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2.シャーデンフロイデ
ボーダーライン
しおりを挟む慈門君に連絡し、落ち合うために昇降口へと降りることになる。
慈門君を俟っている間も頭の中では純白君の怪我のことや常楽先生のことがぐるぐると回っては自然と気分が落ち込んでいくようだった。
そんな時、「折!」と遠くから名前を呼ばれた。
振り返ればそこには慈門君がいた。
「悪い、待たせたか?」
「ううん、大丈夫だよ。……それよりごめんね、遅くなって」
「いいよ。つか、お前は自分の仕事頑張ってきたんだから謝んなって」
そう笑う慈門君はこちらへと手を伸ばしかけ、僕が少しだけ驚けば「わり」と慌てて手を引っ込めた。
「んじゃ、帰るか」
昼間より、いくらか慈門君の機嫌が良くなっている。
そのことに少しだけほっとしながら、僕は「うん」と頷いて慈門君とともに昇降口を後にする。
他愛ない会話を交えながら慈門君と並んで帰る。
前ほど盛り上がるわけでも、手を繋ぐわけでもない。緩やかな会話のテンポは今の僕にとって丁度よくあった。
「慈門君、何かいいことあった?」
ふと、会話が途切れるタイミングで気になっていたことをそのまま口にすれば、慈門君は「え?」と驚いたように目を丸くした。
「だって、昼よりも少し元気そうだったから」
「良いこと……そうだな、あるっちゃあるけど……」
「けど?」
「……折と一緒に過ごせたから」
言いながら恥ずかしくなったらしい。語尾が少しだけ萎む慈門君にどう反応すればいいのか分かるず、「そっか」とだけ頷いた。
どんな理由にせよ、落ち込んでいるよりは慈門君らしいともいえる。
……また無理していなければ、の話ではあるが。
「折は……疲れてるな」
「そうかな。……そんなに今日は忙しくなかったんだけど」
「なんかあった?」
尋ねられ、少しだけ考える。
あると言えばあるが、彼に伝えるような内容ではないだろう。常楽先生と純白君の顔を思い浮かべながら僕は小さく首を横に振った。
「大したことはないよ。いつも通りかな」
「……ふーん」
「でも、慈門君が元気だと僕も元気もらえるよ。……だから、元気になった」
歩道の途中。足を止めた慈門君は僕をじっと見つめる。
それもほんの少しの間のことだ。横を自転車が通り過ぎていけば、慈門君は「そうか」とだけ呟いて再び足を進め出す。
「なあ、折。今日折んち行きたい」
「……慈門君」
「変なこととかしないから。……折が嫌がるようなことも。……なあ、ダメか?」
そう不安そうな目でこちらを見下ろしてくる慈門君。
お互い距離を取りつつ、ラインを探っている。それは言葉の端々から感じていたが――これは、どうなのだろうか。
慈門君の言葉を信じたい反面、『まだやめておいた方がいいんじゃないか?』と胸の奥でもう一人の自分が警告する。
でも、この時間からだと母親も帰ってきていてもおかしくないだろう。
慈門君と二人きりになる可能性も少ない。
慈門君が心の底からそう言っているのだとすれば、それに向き合わなければ慈門君に失礼だ。
僕は迷った後、「わかった」と頷いた。
「……本当に? いいのか?」
「なんで慈門君が驚いてるの?」
「や、ダメ元だったんだ。けど、……そっか。よかった、断られなくて」
本当はギリギリまで迷っていたが、わざわざ水を差す必要もないだろう。
僕は適当に笑い返し、それからそのまま足を自宅へとまっすぐ向けることにした。
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