供特有の正直具合というか、思ったことをつい口にしてしまった。

「いや、わかるよ? お姉ちゃんだもん。そりゃあわかるよこれくらいだいじょうぶだいじょうぶだって私はお姉ちゃんできるお姉ちゃんカッコいい大人の女性なんだから」

 これはもうだめかもわからんね。
 テンパってわけわからない事言ってるが、『優等生のお姉ちゃん』像を崩したくなくて教科書を見ないのだろう。

 まあ、なら何も言うまい。
 俺なら解ける問題だが、わざわざ解いても何の意味もない。軽々な行動が他人を傷つけるというのを俺はなじみで学んだのだ。軽挙はしない。

 姉さんのパーカーの中で。
 姉さんの体温と匂いに包まれて。
 少しまどろんでしまうのは、とても心地の良いものだった。



「弟よ」
「ん、あぁ?」

 姉さんの呼び声に意識を起こせば、思わずドスの利いた低い声が出てしまった。パーカーの中にいるのは相変わらずのようで、姉さんのビクッとした動きが背中に伝わる。

「ああ、ごめん、寝ちゃってた」
「それは構わない。むしろご褒美」
「お薬出しておきますね~。それで、どうしたの?」
「お昼ご飯の時間。弟が昼に帰ってくるとは思ってなかったのか、弟の分はない」
「え、マジ?」

 健全な育成には大量の食事が必要なのだが。まさかお菓子を御飯代わりにするわけにもいかないし。

「なのでお姉ちゃんの分を分けてあげよう。なに、運動部だから元々多い」
「ダメでしょ、成長期なんだから。運動部ならなおさらだ」
「むう、母と同じことを言う」
「当然でしょう。私はなんか適当に作って食べてるよ」
「作れるの?」
「え?」
「え?」

 しまった。
 前世の感覚がごっちゃになっていた。
 前世じゃあ小腹が空いたから適当に作って腹を埋めていたのだ。一人称も『私』だったし。

 今じゃあ火はおろか包丁すら触らせてくれないだろう。そんなもので出来る料理などたかが知れているというのに、まるで料理に慣れている様な言動をとってしまった。

 なんでもいいから誤魔化さなくては。

「姉さん手伝ってくれないの?」

 どうだ?

「・・・手伝う。弟のお昼ご飯、お姉ちゃんが作る」

 なんとかなるのか・・・。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

田舎に帰ったら従妹が驚くほど積極的になってた話

神谷 愛
恋愛
 久しぶりに帰った田舎には暫くあっていない従妹がいるはずだった。数年ぶりに帰るとそこにいたのは驚くほど可愛く、そして積極的に成長した従妹の姿だった。昔の従妹では考えられないほどの色気で迫ってくる従妹との数日の話。 二話毎六話完結。だいたい10時か22時更新、たぶん。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

処理中です...