幼馴染でマジカルなアレが固くなる

余るガム

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第二部 高校生編

人間には二種類いる。自分と他人だ

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 微が気絶したことについては特に思うところはない。
 今でこそ意識を保ったまま事を終えるなじみだが、そのなじみにしたって当初は気絶しっぱなしであったのだから。

 なのでドロドロのベッドやら全身やらをティッシュなどで拭き清める事も面倒くさいわけではない。
 ついでに後戯も行ったぐらいのものぐさは許してほしいが。

 ぐだぐだ。
 くどくど。
 ベタベタ。

 しかし今の微は少々面倒臭い。
 後ろから俺にしな垂れかかり、後頭部の全てをその爆乳で挟み込み、両腕は俺の胸元へ。

 その状態で先の言である。

 とはいえ可愛いと思う感情もあるので、これがいわゆる『うざかわいい』という奴なのだろうか。
 微は綺麗系、それもクールな感じの美人なので鬱陶しい程に絡んでくるのはギャップも相まって非常に破壊的だ。

 普段から読書と執筆を繰り返している所為か語彙力が異様に高く、こっちとしても『そういわれるとなんか俺が悪い感じがする』みたいな感情が生み出されるので、振りほどくのも気が引ける。

 内心で溜息をつく。

 こてん。

「・・・いや、それは大丈夫」

 表情に出したつもりはなかったが、どうやら微にはお見通しだったらしい。
 しかしそれに対する返答が『大丈夫? おっぱい飲む?』なのはなんというか・・・。

 年上綺麗系クール文学美女にIQの低い事を言われてなんとも複雑な気分である。

 今気づいたけど、俺の両肩に胸乗っけて楽してんな、こいつ。

「じゃあ、そろそろ戻るから」

 ぐだぐだぐだぐだぐだ。

「次の時にな。その時はピロートークぐらいするから」

 起き抜けに掃除している俺を見てもう帰るものと思ったのか、後戯までがセックスでしょと絡んできたわけなのだが。
 そういうこと言われると萎えるのが人間だ。

 こてん。

「そりゃまあ、こういうことになった以上、ヤリ捨てってのも気が引けるし・・・少なくとも微が愛想を尽かすまでは付き合うさ」

 その後、俺に恋情が生まれていなければ、そこで終わりだろう。
 そう言い募ると。

 ふんす。

 微は自信満々と言った風に返した。

「ハハ、それは・・・ああ、クク、気を付けないとな」

 その自信満々の風貌が、俺の中にある微のイメージと違い過ぎて。
 それでも、その差異がなんだか可笑しくて。

 今日は微の見たことない部分がたくさん見れた。
 なんとなくそれが、嬉しい事の様に思えた。



「第二章が終わったと思ったら既に第三章まで終わってた使徒の人生、わぁじまぁるよ☆」
「使徒って俺?」
「勿論!! S2機関は無いけどね!」
「ちなみに何番?」
「10! サハクィエルだね!」
「誰があんなギョロ目分離野郎になるか」
「HAHAHA! まあ僕の事が気に入らなくても、どうせ次は8まで会わないよ。君のスタンスなら当分は大丈夫だろうね」



 まだ邪神出てくるの?
 そしてあいつ結局何が言いたかったの?
 使徒だの8だの、脈絡がなさすぎじゃないか?

「ケーくん! ケーくん大丈夫!?」
「・・・ああ、なんとか致命傷で済んだ」
「致命傷じゃダメだよ!?」

 目覚めたのは自室のベッドの上。
 覗き込んでくるのはなじみの顔。

 微の部屋から戻ってきたとき、意識を失った。
 朦朧とする視界の中で、なんとかベッドまで体を運んだらさっきの夢である。
 せめて自然に眠ってる時に来いよ。自分から呼ぶな鬱陶しい。

「まあ大丈夫だ。自分の体は自分が一番よくわかるってな」
「でも病院に・・・」
「だから大丈夫だって」

 金がかかるというのもあるが、本当に大丈夫なのだ。
 原因わかってるし。不調がないのも分かってるし。

「俺が信じられないか?」
「・・・それは、ずるい」

 知ってる。
 そういわれたらなじみはYESしか返せないのだとは。

「そういえば、なじみは昼に何食べたんだ?」
「なにも」
「なにも?」
「なにも」

 露骨な話題変換をしたら予想外過ぎる回答が返ってきてしまった。

「やっぱり、ケーくんと一緒に食べたかったから」
「今日はそれでもいいけど、今度から普通に食えよ? 体壊して一番悲しむのは俺なんだからな」
「・・・うん、わかった」

 にへらとだらしなく笑うなじみに今更思うこともない。
 なんてことはなく、かなり大きく心臓が跳ねた。
 この拍動が俺にまた実感させるのだ。『ああ、本当になじみが好きなのだ』と。

 こうも毎秒惚れ直していては心臓に悪いので、なじみにはもう少し魅力を抑えて欲しい。
 しかし可愛いは正義なので、俺の寿命で良ければドンドン消費してくれて構わん。

「あ、でも変わったことがあったよ」
「変わったことって?」
「あれなんだけど」

 そういってなじみが指さす先には、木彫りの狐があった。
 鮭を口に捕らえている木彫りの熊を見たことがあるだろう。かつては北海道名物であったその木彫りの熊をそのまま狐に変えた様な木彫像だ。

 当然自分で買ったインテリアではないし、元々あった記憶もない。

「なにあの・・・何?」
「30分くらい前にすっごく綺麗な女の人が来て、『安心院傾という男に渡して』って言われたから置いといたんだけど・・・」

 体を起こして木彫りの狐を手に取る。
 叩いたり振ったりしても特に妙なことはなく、中には木が詰まっているのだろう。
 ざっと見聞した限りでは穴や切れ込みもない。

「女の人ってどんな人だった?」
「キレイで長い金髪なのにアジア顔で、黒い着物着てたよ。刺繍されてたのは藤の花・・・かな? あとおっぱい大きかった」

 胸のサイズはどうでもいい。

「ふーん・・・盗聴器とか仕掛けられてるわけでもなさそうだが」

 ひとまず調べた限りでは、何かがあるようにも思えない。
 しかし不気味ではある。

「・・・よし、捨てるか」

 当然だ。
 得体の知れない奴から渡された得体のしれない木像など不気味でしょうがない。
 いっそ盗聴器でもついていた方がわかりやすくていいんだが。

 とはいえ、捨てると言ってもそのまま捨てるわけにはいかない。
 なにせこの狐像、結構デカい。両手で抱えるぐらいのサイズだ。
 そのため結構な重量物なのだが、なじみはこれをどうやって室内まで運び込んだのだろうか。

「頑張ったら何とかなったよ」

 問うてみて返ってきたのはそんなありきたりな答えだった。

 ではこの木像をどうやって捨てるのかと言うと、まず破壊する。
 木くずが出ると思うので、ベランダでだ。

「よし、と。さて・・・」

 肉体強化、全開。

 そして両腕で左右に引き千切る。

 木像はメリメリと裂け・・・ることはなかった。
 そのまま数分続けるが、それでも変化はない。

 強化を解いて立ち尽くす。

 肉体強化を全開にした状態でのピンチ力がどの程度かは測定していないが、今朝の超加速を見る限り5,60kgなんて生易しい数字ではないはず。
 にも関わらず、この木像は壊れない。

 異常だ、明らかに。
 もしかして、その女は。

 キンコーン。

 ドアのチャイムが場違いなほど呑気に響いた。



「てめいきなり何してんだァアアアアアアア!!」

 ドアを開けて飛んできたのは、そんな罵声と握り拳だった。
 握り拳の方はサッとよけ、発信源である男・・・渡辺に向き直る。

「なんだお前か」
「なんだとはなんだ! こっちはなァ! てめえの所為で現実酔い寸前だわヴォケガあ!」

 とりあえず現実酔いとかいう謎の新単語出すのやめて?

「どうどう落ち着け、お前は、えーと・・・俺の肉体強化が原因でそうなった、ってことで良いんだな?」
「そういってんだろ! あの出力使うとかゴキブリが出たなんて理由じゃあ納得しねえぞ! とりあえずなにに使ったか言え! 話はそれからだ!」

 玄関からベランダはギリギリ死角なので、渡辺を招き入れる。
 その前になじみには自分の部屋に戻ってもらった。なじみの貴重なオフショットなどこいつに見せてやるものか。
 しかし赤面していたが、何かあったのだろうか。

「ほれ、これぶっ壊して捨てるために使ったんだよ」
「えーと・・・? ああ、そう言う事ね」

 どうやら渡辺はこの木像を見ただけで事情を把握したらしい。
 つまりこいつにはこの木像に関する知識があるという事だ、洗いざらい吐け。

「あー、これはな、俺が所属している超能力組織の連絡手段だ」
「え、この木彫りの狐が? なんで狐?」
「製作者の趣味。しかしそうかー、つまりお前はほぼ間違いなく、うちに所属したことになってるらしいな」
「・・・マジ?」
「じゃなきゃこんな部外秘の代物渡すかよ」
「えー・・・なんでそんなことに」
「島崎さんにツケで移動させてもらったんだろ? それじゃねえの?」
「初回で無料って言われたんだけど」
「只より安い物はないってな」
「クソが」

 思わず悪態をつく。

「・・・その調子だとマジで何も知らなかったらしいな。OK、今回のは俺が取り消しておく」
「それは助かるけど・・・お前も貸しがどうこう言うつもりじゃないだろうな?」
「今回の件については報告を怠った俺に責任があるし、組織全体にも暴走した責任がある。それに、超能力者に強要しないってのが社訓だしな。天秤に誓っても良いぜ」
「・・・わかった、これについてはお前を信用する」
「それでヨシ」

 渡辺は知りたいことが知れたのか、玄関に戻っていく。
 そしてドアから出る寸前にこちらに向き直った。

「安心院、今からでも、たとえ勘違いだとしても。うちに来ないか? 俺やお前と同じ超能力者が何人もいるし、中にはアメリカを殺せる個人すらいる。超能力を持つが故の超越と、それに伴う孤独を癒せるのは同じ超能力者だけだ」

 渡辺が手を伸ばす。

「俺と来い、安心院傾」

 その瞳にはとても高校生とは思えない意志の光が宿っていた。
 超能力者故の超越を目の前の男も持っているのだという事を、実感として理解させる光。
 あるいは、カリスマと呼べるそれ。

 その光の前では、嘘をつくことが酷く罪深い様な、そんな気分にさせられる。

 故に俺は、嘘偽りなく答えた。

「・・・ダメだ、『そっち』にはいけない」

 断りの言葉を。

「切りたくない縁がある。離れたくない人がいるから」
「超能力者でないそいつに、真の理解が得られると?」
「同じじゃなきゃわかり合えないなら、この世界に『愛』なんて生まれないさ」
「・・・そうか」

 渡辺は寂しく笑う。

「まあお前がそう言うなら、それで良いだろう。超能力者に強要しない、が社訓だからな。だが」

 渡辺はそこで言葉を切る。

「気が向けばいつでも来い、歓迎するぜ」
「ああ、ありがとう」
「礼を言うのはこっちの方さ。お前がいつまで『人間』でいられるか、楽しみにしているとしよう」

 パタリとドアを閉めて、渡辺は帰った。

 超能力者の人間とそうでない人間。
 その隔たりは俺となじみの間にも生まれるのだろうか。

 そんな不安を、この部屋において。
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