48 / 117
第二部 高校生編
二人で楽しめるから楽しい。その二人をどの二人にするかが肝だがね
しおりを挟む
とりあえずなじみの持っていたおそらく弁当一式が入っているのであろう鞄を請け負う。
しかしここで一つ問題がある。
「それで、どこに行くの?」
「いやこれがとんと決めとらんでな」
さっき突然決めたので当然っちゃ当然だが、行き先が決まってないのだ。
デートは男が主導するものだが、今回ばかりは流石に無理がある。
「まあ弁当は作ったんだし、広めの公園に行ってピクニックもどきってところか?」
「お金ないからねー」
「ふぐぅ」
当然のことながら、バイトを始めたのは昨日。
五月なのだからその給料はどうやっても月末まで手に入らない。まさか新人に給料の前借りを認可するわけもあるまいし。
そんなわけで、あくせく働いても豊かになるのは来月以降だ。このペースだといつまでかかることやら。
「まあ私はケーくんと一緒に居れればそれでいいんだけどね」
ふっとその顔を見れば、いつも通りの綺麗な笑顔。
ああ、やっぱりなじみで良かった。
恋人つなぎの手のひらをもう少し強くして、赤い頬を隠すように足を速めた。
*
そうして到着した公園。
この公園は市が管理している公共施設だ。正式名称は知らん。
しかし市が管理しているだけあってか無駄に広く、広場に陸上トラックに池に鯉に城にと何でもありだ。
そのくせ店舗と言ったら池のボート貸と鯉の餌の自販機に移動販売のソフトクリームぐらい。
まあ景色は良いので一緒に居るだけで楽しいという段階の恋人のデートには最適だろう。
「おー・・・涼しいうちに歩いてきてよかったな」
「もう五月だもんねー・・・いい加減日中は多少暑いし」
運動慣れしていないなじみに三十分行脚は流石に辛いものがあったようで、珍しく愚痴っぽい。
朝方の涼しい時間帯を使ってのことだったが、それでもやや汗ばんでいる様子。
「とりあえず、あそこのベンチに座ろうか」
「さんせーい」
指さしたベンチはいささか古ぼけているものの、十分実用に足るだろう重厚感を放っている。
なじみの座る部分を軽く手で払いその隣に座る。
「ありがと」
衛生面で言えばブルシートでも引かない限り大した意味もないだろうが、わざわざ言う事でもあるまい。
「あ、鞄貸して」
「ほい」
渡した鞄からハンカチを取り出したなじみは汗を拭い軽く自分を扇ぐ。
汗ばんで頬を紅潮させたなじみは色気五割増しと言ったところだが、その気密性の高そうな服のせいではなかろうか。初冬ぐらいの装備だし。
「ふー」
「・・・」
特に話すこともなくなって目の前にある遊歩道をのんびり眺める。
無言の時間が続くが、気まずさはない。心地よい沈黙の帳が降りて、上りつつある日光を遮る様な感覚。
なじみとの間にある距離は20センチほど。
普段を考えればこれはすさまじいソーシャルディスタンスだ。
寛いでいる最中にこれほど離れるのは随分久しぶりではないだろうか。
ぺちん。
「・・・どうした」
「虫がいたから」
突如張り手をかまされて何事かと思ったが、どうやら蚊のようだ。
なじみはハンカチと同じく鞄から出したティッシュで手を拭ってそのティッシュを手近にあったゴミ箱に放り込んだ。
*
そうしてしばらくするとやがて昼食に程よい時間になる。
沈黙以外何もしてないのにこの時間経過。体感20年ぐらいで死にそう。
「という訳で急ごしらえですがお弁当で~す」
「わー」
そうして出された弁当は今朝決まってさっきの今という現状を鑑みれば十分過ぎる代物であった。
華やかさなんて欠片もない。バランスこそある程度取っているが、ある程度の域を出ない真っ茶色の弁当。
しかし男子高校生にはこれ以上にご馳走なメニューもないんだな、これが。
むしろある程度とはいえバランスを取っているだけ健康的な方だ。
筋肉増強が捗る。
「めしあがれ」
「いただきます、ってなじみは食べないのか?」
「私には別のお弁当あるし」
そういってなじみが取り出したのは俺のものとは全く違うメニューだった。
総合的な栄養価に優れつつもカロリー自体はリーズナブル。
ぱっと見ではビタミンの割合が非常に大きく、もはや弁当の形をしたサプリメントというレベルにも思える。
「・・・少し、いや、病的に健康的だな?」
「これぐらいしないと女の子は綺麗になれないの!」
「・・・まあ、頑張って惚れ直させてくれ」
「どんな感じに惚れ直したい?」
「なじみと俺以外で男女の区別がつかなくなるくらい、とか?」
「んふ、了解」
そうして始まった昼食だが、今回食べさせるというのは無しだ。
恥ずかしいとかの感情論抜きに、栄養バランスが崩れるから。
まあ、水筒は共有していたんだが。
*
さて、昼食も終わって散策の始まりだ。
なにせこの公園にきたことはない。適当に回っているだけでも十分新鮮で楽しかろう。
特に土曜日という事もあってかまさしく市民の憩いの場。
少年がサッカーしている周りを若者がランニングして、その道すがら御老体が城を見ながらスケッチしているのを少年らの母親であろう婦人が見物しているのを後ろからぼんやりと眺める夫と思しき中高年男性。
軽く見回しただけでもこれだけ多様な人間が思い思いに過ごしている。
にぎやか過ぎて関係がある程度成熟したカップルには不向きだろうが。
「なじみも何か描くか?」
「私風景画はあんまり。人物画専門だから」
「漫画に背景は重要だぞ。ここの手を抜くとマンガ全体が薄味になるからな」
〇NEPEACEの作者は動くもの全て自分で描いているくらいだ。大群衆もすべて一人で描いている。
流石海賊版サイトの対抗策に『金を払いたくなるような漫画を描けばいい』と言い放っただけのことはある。商業なら振り込めない詐欺はないのだ。
若干海賊版サイトを擁護しているようにも思えるが、まあ海賊マンガ書いてるんだし、多少はね?
「やっぱりそうなのかな・・・」
「キャラは料理、背景は皿だ。どんな高級料理でも皿がみすぼらしければ安く見える。逆もしかり」
「頑張ってはいるんだけど・・・やっぱり人物画書いてる時の方が楽しいなぁ」
「まあ同人レベルならそれでもいいと思うがね」
創作なんてのは極論すべて自己満足。
やりたいからやった、それだけだ。そこに他人の評価が介在する余地はない。
ただ評価されれば嬉しいし、金になればやりたい創作以外に仕事をする必要もない。そしてその評価を貰うのに必要なのが今回の場合背景と言うだけの話。
もっとも、自分で創れば創るほどやりたくない創作がどれほど悲惨な出来になるかよくわかるので、あまり無理強いもしたくないのだが。
「やっぱり商業レベルだと大変だよね」
「まあ同人上がりは商業だとダメってジンクスを聞いたことがあるけどな」
と、ここで視界の中に不自然な人だかりを見つけた。
道の横側だ。
「なじみ、あれなんだと思う?」
「んー?」
誰かが怪我をした、と言うには明るい様にも感じられるが。
「・・・なんだろ。イベントでもあるのかな?」
「そんな話があるのならもう少し舞台装置とかあってもいいと思うが・・・」
「行ってみる?」
「・・・そうだな、別に目的らしい目的もなかったし」
個人的にはストリートミュージシャンがフリースタイルのラップバトルをおっぱじめている事を期待するが、昼日中に公園で見られる景色ではないだろう。
身長の都合上、最後列でも十分見えるのでそこで待機。
なじみは・・・見えてないな。
「前行くか?」
「んーん、ここで良い。よくわかってない私が前行ってもね」
「それもそうか」
たとえ見えずとも音ぐらいは聞こえるだろうし、音すらないとしてもある程度なら俺から話せばいい。
で、最後列から見える景色だが。
ロリがエレキギターの配線をしていた。
内心三度見したが、間違いなくロリがエレキギターの配線をしていた。
その体形では一抱え程にもなるバッテリーをふらふらと運んでいる。
周囲を見れば年齢層は割と高い。おそらく子供の可愛い時期が終わっている衆だ。
「ちょっとアンタ!」
「え?」
いきなり肩を叩かれながら話しかけられ何事かと振り向けば、そこには一部のおばちゃんが。
「アンタ、あんな小さい子が頑張ってるんだから少しは手伝おうとか思わないの!?」
「え、いや、その・・・」
「っとこれだから男ってのは気が利かないんだから、ねえ?」
ねえ~。
おばちゃんの大合唱である。
おばちゃんなのに姉ちゃんとはこれいかに。
「ほら、さっさと行くんだよ!」
「うおおう!?」
「ケーくん!?」
アイコンタクトで『少し待っといて』と送って背中を押されるままに前列へ。
人込みがモーゼの海開きが如きかち割れ方をしたが、今俺の背中を押すおばちゃんはどういう存在なのだろう。
そしてロリの前に放り出された俺であるが。
「安心院君!?」
「数日ぶりです・・・部長」
現実逃避を止めるなら、ロリは部長だった。
そりゃそうだ、エレキの配線ができるロリ体系の女性なんてそう多くはないだろう。この地域に限れば部長だけと言っても良い程。
そんな人間が大量にいるなら、とりあえずこの地域の風水を調べるところから行政を始めるべきだと思う。確実に変な通り方してるぞ。
「なんで君がここに・・・」
「そりゃお互い様です」
「僕は、月に数回ここでストリート演奏してるのさ。結構人気なんだよ?」
確実に人気の理由は演奏以外だと思う。
だってエレキギターと合わないもの、客層が。
「そうですか。俺は単純にこの公園に遊びに来てただけです」
「あらなぁに!? 梅雨ちゃんこの人とお知り合い!?」
ここでおばちゃん再来である。襲来の間違いかもしれない。
「もーうこんないい男捕まえるなんて梅雨ちゃんも隅に置けないわね!」
「いえ! 待ってください違うんですかれとは単純に部活の先輩後輩関係なだけで別に恋人とかそういうアレじゃないって言うか・・・」
「そうですよー、全く違いますよ薄桃色の他人ですよー」
「どういうことなんだいそれは!?」
「多少知り合ってはいるがそれ以上ではない他人同士です。具体的には休日に鉢合わせると『うわっ』ってなるレベルの相手です」
「今君は『うわっ』って思っていると!?」
「部長とは逃れられないカルマみたいなものがあるんでしょうね」
「運命の赤い糸とか! 言い方があるだろう!」
「そのような概念を本当に信じていらっしゃるので?」
「それはッ! ・・・そういうことも、ある、あったら、いいなと・・・」
「仲いいねえ! アンタ! 名前は!?」
おばちゃんのその怒鳴り声に内心驚きながらも『安心院です』とだけ返す。
「変わった名前だね。ともかくアンタら一緒にやりな!」
「演奏を、ですか?」
「勿論さ。あんたが梅雨ちゃんに相応しいかしっかり見極めさせてもらうよ」
「だからそーいうんじゃ・・・もういいや」
部長が諦めた顔をしている。
実際おばちゃんのエネルギーは凄まじく、多少の諦念も沸いて来ようというもの。
「では部長、いえ利根川さん。一曲お願いできますか?」
「・・・そうだね。一つ舞おうか」
俺の差し出した手に部長が小さな手を乗せる。一瞬で離れたけど。
その後に巡業団の長さながらの一礼をして、予備であろうギターを手に取る。
それを見て部長は頷き、演奏を始めた。
*
実の所、俺はギターなんて弾けない。
ピアノをやっていた理由は前世からの憧れみたいな部分もあって練習していたが、ギターにそういうものは感じていなかった。
なので部長が謎にテンション高めなのを利用して、俺はギターを弾いている振り。
主にコーラスで参加した。
それでもまあ一体感みたいなものは感じられたようで、観客の皆さんからの評価は結構よかった。
「いやあ、ありがとう安心院君! やっぱり君は最高だ!」
まだ観客のいる中、部長からの賞賛が響く。
とはいえ俺がギターを弾いていないことは部長には丸分かりだろう。
それでもこうして賞賛してくれるのだから、コーラスのみとはいえ頑張った甲斐があるというものだ。
多分俺が演奏していないことに気付いている人を封殺するための賞賛なのだろうが。
「こちらこそ、良い一時を過ごさせてもらいました」
自分から再度手を差し出してと握手する。
興奮しているのか、部長は手をしっかりと握ってくれた。
「またやろう」
「ハイ、でも今度は本業でお願いします」
「はは、わかってるさ」
そういって別れると観客たちに『よかった』とか『幸せにな』とか『末永く爆発しろ』とか『お似合い』とか、演奏の感想よりコンビ感への言葉ばかり貰う。
見れば部長の方も似たような感じらしい。
割と辟易しながら人込みを抜け、なじみを待たせていたところに戻る。
「・・・なじみ?」
見回しても、そこになじみはいなかった。
しかしここで一つ問題がある。
「それで、どこに行くの?」
「いやこれがとんと決めとらんでな」
さっき突然決めたので当然っちゃ当然だが、行き先が決まってないのだ。
デートは男が主導するものだが、今回ばかりは流石に無理がある。
「まあ弁当は作ったんだし、広めの公園に行ってピクニックもどきってところか?」
「お金ないからねー」
「ふぐぅ」
当然のことながら、バイトを始めたのは昨日。
五月なのだからその給料はどうやっても月末まで手に入らない。まさか新人に給料の前借りを認可するわけもあるまいし。
そんなわけで、あくせく働いても豊かになるのは来月以降だ。このペースだといつまでかかることやら。
「まあ私はケーくんと一緒に居れればそれでいいんだけどね」
ふっとその顔を見れば、いつも通りの綺麗な笑顔。
ああ、やっぱりなじみで良かった。
恋人つなぎの手のひらをもう少し強くして、赤い頬を隠すように足を速めた。
*
そうして到着した公園。
この公園は市が管理している公共施設だ。正式名称は知らん。
しかし市が管理しているだけあってか無駄に広く、広場に陸上トラックに池に鯉に城にと何でもありだ。
そのくせ店舗と言ったら池のボート貸と鯉の餌の自販機に移動販売のソフトクリームぐらい。
まあ景色は良いので一緒に居るだけで楽しいという段階の恋人のデートには最適だろう。
「おー・・・涼しいうちに歩いてきてよかったな」
「もう五月だもんねー・・・いい加減日中は多少暑いし」
運動慣れしていないなじみに三十分行脚は流石に辛いものがあったようで、珍しく愚痴っぽい。
朝方の涼しい時間帯を使ってのことだったが、それでもやや汗ばんでいる様子。
「とりあえず、あそこのベンチに座ろうか」
「さんせーい」
指さしたベンチはいささか古ぼけているものの、十分実用に足るだろう重厚感を放っている。
なじみの座る部分を軽く手で払いその隣に座る。
「ありがと」
衛生面で言えばブルシートでも引かない限り大した意味もないだろうが、わざわざ言う事でもあるまい。
「あ、鞄貸して」
「ほい」
渡した鞄からハンカチを取り出したなじみは汗を拭い軽く自分を扇ぐ。
汗ばんで頬を紅潮させたなじみは色気五割増しと言ったところだが、その気密性の高そうな服のせいではなかろうか。初冬ぐらいの装備だし。
「ふー」
「・・・」
特に話すこともなくなって目の前にある遊歩道をのんびり眺める。
無言の時間が続くが、気まずさはない。心地よい沈黙の帳が降りて、上りつつある日光を遮る様な感覚。
なじみとの間にある距離は20センチほど。
普段を考えればこれはすさまじいソーシャルディスタンスだ。
寛いでいる最中にこれほど離れるのは随分久しぶりではないだろうか。
ぺちん。
「・・・どうした」
「虫がいたから」
突如張り手をかまされて何事かと思ったが、どうやら蚊のようだ。
なじみはハンカチと同じく鞄から出したティッシュで手を拭ってそのティッシュを手近にあったゴミ箱に放り込んだ。
*
そうしてしばらくするとやがて昼食に程よい時間になる。
沈黙以外何もしてないのにこの時間経過。体感20年ぐらいで死にそう。
「という訳で急ごしらえですがお弁当で~す」
「わー」
そうして出された弁当は今朝決まってさっきの今という現状を鑑みれば十分過ぎる代物であった。
華やかさなんて欠片もない。バランスこそある程度取っているが、ある程度の域を出ない真っ茶色の弁当。
しかし男子高校生にはこれ以上にご馳走なメニューもないんだな、これが。
むしろある程度とはいえバランスを取っているだけ健康的な方だ。
筋肉増強が捗る。
「めしあがれ」
「いただきます、ってなじみは食べないのか?」
「私には別のお弁当あるし」
そういってなじみが取り出したのは俺のものとは全く違うメニューだった。
総合的な栄養価に優れつつもカロリー自体はリーズナブル。
ぱっと見ではビタミンの割合が非常に大きく、もはや弁当の形をしたサプリメントというレベルにも思える。
「・・・少し、いや、病的に健康的だな?」
「これぐらいしないと女の子は綺麗になれないの!」
「・・・まあ、頑張って惚れ直させてくれ」
「どんな感じに惚れ直したい?」
「なじみと俺以外で男女の区別がつかなくなるくらい、とか?」
「んふ、了解」
そうして始まった昼食だが、今回食べさせるというのは無しだ。
恥ずかしいとかの感情論抜きに、栄養バランスが崩れるから。
まあ、水筒は共有していたんだが。
*
さて、昼食も終わって散策の始まりだ。
なにせこの公園にきたことはない。適当に回っているだけでも十分新鮮で楽しかろう。
特に土曜日という事もあってかまさしく市民の憩いの場。
少年がサッカーしている周りを若者がランニングして、その道すがら御老体が城を見ながらスケッチしているのを少年らの母親であろう婦人が見物しているのを後ろからぼんやりと眺める夫と思しき中高年男性。
軽く見回しただけでもこれだけ多様な人間が思い思いに過ごしている。
にぎやか過ぎて関係がある程度成熟したカップルには不向きだろうが。
「なじみも何か描くか?」
「私風景画はあんまり。人物画専門だから」
「漫画に背景は重要だぞ。ここの手を抜くとマンガ全体が薄味になるからな」
〇NEPEACEの作者は動くもの全て自分で描いているくらいだ。大群衆もすべて一人で描いている。
流石海賊版サイトの対抗策に『金を払いたくなるような漫画を描けばいい』と言い放っただけのことはある。商業なら振り込めない詐欺はないのだ。
若干海賊版サイトを擁護しているようにも思えるが、まあ海賊マンガ書いてるんだし、多少はね?
「やっぱりそうなのかな・・・」
「キャラは料理、背景は皿だ。どんな高級料理でも皿がみすぼらしければ安く見える。逆もしかり」
「頑張ってはいるんだけど・・・やっぱり人物画書いてる時の方が楽しいなぁ」
「まあ同人レベルならそれでもいいと思うがね」
創作なんてのは極論すべて自己満足。
やりたいからやった、それだけだ。そこに他人の評価が介在する余地はない。
ただ評価されれば嬉しいし、金になればやりたい創作以外に仕事をする必要もない。そしてその評価を貰うのに必要なのが今回の場合背景と言うだけの話。
もっとも、自分で創れば創るほどやりたくない創作がどれほど悲惨な出来になるかよくわかるので、あまり無理強いもしたくないのだが。
「やっぱり商業レベルだと大変だよね」
「まあ同人上がりは商業だとダメってジンクスを聞いたことがあるけどな」
と、ここで視界の中に不自然な人だかりを見つけた。
道の横側だ。
「なじみ、あれなんだと思う?」
「んー?」
誰かが怪我をした、と言うには明るい様にも感じられるが。
「・・・なんだろ。イベントでもあるのかな?」
「そんな話があるのならもう少し舞台装置とかあってもいいと思うが・・・」
「行ってみる?」
「・・・そうだな、別に目的らしい目的もなかったし」
個人的にはストリートミュージシャンがフリースタイルのラップバトルをおっぱじめている事を期待するが、昼日中に公園で見られる景色ではないだろう。
身長の都合上、最後列でも十分見えるのでそこで待機。
なじみは・・・見えてないな。
「前行くか?」
「んーん、ここで良い。よくわかってない私が前行ってもね」
「それもそうか」
たとえ見えずとも音ぐらいは聞こえるだろうし、音すらないとしてもある程度なら俺から話せばいい。
で、最後列から見える景色だが。
ロリがエレキギターの配線をしていた。
内心三度見したが、間違いなくロリがエレキギターの配線をしていた。
その体形では一抱え程にもなるバッテリーをふらふらと運んでいる。
周囲を見れば年齢層は割と高い。おそらく子供の可愛い時期が終わっている衆だ。
「ちょっとアンタ!」
「え?」
いきなり肩を叩かれながら話しかけられ何事かと振り向けば、そこには一部のおばちゃんが。
「アンタ、あんな小さい子が頑張ってるんだから少しは手伝おうとか思わないの!?」
「え、いや、その・・・」
「っとこれだから男ってのは気が利かないんだから、ねえ?」
ねえ~。
おばちゃんの大合唱である。
おばちゃんなのに姉ちゃんとはこれいかに。
「ほら、さっさと行くんだよ!」
「うおおう!?」
「ケーくん!?」
アイコンタクトで『少し待っといて』と送って背中を押されるままに前列へ。
人込みがモーゼの海開きが如きかち割れ方をしたが、今俺の背中を押すおばちゃんはどういう存在なのだろう。
そしてロリの前に放り出された俺であるが。
「安心院君!?」
「数日ぶりです・・・部長」
現実逃避を止めるなら、ロリは部長だった。
そりゃそうだ、エレキの配線ができるロリ体系の女性なんてそう多くはないだろう。この地域に限れば部長だけと言っても良い程。
そんな人間が大量にいるなら、とりあえずこの地域の風水を調べるところから行政を始めるべきだと思う。確実に変な通り方してるぞ。
「なんで君がここに・・・」
「そりゃお互い様です」
「僕は、月に数回ここでストリート演奏してるのさ。結構人気なんだよ?」
確実に人気の理由は演奏以外だと思う。
だってエレキギターと合わないもの、客層が。
「そうですか。俺は単純にこの公園に遊びに来てただけです」
「あらなぁに!? 梅雨ちゃんこの人とお知り合い!?」
ここでおばちゃん再来である。襲来の間違いかもしれない。
「もーうこんないい男捕まえるなんて梅雨ちゃんも隅に置けないわね!」
「いえ! 待ってください違うんですかれとは単純に部活の先輩後輩関係なだけで別に恋人とかそういうアレじゃないって言うか・・・」
「そうですよー、全く違いますよ薄桃色の他人ですよー」
「どういうことなんだいそれは!?」
「多少知り合ってはいるがそれ以上ではない他人同士です。具体的には休日に鉢合わせると『うわっ』ってなるレベルの相手です」
「今君は『うわっ』って思っていると!?」
「部長とは逃れられないカルマみたいなものがあるんでしょうね」
「運命の赤い糸とか! 言い方があるだろう!」
「そのような概念を本当に信じていらっしゃるので?」
「それはッ! ・・・そういうことも、ある、あったら、いいなと・・・」
「仲いいねえ! アンタ! 名前は!?」
おばちゃんのその怒鳴り声に内心驚きながらも『安心院です』とだけ返す。
「変わった名前だね。ともかくアンタら一緒にやりな!」
「演奏を、ですか?」
「勿論さ。あんたが梅雨ちゃんに相応しいかしっかり見極めさせてもらうよ」
「だからそーいうんじゃ・・・もういいや」
部長が諦めた顔をしている。
実際おばちゃんのエネルギーは凄まじく、多少の諦念も沸いて来ようというもの。
「では部長、いえ利根川さん。一曲お願いできますか?」
「・・・そうだね。一つ舞おうか」
俺の差し出した手に部長が小さな手を乗せる。一瞬で離れたけど。
その後に巡業団の長さながらの一礼をして、予備であろうギターを手に取る。
それを見て部長は頷き、演奏を始めた。
*
実の所、俺はギターなんて弾けない。
ピアノをやっていた理由は前世からの憧れみたいな部分もあって練習していたが、ギターにそういうものは感じていなかった。
なので部長が謎にテンション高めなのを利用して、俺はギターを弾いている振り。
主にコーラスで参加した。
それでもまあ一体感みたいなものは感じられたようで、観客の皆さんからの評価は結構よかった。
「いやあ、ありがとう安心院君! やっぱり君は最高だ!」
まだ観客のいる中、部長からの賞賛が響く。
とはいえ俺がギターを弾いていないことは部長には丸分かりだろう。
それでもこうして賞賛してくれるのだから、コーラスのみとはいえ頑張った甲斐があるというものだ。
多分俺が演奏していないことに気付いている人を封殺するための賞賛なのだろうが。
「こちらこそ、良い一時を過ごさせてもらいました」
自分から再度手を差し出してと握手する。
興奮しているのか、部長は手をしっかりと握ってくれた。
「またやろう」
「ハイ、でも今度は本業でお願いします」
「はは、わかってるさ」
そういって別れると観客たちに『よかった』とか『幸せにな』とか『末永く爆発しろ』とか『お似合い』とか、演奏の感想よりコンビ感への言葉ばかり貰う。
見れば部長の方も似たような感じらしい。
割と辟易しながら人込みを抜け、なじみを待たせていたところに戻る。
「・・・なじみ?」
見回しても、そこになじみはいなかった。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん
菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)
幼馴染みのメッセージに打ち間違い返信したらとんでもないことに
家紋武範
恋愛
となりに住む、幼馴染みの夕夏のことが好きだが、その思いを伝えられずにいた。
ある日、夕夏のメッセージに返信しようとしたら、間違ってとんでもない言葉を送ってしまったのだった。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編7が完結しました!(2026.1.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい
沢尻夏芽
恋愛
自他共に認める陰キャ・真城健康(まき・けんこう)は、高校入学前に宝くじで10億円を当てた。
それを知る、陽キャ幼馴染の白駒綾菜(しらこま・あやな)はどうも最近……。
『様子がおかしい』
※誤字脱字、設定上のミス等があれば、ぜひ教えてください。
現時点で1話に繋がる話は全て書き切っています。
他サイトでも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる