幼馴染でマジカルなアレが固くなる

余るガム

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第二部 高校生編

ヤンデレって満たされてる限り一途な女の子だよね

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「遅かったな、デブ」
「ンンッ、ウェアがなかなか入らなかったんですよ」
「自分でそのサイズにしたんじゃあないか。目標をそのサイズに定めたのは自分なんだから、自業自得だ」

 もうこのやり取りも何回目だろうか。
 デブは俺と同い年だが、別の高校に通っているらしく、彼女も一人暮らしをしているのだとか。
 筋肉からの精神的逃避を目的にトレーニングの指導を始めたこの関係は、彼女が肉塊から人に変わってからも続き、今では彼女のダイエットが主目的になりつつある。
 最も、俺に食事制限云々の管理はできないので、運動面でしか手伝っておらず、本格的なダイエットをしているわけではない。

 まあ指導といっても、俺がタスクを渡してそれをデブがこなすだけだ。
 その間、俺は自分のメニューをこなしている。

 デブに渡しているタスクについては俺のそれに匹敵しつつあるので、今日からは同じ量で行こうと思っている。

「今日からデブは俺と同じ量な」
「それは・・・お揃いということですか?」
「そうだけど・・・」
「ありがとうございますっ」

 やはりデブも人の子、自分の発展を喜んでいる様だ。
 正直一時期まで人の子かどうか疑問だったが。

 顔の紅潮から体温の高さがわかる。
 わざわざ冷やすこともあるまい。さっさと始めよう。

「じゃあまず走り込みな。とりあえず10キロ。姿勢とか見るから。指でカウントダウンしたらダッシュ、見逃したら立ち止まってスクワット10回」
「はい、いつもの感じですね」

 相変わらず、こいつに敬語を使われると、なんだか自分がいっぱしのコーチにでもなった気分だ。
 声がハスキーで張りのあるせいだろうか。

 そんなことを考えながら、俺とデブは走り出した。



 走り込み自体は割と早々に終わった。
 最初の方に数回指摘しただけで、デブはそれ以上ミスをしなかったからだ。
 カウントダウンの方は終盤になるにつれて失敗率が上がっていったが、疲労からくる集中力不足だろう。

 ただ、なにかしらの指示をするたびに『ンンッ』っとせき込むのは何なのだろうか。
 デブと呼んだ時もたまにそうなるし、こやつは今日も謎である。

 徹底的なクールダウンを入れた後はデブを自宅近辺まで送る。

 といっても先の文房具メーカの所までだが。
 万歩計アプリで走り込みの距離は逆算できたのだが、コースがめちゃくちゃでメーカまでに結構な距離が出来てしまった。 
 見知らぬ土地の弊害だ。まあその内改善ルートの構築でもしておこう。

「じゃあな」
「じゃあまた来週」

 おざなりな挨拶だけ残して家路につく。
 昼には早いが朝というわけでもない微妙な時間帯。

 今から走って帰ればちょうど昼ぐらいだろう。
 なじみは自分の部屋にいるだろうし、今日の昼飯は自分で用意するか。いや、元々そうするのが普通なんだが。

 幸い帰りしなに大型デパートがあるし、そこで適当に惣菜を買って済ませるとしよう。
 元々寄るつもりだったし、今ならまだレジ袋が無料だ。

 ビニール袋の有用性ときたら枚挙にいとまがないのだし、一枚多く確保しておくとしよう。



 かきあげを買った。
 白米はパックのものがあるし、野菜のストックはまだある。
 ・・・なじみが想定以上に使っていなければの話だが。

 それにこういう揚げ物系は作り難い。
 たまには良いだろう。

「しかしなじみの手料理じゃないとはなんだか新鮮だな」

 そういって、自分の言に違和感を覚える。

 新鮮。

 今、一人暮らしを始めて何日目だ?
 幾度か指を折ればわかる、4日目だ。
 なじみと半同棲状態に入ったのは昨日で、童貞を捨てたのはその直前。
 こうして逆算してみれば惣菜で済ますというのは原点回帰で、むしろなじみが食事を作る、という方が珍しい事であるはずなのだ。

 なのに抱いた感想は『新鮮』と来た。

「これは・・・本格的に毒されてるか?」

 苦笑交じりの発言は不快からではなく、むしろ快適さから来ていた。
 なじみの存在の日常感。『居て当然』という感覚。

「うーむ、ここまでベタぼれ状態の男に『浮気してこい』か」

 なんだかおかしくて笑ってしまった。



 家に着いたのはちょうど昼飯時。
 ビニール袋のなかのかき揚げはもう色々と悲惨な頃合いだろうが、まあ軽くレンジで加熱すれば多少はマシになるだろう。

 そんな算段を立てながら部屋に入る。

「お帰り~」

 おかしいねぇ。
 完全になじみの声が聞こえた。部屋の中からだ。

「なじみ・・・俺、お前が帰ってから戸締りして、その上で出かけたと思うんだけど?」
「え? 窓空いてたよ?」
「マジ?」
「マジ」

 最初に確認したところだと思うんだが・・・。
 まあ良いか。

「そんなことよりケーくん!」
「そんなことって・・・」
「いつ帰るのかちゃんと連絡してくれないとダメでしょー! わかんなかったからご飯できて無いよ!」

 さーてどこから突っ込もうか。
 いやもうむしろすべて諦めて受け入れるか。

「なじみ」
「なーに?」
「あのな、俺の中でなじみは完全に自分の部屋の方にいると思ってたもんだから、連絡しても意味があるまいと思っていたんだ」
「ああそうなの? いや、そっか。窓開けてたのはケーくんがミスしただけだもんね」

 正直未だにミスした実感がわかないのだが。
 まあいい、次だ。

「次に、俺はそこから今日の昼飯はなじみが作るわけじゃないと考えていたんだ。だから別に飯ができてないことに文句を言うつもりはないし、俺は自分で用意するつもりだった。勿論用意しようとしてくれたところは嬉しいが」
「用意って・・・もしかして、そのお惣菜?」

 なじみがビニール袋に入ったかき揚げを指さして言った。

「ああ、こういう揚げ物はなかなか作れないからな。たまにはいいだろうと思ったんだが・・・」
「はああああああ~~~~~~~~~~~~~・・・・・・・・」
「ええなにそのクソデカ溜息」

 結構長い時間続いたけど、肺活量スゲーな。

「ケーくん」
「はい」
「もしもケーくんが『揚げ物が食べたい』って言ってくれたら、私はケーくんの為に唐揚げもかき揚げも串カツもとんかつも作るよ?」
「あ、そうなの?・・・いやそうじゃない。流石に手間がかかるだろう? 油だけでも大量に使うし。それをなじみに任せるというのは流石に気が引けるんだが・・・」
「ケーくんは私に指図してくれればいいんだよ? それで私はケーくんの為に何でもするよ?」
「そういう亭主関白感がいまいち好きになれないんだ。俺となじみは対等、違うか?」

 一回目の情事以降、なんだかなじみの言動に『安心院傾の所有物』みたいな思想が根底に感じられるような気がする。
 その感覚に興奮しているのはなんとなくわかるし、俺にも『なじみを所有している感覚』に興奮するところはある。
 しかしそれを実生活にまで出さないで欲しいのだ。

 わがままでしかないが、家政婦か何かのように扱うのは流石に出来ない。

「対等・・・じゃあ、私がケーくんに何か言っても怒らない?」
「相当不快になるようなことでもない限りは」
「捨てない?」
「捨てない。なんなら『捨てて』と言われても捨てない」
「ンンッ・・・ふう」

 浮気してきて、以上に突拍子もないことは言うまい。という浅知恵の元の発言だが。

「じゃあ言うけど、ケーくんには私以外が作った料理食べてほしくない」
「惣菜はアウト判定に入りますか?」
「入る」
「そう・・・」

 多分機械が作ってると思うんだが、なじみ的にはアウトらしい。
 というか浮気はOKで外食はOUTってどういう基準なんだ。

「いや、私は浮気して欲しいんじゃないよ? 他の女の子に愛想振りまいて沢山好意を向けられたうえで私を選んで欲しいの」

 わかるようなわからないような。

 詳しく聞けば。
 なんでもセックスなどの『わかりやすい』物は浮気に入らず、家事などの奉仕行為を受けるような『わかりづらい』物は浮気に入るのだそうだ。

「だからできるだけそういうことをされるのは避けて。勿論絶対にダメってわけじゃなくて、人付き合いとかで食事に行くとか、好意を受け入れたように見せるのに食べるとかなら全然いいの。でも特に意味もなくってのはやめて。それに私の御飯美味しいでしょ? スーパーの惣菜なんか目じゃないよ? 嫌いなものはできるだけわからないようにするとかの融通は他の所じゃ利かないでしょ? それにケーくんの好みとか全部知ってるし、私以上にケーくん好みの御飯作れる人なんていないよね? 流石にケーくんのお母さんは違うと思うけど、次点は絶対私だと思うの。じゃあもうわざわざ高くてさしておいしくもないご飯食べる意味ないよね?」

 怒涛の勢いで語るなじみに、俺は。

「お、おう。そうだな」

 としか返答できないのだった。

 結局、昼食はなじみが作ったものを食べ、かき揚げは廃棄された。
 298円・・・。

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