幼馴染でマジカルなアレが固くなる

余るガム

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第二部 高校生編

天使のラッパに耳を貸すな。悪魔はその音に潜んでいる

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 ガリガリとうるさい精神の摩耗音を意図的に無視し続ける苦行染みた図書委員の時間も終わり。
 帰りしなにあった一悶着も可能な限り当たり障りの無い様収束させ。
 そんなことを続けていたらまだ水曜日だというのに金曜日の様な疲労感だ。
 精神的に疲れたまま家に入る。

 なじみさえいてくれれば俺も癒されるのだが、生憎となじみはまだ未帰還。

 俺となじみの公的な付き合いが変わったからとて、その実情はこれまでと大差ないのだからわざわざそれ以外の付き合いを減らすこともあるまい。
 そんな話をなじみとしたのは火曜の暮れ。こうでも言わないとなじみはこれまでの交友を全部投げ捨てて俺との交流に没頭しそうだったし、事実月火はそんな感じだった。

 なじみはと言えば二日間盛大に『見せつけた』ことで大層ご満悦らしく、もう少し見せつけたいと多少渋られたものの聞き分けは良かった。

 そういう訳で座敷童さながらに家を守り続けるなじみが爆誕することは無かったわけだが、こうして単独で帰ってみるとそれが寂しいと感じるのだから俺も自分勝手だとつくづく思う。

 しかし体に染み付いた習慣と言うのは随分と優秀で、家事と筋トレを無心でこなし続けた。
 その後シャワーを浴びて少しゆったりとすれば、今度は勤勉にも課題に手が伸びる。

 こんな調子ではいつ過労死するか分かったものではないと思いはするのだが、これまでなじみと並んでも遜色ない男になるため続けてきた努力の習慣が『何もしない』という選択肢を取らせてくれない。

 きっとワーカホリックとはこういう流れで生まれるのだろうなと現実逃避をしていると、頭を空っぽにしても終わる系が片付いていた。そして本日分の課題はこれで終いである。

 今度は以前収集した連絡先に適当な連絡を送るが、それもすぐ済む。

 ふう、と一息ついて、ぼーっとしてみれば・・・そもそもぼーっとできない。
 次のタスクを探すことで脳が一杯一杯だ。

 そんなワーカホリック社畜状態の俺を救済する福音は、玄関の来客チャイムが高らかに歌い上げた。



 日本人であるならそう珍しい事でもないのだろうが、俺は無神論者である。
 しかし日本神道の気質を考えると、『信仰が自然体過ぎて他の宗教で印象が上書きされている』ぐらいにも思えるのだから不思議だ。
 神を絶対的な上位者と置くのがキリスト教で、すぐ側の隣人とするのが日本神道と言える。
 そも、『神』という単語自体が不敬の極みだ。『敬称を付ける余地』があるという事なのだから。
 多神教と言う気質も考慮に入れるなら、『神』という単語は黒人に向かって『nigger』と言うような差別用語ですらあるのかもしれない。
 未だ皇室が存続しているのを見るに、神とやらは全く気にしていないのだろうが。

 話が逸れた。

 ともかく、無神論者としては『神を信じてすくわれるのは足くらいのものだ』という言に対して全面的な同意を示す所存である。
 福音に感じた来客用チャイムと共に訪れたのはなじみという救済ではなく、渡辺と言う悪魔だったのだから。

「つまり俺が言いたいのは『天使のラッパに耳を貸すな。悪魔はその音に潜んでる』ということだな」
「チェーン越しにいきなり哲学ぶちかまされても・・・」

 チェーンの向こうで困惑する渡辺であるが、こいつが来訪してよかったことなど現状一度もない。
 信頼と実績の悪魔である。契約を絶対に遵守させる辺りもハマり役だ。

「という訳でご清聴ありがとうございました」
「待て待て待て待て」

 閉じようとするドアを渡辺が強引に掴み止める。
 超能力者の握力をフル活用しがって・・・壊れたら敷金飛ぶの俺なんだぞ。
 そういやベランダの仕切り板まだ直してねえわ。

「お前が閉めるより先にこのドアのチェーン引き千切るけどそれでもいいか?」
「馬鹿が。既にチェーンは超能力で強化済みだ」
「道具への強化とか器用なこと出来る割になんでお前発散を止められないんだ」
「知らん。そもそも道具への強化が出来ることも今知った」

 壊れたら敷金が吹き飛ぶぞクソが。
 その一念が俺にさらなる成長をもたらしたのだ。

 もう少し劇的な成長の仕方はなかったのだろうか。

「で、何の用だ。ギャンブルの日程でも決まったか」
「お前が俺を用事がないと連絡しない用件人間だと思ってるな?」
「違うのか?」
「そういう側面があることは認めるけど」
「ご清聴ありがとうございました」
「待て待て待て」

 もう一度閉めようとするとまた止められた。

「今回は仕事でも何でもない、ただの遊びの誘いだよ」
「生憎俺に殺人の趣味はない」
「俺にもないわ。俺の事なんだと思ってんだ」
「ヒトデナシ」
「うーん、間違いとも言い難い。しかし今回の件に関して言えば本当にただの遊びだ」
「どうせあれだろ? その誘いに乗ったらヱンテテに霧籠りの森に引っ張っていかれるとかそういう奴だろ?」
「とことん俺を信用しないなお前は」
「んじゃ何やるか言えよ」
「・・・やるのはスマブレだ。トゥイッチの奴」
「ああ・・・課金キャラが強すぎて格ゲーとしての体を成していないと噂の」
「知ってるのか。やったことは?」

 ゲームか。思えば随分していない。
 余暇の大部分を自己修練に費やすようになったのはなじみにマジ惚れした小1の時、6歳からだ。
 それ以前にはちらほらやっていたと思うが・・・はて、どうだったか。
 前世の時にはやってたから、確実な所で言えば前世以来か。

「無いな」
「んじゃウチ来てやろうぜ。あー・・・でも今は蝶ヶ崎さんいるから無理なのか?」
「いや、今なじみはいない」
「・・・お前蝶ヶ崎さんがいないとあんな感じになるのか?」
「今日はたまたま別に鬱な要因があって、それが重なっただけだ」
「一因ではあるのか・・・」
「当然だ」
「そこで威張られても」

 渡辺は若干呆れたような顔をしたが、直ぐに元の表情に戻って。

「んじゃあ暇だろ。ホレ、来いよ」
「んー・・・まあ、行ってみようか」

 チャイムの歌う福音。
 そこで呼ばれた救済は本命でも対抗でもなかったが、大穴が来たようだ。
 アタリ自体は驚くほど少額だが。



 そうして入った渡辺の部屋。

 これでこのマンションの部屋は全部で4部屋入ったことがあるわけだが、そのどれともやはり同じ間取りであった。

 ただ一つ違うのは調度品が全体的に高額っぽい所だ。
 あのドレッサーとか確実に一点ものである。

 少し見入っていると、渡辺が飲み物を持ってきた。

「コーラで良いか?」
「おう」

 食事制限はしない主義だからな。
 その分動けば問題ないというガチ勢からすれば噴飯物の論理だが、生憎そこまでガチではないので問題ない。

「んじゃこれ」

 渡されたコントローラーはやけに重厚で、昨今のハードはこんなに詰め込んでいるのかと驚いた。

「重いな」
「そりゃオーダーメイドの代物だからな、当然だろ」
「は?」

 オーダーメイド?
 ゲームのコントローラーを?

「超能力者は生物としての基礎値の段階で人間とは格が違う。そんな連中が人間用のゲームを遊ぶには、それ相応の頑丈さとかレスポンスとかがいるのさ」
「いや、しかし・・・受け付けてるのか? その・・・メーカーは」
「勿論一般的には受け付けてない。受け付けてるにしても妙な注文だろうな。ま、そこは株主優待という訳よ」
「ゲームのコントローラーを手に入れるために株を買い占めたってことか?」
「そうなる」
「どこからそんな金を・・・」
「俺たちって分類的には国家公務員だからな。内閣総理大臣と同じくらいは貰ってるよ」

 え、マジで?

「え? マジで?」
「マジだ。闇に潜む秘密結社でも何でもないのさ」

 なんか・・・色々イメージが・・・。

「まあそんなリアルは置いといて、始まるぜ?」
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