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第四章【モンスターパニック】
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「……ふう……」
なんだか体が熱い……一口だけ寒天食べちゃっていいかな。でも、またお酒飲まされそうになったときのために残しておきたいし、一応……。
なんて考えていたとき、鎖の音ともにみしりと近くの畳が軋む。落ちてくる陰。顔を上げれば、そこには京極がいた。
「む、なんだ。もう呑んだのか。どうだったか? 喉から尿道まで焼けるような辛さが堪らんだろう」
「は、はい……なんか、頭の奥まで痺れるような……」
「そうかそうか、小僧のくせに分かってるではないか」
そのままどかりと隣に腰を下ろす京極。さっきよりも距離が近い。丸太のような京極の膝が俺の体に当たるが、京極はそんなことお構いなしに俺の肩に手を回した。
「わ、ぁ」
「妖怪でも下戸はいる。そんなつまらんやつよりも余程小僧、貴様はいい舌と喉を持ってるようだな」
「あ、ありがとうございます……京極さん」
……待ってくれ。なんか、酒飲めたせいで余計やばそうになってないか?
「もっといい酒を――と思ったが、人間の身体は脆弱過ぎて勝手がよう分からん。代わりに珍しいツマミでも用意させるか」
「ツマミですか?」
「ああ、色々あるぞ。一口食べるだけで天にも昇るような気分になれるという幻の茸や、食べた者を別の種へと作り変える寄生植物」
「きょ、京極さんも食べるんですか……?」
「無論だ。この齢にもなると楽しみは食しかないからな。……が、結果はこのザマだ」
開けた着物の奥、筋肉に覆われた胸を叩く京極に少しだけびっくりした。
「既に呪われた身だ、そこらの呪いは効かんらしい。これ程つまらぬことがあるか」
「……ってことは」
「ああ、心配するでない。他の者で試したがしかと効き目はあった。曜、貴様も試してみるか?」
ふれんどりーでまいぺーすな笑みを浮かべ、京極は楽しげに笑いかけてくる。が、肩を抱く手は強い。少しでも力を加えられたら発泡スチロールみたいに砕かれるに違いないだろう。
酔いも冷めるような緊張感。ここは穏便に断らなければ。
「あ、や、やめときます……」
「なんだ? 酒が足りないのか?」
「あーっ、ゃ、じゃあ、……き、キノコだけなら……俺、野菜はあまり食べれないので……!」
危ねえ、と慌てて付け加えれば、京極は「そうこなくては」と俺の顎の下を撫で、そのまま犬かなにかにするかのように顔を揉みくみゃにする。
な、なんとか死亡フラグは回避できた……のか?
それにしても天にも昇るような気分になれるキノコってなんだ。
大丈夫なやつだろうな、と心配してる俺を横にさっさと京極は他の妖怪を呼び付け、何かを伝えていた。
そう言えば、黒羽さんたちは――と辺りをちらりと伺おうとしたときだった。
「え、う、うわわ……っ!」
いきなり京極の腕に抱き抱えられ、ぎょっとした。普段よりも一気に高くなる視線に驚き、理解するよりも先に目の前にあった京極の首元にしがみつく。そんな俺を片腕で軽々と抱き抱えた京極は、「京極様」と駆け寄ってくる白梅を一瞥した。
「酒が回ってきた。少し冷ましてくる」
「畏まりました。……ですが、その、曜殿は……」
「話の途中だ。邪魔はするなよ」
「――畏まりました」
そう低く頭を下げる白梅。そんな彼女の後頭部を見るわけでもなく、京極は俺を抱きかかえたまま広間の奥の襖へと進んでいった。
京極の肩越しに振り返れば、黒羽と目があった。今にも死にそうな顔をしてる黒羽に『多分大丈夫そう』とジェスチャーしていると「じっとしておれ」と頭を掴まれそのまま腕の中に押し込められる。京極さんの胸、思ったよりも柔らかいな。なんて思いながら、俺はなんだか気に入られてしまったな、とぼんやりと酔った頭で考えていた。
なんだか体が熱い……一口だけ寒天食べちゃっていいかな。でも、またお酒飲まされそうになったときのために残しておきたいし、一応……。
なんて考えていたとき、鎖の音ともにみしりと近くの畳が軋む。落ちてくる陰。顔を上げれば、そこには京極がいた。
「む、なんだ。もう呑んだのか。どうだったか? 喉から尿道まで焼けるような辛さが堪らんだろう」
「は、はい……なんか、頭の奥まで痺れるような……」
「そうかそうか、小僧のくせに分かってるではないか」
そのままどかりと隣に腰を下ろす京極。さっきよりも距離が近い。丸太のような京極の膝が俺の体に当たるが、京極はそんなことお構いなしに俺の肩に手を回した。
「わ、ぁ」
「妖怪でも下戸はいる。そんなつまらんやつよりも余程小僧、貴様はいい舌と喉を持ってるようだな」
「あ、ありがとうございます……京極さん」
……待ってくれ。なんか、酒飲めたせいで余計やばそうになってないか?
「もっといい酒を――と思ったが、人間の身体は脆弱過ぎて勝手がよう分からん。代わりに珍しいツマミでも用意させるか」
「ツマミですか?」
「ああ、色々あるぞ。一口食べるだけで天にも昇るような気分になれるという幻の茸や、食べた者を別の種へと作り変える寄生植物」
「きょ、京極さんも食べるんですか……?」
「無論だ。この齢にもなると楽しみは食しかないからな。……が、結果はこのザマだ」
開けた着物の奥、筋肉に覆われた胸を叩く京極に少しだけびっくりした。
「既に呪われた身だ、そこらの呪いは効かんらしい。これ程つまらぬことがあるか」
「……ってことは」
「ああ、心配するでない。他の者で試したがしかと効き目はあった。曜、貴様も試してみるか?」
ふれんどりーでまいぺーすな笑みを浮かべ、京極は楽しげに笑いかけてくる。が、肩を抱く手は強い。少しでも力を加えられたら発泡スチロールみたいに砕かれるに違いないだろう。
酔いも冷めるような緊張感。ここは穏便に断らなければ。
「あ、や、やめときます……」
「なんだ? 酒が足りないのか?」
「あーっ、ゃ、じゃあ、……き、キノコだけなら……俺、野菜はあまり食べれないので……!」
危ねえ、と慌てて付け加えれば、京極は「そうこなくては」と俺の顎の下を撫で、そのまま犬かなにかにするかのように顔を揉みくみゃにする。
な、なんとか死亡フラグは回避できた……のか?
それにしても天にも昇るような気分になれるキノコってなんだ。
大丈夫なやつだろうな、と心配してる俺を横にさっさと京極は他の妖怪を呼び付け、何かを伝えていた。
そう言えば、黒羽さんたちは――と辺りをちらりと伺おうとしたときだった。
「え、う、うわわ……っ!」
いきなり京極の腕に抱き抱えられ、ぎょっとした。普段よりも一気に高くなる視線に驚き、理解するよりも先に目の前にあった京極の首元にしがみつく。そんな俺を片腕で軽々と抱き抱えた京極は、「京極様」と駆け寄ってくる白梅を一瞥した。
「酒が回ってきた。少し冷ましてくる」
「畏まりました。……ですが、その、曜殿は……」
「話の途中だ。邪魔はするなよ」
「――畏まりました」
そう低く頭を下げる白梅。そんな彼女の後頭部を見るわけでもなく、京極は俺を抱きかかえたまま広間の奥の襖へと進んでいった。
京極の肩越しに振り返れば、黒羽と目があった。今にも死にそうな顔をしてる黒羽に『多分大丈夫そう』とジェスチャーしていると「じっとしておれ」と頭を掴まれそのまま腕の中に押し込められる。京極さんの胸、思ったよりも柔らかいな。なんて思いながら、俺はなんだか気に入られてしまったな、とぼんやりと酔った頭で考えていた。
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めちゃくちゃ好きです...!!
皆好きだけど個人的推しは獄長なのでまたどこかで獄長と曜くんのえちち見たいです...!