幼馴染でマジカルなアレが固くなる

余るガム

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第二部 高校生編

愛しい人でも限度の過ぎた我儘は腹立つ

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 まあ、進捗というか。
 結果を話すのであれば、程々の所でやめておいた。
 具体的には喘ぎ声が混じってきたあたりでやめた。これ以上やるとお仕置きなのかご褒美なのかわからなくなってしまう。

 『我々の業界ではご褒美です!』なんて言葉をなじみの口から聞きたいとも思えなかったし。

 お互い変な扉が開く前にやめておいた方が賢明だろう。
 もう開いてる? 否定はしない。

「・・・お仕置き、だったんだよね?」
「・・・俺は、そのつもりだったんだが」

 なんだこの・・・言いようのない感じ。
 いや、誰が予想できただろう。
 お仕置き、懲罰的な意味合いのものが、いつの間にか前戯、愛撫に早変わりとは。

「わ、私まだよくわからないかな~・・・」
「・・・」

 その言葉の意味はおおよそ察しが付く。
 おかわり、あるいはおねだりだ。罰の。
 これがキスとかなら俺も即応したのだが、いかんせん話が違う。

 俺の好みは苦痛を与えることではなく、掌の上で踊らせることだ。そうして得る支配の実感とでもいうべきものが好きなのだ。
 暴力による支配は、強力でありながらも脆い。それ以上の暴力に制圧されるのだから。
 故に相手が支配されることを望む状態が最も望ましい。

 鞭とか蝋燭とか買うべきなんだろうか、なんて思案をしつつなじみに答える。

「いや、これ以上は過剰だからな。ここで打ち止めだ」
「そっか・・・ねえ」
「うん?」
「たまには、してくれる?」
「・・・まあ良いけど」
「やった!」

 嗚呼、神よ。
 なぜ私の最愛の人をこんなMにしたのですか。

 え? 俺には最適?
 まあ何一つ文句がないことは認めよう!



 やはり俺となじみは割れ鍋に綴じ蓋だったという事で。
 ひっぱたきまくって赤くなったであろうなじみの尻をさすりながら、何とはなしにぼーっとする。
 当然、エロ要素は一切ない。今撫でているのは純粋な厚意、あるいは善意なのだ。謝意でもある。

 うつぶせ状態のなじみを膝上にのせて呆けるのは存外心地よい。

「ケーくん」
「んー?」
「夕飯、何食べたい?」
「夕飯か・・・」

 えーと、冷蔵庫には何が入ってたんだったか。

「豚肉ってあったっけ?」
「あるよ」
「魚は?」
「サバと、イワシだったかな?」
「じゃ、サバの味噌煮が良い」
「わかった」
「買い物は?」
「まだ大丈夫だと思うけど・・・行く?」

 時計を見れば、針は15時を指している。

「そろそろ行こうか。空いてる頃合いだろう」
「ん」
「尻大丈夫?」
「へーき。別に座るわけじゃないしね」
「そっか」

 なじみをベッドに転がして、自分の外着を取りに行く。

「わー」
「ほれ、着替えは自分の部屋だろ」
「うん、着替えてマンション前にいるね」

 そういってなじみは自分の部屋に行った。
 着替えに要する手間を考えると大体俺が先に到着している。
 最も、仮に俺の方が多く手間がかかるとしても、なじみより先に到着しているつもりだが。



 到着した。
 予想通りなじみはまだ来ていないようで、俺はいくばくかの時間を暇に過ごすことになったわけだ。
 何とはなしに見上げる空は白い雲が流れる程度で平穏そのもの。この空模様なら雨が降るという事はないだろう。

 昨日の夜更かしが響いているのか、こみ上げる眠気をふわ、と欠伸に変える。
 一晩中ヤっていたわけでもないので耐えられないという事はないが、放置していると後々重くのしかかってくるのが眠気。明日は月曜なのだし、これ以上持ち越すわけにもいかない。

「おまたせ」
「よし、じゃあ行こうか」
「うん!」

 なじみに声を掛けられたことを契機にもたれていた壁から背中を離す。
 連れ立って歩きこそするものの、その距離は『偶然鉢合わせた仲良さげな隣人』程度を保っている。
 別に恋人レベルの距離でもいいのだが、そうすると抱え込む面倒ごとがごりっと増えそうなのでやらない。

 なので寂し気にこちらをチラチラと見るのはやめるんだ。
 やらせはせん、やらせはせんぞ。

「手、寂しい事ってあるよね?」
「あー、なんとなく教科書の端っこにわけわからん落書きすることでしょ? 手慰みっていうか、そういう感覚があるのは分かるよ」
「あるけども・・・」
「意識は勤勉なんだけど体が暇するというか。俺が筋トレしてる時なんかは逆だけど」
「逆?」
「体がきついんだけど意識が暇をするというかさ。そういう時には物凄く適当な事を考えてたりするよ」
「適当って、どんなこと?」
「例えば・・・今日の夕飯、何にしようか、とか」
「えー? それだけ? 絶対他になんか考えてるでしょ」
「そりゃその時によって考えることってのは違うさ」
「じゃあ・・・好きな人のこと、とかは?」

 わずかに赤らめた顔をこちらに向けるなじみには少し不安げな表情が浮かんでおり、目はわずかに潤んでいる。

 というか、なんだこれは。

 なんでこう・・・今更付き合う以前の駆け引きみたいなことになってるんだ。

「好きな人かー・・・」

 ぼやいて空中を眺め、ちらりとなじみの反応を伺う。
 表情に変化らしい変化はない。

「そういう人はいないかな」
「あれ、そうなんだ・・・」
「まあでも」
「なに?」
「愛してる人はいるけどな」
「・・・ふふ」

 あからさまなレベルの気落ち顔が一瞬で紅潮と喜びに変わる。
 さっきの恋人未満状態っぽい感じは偶然の一致に過ぎないようだ。恋人未満のロールプレイなら『好きな人はいない』と言われれば喜ぶべきポイントだろう。あるいは自分のことが好きではないと気落ちするべきなのかもしれないが、その辺は個人によるか。

 こんな程度の稚拙な下げ上げだけで喜んでくれるのだから、ありがたいというかなんというか。

 そんな感じで会話していると、やがてスーパーについた。
 狙い通り客は少ないようで、この調子なら迅速に終わりそうだ。

「じゃ、一緒に回る?」
「んー・・・そうだな。一緒に行こうか」

 回るも何も、冷蔵庫を共有しているのに一緒でない方が不便である。
 完全なる茶番だ。

 なじみが目利きをして俺が荷物を持つ。昔におつかいを頼まれたときから変わらない普段通りのスタイルだ。
 ちなみに二人とも現在の懐事情を完璧に把握しているため、買い過ぎるという事もない。家計簿だって二人でチェックし合っているのだ。

 なので。

「ダ、ダメかな・・・?」

 今いるのはお菓子コーナーの一角で、なじみが手に持っているのは『Anjiミルクチョコレート』の板チョコである。
 こういうおねだりは非常に断りづらい。
 なにせ頭の中でソロバンを弾けば、別に不可能というわけでもないのだ。おまけに諸々の節約術のおかげでこれを買っても充分お釣りがくるレベルで余裕がある。

 浪費ではある。
 この一点だけは絶対に変わらない。
 しかしその一点だけで断るには、なじみの上目遣いはあまりにも強烈だった。

「・・・いいぞ」
「やった!」

 こういう所では、一生敵わない気がする。
 甘え上手というか、なんというか。



 家に帰って家計簿を付ければ、想定通りに黒字。
 結果、なじみのおねだりもまた無罪というわけで。

「もむもむ・・・」

 蕩ける様な笑顔で板チョコを食べるなじみが俺の部屋にいるのだった。
 少し食べては唇を舐め、少し食べては笑顔を見せ。

 金欠には金欠なりの幸せがあるものだ。

 なじみは四分の一ほど食べ、残りの四分の三を冷蔵庫に仕舞い込んだ。
 残った分は俺と分けつつ、デザートに取っておくそうだ。

 夕飯の準備まではまだまだ時間がある。
 家事も一通りは終わっているし、宿題も焦らしプレイの一環で終わらせた。
 後半の字面の異常さに目を瞑って考えれば、はっきりとやることのない時間である。

 というわけで。

「おいで」
「はーい」

 ただいちゃつくだけの時間の始まりである。
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