幼馴染でマジカルなアレが固くなる

余るガム

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第二部 高校生編

公式カップリングって興奮するよな

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 なじみとの関係を不安に思っても、それでも時間と言うのは平等に過ぎ去るもので。
 日曜日のバイトの時間になった。

 が、その前に部長からメッセージが届いた。

 曰く、『今日は臨時休業だから来なくていい』とのことだ。

 その連絡、もう少し早くにできなかった? と思わなくもないが、割と抜けている人なのかもしれない。



 そんなわけで明けて月曜。

 SHRの時に不知火先生からプリントが配られた。

「えー、今週水曜日からゴールデンウイークですが、水曜日から金曜日は学習合宿です。その際に文系コースと理系コースを選べるので、選んでプリントに書いてください」

 こんな直前にする話かね?
 着替え、勉強用具一式、水筒さえあればそれでいいらしいので、色々軽んじたのかもしれない。
 時間は壁掛け時計があるし金は使う機会がない、スマホの持ち込みは自由だが、使う前に寝るだろうとは先生の談。

 一体どんな『学習』をさせられるのか、不安でしょうがない話だ。

 進学校なのだし、少なくとも相当『ガチ』なのは間違いないだろう。

「安心院はどっちにする?」

 渡辺が聞いてきた。
 先日感じた超越者っぽさはなりを潜め、本当にただの男子高校生にしか見えない。
 どちらが本性なのか、俺には解らないけれど。

「んー・・・文系コースかな」
「お、意外」

 文系へ行く事に驚いたのは雄大だ。

「おいおい雄大、俺が文系じゃいかんのか?」
「そうは言わねーけどよ、このご時世に文系なんて未来無さそうじゃん。今や猫も杓子もITIT、理系で手に職つけないと就職にはありつけねーんじゃねーの? その辺考えて理系スキル高めてそうだなと思って」
「あー確かに、安心院ってそういう計算冷徹だよな」
「わかるわー、妙に鉄臭いっていうか」
「なあ安心院・・・お前・・・鉄で出来てるんじゃないのか?」
「出来てるわけねーだろバカ」

 脱線した話を修正する。

「今後のIT関連は中国が全部かっさらうだろうから、日本の観光業関連に就職するつもりなの」
「中国が? 信頼性ないだろあの国」
「日本だって信頼できるか? 汚職不祥事偏向報道、日本人が信用できるなんてもはや幻想だ。どうせ信頼できないなら、せめて安い方に行くだろ」
「なるほどね。しかしそれで観光業というのは・・・」
「どれだけ技術を発展させても娯楽の需要は絶対にある。VRでは再現できない醍醐味がな」
「ほーん。その内廃れそうだけど」
「まあ規模は大分縮小されるだろうが、消えはしないさ」

 それにここで語る人生設計など机上の空論だ。
 十年後、世界がどう変容しているかなど分からないし、俺にも状況の変化が起こるかもしれない。

 とはいえ、机上の空論であることを理解したうえでこねくり回す与太話としては、『自分の将来』というのは格好の話題だった。

 しかし渡辺よ。
 終わり際に『ウチなら給金とかの待遇もいいよ?』とか囁くな。
 預金残高のスクショ送ってくんな。
 すぐに消したけど億はあったぞ。薄ら暗すぎて笑えない。



 超能力者の超越という奴を実感しながら授業に望む。

 進学校らしく進みは早いが、わかりやすい。

 設備もそうだが、教師陣も上等なものを揃えているのだろう。
 高い学費と偏差値は伊達ではないのだ。

 そして上手いのは『上達を実感させる』手腕だ。

 レベリングの為にゲームをするやつが居る程、実力が上がって悪い気はしない。それが社会全体の求める物であればなおさらだ。
 その充実を刺激して勉強にのめりこませる手練手管はまさしく一流。

 まあ不知火先生を見る限り、最高峰の性能をしている割に最高峰の性格を持っているわけでもないようだが。

 そんなオチがついたところで、授業が終わって放課後。
 休み時間の度に『仁科先輩を落とす120の戦略』をとつとつと語る雄大を白々しくあしらい、部活へ向かう。
 『昨日その仁科先輩とセックスして、処女貰って、しかも愛人枠に収めました』なんて宣った暁には多分殺されるだろう。俺の演技力がそのまま生命線である。

 これが超能力者故の孤独か・・・などと戦慄しながら部活のドアを開ける。

 そこには真っ黒に沈み切った部長が机にうなだれていた。

「・・・どうしたんです?」
「ああ、安心院君・・・」

 こちらの名を呼ぶ声にすら元気がない。

「僕は今・・・マリアナ海溝より多少浅いぐらいには深く反省している」

 縮尺としてはわかりやすいんだけど、反省してるのかはわかりにくい例えだな。

「えーっ・・・と・・・部長って俺になにかしましたっけ?」
「ミズハラを・・・幼気な後輩男子高校生にミズハラをしてしまいました・・・」
「ミズハラとは」

 誰だよ、マジで。

「その所為で安心院君には本当に辛い思いをさせたようで・・・」

 解説する気はない様なので、ステータスで部長を見て解を得る。

 曰く、『ミズハラ。ミュージックハラスメントの略語。音楽に関するいやがらせの意。具体例としてギターとベースの違いの知識でマウントを取る、木琴の演奏者に鉄琴の演奏をさせる、弦楽器のチューニングを狂わせる、カラオケでいきなり歌を振る、鼻歌に不意打ちでハモリに行く、などが存在する』

 具体例のレパートリーについては、言及しないとして。

「あー、とすると、土曜日の奴ですか?」
「そうさ。自分でも後から『やばいことしたな』って思いでいっぱいでね。衆人環視のなかいきなり楽器を渡してデュエットを強要するとか最低にもほどがある。バイトを思わず休んでしまうぐらい心労を募らせるとは本当に申し訳ない」

 セクハラなら『彼女の同意を得ないで行った痴漢プレイ』ぐらいに相当するらしい。
 部長視点で、の話だが。

「だから嫌がるあまり二度と部活に来ないぐらいは覚悟していたんだ。その場合謝罪の機会すら失われるから、僕は本当に最低な奴になってしまう」
「あの、俺別に気にしてないんですけど」
「え?」
「だから、土曜日の部長のミズハラ? については気にしてないんですって」
「ええ!?」
「演奏自体は楽しかったですし」
「た、たた、楽しかったぁ!?」

 部長がガバリと起き上がって、こちらに詰め寄る。

「安心院君・・・君は、もしかしてヤリチンなのかい?」
「うーん今の発言のどこをどう切り取った結果その結論に行き着いたのか問い詰めたいんですが」

 そんな単語を部長の口から聞くとは思わなかった。
 ロリな外見の所為か物凄く不釣り合いだ。

「だって男性が女性のデュエットの誘いを受けるなんて『俺この人とコンビ組んでます』って言ってるようなものじゃないか!」
「少なくともあの場においてはコンビでしたよ?」
「な、な、な、何を言ってるんだ君は! それじゃあまるで君は私とコンビを組んでも良いと思ってるみたいだぞ!」
「それは別に良いですけど」
「な、な、な・・・」

 部長はそこから顔をドンドン赤らめ、爆発したかのように走り出し、俺を突破して部屋から走り去った。

「一体なんだっていうんだ・・・」

 しばらく考えてみると、部長の言う『コンビ』と俺の言う『コンビ』の間にどうしようもない隔たりがあるような気がする。

 しかし、それはそれとして。

「今日の部活、どうしたらいいの・・・」

 あくまでも一新入部員でしかない俺に、今日一日の活動を決めるだけの権限も経験もあるはずがないのだ。
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