幼馴染でマジカルなアレが固くなる

余るガム

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第二部 高校生編

こういうの考えて改めて思うのは十の盟約ってホント良くできてるなあと

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「いや、ゴメン、待って、今何が起きてる?」
「天秤への誓いだよ」

 渡辺が自慢げに話しだす。

「まあ言ってしまえばゲームの勝敗から生まれる結果を過不足なく履行する、取立人だ。お前は天秤に誓った。故にそのベットは絶対。待ったなしの真剣勝負というわけだ」

 そうは言うが・・・いや、まあいい。
 そう、落ち着け、予想外過ぎる事態が起きただけで、現状そのものは何一つ変わってない。

 それにこの天秤とやらが本当に絶対であるなら、あの詰めの甘さも頷けるではないか。

 仮に俺が渡辺の予想通りの悪人であったとして、あのままではたとえ負けたとしても弱みを手放すなどありえない。
 別のデコイを捨てて、後はイタチごっこだ。

 しかしあの天秤とやら取立を代行するなら、そしてそれが絶対であるなら問題ない。

「ふう・・・少し取り乱したな。すまない」
「いやいや、初見の奴は大体同じような反応をする。すぐ冷静になれただけ上等だ」

 随分見下した言動をしやがる。
 不意打ちの手品で動揺させてもう勝ち確気分か?

「上等、ね。お前に言われても嬉しくないな。お前みたいな、小物に言われても」
「ほほう? 吠えるな」
「お前がその天秤を持ち出したのはゲーム開始直前。つまりゲーム内容がくじ引きであることが分かった後だ」
「それがどうした?」
「それってつまり、ゲームの内容が分からない段階で持ち出すと何か不都合があるから、だろ?」
「無いね。俺の天秤は無敵の能力だ。特にこうしてゲームの状況下に入れば、どんな超能力者でも逆らえない。神がいたとして、そんな存在でも変えられないのが振った賽の出目だ。それを現実に具象化するのが俺の能力」
「ペラペラしゃべってくれるじゃないか。ま、何でもいいがね」

 多分こいつの天秤とやらは一度賭けると本当に逆らえない。
 だから勝負内容を入念に確認してから取り出した。五分以上の勝ち目であると見るまで、だ。

「さて、じゃあいい加減引こうか」
「さあ、さっさとやれよ」

 腕まくりして手をさらし、指を開いたまま箱の中へ。

 ごそごそと俺の手が箱を擦る度に空気がドンドン緊張していく。

「・・・おい、まだか」
「最初の一枚だぜ? お前に一番大きくアドバンテージを取れる引きだ。時間もかけたくなるさ」

 そのまま数分間、俺のごそごそが続く。

「お、来た来た。これだ」
「・・・やっとか」

 渡辺は相当イライラしている。
 最初の一枚からこの調子では、当たりを引くまで相当時間が掛かるだろうから、しょうがあるまい。
 準備してきたとはいえ今日は平日で明日も学校だ。

「さて、結果は・・・」
「百二十分の一だぞ。そうそう当たるわけがないだろ」

 親指で隠したくじをゆっくりと、じらすように開いていく。

 ズ・・・とせり出した『黒』に渡辺は瞠目を隠せない。

「ま、まさか・・・」
「ふふふ・・・」

 そして次の瞬間、一気に開放する。

 そこには・・・『〇』!

 当たりくじ!
 勝利の当たりくじ!
 百二十分の一の当たりくじ!

「なあああにいいいい!!??」
「ハハハッ! 博奕は怖いな渡辺君! 百二十分の一、普段ではまず出てこない確率が、今この瞬間に限り異様に寄る。だから博奕は恐ろしい。場そのものが常軌を逸してしまうのだからなぁ!」

 天秤が割れ、すべての心臓が俺の体に吸い込まれる。
 ステータスを見れば、数多のスキルの一番下に『渡辺公大の生殺与奪』が追加されている。

 別に生殺与奪なんてたいそうなもん奪う気はなかったんだけど・・・。



 さて、ひとまず音声データの全てを削除してもらい。

「尋問を始めようか」
「・・・クソッ。ああいいよ。もう何でも聞けよ」
「童貞を捨てたのはいつですか?」
「まだ童貞です」
「こりゃ面白い」

 かなり悔しそうな顔をしているが、これはこれで楽しい。

「しかし素直に答えたという事はお前が童貞である事実は関係してくるのか?」
「しねーよ! お前が求めた補足には素直に返答するように要求してきただろうが!」
「補足の幅広いな・・・まあいいや、とりあえず大雑把な概要だけでいいから教えてもらおうか。行動と動機を」
「・・・ああ」

 弱弱しくうなずいて、渡辺は語りだした。
 流石に重要だと思うのでなじみにも耳を傾けるよう促す。
 今完全に寝る体勢だったよね、君。

「まず俺があの部屋に引っ越してきたときにはもう始まっていた。ある時あの周辺に極端に現実性が希釈されていく領域が発見された。おそらく同じ超能力者であろうと当たりを付けた俺たちはちょうど同い年だった俺をエージェントして派遣した。で、専用の計数機で測ったら安心院傾、お前が現実性希薄領域の発端と発覚したからまずはその周辺調査、という事で蝶ヶ崎さんに近づこうとした。しかし失敗。それで多少強引ながらお前の家に踏み込んで直接盗聴器を仕掛けてお前の身辺調査をしようとした。が、お前はその超能力、多分催眠とか洗脳とかを悪用していたからそれを防ぐべく今に至る、というわけだ」
「まとめると、超能力者っぽい奴見つけたら身辺調査したら悪事が出てきたからそれを叩きに来た。それがこの勝負ってことか?」
「物凄くざっくりまとめたな・・・間違ってないけど」

 さて、これを踏まえて質問すべきは。

「俺たち、と言っていたな。お前のほかにも超能力者はいるのか?」
「ああ、数人な。そっちは俺みたいに平和な能力じゃないから、気を付けろよ」
「次だ。洗脳とかの超能力は存在するのか?」
「存在はする。しかしそういう他人をどうこうするって能力は実用的じゃないな。人一人を十秒支配するのに一人死ぬ必要がある。それほど燃費が悪い」
「ではなぜ俺は洗脳を使っていると思った?」
「超能力のエネルギーの絶対値を測る機器があるんだが、それで計測した結果お前のエネルギー量が測定不能だったからだ。一応マグニチュード四くらいなら測れる代物だったんだが」

 ふむ、多分それで測ったのはマジカルチンポの精力だろう。
 俺は理論上無限に生殖活動を行えるわけだが、その無限を計測したのだからそりゃあ足りない。
 燃費問題なんてあってないようなものだ。

「お前はなじみに恋心の類を抱いているか?」
「ええ、それ聞く? ・・・残念ながら、全く抱いちゃいない。他に好きな人いるし。そりゃあそういう声を聞かされたんだからいくらか複雑な気分でもあるが、恋慕ではないな」
「・・・そうか」

 まあ、そこさえ大丈夫なら俺としては問題ない。
 勿論こいつの超能力を信じ切るわけではないが、一つの区切りとしては十分だろう。

「他に盗聴器の類は?」
「無い。つーかあれ経費で落ちるのかな・・・」

 経費とかあるのか。

「他の連中の能力は?」
「・・・瞬間移動出来るやつが居たことは知ってる。後俺の超能力のコーチは植物を操っていたな。それ以外は知らん」
「超能力はコーチングできるのか?」
「エネルギーを全身に纏って体を強靭にする程度ならな。それ以上は個人の感性と才能任せだ」
「やり方は?」
「・・・チッこれも範疇か。エネルギーの源から全身に塗り広げるイメージだそうだ。どこが源かは人によって違うがな。俺は心臓だ」
「それだけか?」
「それだけだ」

 ふむ、大体聞いたか。

「なじみはなんか聞いときたいことあるか?」
「あなたはケーくんの、私たちの敵ですか?」

 おお、忘れていた。

「いいや断じてそんなことはない。そもそも計測できなかった時点で碌な手合いじゃないんだ。一応俺の進学先でもあるから、手を引いて俺も消えるなんてことは出来ないが」
「他の連中にも同様の事が言えるか?」
「・・・さっき言ってた瞬間移動と俺のコーチは大丈夫だと思う。他の奴らは性格を知らないから何とも・・・」

 よし、これで良いだろう。

「安心院傾さん。蝶ヶ崎なじみさん」

 渡辺は居住まいを正して、正座で床に座った。

「重ね重ねの非礼、本当に申し訳ありませんでした」
「・・・言い訳はしないのか? しかし我々も~、なんてこと言い出すと思ってたんだが」
「非礼は非礼。バックグラウンドなど無関係です。本当に、すいませんでした」
「そうか、なじみは許すか?」
「渡辺君。私はあなたのした行いを許せるような気がしません。でもケーくんが許すと言っているので、許せるように頑張っていきます。さしあたって」

 なじみは渡辺の頭を両手でつかんで固定すると。

 そこに自分の膝を思いっきり叩き込んだ。

「うわあ・・・」
「これで手打ちとします」
「お・・・おお・・・サンキュ・・・ぐはっ」

 そうして渡辺は床に沈んだ。



 渡辺をベランダに転がして、かなり遅めの夕食を取る。
 その後。

「まあ、君の不遇は同じ時代に俺が生まれたことだと思って、諦めてくれ」
「・・・そこまで堂々としていられるなら、さぞかし人生が楽しいだろうな」
「しかし同じ時代に生まれた俺にも責任がある。そこで、この俺の豪運が宿った当たりくじを君に上げよう」
「うわ、いらねえ」
「ふふふ、このあたりくじからは君が予想している以上のことが学べるぞ」
「・・・まあ貰っとくけど」

 そんなやり取りをして渡辺とは比較的和解したと思う。
 まあ、なじみ洗脳疑惑については否定できていないのだが、これは悪魔の証明だと思うし、もう別にいいかなと思う。
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