幼馴染でマジカルなアレが固くなる

余るガム

文字の大きさ
91 / 117
第二部 高校生編

こういう展開でメインヒロインが相方にならないっておかしくね?

しおりを挟む
「ブラーボーゥ!」

 バチバチと五月蠅い拍手で木崎が寄ってくる。

「いやあ、やはり私の目に狂いはなかった。最初は不仲ながらも少しずつ近づきながら、最後は一気に調和するとは・・・まるで初心なカップルを彷彿とさせる一曲だったよ」
「カップル・・・」

 まあ、確かに外側から見ればそんな感じだったのだろう。
 しかし歌詞もない音楽からそこまで見出せるとは、凄い感受性だ。スカウトマンは伊達じゃないってことなんだろうか?

「ところで今の一曲、タイトルは何だね?」
「え?」
「え?」
「え?」

 沈黙。

「・・・あー、実はですね」

 部長が俺たちの作曲事情を簡単に解説する。
 その場その場で各々が気持ち良い様に音を合わせているだけで、作曲という風な作業工程は存在せず、故にタイトルも特に決められていないと。
 改めて文字に起こすとかなり異常だな。余所に提供するわけでもない自己満足な演奏だったから、特に意識もしてなかったが。

「つまり、あれかい? 今の曲は即興で、譜面も打ち合わせも録音もなく行われたと?」
「安心院君、録音してた?」
「してませんね。部長は?」
「僕もしてない」
「オーウ・・・てことは今の一曲はもう二度と聞けないと」
「再現して弾けはするでしょうが、まあ別物になるでしょうし」

 いっそ冷淡ですらある俺たちだが、人間意識していないとこんなもんである。
 演奏の最中が気持ちいいからそれでよし、以上の感慨を抱けないのだ。なんだか後先を考えないでヤリまくる阿呆の様なセリフだが。

 「ふーむ・・・どうやら私は予想以上の逸材と出会ってしまったのかもしれないなぁ・・・」



 木崎は帰った。
 今度行われるナントカのオーディションに来てくれ、と招待状っぽいものを渡して。

 なんでも受付で渡したら最大限便宜を図り、書類選考も無しに最終選考までスキップさせてくれるとか。

 異様な好待遇であるが、そんなもんをその場の思い付きレベルでほいっと寄こせる木崎は一体どこまでの裁量を許されているのかと少々空恐ろしい。

 俺がこのぺらい招待状に感じる価値はぺらさ相応のものだけであるが、きっと人によっては黄金以上に価値のある代物なのであろう。

 蛍光灯の明かりに透かしながら招待状を眺め、ふと言ってみる。

「部長、このオーディション行きます?」
「・・・」

 部長は難しい顔をして招待状の睨みつけている。
 よく考えれば部長は――見てくれからはとてもそうとは思えないが――三年生。受験戦争の真っただ中だ。部長がどういう進路を取るのかは知らないし興味もないが、大学受験の過酷さは知っている。部活をエンジョイしてるのが不思議なぐらいなのだ。
 そんなときにこのオファーだ。なんの脈絡もなく『ミュージシャンになる』と言って受験勉強を放棄するのとはわけが違う。

 安心に満ちた進学か、先行き見えぬ就職か。
 前者一択だった所にいきなりぶち込まれたこの問いかけ。
 普通ならノータイムで後者を切ってもおかしくない状況だが、木崎の招待状が後ろ髪を引く。誰でもなれるなら特別な存在になりたいものだし、ミュージシャンというのは分かりやすく特別だ。ある意味ではそれを担保するこの招待状は本来恐ろしく重い。

 霧立ち込める安寧の世界か、生死入り交じる情熱の世界か。
 そんな形容を極論と言えぬほどの大きな二択。

「僕は・・・どうしようか・・・」

 ぽつりと小さくつぶやかれる声。

「君は、どうするんだい? 安心院君」
「どうと言われましてもね。正直どうでもいいですよ。俺は単純に部長と一緒にこの部屋で演奏するのが好きだっただけで、俺の中じゃそこ以外は全部備品みたいな扱いです。今更観客が増えた所で備品が少し増えるだけ。一年生の時間的猶予に任せてちょいと試しにって事もできますが、相方が三年生の部長ではそうもいかないでしょうから、部長が決めてください」
「君一人なら・・・」
「それはそれで受け入れてくれるかもしれませんが、楽しくないので嫌です」

 いや別に一人で演奏すること自体が楽しくないわけじゃないのだが、部長と一緒だった方が楽しい。
 どうせ仕事にするんなら楽しい方が良いだろう。

 あれだな、ハーレム状態でもオ〇ニーは別腹みたいな話だな。

「全く君は・・・いつもいつも、ストレートだね」

 部長は苦笑した。

「羨ましいなぁ・・・僕は、色々考えちゃうタチだからさ。安心院君みたいに、自分の感情のままにスパッと決められたらなぁ・・・」
「部長、こんなものは菓子が欲しくて駄々をこねる餓鬼と大差ありません。評価されるのは嬉しいですが、建前とか理性とか、そういうのの方が社会性があって良いと思いますよ」

 自分への素直さ、とでもいうべきか。微も好んでいた俺の気質であるが、俺個人としてはどうも好きになりづらい部分だ。
 いまいち治す気にもなれない理由は現状特に実害を感じていないのと、もう諦めているの半々といったところか。

 前世ではむしろ建前人間だったと思うのだがな・・・。
 建前以上に大切にするべきものを見つけたとかそういうアレだろうか。主になじみ。

「はは、隣の芝生は青いってね」

 また部長が苦笑を、しかし今度はもっと楽しそうに笑った。

「うん、少し、考える時間をくれ。きっと、答えを出すから」



 まあ、部長に時間をくれと言われれば俺に否やは無い。直進も曲折も迂回も停滞も、全て任せると放り投げたのだ。これで文句をいうのは筋違いもいいとこ。
 自分の進路であるが、受験が忙しくなるまでに芽が出なければ撤退すればいいだけの事だ。それぐらいの課外活動ができる余裕があるくらいには成績も良いし、バイトを探していた俺としては渡りに船とも考えられる。ぶっちゃけこの理由結構大きいな。少なくとも肉体労働よりは割がよさそうだし。

 二年やそこらの下積みで芽が出るなら誰も苦労しない、芸能界を舐めるな。と夢破れて夢破るが生業となった者に言われそうだが、別に芽を出したいわけでもないのだから構うまい。
 それに十代の内の二年と言えば、自己投資としてはかなりの時間だろう。そして損切も決めておくのが投資の大原則。

 部長がやらないと言うなら、それはそれでバイト探しの時間が増えるだけだ。
 元の軌道に戻るのだから何の問題もない。

「とまあ、そんなわけで芸能活動するかもしれん。ほらこれ招待状」
「ケーくん、凄い人生してるね・・・?」
「死ぬまで付き合うんだから慣れてくれ」
「いや、まあ。慣れてはいると思うんだけど、付けてきた耐性とはまた違う方向性の攻撃が来たから、ちょっとくらっと来たというか・・・」
「お前はどういう耐性付けてきたんだ・・・?」
「女」
「それは本当にゴメン」
「ん、許す」

 許された。
 許されない方が良かったような気もするが、それはさておき。

「あー、でもあれか。仮に売れたらこうしてなじみと一緒に居る時間も無くなるのか」
「無くなるってことは無いと思うけど・・・まあ、少なくはなるよね」
「まあ、仕事をするというのは元よりそう言う事だから、しょうがないのは分かってるんだが、それでも少し嫌だな」
「私は・・・どうかな。ケーくんが輝いてるなら、液晶越しでもそこそこ嬉しい様な気がするけど」
「お前だけの俺じゃなくなるんだぜ?」
「今更でしょ」
「おっと墓穴だったな」

 微が入ってきたことでなじみの依存気質も改善されている様だ。
 それでも少し寂しいと思ってしまうのは、我儘なのだろうな。

「でもやっぱり、ケーくんは隣にいるのが一番好き」

 なじみが肩へと頭を乗せ、見上げながらふにゃりと笑う。
 俺もそれに破顔しながら、なじみの腰を抱き寄せる。

「ああ、止めてくれよ。そんな事言われたら、もうここから動きたくなくなるじゃないか」
「いいじゃん。ずっとこうしてようよ。明日も学校あるけど、それまで。ね?」

 なじみはそのまま、夕食も食べずに眠ってしまった。
 寝付いたのを確認してから、念力でタオルケットを引き寄せ、二人で巻き付ける。

 うむ、やはり超能力は痒い所に手が届く。これからも便利に使っていこう。

 朝日が昇るまでずっとなじみの顔を見ていて、一睡もしなかったが。
 不思議とその日は調子が良かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

田舎に帰ったら従妹が驚くほど積極的になってた話

神谷 愛
恋愛
 久しぶりに帰った田舎には暫くあっていない従妹がいるはずだった。数年ぶりに帰るとそこにいたのは驚くほど可愛く、そして積極的に成長した従妹の姿だった。昔の従妹では考えられないほどの色気で迫ってくる従妹との数日の話。 二話毎六話完結。だいたい10時か22時更新、たぶん。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

処理中です...