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第二部 高校生編
ダニエルさん、成長したら魂の解答わかるようになるのかな
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イライラしながら発揮できるスペックなど高が知れている。
実際、普段の半分程度しか済ますことは出来なかった。
このフラストレーションすら奴に生中継と考えればそれは止まらない。
なじみと一緒に居ればある種のハイになって多少大丈夫で、セックス中となればそんなもの吹っ飛ぶのだが、一人でいるとなるとなかなかどうして辛いものがある。
「ふう・・・落ち着け、この安心院傾が乗り越えられなかったピンチなど、一度だってないんだ・・・」
おもわずネタセリフに走ってしまったが、事実そうなのだ。
前世の人生経験と、なじみと釣り合うべく積み上げたスペック、さらにエロステータスで吸い上げた情報を使えば・・・。
「あっ」
そういや渡辺をエロステータスで鑑定したら大体全部わかるじゃん。
んー、でも出るのかな・・・。
性的な情報と会話アーカイブ機能があるだけで、別に心を読む機能があるわけではない。
『性』に無関係な情報は出ないし、会話らしい会話もしていない。
となると情報閲覧はなかなか難しいようにも思えるが。
「まあいいか、どうせそこまで期待していたわけでもないのだし」
で、問題の盗聴器は全然見つからないわけだが。
いやしかしホントどこにあるんだ・・・。
などと考えていれば、いつの間にかなじみが帰ってくる時間であった。
はあ、なじみの帰りが憂鬱に感じるとは、初めての体験だ。
「ただいまー」
「おかえり」
「どしたの? なんか元気なさげだけど」
「いや、ちょっと宿題が思うように進まなくてな」
「ふーん?」
納得した風ではなかったが、それでもそこで終わってくれた。
話せない雰囲気を感じ取ったのだろう。察しが良くて助かる。
なじみが着替えて部屋着になったとき、ある意味待ち望んでいた音が鳴り響く。
キンコーン。
「またチャイム」
「さて、誰だろうなっと」
正直わかり切っているが、一応そういっておく。
扉を開けて相手を確認すれば、予想通り。
「やあ渡辺。というよりは・・・待ってたよ、というべきかな?」
「大体察してるらしいな」
渡辺がそこにいた。
「さて、まずは用件を聞こうか。何をしに来た?」
「勝負、かな」
勝負?
予想外過ぎるフレーズだ。
「ふーん・・・ま、入りなよ。ちょうど他の客もいるところだ」
「蝶ヶ崎さん、だろ?」
「正解」
渡辺を招き入れてリビングへ向かう。
ちょうどなじみはベッドでぐでりとしていた所らしい。
「あ、ケーくん。誰だった?」
「こいつ」
後ろの渡辺を指さす。
「えーと・・・」
そのまま数十秒待つも、なじみは全く名前を言わない。
待ちかねた渡辺がぶっきらぼうに自己紹介してから『ああ! 渡辺君! 覚えてる覚えてる!』なんて白々しいことを言っていた。
もしかしてなじみの中では『自分の部屋の隣に住んでいるケーくんじゃない方の人』が渡辺で、渡辺個人を覚えているわけじゃないのか?
「・・・まあ、そこまで完全に忘れ去られていた事実については置いておこう。どうせすぐ元に戻る」
「戻る?」
多分完全に素だけど・・・。
「じゃあ本題に入ろうか。安心院傾、俺と勝負しろ。蝶ヶ崎さんの解放を賭けて、だ」
「は?」
解放・・・解放と言われても。
何か束縛していたか?
そりゃいくつかの取り決めは行ったが、それは完全に双方を同意を得ての話だ。
解放、というからには、渡辺の中では何やら俺が悪者になっている様だが。
「待て。えーと・・・どこからそういう話になったのか聞いていいか?」
「じゃあ言ってしまうが、昨日俺が帰った後、お前は何をしていた?」
「何って・・・」
ちら、となじみを見ると物凄く顔を真っ赤にしている。
「ナニだが?」
「!?」
ああ、なじみの驚愕と羞恥の表情が新鮮で割とそそる。
羞恥プレイは相手が必要だから難しいんだよな。
「・・・俺は君たちのアレをそういうことの一環であるとは思えないな。まるで奴隷の様な扱いだったじゃないか。蝶ヶ崎さんから望んでいるのだって不可解だ。あれじゃ蝶ヶ崎さんが救いようのないドMの変態みたいじゃないか」
「ふぐぅ」
なじみがボディブローでも貰ったかのような声を出して蹲る。
まあ、結構な威力ではあっただろう。
「あーと、つまりは俺がなじみの弱みか何かを握ってそういうプレイを強要していて、それを止めるようお前は言いに来た。しかしタダでは動かせないから、勝負の結果に賭けさせる、と?」
「そうだ」
「待て待て、確かにそういうプレイを導入したことは認めよう。しかしその後は極めて真っ当なプレイをしていたじゃないか。恥ずかしい言い方になるが愛のあるセックスだ。傍から聞いているだけでもわかる程度にはラブラブだったと自負しているが、その点についてはどうなる?」
「それこそお前は何を言ってるんだ、と返答するね。盗聴器についてはそういうプレイの直後にお前が破壊したんじゃないか。まさか偶然壊してしまいました、なんてことはないだろう? つまりその後の内容なんざ俺には知る由もないわけだ」
「何? 盗聴器は壊れていたのか?」
「だからお前が壊したんだろうが」
・・・そういえばあの時。
ベルトはかなり乱暴にテーブルの上に放り投げた。
その時にバックル部分がテーブルの上に置いてあった盗聴器に衝突、破壊。
ない、とは言い切れない。
となると前にテーブルの上から払い落した黒いゴミ。
あれは盗聴器の残骸か。
ふむ、筋は通る。
「OK分かった。それなら証明の仕様がない。念のために聞くが、あの盗聴器は昨日、お前が仕掛けたものという事でいいんだな?」
「勿論だ」
「・・・はあ、犯罪行為をそんな堂々と言うんじゃないよ」
「正義の行いだから問題ない。倫理が正義を作るのではなく、正義が倫理を作るんだ」
「正義、ねえ」
渡辺から見れば俺はなじみの弱みを握って望まぬプレイを強要していた悪者で、渡辺はなじみを救うべく現れた正義のヒーローってわけか。
しかしなぜこいつは俺に目を付けた?
当初はなじみのストーキングをしていたはずだ。
そしてその時渡辺はなじみと接触できていない。
盗聴器の類だってなじみの部屋に仕掛けられてるかもしれないが、なじみはほとんど自分の部屋にいないから情報なんぞ皆無なはず。
なのにいきなり俺に標的変更?
予想通りになじみへの接触と交流が目的なら俺に目を付ける要因はない。
なじみと付き合ってはいたが、それを認識される要素は俺の部屋を除いて存在しなかったはず。
ならば・・・そもそもの予想、渡辺の目的が違う?
「まあ、お前の正義観についてはこの際どうでもいい」
「そうか。それで? 受けるか? 受けないか?」
「あのな、そもそも俺には受けるメリットがないだろう。俺は勝利して得られるものはお前の一時的な撤退。しかし負ければなじみを失う? 冗談じゃない」
別に脅迫しているわけでもないので失いやしないのだが。
そもそもデコイを手放して別の弱みをって手もあるんだから、こいつも大概詰めが甘い。
「ああ、勿論だとも。だから俺も賭ける。安心院、お前が俺に要求したい事を言え。勝利した方が手にする」
「そうか、ならば・・・複数個、もらおうか」
「なに?」
「お前にできることをなじみに匹敵するまでその価値を積み上げようとすれば、それは当然じゃあないか? ここまでの美形だ、犯罪に走ってでもと考えるやつが居ても可笑しくない」
今まさに目の前にいるのだが。
「それに引き換えお前ときたらまさに平凡。お前にできて俺にできないことは余りにも少なく、その価値はあまりにも低い。質で勝てないなら量で補うしかない、違うか?」
「むう・・・まあそうだな」
「だろう? そこで俺が要求するのは五つだ。まず今回の一連の下りでお前が行った行動とその理由をすべて詳細に、嘘偽りなく答えること。その際こちらが要求した補足にもだ。次に盗聴した音声データをすべて削除すること。更に一連の行動についての謝罪と、二度としない事の宣誓。最後に虚偽があるならば、死を以って償うことだ」
「いいだろう」
快諾したが、当然こいつの言を信用するなんてことはしない。
ちゃんとした裏取りができるまでは。
最後の死についてはただの脅しだが、動揺一つしていないので空振りだろう。まあいざとなればやるけど。
絶縁を盛り込んでもいいが、流石に同じクラスだと無理があるし、負けても失うものがない以上そこまで徹底するつもりはない。
勝利は徹底するけど。
「じゃあ双方の同意が得られたことで、勝負の内容を決めようか、俺は・・・」
そういって渡辺が勝負を言おうとしたところで、待ったを入れる。
「待て待て。勝負内容は俺に決めさせてくれないか?」
「おいおい、それじゃあお前に有利なものを選ばれるじゃないか」
「それは俺とて同じだ。むしろ俺の方が強い。お前は今日勝負することを少なくとも昨日の時点で決めていた。しかし俺は今日いきなり言われたものだ。準備万端にイカサマ塗れのトランプが出てこないとも限らない」
「俺がイカサマをすると?」
「しないと言ったとして、信用するとでも?」
しばらくにらみ合っていたが、渡辺が折れた。
「わかった。そうしよう。確かに信用はできないだろうからな。しかしだからと言ってお前がイカサマをするのは許さんぞ」
「わかっているとも。なあに、自分の優位を確保しつつ相手に悟らせないなんて芸当、即興で出来る者じゃないよ。ではそうさな・・・」
ぐるりと周囲を見回す。
ベッド、なじみ、ゴミ箱、テーブル、ティッシュ、空のティッシュ箱、廊下、台所、薬缶・・・。
「よし、これで良いだろう。なじみ」
「なあに?」
なじみはベッドからむくりと置きあがる。
先ほどのボディーブローは未だに効いているらしい。
「ルーズリーフ持ってきてくれ」
「私ので良いの?」
「ああ」
「はーい」
なじみがベランダから自分の部屋へ戻る。
そういや大家に仕切り板の話してねえわ。
「・・・随分仲がよさそうだな」
「そりゃまあ、普通に付き合ってるんだしな」
「どうだか」
まあ、元より信じられようとなんてしていない。
なじみが戻ってくるまでは無言だった。
そしてなじみが帰ってくると、その手には指示通りにルーズリーフが。
「さて、このルーズリーフを・・・」
定規でサイズを測り、その通りに切り分けていく。
「見ての通り、五×六に切り分けて、それが四枚で合計百二十枚の紙片だ」
次に鉛筆でその内の一枚に〇を描く。
「これで百十九枚の白い紙と、一枚の丸が書かれた紙が出来たわけだ。これを、この空のティッシュ箱に入れて入念に混ぜ、先に丸の書かれた当たりを引いた方が勝ち。つまりは、くじ引きだ」
当たりくじを見せて渡辺に問う。
「これなら完全に運否天賦。どうだ?」
「・・・イカサマ対策は?」
「ああ、それもあったか。まず引く前に腕まくりして手の表裏を相手にも見せること。引いてる最中は腕まくりを継続すること。引いたら自分の方に寄せたりせず、箱の隣に置くっていう形で開く事・・・これくらいか。ああ、後、当たりくじは二人で入れよう。入れたように見せかけて握りつぶされたら終わりだし」
「・・・あともう一つ。ディーラーは蝶ヶ崎さんがやることだ」
「良いぞ。なじみが不正と感じたらそれは敗北だ」
「・・・こんなところか」
「GOOD。じゃあ早速当たりくじを入れようか」
俺は当たりくじをつまむ。続いて渡辺も同じ様に。
そしてゆっくりと箱に入れ、ほぼ同時に手を離した。やや俺が遅れたが。
それを見たなじみはハズレくじを全部入れて、適当に箱を振って混ぜる。
「はい、混ぜ終わったよ」
「ありがとう。ところで渡辺」
「なんだ?」
「先攻は俺に譲ってくれないか?」
「おいおい、どんなゲームでも先攻は基本有利。おまけにお前の用意したゲームでそれを譲れってのか?」
「うむ、最もだ。本来じゃんけんやらコイントスやらで決めるべき案件だが、見ろ」
時計を顎で指す。
「もうこんな時間だ。いい加減家事を済ませたいし宿題だってこなさなければならない。俺はお前の勝負云々で生活リズムが狂わされている。その損失分として、これくらいの優位をくれてもいいんじゃないか?」
「ん・・・」
「それに考えてもみろ。このくじ引きで先攻が有利に立つ要素など最初の一発目で引くという状況だけだ。総枚数は偶数なのだから引く数、つまり引く確率は同じ。ならそれくらいいいじゃないか。最も、お前が俺の事情なんざ知ったこっちゃないと言うなら別だが」
「チッ、わかったよ。いきなり押しかけた自覚はあるしな」
そのまま盗聴器が犯罪である自覚も得て欲しいものだ。
「では早速・・・」
「その前に」
俺が腕まくりして手を広げたとき、渡辺が呼び止める。
「何かな?」
「天秤に誓え。さっき言った賭けの条件、つまりお前が負けたら、蝶ヶ崎さんを解放すると」
「・・・天秤ってのはお前の入ってる宗教の偶像か何かか?」
「いいから」
「お前が誓うなら俺も誓おうじゃないか」
「よし。俺は敗北したとき、安心院傾が行った五つの要求をすべて飲むことを天秤に誓う」
「何の意味があるんだか・・・俺は敗北したとき、渡辺・・・が行った要求を飲むことを天秤に誓う」
「おいお前俺の名前」
次の瞬間、俺と渡辺の間にいきなり光が生まれた。
まばゆい光は少しずつ形を成していく。
光が収まり目が見えるようになったころ、俺と渡辺の間に光で編まれた天秤があった。
二つの皿には、それぞれ一つずつ心臓が乗っている。
「はあ、まあいい。契約はここになされた。もはや天秤に背くことは出来ない。ゲームがどちらかの勝利で終わるまではな」
「えー・・・あの、ちょっといいか?」
俺は何というか、色々ぶち壊された気分でふっと呟いた。
「いきなりわけわからん世界観ぶち込んでくるのやめてくれません・・・?」
実際、普段の半分程度しか済ますことは出来なかった。
このフラストレーションすら奴に生中継と考えればそれは止まらない。
なじみと一緒に居ればある種のハイになって多少大丈夫で、セックス中となればそんなもの吹っ飛ぶのだが、一人でいるとなるとなかなかどうして辛いものがある。
「ふう・・・落ち着け、この安心院傾が乗り越えられなかったピンチなど、一度だってないんだ・・・」
おもわずネタセリフに走ってしまったが、事実そうなのだ。
前世の人生経験と、なじみと釣り合うべく積み上げたスペック、さらにエロステータスで吸い上げた情報を使えば・・・。
「あっ」
そういや渡辺をエロステータスで鑑定したら大体全部わかるじゃん。
んー、でも出るのかな・・・。
性的な情報と会話アーカイブ機能があるだけで、別に心を読む機能があるわけではない。
『性』に無関係な情報は出ないし、会話らしい会話もしていない。
となると情報閲覧はなかなか難しいようにも思えるが。
「まあいいか、どうせそこまで期待していたわけでもないのだし」
で、問題の盗聴器は全然見つからないわけだが。
いやしかしホントどこにあるんだ・・・。
などと考えていれば、いつの間にかなじみが帰ってくる時間であった。
はあ、なじみの帰りが憂鬱に感じるとは、初めての体験だ。
「ただいまー」
「おかえり」
「どしたの? なんか元気なさげだけど」
「いや、ちょっと宿題が思うように進まなくてな」
「ふーん?」
納得した風ではなかったが、それでもそこで終わってくれた。
話せない雰囲気を感じ取ったのだろう。察しが良くて助かる。
なじみが着替えて部屋着になったとき、ある意味待ち望んでいた音が鳴り響く。
キンコーン。
「またチャイム」
「さて、誰だろうなっと」
正直わかり切っているが、一応そういっておく。
扉を開けて相手を確認すれば、予想通り。
「やあ渡辺。というよりは・・・待ってたよ、というべきかな?」
「大体察してるらしいな」
渡辺がそこにいた。
「さて、まずは用件を聞こうか。何をしに来た?」
「勝負、かな」
勝負?
予想外過ぎるフレーズだ。
「ふーん・・・ま、入りなよ。ちょうど他の客もいるところだ」
「蝶ヶ崎さん、だろ?」
「正解」
渡辺を招き入れてリビングへ向かう。
ちょうどなじみはベッドでぐでりとしていた所らしい。
「あ、ケーくん。誰だった?」
「こいつ」
後ろの渡辺を指さす。
「えーと・・・」
そのまま数十秒待つも、なじみは全く名前を言わない。
待ちかねた渡辺がぶっきらぼうに自己紹介してから『ああ! 渡辺君! 覚えてる覚えてる!』なんて白々しいことを言っていた。
もしかしてなじみの中では『自分の部屋の隣に住んでいるケーくんじゃない方の人』が渡辺で、渡辺個人を覚えているわけじゃないのか?
「・・・まあ、そこまで完全に忘れ去られていた事実については置いておこう。どうせすぐ元に戻る」
「戻る?」
多分完全に素だけど・・・。
「じゃあ本題に入ろうか。安心院傾、俺と勝負しろ。蝶ヶ崎さんの解放を賭けて、だ」
「は?」
解放・・・解放と言われても。
何か束縛していたか?
そりゃいくつかの取り決めは行ったが、それは完全に双方を同意を得ての話だ。
解放、というからには、渡辺の中では何やら俺が悪者になっている様だが。
「待て。えーと・・・どこからそういう話になったのか聞いていいか?」
「じゃあ言ってしまうが、昨日俺が帰った後、お前は何をしていた?」
「何って・・・」
ちら、となじみを見ると物凄く顔を真っ赤にしている。
「ナニだが?」
「!?」
ああ、なじみの驚愕と羞恥の表情が新鮮で割とそそる。
羞恥プレイは相手が必要だから難しいんだよな。
「・・・俺は君たちのアレをそういうことの一環であるとは思えないな。まるで奴隷の様な扱いだったじゃないか。蝶ヶ崎さんから望んでいるのだって不可解だ。あれじゃ蝶ヶ崎さんが救いようのないドMの変態みたいじゃないか」
「ふぐぅ」
なじみがボディブローでも貰ったかのような声を出して蹲る。
まあ、結構な威力ではあっただろう。
「あーと、つまりは俺がなじみの弱みか何かを握ってそういうプレイを強要していて、それを止めるようお前は言いに来た。しかしタダでは動かせないから、勝負の結果に賭けさせる、と?」
「そうだ」
「待て待て、確かにそういうプレイを導入したことは認めよう。しかしその後は極めて真っ当なプレイをしていたじゃないか。恥ずかしい言い方になるが愛のあるセックスだ。傍から聞いているだけでもわかる程度にはラブラブだったと自負しているが、その点についてはどうなる?」
「それこそお前は何を言ってるんだ、と返答するね。盗聴器についてはそういうプレイの直後にお前が破壊したんじゃないか。まさか偶然壊してしまいました、なんてことはないだろう? つまりその後の内容なんざ俺には知る由もないわけだ」
「何? 盗聴器は壊れていたのか?」
「だからお前が壊したんだろうが」
・・・そういえばあの時。
ベルトはかなり乱暴にテーブルの上に放り投げた。
その時にバックル部分がテーブルの上に置いてあった盗聴器に衝突、破壊。
ない、とは言い切れない。
となると前にテーブルの上から払い落した黒いゴミ。
あれは盗聴器の残骸か。
ふむ、筋は通る。
「OK分かった。それなら証明の仕様がない。念のために聞くが、あの盗聴器は昨日、お前が仕掛けたものという事でいいんだな?」
「勿論だ」
「・・・はあ、犯罪行為をそんな堂々と言うんじゃないよ」
「正義の行いだから問題ない。倫理が正義を作るのではなく、正義が倫理を作るんだ」
「正義、ねえ」
渡辺から見れば俺はなじみの弱みを握って望まぬプレイを強要していた悪者で、渡辺はなじみを救うべく現れた正義のヒーローってわけか。
しかしなぜこいつは俺に目を付けた?
当初はなじみのストーキングをしていたはずだ。
そしてその時渡辺はなじみと接触できていない。
盗聴器の類だってなじみの部屋に仕掛けられてるかもしれないが、なじみはほとんど自分の部屋にいないから情報なんぞ皆無なはず。
なのにいきなり俺に標的変更?
予想通りになじみへの接触と交流が目的なら俺に目を付ける要因はない。
なじみと付き合ってはいたが、それを認識される要素は俺の部屋を除いて存在しなかったはず。
ならば・・・そもそもの予想、渡辺の目的が違う?
「まあ、お前の正義観についてはこの際どうでもいい」
「そうか。それで? 受けるか? 受けないか?」
「あのな、そもそも俺には受けるメリットがないだろう。俺は勝利して得られるものはお前の一時的な撤退。しかし負ければなじみを失う? 冗談じゃない」
別に脅迫しているわけでもないので失いやしないのだが。
そもそもデコイを手放して別の弱みをって手もあるんだから、こいつも大概詰めが甘い。
「ああ、勿論だとも。だから俺も賭ける。安心院、お前が俺に要求したい事を言え。勝利した方が手にする」
「そうか、ならば・・・複数個、もらおうか」
「なに?」
「お前にできることをなじみに匹敵するまでその価値を積み上げようとすれば、それは当然じゃあないか? ここまでの美形だ、犯罪に走ってでもと考えるやつが居ても可笑しくない」
今まさに目の前にいるのだが。
「それに引き換えお前ときたらまさに平凡。お前にできて俺にできないことは余りにも少なく、その価値はあまりにも低い。質で勝てないなら量で補うしかない、違うか?」
「むう・・・まあそうだな」
「だろう? そこで俺が要求するのは五つだ。まず今回の一連の下りでお前が行った行動とその理由をすべて詳細に、嘘偽りなく答えること。その際こちらが要求した補足にもだ。次に盗聴した音声データをすべて削除すること。更に一連の行動についての謝罪と、二度としない事の宣誓。最後に虚偽があるならば、死を以って償うことだ」
「いいだろう」
快諾したが、当然こいつの言を信用するなんてことはしない。
ちゃんとした裏取りができるまでは。
最後の死についてはただの脅しだが、動揺一つしていないので空振りだろう。まあいざとなればやるけど。
絶縁を盛り込んでもいいが、流石に同じクラスだと無理があるし、負けても失うものがない以上そこまで徹底するつもりはない。
勝利は徹底するけど。
「じゃあ双方の同意が得られたことで、勝負の内容を決めようか、俺は・・・」
そういって渡辺が勝負を言おうとしたところで、待ったを入れる。
「待て待て。勝負内容は俺に決めさせてくれないか?」
「おいおい、それじゃあお前に有利なものを選ばれるじゃないか」
「それは俺とて同じだ。むしろ俺の方が強い。お前は今日勝負することを少なくとも昨日の時点で決めていた。しかし俺は今日いきなり言われたものだ。準備万端にイカサマ塗れのトランプが出てこないとも限らない」
「俺がイカサマをすると?」
「しないと言ったとして、信用するとでも?」
しばらくにらみ合っていたが、渡辺が折れた。
「わかった。そうしよう。確かに信用はできないだろうからな。しかしだからと言ってお前がイカサマをするのは許さんぞ」
「わかっているとも。なあに、自分の優位を確保しつつ相手に悟らせないなんて芸当、即興で出来る者じゃないよ。ではそうさな・・・」
ぐるりと周囲を見回す。
ベッド、なじみ、ゴミ箱、テーブル、ティッシュ、空のティッシュ箱、廊下、台所、薬缶・・・。
「よし、これで良いだろう。なじみ」
「なあに?」
なじみはベッドからむくりと置きあがる。
先ほどのボディーブローは未だに効いているらしい。
「ルーズリーフ持ってきてくれ」
「私ので良いの?」
「ああ」
「はーい」
なじみがベランダから自分の部屋へ戻る。
そういや大家に仕切り板の話してねえわ。
「・・・随分仲がよさそうだな」
「そりゃまあ、普通に付き合ってるんだしな」
「どうだか」
まあ、元より信じられようとなんてしていない。
なじみが戻ってくるまでは無言だった。
そしてなじみが帰ってくると、その手には指示通りにルーズリーフが。
「さて、このルーズリーフを・・・」
定規でサイズを測り、その通りに切り分けていく。
「見ての通り、五×六に切り分けて、それが四枚で合計百二十枚の紙片だ」
次に鉛筆でその内の一枚に〇を描く。
「これで百十九枚の白い紙と、一枚の丸が書かれた紙が出来たわけだ。これを、この空のティッシュ箱に入れて入念に混ぜ、先に丸の書かれた当たりを引いた方が勝ち。つまりは、くじ引きだ」
当たりくじを見せて渡辺に問う。
「これなら完全に運否天賦。どうだ?」
「・・・イカサマ対策は?」
「ああ、それもあったか。まず引く前に腕まくりして手の表裏を相手にも見せること。引いてる最中は腕まくりを継続すること。引いたら自分の方に寄せたりせず、箱の隣に置くっていう形で開く事・・・これくらいか。ああ、後、当たりくじは二人で入れよう。入れたように見せかけて握りつぶされたら終わりだし」
「・・・あともう一つ。ディーラーは蝶ヶ崎さんがやることだ」
「良いぞ。なじみが不正と感じたらそれは敗北だ」
「・・・こんなところか」
「GOOD。じゃあ早速当たりくじを入れようか」
俺は当たりくじをつまむ。続いて渡辺も同じ様に。
そしてゆっくりと箱に入れ、ほぼ同時に手を離した。やや俺が遅れたが。
それを見たなじみはハズレくじを全部入れて、適当に箱を振って混ぜる。
「はい、混ぜ終わったよ」
「ありがとう。ところで渡辺」
「なんだ?」
「先攻は俺に譲ってくれないか?」
「おいおい、どんなゲームでも先攻は基本有利。おまけにお前の用意したゲームでそれを譲れってのか?」
「うむ、最もだ。本来じゃんけんやらコイントスやらで決めるべき案件だが、見ろ」
時計を顎で指す。
「もうこんな時間だ。いい加減家事を済ませたいし宿題だってこなさなければならない。俺はお前の勝負云々で生活リズムが狂わされている。その損失分として、これくらいの優位をくれてもいいんじゃないか?」
「ん・・・」
「それに考えてもみろ。このくじ引きで先攻が有利に立つ要素など最初の一発目で引くという状況だけだ。総枚数は偶数なのだから引く数、つまり引く確率は同じ。ならそれくらいいいじゃないか。最も、お前が俺の事情なんざ知ったこっちゃないと言うなら別だが」
「チッ、わかったよ。いきなり押しかけた自覚はあるしな」
そのまま盗聴器が犯罪である自覚も得て欲しいものだ。
「では早速・・・」
「その前に」
俺が腕まくりして手を広げたとき、渡辺が呼び止める。
「何かな?」
「天秤に誓え。さっき言った賭けの条件、つまりお前が負けたら、蝶ヶ崎さんを解放すると」
「・・・天秤ってのはお前の入ってる宗教の偶像か何かか?」
「いいから」
「お前が誓うなら俺も誓おうじゃないか」
「よし。俺は敗北したとき、安心院傾が行った五つの要求をすべて飲むことを天秤に誓う」
「何の意味があるんだか・・・俺は敗北したとき、渡辺・・・が行った要求を飲むことを天秤に誓う」
「おいお前俺の名前」
次の瞬間、俺と渡辺の間にいきなり光が生まれた。
まばゆい光は少しずつ形を成していく。
光が収まり目が見えるようになったころ、俺と渡辺の間に光で編まれた天秤があった。
二つの皿には、それぞれ一つずつ心臓が乗っている。
「はあ、まあいい。契約はここになされた。もはや天秤に背くことは出来ない。ゲームがどちらかの勝利で終わるまではな」
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デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編7が完結しました!(2026.1.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
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