幼馴染でマジカルなアレが固くなる

余るガム

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第二部 高校生編

つららんまじつらたん

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 陸上部にて新しい友人を得た。
 同好の士だ、もはや親友といっても良いかもしれない。それは流石に早すぎるか。

 俺個人としては、彼の恋路を応援したいところだ。
 兄妹のように育った二人が思春期の異性への意識からまやっとした距離感になりながらも、最終的には結ばれる。
 これほどロマンチックな話があろうか。

 白雪姫もシンデレラも否定する気はないが、長い目で見たときの幸福度は絶対に幼馴染の方が上だ。
 理想的なパートナーとはTSした自分だと思う。それに一番近いのは幼馴染だろう。

 そして俺はすでになじみで満たされている。
 とくれば他人の幸福を応援したくなるもの。

 最も、信照と俺では大分事情が違う。
 何せ俺は好感度の稼ぎなおしなんて非効率なことをする必要がなかった。その辺を器用に立ち回れる辺り、やはり転生者は爆アドである。

 さて、その花開院圭希けいかいん けいきなる女を人脈をフル活用して捜索しているのだが、どうも見つからない。

 目立たないタイプなのか、単純に捜索範囲外にいるだけなのか。
 いやしかしこの名前で目立たないという事はないだろうし、範囲外が有力な所か。

 とりあえず全員に『ありがとう、もう大丈夫』とお礼と終了を告げる。

「こりゃ、信照からの情報待ちか・・・?」

 一人の視点からの意見など大した意味はない。いくつかの視点から精査して初めて憶測が情報に変わるのだ。
 多少時と場合に寄るが、情報の価値は大きく分けて速さと正確性で決まる。

 その正確性が怪しいとなれば、話しは大分難しい。
 下手をうって修復不能、という流れになっては本末転倒も良いところだ。

 まあ、最大限できることはした。
 それに俺がどうおぜん立てしても結局は信照自身の魅力と努力次第。
 そもそも1から10までおんぶにだっこで出来た関係など脆いものだ。

 どこまで行っても外野でしかないのだから、外野らしくのんびり眺めて、時々野次って発破を掛けていればいい。

 そんな気楽な、金曜日の放課後であった。

 何を隠そう、今の俺は暇人である。
 20時まではあと5時間以上あるというのにやることはない。
 こういう手すきの時間をバイトに当てたいのだが、そのバイトが見つからない。
 求人サイトで見つかるのは丸一日働いて日当を得るような日雇いのものばかり。これに関しては検索エンジンが悪いのか?

 週数回、数時間のバイトを長期的に行いたいのだが。

 そんな風に思っていると、いきなりメッセージが飛んできた。
 仰向けになっていたので思わず取り落としてスマホが顔面に不時着するが、それ以上のことはなく取り直す。

「姉さんから?」

 『つららん』というアカウントから来たのは、乗っ取られてもいない限り、姉からのメッセージである。

 曰く、『一週間頑張ったお姉ちゃんにご褒美をくれぇ』とのことだった。
 最近社会人になった姉さんは随分とストレスを溜め込んでいるらしい。

 お仕事お疲れ様です、という意味を込めて可能なら労いたいところだが、一方で姉さんが何を求めているのか全く分からない。
 一週間頑張った、というフレーズからあまり重いものはやめておいた方がいいだろう。
 確か甘党だったし、コンビニスイーツとかそんなところだな。

 そんなもん自分で買って自分で食べてくれと思わんでもないが、こういうのは他人に渡されるという部分が重要なのだろう。
 幸い今は実に暇だ。金については姉さんから貰った分を使えばいいし、今姉さんの暮らしているところは分かる。そこそこ遠いが俺なら走って往復できる距離だし、時間的にも余裕はある。

 しかしそれはそれとして『めんどくせぇ』という感情があるのも事実。
 個人的には『面倒くさい』以上の説得力があるフレーズはない。

 というわけで『どんなご褒美が良いの?』と聞いておく。
 数分したら『弟自身で考えて』と帰ってきた。

 ふむ、と少し考えて。

「Aはアリス、階段落ちた。Bはブリンダ、クマにやられた」

 ボイスメッセージ機能に『ギャシュリーク〇ムのちびっ子たち』をうろ覚えで、出来る限りイケボで録音し、メッセージで『ご褒美ボイス』と付けて送った。
 親愛なる弟の声が聞けて大変満足であろう。

「あっそうだ」

 姉さんにSAN値直葬ボイスを送り付けた所で、思い出したことがあった。

 マッサージについて調べるつもりだったのだ。
 なじみの肩が凝っていることを聞いてから考えていたのだが、何かとバタバタしていたために今の今まで忘れていた。

 早速『巨乳 肩こり マッサージ』で検索。

「なんてこった、エロ動画しか出てこねえぞ」

 ネット民は汚れてるな。
 いや、これに関しては俺の検索ワードが悪いだけか。

 次は『肩こり マッサージ』で検索。

「セルフマッサージばっかり。現代人は孤独なのが多いのか?」

 晩婚化に少子高齢化、人口減衰とそうなる要素は多数あるが。

 次は『肩こり マッサージ 他人』で検索。

「お、ようやく目当ての感じの奴が」

 専門家が教える肩こり解消マッサージだそうだ。
 生憎監修している専門家については全く知らないが、顔も名前も晒しているしその界隈では有名人なのだろう。

「ポイントは骨を押さないようにすることか。へー、最初は椅子に座って貰った方がいいんだ。なんかうつぶせのイメージあったけど・・・ああ、それは慣れてからね」

 にわか知識でしかないが、素人考えであれこれするよりマシだろう。こういうのは情報の更新もほぼないだろうし。

「これで大なり小なり癒されてくれると良いんだが」

 漫画研究部ともなれば肩こりも腰痛も慢性化するだろう。
 なじみがそういった故障と無縁でいられるようにする手助けくらいしたいものだ。

「ま、ご主人様、だしね」

 改めて口に出すと照れ臭いが、同時に口元がにやけるのも分かる。
 あの時の俺が別段性欲が解消されたわけでもないのに手を出さなかったのは、精神的な部分で満足していたからだろう。

 そんなことを考えつつ、俺はページを読み込んでいくのだった。



 怒られた。
 そりゃまあ、ご褒美ボイスといってSAN値直葬ボイスを聞かされたのだから致し方あるまい。

『というわけで、お姉ちゃんに何か言うことはありますか』

 電話の向こう側で姉さんの少し怒り気味の声が聞こえる。

「ふと思いついたので衝動的にやった。反省も後悔もしていない」
『・・・もういい。弟のおいたに目を瞑るのもお姉ちゃんの務め。でも次はちゃんとしたご褒美ボイスを所望する』
「ちゃんとしたって、どういうこと言えばいいのさ」
『頑張ったねって猫なで声で言えばそれでいい』

 そんなんでいいのか。

『練習してみよう、今、ここで。さあ!』
「さあ、じゃないでしょうが。ここで言ったらご褒美にならない。来週言ってあげるからそれで勘弁」
『むう、しかしあのメスガキには毎日言っているはず』
「誰だよ、そのメスガキって?」
『・・・なんという名前だったか。忘れた』
「まあ良いけど。生憎俺は毎日『頑張ったね』なんて言う相手いないよ」

 睦み言なら毎日言っているが。

『本当!?』
「うお、なんで食い気味・・・まあ本当だけど」
『そう。なら良かった。そのまま弟は私の弟のままでいるのだ』
「むしろ弟以外の何になれるというのかね」
『むぅ・・・まあいい。やがて自分から望むことになるのだから』
「俺が姉さんに望む物ってなにさ」
『力が欲しいか』
「間に合ってます」

 いや、本当に。

 そのまましばらく電話を続けて、ようやくお開きという流れになった。

「よし、じゃあ姉さんも頑張ってね。俺も頑張ってるからさ」
『うむ、吉報を待つが良い』
「バイバイ」
『バイバイ』

 耳に静寂が戻ってくる。
 ああ、夕飯作んなきゃ。
 掃除は、良いか。あとで汚れるし。
 洗濯、もう済んでるや。
 なじみは今日も遅いのかな。
 てゆーか。

「吉報って何」
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