幼馴染でマジカルなアレが固くなる

余るガム

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第二部 高校生編

盗んだ鍵型で入り込む

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「えー・・・マジかー・・・」
「大マジです。安心院さんは私の名前知らなかったんですね」

 デブは少し頬を膨らませるが・・・顔だけやたら痩せてるから、むしろそっちの方が調和が取れてるようにも見えるな。

 そんな現実逃避も長くはもたない。
 名前を知らないのは、凄い失礼なのだ。古事記にもそう書いてある。

 しかしまだ完全な失策というわけでもない。
 信照の恋愛感情。ここを黙っていたのは良かった。
 これを今言ってしまえば、ただのワンサイドゲームだ。傍観していてこれほどつまらないことはない。

 信照が駆け引きをして、それに花開院圭希がどう対応するかを傍観してさかなにでもしてやろうと思っていたのだ。
 その案が水泡とならなかっただけ、まだヨシとしよう。

「いやあ・・・申し訳ないというかなんというか・・・そもそもお前は俺の中では『デブ』で呼称が定まってたからな・・・女性に失礼であるとは思うが、まあ・・・うん」
「・・・まあデブなのは言い逃れのできない事実なので良いですけど」

 良いんだ。

「それに自己紹介してなかった私も悪いですし・・・」
「そういえば・・・そうだな」

 言われてみれば確かにデブから自己紹介を受けたことはなかった。
 週に一回だけ会う、お互いよくわからない運動仲間。
 それが俺とデブの関係だ。

「えーっと・・・とりあえず、今後は『花開院』って呼んだらいいのかな?」
「あの・・・できれば、その・・・圭希、って呼び捨てにしてもらえると・・・」

 目を逸らし頬を赤らめそんなことを宣うが・・・まあいいか。
 呼び名なんて記号でしかない。要望があるなら合わせればいいし、別段失礼でないなら変える必要もない。

「じゃ、圭希、と。これでいいか?」
「ッ! はい!」

 今日一番の大声だな。

 そんなことを考えながら、俺はデブの、もとい、圭希の輝く笑顔を見ていた。



 とりあえず何かギャンブルをしたときに『入院している花開院の魂を賭ける』と発言する承諾を貰い、その場は収めた。
 よくもらえたな、こんな承諾。

 まさか信照の想い人がデブ、もとい圭希だったとは。甚だ予想がないだが、魅力が激増云々も俺との運動で磨かれたと言われれば納得だ。肉付きが良すぎて俺から見れば守備範囲外だが、趣味趣向でドストライクな奴もいるだろう。客観的に評価すれば『全身ムチムチ』で通る・・・様な気もするし。多分。
 元の容姿を考えれば、すぐさま言い寄るなんてことは周囲の目を考えると難しい。
 結局相手の意識を自分に向ける消極的な手法に入る。その結果が虐め紛いのちょっかい。

 繋がる。色々と。

「なんてこったい」

 帰り道に用事をもう一つ済ませ、家路についた。

 そしていざ部屋に入ろうか、という段階で先ほど見た顔を見る。

「おや、渡辺君じゃあないか」
「うおっ・・・なんだ、安心院か」

 なんだ、なんて安心した風な口を聞いちゃあいるが、こいつの目に宿る猜疑は未だ色濃い。
 むしろ俺が猜疑の目を向けたい気分なのだがな。

「なんだとはなんだ。もう昼過ぎだというのに買い出しか?」
「そうだよ、男の一人暮らしなんてずぼらなもんさ」
「まあそれは否定しない」

 ワンチャン犯行に及んだまであるが、疑わしいだけでそれ以上のことはない。

 そんな渡辺の横を通って、『蝶ヶ崎』と書かれた表札を確認し、そこのインターホンを押した。

「なっ、お前なにを!」
「何って、まだ帰ってないんだろ? 蝶ヶ崎さん。本当にそうか確かめたんだ」
「俺がいつそんなことを言った!?」
「いや、言ってない。しかし言わずともわかることなんてこの世にはいくらでもある」

 顔を見たという事は、渡辺は手前に向かって歩いていたという事。そして現在地点は渡辺の表札より奥。何らかの用事を済ませ、家か外かに向かって行動した、という事だ。
 さらにあの無表情は日常が日常であったときのもの。何の変化もないから生まれる無感情。
 それは多分、日課のインターホンの空振りのことだ。

 また、その上で確認するような行為をしたのは、こちらが疑っていることを示したもの。
 疑心の明示だ。

「まあいいさ、お前が何をしようと、俺には関係ないしな」
「・・・」

 この言葉がどれほど白々しいか、それは渡辺が一番わかるはず。

 動くなよ。お前が動いたら・・・俺も動くからな。



 きっちり渡辺が部屋に入ったのを見てから俺も部屋に入る。
 ドアを閉めると、なじみがパタパタと駆け寄って来て。

「おかえりなさい!」

 なんて満面の笑みで言いながら抱き着いてくる。
 見下ろせる位置にある尻に振り回されている犬の尻尾を幻視しつつ、抱き締め返せばその巨乳が柔らかく潰れる。

「ふふっ、新婚さんみたいだね」
「そうだなー、どうせ後一二年で結婚するだろうしな」
「んふふ、楽しみ」

 キスをして、エプロンを解きながらこちらを見やる。

「今日はチキンライスでーす! 早く手洗いとかしてきてね」
「おーう」

 手を洗いシャワーを浴び部屋着に着替えてリビング兼寝室に行くと、テーブルは既に準備済みといった風だった。

「いただきます」

 手を合わせ、向かいの相手を拝んでから食事を始める。
 今日も今日とて最高に美味い。

「ね、そっち行っていい?」
「ん? ああ、勿論」

 なじみの提案に一も二もなくうなずき、隣になじみが座る。

「ちゃんと食べれてる?」
「当たり前だろ。こんな美味い飯、食べれないなんて言ったら罰が当たるわ」

 不味かろうとなじみの手料理を食わないのなら罰が当たりそうだが。

「ふ~ん・・・」

 しかしどうやら俺の即答はなじみの意図するところではなかったようで、なじみは拗ねてしまった。
 そんなむくれ顔まで可愛いのだから、流石俺の嫁。

 とはいえどんなに可愛くともなじみには不機嫌になってほしくない。
 まあ、多少考えればすぐに回答は出たのだが。

「あー・・・いや、やっぱり食べづらいかもな。ここは一つなじみに手伝ってほしいんだが・・・」
「勿論! はい、あーん」

 我が意を得たりと笑みを浮かべてスプーンをこちらに差し向ける。
 当然その上にはチキンライスが乗っている。

 それを口に入れれば、なじみはまた笑顔をはじけさせる。

 その笑顔を見るたび思うのだ。
 つくづく、自分は幸福であると。



 食事も終えて、片付けもして。
 明日の準備をおおよそ終わった。

 つまり後はイチャイチャするだけの時間が始まるわけだが・・・しかしそれ以前に、一つなじみに渡すものがある。

「なじみ」
「なーに」
「とりあえず俺に絡みつくのやめてもらっていいか?」
「やー」
「すぐ再開していいから、5分だけ」
「むー・・・わかった」
「よしよし」
「えへへ~」

 にへらと笑うなじみを置いて、頭を撫でてから立ち上がる。
 向かう先はスポーツウェアの一部のポーチだ。その中のデパートの袋が目的の物である。

「なじみ」
「おかえり」
「ただいま。で、これだ」

 デパートの袋ごとなじみにわたす。

「何これ?」
「開けてみ」

 音を立てて明けられる袋から取り出されたのは、一本の鍵だった。

「この鍵って・・・合鍵?」
「ああ、そうだ。プレゼント」

 ここまで入り浸っている状態なのに、いまだ合鍵を渡していないことに気付いたのだ。
 元々一本しか受け取っていなかったので、先週デパートで注文していたのである。今日それをデブ・・・じゃなくて圭希との運動の帰りに取りに行ったのだ。

 元々さして困っていたわけでもないし、仕切り板を外してからはいよいよ意味の薄い鍵だが、こういうのは持っていることが重要なのだ。

「うん、嬉しい、よ?」

 おや?

「どうしたなじみ? あんまり嬉しそうでもないが・・・」
「えっ!? そんなことない! 凄くうれしい」
「なじみ・・・お前、何か隠してるな?」

 両手を肩においてにこやかに、大変にこやかに問いかける。
 にぱー。

「いやあ私がケーくんに隠し事なんてするわけないじゃん既に全身の黒子ほくろの数まで知られてるのに今更・・・」

 にぱー。

「そっ、それにそんなことしてケーくんに嫌われたくないもん。だから隠すメリットがないっていうか・・・」

 にぱぱー。

「それに合鍵自体もあんまり意味がないじゃん、今の状態だとさ! あっ別に実用性がなきゃ嬉しくないとかそういう意味じゃなくて・・・」

 にぱぱぱー。

「アッアッアッ・・・」

 にぱぱぱぱー。

「・・・ごめんなさい」
「よろしい」

 全く、既にお互いのことなんて知り尽くしているというのに、今更嘘なんて付けるはずもなかろうが。
 そういう意味じゃ一心同体、運命共同体なのだ。

「それで、隠し事の内容は?」
「えーっと・・・少し、待っててくれる?」
「おう」

 なじみはベランダから自分の部屋に戻り、いくらかして戻ってきた。
 そして差し出された手には・・・一本の鍵。

「えーと・・・」
「・・・」

 意味が解らないが、なじみが俺の鍵と並べて目の前に持ってきた。
 その鍵と俺の渡した合鍵を見比べてみると・・・完全に一致。
 つまり。

「既に合鍵を作っていた、と?」
「・・・てへ☆」

 なるほどなるほど。
 それならこれまでに幾度かあった『鍵は閉めたはずなのになじみが部屋の中にいる』という現象にも説明がつくわけだ。
 密室を開ける鍵は犯人が持っていた。そりゃあそんな密室破れるわな。

「どうやって?」
「ここに入居するとき、鍵見せてくれたでしょ?」
「せやな」
「その鍵の形を記憶してスケブにデッサンして注文しました」

 なんだそのスペックの無駄遣いは。

「別に一言言ってくれれば渡したのに、合鍵ぐらい」
「こういうのは相手から渡されるから信頼の証になって嬉しいの! ケーくんの中学の時の第二ボタン、ケーくんから渡したら意味ないでしょ」
「ああ・・・なるほど」

 あの時はなじみに言われて渡したのだが、それを俺から『はい、第二ボタンあげる』は違うだろう。

「まあその点については納得したからいいや。納得はすべてに優先するからな」
「よかった」
「が、それはそれとして黙って合鍵を複製した罪は罪だ」
「うげえ」
「複製したらパクられる可能性も増えるからな。つーか俺相手じゃなかったら普通に犯罪だし」
「はーい・・・」
「んー、じゃあここは一つ罰を与えるか」
「罰?」
「そうだな・・・」

 さて。どういったものが良いだろうか
 やったこと自体は犯罪だが、被害者たる俺がさして気にしてもいないので、あまり重い罰を与えるのも気が引ける。
 かといって犯罪は犯罪。罰は必要だ。

「よし、じゃあ」
「なに?」
「おしりぺんぺんだ。Siri出せ」
「!?」
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