幼馴染でマジカルなアレが固くなる

余るガム

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第二部 高校生編

10年越しの自己紹介

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 デザートにソーセージとケフィアをご馳走した後。
 なじみの下の口にも同じものをご馳走して。

 一日中と言った割には、気絶やらピロートークやらの割合の方が多くて、実際にセックスしていたのは数時間といったところだ。
 とはいえそれで双方満足できている様だし、問題ないだろう。
 快楽を数値化するなら一般的なセックス24時間より多いのだし。

 それに個人的な趣向になるが、セックス本番よりもなじみを快楽で嬲る前戯やら、終わった後のイチャイチャピロートークの方が好きなのだ。いずれも俺が直接的な快楽を得られるわけではないが、それ以上の満足感がある。

 で、そういう風に色々終わった後の日曜日であるわけだが。

「うへー・・・どこもかしこもガビガビ・・・ホント撥水シート床に引いといてよかった」
「ごめんねケーくん、私が色々と・・・」
「いや、そういう仕向けたのは俺だし、お互い様だ・・・ぼやいててもしょうがない、始めようか」

 日曜日は徹底的な掃除から始まった。
 プレイ範囲の影響か、全体的に飛び散っているわけではない。ベッドの周辺が精々だ。
 しかしそのベッド周辺が悲惨なのである。

 こうしてロマンスなぞクソ食らえな日曜日が始まったのだった。



「あ、やべ」

 掃除の為に汚れた手を洗って拭ったとき、ふと思い出した。
 掃除が済んだころには、デブと約束していた時間を大幅に超過していることを。

 俺としては『昨日散々運動(意味深)したし、今朝はもういいかなー』などと思うのだが。
 主体性がどちらにあるかはともかく、付き合ってくれているデブに何の断りもなくサボるというのは筋が通らない。

 結構遅れているとしても、最低限謝罪の連絡ぐらいはしよう。

 そう思ってスマホを取り出して連絡先を調べるも、そこにデブを示す文字列はない。

「はて・・・あっ」

 なぜないのか、その答えは単純だ。
 デブはケータイを持っていない。
 事情については忘れたし興味もないが・・・不便だな。

 まあ、行くだけ行っておこうか。

 先週同様別の要件もあることだし、それを済ますついでと考えれば大した手間でもない。
 それに行ったという事実が重要だ。

「なじみ、俺は走ってくるから、少し留守を頼む」
「はーい。お昼作って待ってるねー」

 手早く着替えて、なじみに見送られながら家を出る。

 すると、誰かの背中を追い越した。

「おはようございまーす」
「おはよう、ちょっといいかな?」

 適当に挨拶して流そうとしたら、呼び止められてしまった。
 ご近所付き合いは大事と微からも言われていることだし、ここはひとつ話を聞くとしよう。
 手短に。

「なんです? えーと・・・」
「渡辺だ。渡辺公大・・・同じクラスだろう」
「ああ! そうだった! どうも人の名前を覚えるのが苦手でね、許してくれたまえ」
「いいさ、初日だしね」

 お互い同級生という事を知って、言葉遣いが砕けたものになる。

「それで、そんな渡辺君はこんな朝にクラスメートを呼び止めて一体何の用だ?」
「俺の・・・いや、これはあくまで俺から見た話であって、お前から見ても同様にそうであることは分かったうえで言うんだが、俺の隣の人についてなんだが・・・」
「まず俺は渡辺君の隣人が誰かわからないんだがね」
「だからお前と同じだよ」
「同じ・・・」

 俺の隣人と同じという事は、それは微かなじみの二択だ。
 確か微は俺が隣に入居したところで初めて隣人が生まれたはず。そして微は角部屋だ。
 つまり、彼が言っているのはなじみのことだろう。

「蝶ヶ崎さん? それがどうかしたのか?」
「ああ・・・昨日から全然帰ってないみたいだから、なにか知らないかと、ね?」

 ね? と言われてもな。
 なじみが昨日から今日にいたるまで何をしていたか一から十まで全部知っている。
 当たり前だ。ずっとセックスしていたのだから。

 しかしだからと言ってその事実をこの男にわざわざ言うような必要もない。
 自分の下事情を話すなど、相当な信頼がなくては無理だ。実の親でも言えやしないだろう。ある意味家族以上の信頼が必要な話題。
 そもそもなぜここまで気に掛けているのか、という点も気になる。
 なじみを付け回すストーカーについては今の所見たことがないが、そのうち出てくるだろうなとは思う。この男が最初の一人でない保証もないのだ。

「いや、特に知らないな」
「そう・・・」
「こちらからも一ついいか?」
「え? なに?」
「なぜそこまで蝶ヶ崎さんを観察している? 昨日から帰ってない、と言っていたな。あまりにも断定口調なので流してしまったが・・・それを知っていた理由は観察していたからだよな?」
「それは、心配になって」
「おいおい、話が繋がってないぜ。お前が心配になった理由は観察していたからだろう。今聞いてるのは観察を始めたきっかけだ」

 他人行儀の呼び方、消極的な情報収集。
 決して親密な仲じゃない。

「そもそもお前と蝶ヶ崎さんはさして親密な仲、ってわけでもないんだろう? 何の義理で何の心配をする」
「そりゃ、隣人が変な目に遭ってないかどうか確かめるために・・・」
「そうか、しかし俺から見れば、お前の方がよっぽど変なことをしているように見えるが」
「なっ! 俺がストーカーだとでもいうのかい!?」
「さあな。しかしお前がこちら側に来ていた理由はあるはずだ」

 俺が最初に見たのはこいつの背中。
 こいつは自分の部屋よりこっち方面に用事があり、終わって帰っている最中にいきなり俺が出てきた。
 そしてこっち方面にあるのは三部屋のみだ。階段もない。
 つまりこいつの用事とは恐らくなじみの部屋に対する何らかのアクション。

「話してもらおうか。俺の方に背中を向けていた理由、つまりはこちら側にあった用事について」
「お、俺はだな・・・」

 その後の彼の自供に寄れば、毎日インターホンを鳴らしては不在の確認しか取れず、いよいよ心配になったと、ただそれだけのようだ。
 今日も今日とて日課の不在確認を行ったら、そこで俺が出てきた。特に心配している様子もないことから何か知っているんじゃないかと思った、のだそうだ。

 真偽については不明だが・・・少なくとも、現時点で明確に黒というわけじゃない。
 排除しきれない可能性がある以上、しばらく放置するか。

「ふーん・・・まあ、そういうことなら別にいいさ」
「ああ・・・そういうことだよ・・・」
「じゃ、俺にも用事があるんでね・・・ここで失礼」
「ああ・・・」

 そのままゆっくりと走り去る。
 俺が一緒に居る時ならばともかく、なじみが一人の時は守りようがない。助けを呼べる方策があったとしても、間に合うかはまた別の話なのだ。
 いっそなじみになにか護身術でも習ってもらおうか・・・いや、なじみは運動慣れしていないし、難しいか。

 そう思って、俺はいつものペースでデブの所に向かった。



 途中でまた話しかけてきたホモを同じように蹴り倒し、待ち合わせ場所を見る。
 ふむ・・・居るし。

「ああっ! 安心院さん、遅かったじゃないですか! なんで遅れたんですか?」
「悪い悪い。ちょっと家が散らかってたんでな、掃除をしてたら遅れた」
「普段から片づけないからそうなるんですよ」

 普段は片付いてるんだ、普段は。

「悪かったって。じゃあ始めようか。どの辺までやってた?」
「まだ何も。安心院さんが言ってくれないと何したらいいのか・・・」
「おいおい、もっと自主性を持てよ・・・まあいい、じゃあ初めからな」
「はいッ!」



 そんなわけでデブとの運動(意味浅)を終え、クールダウン中である。

「そーいや、デブはなんでケータイ持ってないんだ? 連絡できなかったじゃないか」
「あはは・・・それは、家の事情で」
「お家柄、ね。なら俺に言えることは何もないんだが」
「でもっ! 安心院さんが持っていて欲しいって言うなら、おじいさまに言ってみますよ?」
「ああいや、そこまで切羽詰まってるわけじゃあないんだ。わざわざ捻じ曲げるほどじゃない」

 こいつも一応は女、に属すると思われる(生物学的には)なのだから、連絡先をスマホに入れるのが若干なじみに悪いという気分もある。
 それに週に一回しか会わない人間の連絡先など、さして重要でもあるまい。

 いや、疎遠だからこそ重要なのかもしれないが。

「そうですか・・・」
「ああそうだ、一つデブに聞きたいことがあったんだ」
「なんです?」
花開院圭希けいかいん けいき、という人物を知っているか?」

 その質問をした瞬間、デブの目が死んだ。

「どうした、そんな・・・死んだ魚のような目をして」
「いえ・・・えーと、もう一回言ってくれます?」
「だから、花開院圭希という人物を知っているか、と聞いたんだ」
「そうですか・・・その人物については知ってます」
「本当か? なら教えてくれ」
「良いですけど、なんでそんなことを聞いたんですか?」
「実はだな・・・」

 俺は陸上部での出来事をかいつまんで語った。
 恋愛感情云々については伏せ、探している、という所だけ。

「なんで探してるんです?」
「さあな、俺も知らんが、謝りたいことでもあるんじゃないか?」
「そうですか・・・その人物ですが・・・」
「おう」
「私です」
「WHAT!!??」
「改めて、自己紹介しましょうか」

 そういうとデブは優雅に一つお辞儀をして。

「私は私立相老あいおい高校一年、花開院圭希と申します。以後お見知りおきを」
「え・・・えー・・・」

 デブは、いや、花開院圭希は、にこりと底冷えのする笑みを浮かべた。
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