幼馴染でマジカルなアレが固くなる

余るガム

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第二部 高校生編

バランスのいい山本選手っていうけど、それ絶対にバランス以外に言うことなかったからだろ

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「あっずぃいいいいいいむ!!」
「危なっ」

 木曜日。
 暦も五月に変わり、人によっては冬服から合服に移行する時期。

 筋肉の代謝のせいでやたらと体温の高い俺は、さっさと合服に変えた。
 そんな俺に冬服の渡辺が飛び蹴りで襲い掛かってくるが、それを華麗に回避したところである。

「どうした渡辺、いきなり飛び蹴りとは物騒な・・・」
「物騒もゲッソーもあるか! なんだこりゃあ!」

 そういって渡辺が突き出すのは、昨日なじみを賭けて(渡辺の勘違いの下)行ったくじ引き。
 そのあたりくじとして俺が設定し一発でツモッた、丸を書かれた紙片だった。

「ふむ、昨日のあたりくじだな、それが?」
「なーにが『それが?』だ! このくじ! 二つ折りになってるじゃねーか!」

 確かに、そのくじは二つ折りになっていた。

「それがどうしたというんだ。大方お前がポケットの中で折ったとかそういう話だろ」
「お前が箱から引いた時点であったわ! これで目印にしてたんだろ! つーかこんな小さい紙意図しないで折れるかッ!」
「可能性は否定できまい」
「んがああああ!!」

 まあ、ぶっちゃけ正解である。

 百二十分の一、はっきり言ってこれを一発で引くなんてそうそう起こりえない。
 確率論で言うなら下手なソシャゲの最高レアより低いのだ。

 じゃあなんで俺が『限りなく0に近い、しかし0ではない可能性』をあの時に引けたのか。

 単純にイカサマだ。
 そのイカサマというのが『当たりくじを折り曲げて目印にする』いわゆるガン牌だ。

 無論0でない以上、引いた事実自体は不自然ではない。
 おまけに証拠も存在しない。唯一ありそうな証拠と言えば渡辺の持つあたりくじだが、そんなものさっき言ったようにいくらでもこじつけられる。

 水掛け論だ。

「ふはは、真剣勝負で負けた以上、そこで終いだ。サマをされたと言うなら現場を押さえねばな」
「うぐぐ・・・じゃあもっかい勝負しろ」
「天秤抜きならいいぞ」
「よーし言ったな。俺が勝ったらイカサマを認めろ」
「認めても結果自体は変わらんがね。じゃ俺が勝ったら・・・そうさな、ダブルの缶コーヒーでもおごってもらおうか。で、内容は?」
「同じ様にくじ引きだ」

 渡辺はトランプを二枚取り出す。
 しかし両方を裏返してみると、片方はミスプリントなのか両面とも裏面のプリントがされていた。

「袋の中にこの二枚を放り込んで、適当に混ぜる。で、混ぜてない方が引いたカードで勝敗を決める。裏なら俺、エースならお前の勝ちだ。ああそれと、引いた時裏面じゃなかったら引き直しだ。俺だけ裏返しの度にドキドキするってのも不平等だろ?」
「ふーん・・・ま、そうだな」
「それと、全部で10回勝負にしよう。交代で引いていく」
「OK」
「よし、ゲームスタートだ」



「ま、また負けた・・・」
「いっちゃん高い奴で頼むなー」
「畜生! 俺も男だ、二言はない!」

 まあ、トランプに指で傷をつけてガンカードの完成である。
 側面なら小さくても触ればわかるし、パッと見だと分からない。

 確率論的にこいつが有利な勝負だったのだし、自業自得という事で。

「それで、まさかこんなチープな詭弁レトリック仕掛けにきただけってわけじゃねーんだろ?」

 こいつはいざとなれば盗聴器を仕掛けるぐらいにはぶっ飛んでる。
 強かというか、剛腕というか。
 そんな男がただ先日の意趣返し? それもこんな程度の低いもので?

 冗談だろう。

「ん、まあ・・・」
「どうした、ハッキリ言えよ」
「いや、別に・・・本当に、ただこれを仕掛けにやってきただけなんだが・・・」

 ・・・冗談だろう?

「いや、これが本当にそうなんだって」
「・・・さっきの俺の決め顔返せよ」

 そこそこカッコつけてたんだぞ。
 カッコつけて空振りとか一番恥ずかしい奴じゃねーか。

「まあいいわ。それよりどういう風の吹き回しだ? 昨日までお互い敵対的だったってのに・・・」
「別に俺は敵対してたわけじゃねーよ。素行調査ってだけだ。多少強引だったがな」
「犯罪行為は多少じゃないと思うぞ」
「そう言うなって。それで俺は別にお前と敵対したいわけじゃない。だからこうして友好関係を築いておこうッてわけよ。転校したりもできないしな」
「噂の超能力でなんとかならんのか?」
「何とかしようとするんじゃないよ。それに前も言ったろ。そう言う他人を制御する超能力は燃費が悪くてほとんど無意味だって」
「そういえばそうだったな」

 なじみがそういう類の輩の毒牙にかからないと分かっただけ収穫だ。

「・・・今蝶ヶ崎さんに害が及ばないようで良かったって思っただろ」
「心が読めるならなんで負けるんだ?」
「図星かよ。お前ホント蝶ヶ崎さんの事大好きだな」
「そうでもなきゃ同棲紛いの事なんぞするか」
「今って同棲じゃないの?」
「なじみの私物は半分くらいなじみの部屋にあるからな。厳密には怪しいところだ」

 普段着ない様な着替えとか、勉強用品一式とか。
 反対に歯ブラシとか下着とかはこっちにある。

「ふーん。まあ俺には関係のない事か」
「その通りだ。故に今から金輪際なじみの事を口に出すな。そんなことをした暁には・・・」
「暁には・・・?」
「全身の毛という毛をチンアナゴ柄に染め上げてやる」
「脅しが斬新すぎる上に割と想像つくのが怖い!」



 百五十mlで百六十円という、自販機の中でも一番高いのを渡辺に奢らせ、陸上部へ足を運ぶ。

 うまい。

 こんな割高商品、金欠の現状で買えるわけねーもんなぁ。
 俺が贅沢したところでなじみみたいな笑顔は出来ない。プラスアルファがないのだ。

「どうもー、安心院でーす」
「おお来たか。信照が探していたぞ。確か・・・今はトラックを走っているところだ」
「そうですか。じゃあ一通り終わるまで待ってますね」
「暇なら二リットル程スポドリ作っといてくれんか? 粉とヤカンはベンチに置いてある」
「あいさー」

 マネージャーの真似事をするといった以上、信照だけに構っているわけにもいかないだろう。

 ベンチに行けば粉とヤカンのほかに水筒もあった。
 多分作った分を入れておくのだろう。
 薬缶にはマジックででかでかと『陸上部 2L』と書かれており、間違うことはあるまい。

 薬缶の中に水と元気になる白い粉をぶち込んで混ぜ合わせていく。
 元気になる白い水の完成である。

「傾、来たか」
「おう信照。来たとも。お望みのものとともに、な」



 部員全員のストレッチを補助した後、信照とは場所を変えて話すことにした。
 といっても、元々薬缶の置いてあったベンチなのだが。

「さて、花開院圭希についてだったな」
「ああ、何か分かったか?」
「よくわかったとも。しかし俺は信照に謝らなくてはならない」
「どういうことだ」
「俺は毎週日曜日の朝に走っているんだが、その時に、だな・・・」
「うむ」
「まあ、なんというか、随伴する相手が居るのだが」
「まさか・・・」
「そう、そのまさかだ。そいつが花開院圭希だった」
「てめえ・・・横取りする気か?」
「断じてそんなことはない。しかしそう思われても致し方ない状況になってしまった。そこは申し訳ない」

 昨日謝られて今日謝って、謝罪のバーゲンセールだな。

「その証明に、今度の日曜にお前を連れて行こう。そして引き合わせる。どうだ?」
「・・・しかし、引き合わされたところで何をすれば」
「そこはお前自身のアピールに決まってんだろ。引き合わせた後、俺はフェードアウトしていくから、後はお前がなんとかするんだよ」
「だからそのなんとかをだな」
「ちったあ自分で考えろよ・・・そうさな、走る時のフォームの指導なんかしてみたらどうだ」
「まさか、花開院の走る時のフォームはこの上なく綺麗だぞ。お手本の様なフォームだ。俺に指導できるところはあるまい」

 それこそまさかだと思うが。
 でなけりゃ、素人の俺が指導できるようなムラなんて起こるまい。

「じゃあ・・・近況報告とか? 学校が違うんだから校風の違いとか話題になるんじゃないか?」
「なるほど・・・ちなみにフェードアウトするお前は何をしてるつもりなんだ?」
「ちょっと試してみたい走法があってね。それを実践してるよ」
「そうか、わかった。俺も日曜までに色々考えておく」

 俺は信照に日曜の日程を伝え、その場を後にした。
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