職業村人、パーティーの性処理要員に降格。

田原摩耶

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瓦解氷消【勇者ルートif】

05

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 イロアスたちがクエスト中、俺は自由だった。
 監視もなければ、いつものような雑用もない。理由もなく呼び出されて性処理を強要されることもない、本当に平穏な時間だった。
 その間、俺は宿屋の女将の手伝いや他の住人たちの手伝いを買って出た。勇者であるイロアスと一緒にいた俺を一味だと思ってるのだろう、『元』だといちいち訂正するのもアホらしかったしそれに頼られるのは嫌いではない。
 力仕事ならば訓練代わりにもなるだろう。とにかく余計なことを考える暇があれば身体を動かしていたかった。
 手伝ったお礼にタダ飯食わせてもらったり、色々使えそうなものを貰うこともあった。
 ――意外と、俺だけでもなんとかなるもんなんだな。
 いつもだったら隣にイロアスがいて、住人たちとの交渉もイロアスがしてくれた。俺はイロアスに従うだけだった。
『お前なら一人でもやっていける』なんて、いつの日かイロアスに言われた言葉が蘇る。
 ……戦地に出ず、平穏に暮らすだけなら俺だけではなくとも誰だってやっていけるだろう。けど、剣を振るうこともなく肌がヒリつくほどの刺激もない、いざこうして平坦とした生活の中に身を投じて分かるものがある。
 ――俺はこの生活を求めていない。

「おや、遅かったね。晩飯の用意が出来てるよ、食べていくかい?」

 ひと仕事を終え、帰って風呂に入って汗でも流そうかと思ったが宿屋の女将に声を掛けられ足を止めた。
「ああ、貰う」と行き先を食堂へと変更させ、俺は食堂スペースへと向かった。
 普段ならばイロアスたちがいるせいで狭く感じていた食堂内も利用する客は俺しかいない。寂しい、などとは思わない。むしろうるさい奴らもいなくなって清々する。

「それにしても、勇者様たちも大分遠いところまで行ったんだね。こんなに長い間部屋を空けてるなんて寂しくなるよ」

 女将が用意した夜飯をかっ食らっていると、ふと女将はそんなことを言い出した。確かにこの街に来てからはこんなに長期的に部屋を空けることはなかった。

「確かに、ただでさえこの宿は閑古鳥が鳴いてるからな」
「まーたこの子はそんなことばかり言って……! 明日の朝飯は肉抜きだよ!」
「げ……」

 藪蛇だ。これ以上は突かないように飯を食って誤魔化そうとする。

「早く戻ってくるといいけどねえ。……今日もまた勇者様を訪ねてきた子たちがいたし」
「訪ねてきた子? 依頼か?」
「さあね、詳しくは聞かなかったけど『ここに勇者はいないか』って……あの身なりからして冒険者のようだったけどなんだったんだろうね」
「……」

 ――冒険者が?
 なんとなく引っかかった。ギルドで他の冒険者たちと出くわすことはあるが、それでも基本一期一会みたいなものだ。わざわざ滞在してる宿まで探し当てて訪ねるなんてなんなんだ。
 ――正直、いい予感はしない。

「そいつら、名乗ってはいなかったのか?」
「名前は聞いてないねえ……あんたのとこの……あの男前な兄ちゃんくらいの子だったよ」
「ナイトか?」
「違う違う、あの口が上手で笑顔が素敵な……」
「………………まさか、シーフのこと言ってんのか?」
「そうそう! あんたや勇者様より少し上くらいの」

 ……おばさん、男見る目ないんじゃないか。
 そう、喉元まで出かかったが肉以外のものまで抜きにされたら笑い事ではない。敢えてぐっと堪えた。

「連中が次にきたとき名前と所属聞いといてくれよ」
「ああ、わかったよ。……って、もう食べたのかい?」
「……ごちそさん。美味かった」

 それだけを伝え、席を立つ。そのまま階段を登って自室へと戻った。
 名前と所属が分かればギルドに行って素性も調べられるだろう。

 勇者という立場上、民衆から頼られ崇め奉られる一方で勇者の存在を恨み妬む輩もいる。
 それは勇者が成敗した連中だったり、その結果職を失った奴らだったり、元はといえば悪事に手を染めるようなどうしようもない連中だ。今までしたことや自分を鑑みるやつらもいれば、その逆で一方的に逆恨みする輩も少なくはない。
 ……それは同業者にもいる。誰しもが勇者を頼るせいでクエストが少なくなり、職を失うやつもいるというのをここ数日聞いたことがある。
 そうならないように基本はあまり長期滞在はしないようにイロアスも気を付けてるが、今回ばかりは事情が事情だ。
 ……俺には俺のやれることをするだけだ。本当に困っててイロアスを頼りに来てるやつだけならまだいい。それならば俺が引き受けてイロアスに渡す。
 けど、そうでなければ……――。

「面倒なことにならなきゃいいけどな……」

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