幼馴染でマジカルなアレが固くなる

余るガム

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第二部 高校生編

バランスは大切

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 電話を掛けたが、それを数秒とせぬうちに閉じることになった。
 それはなじみが俺のベッドに寝転がっていたからである。

 安らかな寝顔は自分がここで危害を加えられることなどありえないと確信していた。
 実際そんな奴はいないし、いたとしても俺が誅殺するだけなので間違いではない。

 とはいえ、男の部屋に勝手に上がり込んでそのベッドで寝るというのがどういう行為であるのかなじみは分かっているのだろうか。
 それこそ部屋の主に手前勝手に犯されても文句は言えまい。
 まあ、なじみからすればウェルカムか。

 とはいえその辺の危険意識という奴がなじみには足りない気がするのだ。

 後そもそもの話。

「どうやって入ったんだ・・・?」

 先週の日曜にも似たようなことはあった。
 あの時は『まあ戸締りミスくらいあるだろうな』と納得したが、今回の場合は本格的に意味不明だ。
 あれ以来戸締りには気を付けるようになっている。その危機意識が緩んでいない現状でまた同様のことが起きている。

 今のところ侵入者がなじみしかいないので問題ないのだが、それにしたって危ないとは思う。

 一通り見て回っても空いているところは特になかった。
 これは入ったときになじみが閉めただけか。

「・・・まあいいや」

 考えてみれば取られて困るようなものなどないし、見られて困るようなものもない。
 しいて言えば今現在安眠しているなじみそのものが機密事項だが、そのなじみが侵入者なのだから問題ないだろう。機密、といっても些細な話だし。

 まあ何はともあれ。

「家事しよ・・・」

 多分なじみは俺の部屋に入って速攻で寝ただろうし、夕食もできていないだろう。
 起きたら一旦風呂に入るだろうし、入らなくとも掃除はすべき。そういえば洗濯物が溜まっているはずだ。それの処理も必要だ。このあたりがなかったとしても学校の課題を捌かなければならない。

「さて、忙しくなるな」

 やることは盛りだくさんだ。
 連絡をし忘れていた以上、罪滅ぼしの意味も含めて全部済ませる必要がある。
 ひとまず洗濯物を洗濯機に突っ込むところから始めるべく、水回りの確認に動くのだった。



 が。
 なじみは俺の想像以上にハイスペックだったのか、あるいは存外余裕があったのか。
 考えていた家事の内、半分ぐらいはやってくれていた。

 夕食は作り置きがあったし、洗濯機はその仕事を終えていた。
 軽く掃除もしてあった。

 そのため俺の仕事は風呂掃除と洗濯ものを干すことぐらいで、後は課題に集中できた。
 終わった後もまだなじみが起きる様子がなかったので、ついでに便所掃除もした。

 便所掃除が終わってもなじみは起きていないので、本当に手持無沙汰になる。

 まさか今から寝るわけにもいかないし、かといってなじみを起こすのも気が引ける。
 いたずら心に膝枕でもしてみるかと思ったが、筋肉質な男の堅い膝なんぞ枕にはなるまい。

 そうだ、筋トレをしておこう。
 明日は特にやることもなく、陸上部の手伝いとマシンの使用を打診するつもりだし。
 それに一日放置すれば三日分衰えるのが筋肉だ。自重トレーニングでは今以上の効果にならないが、現状維持にはなる。

 ふんふんと呼吸音を出しながら、ふと思った。

 眠りこける美少女の隣で息遣い荒く頬を紅潮させる男性。
 今の俺、筋肉モリモリマッチョマンの変態みたいじゃない・・?



 結局翌日までなじみは起きなかった。
 生活リズムが乱れているかは後々わかることだろうからその時に考える。

 それはそれとして、朝日に照らされエンドレスでわたわたするなじみは可愛かった。

「えっ、嘘、えー、朝、えっ?」

 きょろきょろ、おろおろ、わたわた。

 可愛い。

「そらそら、早く朝飯食べて学校行かんと。とりあえず顔洗ってきて」
「あ、うん」

 しかしなじみがいくら可愛かろうと時間というのは無情に過ぎていくし、朝の忙しさは変わらない。
 緩むし固くなるし抱きしめたいが、そんなことしている時間もないのだ。無情なり。



 せかせかと学校に赴いた。
 授業中眠くなるようなこともなく、生活リズムはそう大きく乱れていないことを確認した。
 で、放課後。

「陸上部の手伝いに来ましたよ~」

 陸上部の部室内にいる、この間交渉した相手の先生を見つけて話しかける。

「おお! 今日来てくれたか! ちょうど一人足りないところだったんだ」
「足りない、とは?」
「ストレッチをしあう所だったんだが、何せうちの陸上部は7人しかいなくてな。教師たる私が参加するのもなーと思っていたところだったんだ」
「はあ、なるほど」
「先生、この人は何なんですか?」

 仕事内容を聞いていると、部員の一人の思しき奴が割り込んできた。
 まあ気持ちは分かる。大分いきなりだったしな。

「ああ、桐島きりしま。この子は安心院傾あじむ けいという男子生徒でな。なんでも運動部共有の筋トレ器具を使う代わりにマネージャーのまねごとをするというので受け入れたんだ」
「ふーん・・・そっすか」

 桐島なる男は俺の方をじろじろ見て。

「足は引っ張るんじゃないぞ」
「えっ、アキレス腱伸ばしとかなさらないんですか? 伸脚とか・・・」

 むしろ積極的に伸ばすべき点では。そしてそのためには誰かが引っ張るのが最良なのでは。

「あん?」
「え?」
「・・・」
「・・・」
「・・・え?」

 なんだろう、致命的な意識のすれ違いが起きている気がする。
 こういう時どんな顔すればいいのか、わからないんだよな。

 ・・・笑えば、良いと思うよ。

 というわけで笑ってみた。

「チッ! 先生、俺は練習始めます。それなら6人でこいつを入れる必要はないですよね?」
「そうか? なら別に良いけど。じゃあ安心院はストップウォッチとビブス持ってきてくれ。体育倉庫にあったはずだから。これ鍵な」
「はあ、まあ、はい」

 ウォームアップなしで練習するとか自殺行為か? それでもスポーツマンか?
 と、思ったがそういえばこの部活もうちの軽音部と同じくガチ勢ではないのだ。

 そもそもこの学校は文化部寄りだ。
 陸上部、なんて王道中の王道みたいな部活が所属人数7人の時点でお察しである。
 だからこそ、文化部なのに2人の軽音部がより一層悲壮なわけだが。

 だとすれば、先の『足を引っ張るな』発言も納得がいく。
 要するに彼は足を引っ張ってストレッチしておくことの重要性を理解できていないのだ。

「安心院って、天然?」

 体育倉庫へ向かう間際で、眼鏡をかけた男子生徒に問われた。

「いや、多分違うと思うけど」



 その後、俺はなぜか桐島のお付きみたいになっていた。
 彼は俺と同い年で、なんでも幼馴染の気を引くために陸上部に入ったのだとか。
 その子は別の学校で陸上部に入っており、本当は鷹弓に来たかったが家の都合がどうとかで別の高校に行ったらしい。
 頻繁に連絡を取り合っているわけではないが、陸上で好成績を残してきっと告白する。
 桐島はそう語っていた。

 休憩時間中に根掘り葉掘り聞きまくった挙句、すべて話させたわけである。楽しかった。
 しかし幼馴染の気を引くためと聞いては、黙っちゃいられない。

「よかろう、不肖安心院傾。そなたの恋路を応援するぞ」
「本当か!?」

 当然である。
 何せ俺は幼馴染を嫁に持つ男。そのロマンも良さも知り尽くしている。
 そのうえで同好の士が生まれようとしているとくれば、これは応援せざるを得ない。

「勿論だ。かくいう俺も幼馴染に恋をしている男、いわば俺たちは同志だ」
「おお・・・ありがとう、安心院。いや傾! これからは傾と呼ばせてくれ!」
「ありがとう、わが友よ。私もそなたを『信照のぶてる』と呼ばせてくれ」
「勿論だ! 傾!」

 さらに聞けば、俺以外に理解者がいないのは、当人の行いが悪かったのもあるらしく、口に出しづらかったのだそうだ。

 曰く、成長とともに魅力が激増していったタイプのようで、その過程で惚れたのだそうだ。そしてその前は結構な不細工だったこともあり、イジメに近い所業もしていたのだとか。
 その辺については既に謝罪し許しも得ているらしいが・・・結構な不安要素だ。

「ふーむ、まずはそのあたりで減少した好感度をどこかで稼ぎなおす必要があるな」
「やっぱりか。しかしどうやって・・・陸上と勉強以外なにもやってこなかったから、女性の喜ぶことなんぞわからん」
「そうさな・・・」

 情報が足りなさすぎる。
 これが同じ学校の相手というなら俺から近づいても良かったのだが、なにせ別の学校だ。
 もちろん別の学校に行った知り合いがいないわけでもないが、そいつがその目標の人物と懇意にしているかはまた別の話。

 中学時代の人脈は少しアウトロー寄りだし、難しいだろう。

「とりあえず、名前だけ教えてくれるか? 調べるにしても情報が少なすぎる」
「ああ、かまわないが・・・調べて惚れるなよ?」
「ふっ、俺がそれほどナンパな男に見えるか?」

 そうなら幼馴染にいつまでも惚れたりしていない。

「それもそうだな・・・名前は花開院圭希けいかいん けいきだ」
「ものスゲー名前が来たな」
「お前が言うか安心院あじむ
「それは・・・まあ、うん」

 花開院圭希、か。

「調べておこう。だが期待はするなよ?」
「ああ、調べてくれるだけありがたいさ」
「あと自分でも何か考えとけ。デートに誘う口実とか」
「デッ、デート、か。そうだな、うん」

 こうして俺は陸上部内に友を得た。

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