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第七話 風習を見直そう
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「ちょっと聞いてよ! スペインの牛追い祭りって、もう本物の牛が出ないらしいよ」
今日も部室で、遥が部活には関係のない話題を切り出す。
「ああ、それね……」
と葵。彼女が知っていたことに、遥は驚きを見せる。
「葵、知ってたの?」
「テレビで観た気がする。動物虐待だって言われて、ある町では発泡スチロールの大玉が使われるようになったって話でしょ?」
「そうそう!」
話が通じたことが嬉しい遥だった。
「あと、鬼の面をつけて子供がいる家々を巡る風習も、移住者ウケが悪くて苦労してるらしいね」
「それそれ。こっちも虐待だって言ってた」
「こうやって、いろんな伝統行事が消えていくのかもしれないね」
しみじみ言った葵は、話が終わったとばかりに本を取り出し、栞を挟んでいたページを開いて読み始める。その横では楓が教科書に落書きをしていた。
「なんかさぁ、違うんだよねぇ~」
不満げに言った遥は口先を尖らせて、その上に鉛筆を載せてみた。
「違うって、何が?」
「もっと他にさぁ、無くした方がいい風習ってなくない?」
「例えば?」
「もっとこう教育に悪い感じの……」
腕組みをして唸る遥に付き合うように、葵も本を閉じて考えてみた。困ったことに裸祭りばかり浮かぶ。それじゃないと首を振って気持ちを切り替えるも、今度は兄のパソコンに大量の画像があった少女のフンドシ姿が脳裏をかすめる。
「山笠……いや、何でもない」
理由を訊かれても答えたくないので葵は言葉を引っ込めた。これを言った後に、何処で知ったのかを訊かれるのが一番怖い。兄がネットで画像を集めていた話をしなくてはいけないからだ。
「一番、教育に悪いのって何だろう?」
葵の懸念をよそに、遥の興味は移っていた。口先から鉛筆を取って真剣に考えている。
「教育に悪いって言うと、う~ん……。あっ、PTAが目くじらを立てるのなら、性的だとか、暴力的だとか、下品だとか、子供が真似すると困るとか……」
「なんか、それってどれも一時的なヤツじゃない? もっとこう、根性が腐るからダメみたいな、根本的なヤツの方が問題じゃない?」
「そうだけど……。そんな風習ってある?」
葵が訊き返すと、遥は楓の方を見た。
楓は落書きをしたまま、ボソッとこぼす。
「お年玉」
遥と葵が顔を見合わせる。
「どの辺がダメなの?」
二人に同じタイミングで訊かれた楓は、ニタッと笑って話し始めた。
「何もせずにお金が貰える。苦労しなくても儲けられるという体験を子供にさせることで、勤労意欲を失わせて根性を腐らせる」
楓が珍しく長々と話しただけでも不気味なのに、何処となく楽しそうなのが余計に怖かった。
「なんで、楽しそうに言うワケ?」
「ナマポ人生になった時の言い訳になる」
遥は訊いてはいけないことを訊いてしまった気がした。葵は雰囲気を変えるべく、話を振ることにする。
「で、遥はお年玉って無くした方がいいと思う?」
「ダメ、収入が減るもん」
「だよね……。こんな感じで、人は既得権益を守っていくのかもしれないね」
遥と葵は何ともいえない気持ちになって、ふぅ~っと大きく息を吐いた。
「終了~」
と言って遥は、この話題を終わりにした。
今日も部室で、遥が部活には関係のない話題を切り出す。
「ああ、それね……」
と葵。彼女が知っていたことに、遥は驚きを見せる。
「葵、知ってたの?」
「テレビで観た気がする。動物虐待だって言われて、ある町では発泡スチロールの大玉が使われるようになったって話でしょ?」
「そうそう!」
話が通じたことが嬉しい遥だった。
「あと、鬼の面をつけて子供がいる家々を巡る風習も、移住者ウケが悪くて苦労してるらしいね」
「それそれ。こっちも虐待だって言ってた」
「こうやって、いろんな伝統行事が消えていくのかもしれないね」
しみじみ言った葵は、話が終わったとばかりに本を取り出し、栞を挟んでいたページを開いて読み始める。その横では楓が教科書に落書きをしていた。
「なんかさぁ、違うんだよねぇ~」
不満げに言った遥は口先を尖らせて、その上に鉛筆を載せてみた。
「違うって、何が?」
「もっと他にさぁ、無くした方がいい風習ってなくない?」
「例えば?」
「もっとこう教育に悪い感じの……」
腕組みをして唸る遥に付き合うように、葵も本を閉じて考えてみた。困ったことに裸祭りばかり浮かぶ。それじゃないと首を振って気持ちを切り替えるも、今度は兄のパソコンに大量の画像があった少女のフンドシ姿が脳裏をかすめる。
「山笠……いや、何でもない」
理由を訊かれても答えたくないので葵は言葉を引っ込めた。これを言った後に、何処で知ったのかを訊かれるのが一番怖い。兄がネットで画像を集めていた話をしなくてはいけないからだ。
「一番、教育に悪いのって何だろう?」
葵の懸念をよそに、遥の興味は移っていた。口先から鉛筆を取って真剣に考えている。
「教育に悪いって言うと、う~ん……。あっ、PTAが目くじらを立てるのなら、性的だとか、暴力的だとか、下品だとか、子供が真似すると困るとか……」
「なんか、それってどれも一時的なヤツじゃない? もっとこう、根性が腐るからダメみたいな、根本的なヤツの方が問題じゃない?」
「そうだけど……。そんな風習ってある?」
葵が訊き返すと、遥は楓の方を見た。
楓は落書きをしたまま、ボソッとこぼす。
「お年玉」
遥と葵が顔を見合わせる。
「どの辺がダメなの?」
二人に同じタイミングで訊かれた楓は、ニタッと笑って話し始めた。
「何もせずにお金が貰える。苦労しなくても儲けられるという体験を子供にさせることで、勤労意欲を失わせて根性を腐らせる」
楓が珍しく長々と話しただけでも不気味なのに、何処となく楽しそうなのが余計に怖かった。
「なんで、楽しそうに言うワケ?」
「ナマポ人生になった時の言い訳になる」
遥は訊いてはいけないことを訊いてしまった気がした。葵は雰囲気を変えるべく、話を振ることにする。
「で、遥はお年玉って無くした方がいいと思う?」
「ダメ、収入が減るもん」
「だよね……。こんな感じで、人は既得権益を守っていくのかもしれないね」
遥と葵は何ともいえない気持ちになって、ふぅ~っと大きく息を吐いた。
「終了~」
と言って遥は、この話題を終わりにした。
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