50 / 152
2.シャーデンフロイデ
ボーダーライン
慈門君に連絡し、落ち合うために昇降口へと降りることになる。
慈門君を俟っている間も頭の中では純白君の怪我のことや常楽先生のことがぐるぐると回っては自然と気分が落ち込んでいくようだった。
そんな時、「折!」と遠くから名前を呼ばれた。
振り返ればそこには慈門君がいた。
「悪い、待たせたか?」
「ううん、大丈夫だよ。……それよりごめんね、遅くなって」
「いいよ。つか、お前は自分の仕事頑張ってきたんだから謝んなって」
そう笑う慈門君はこちらへと手を伸ばしかけ、僕が少しだけ驚けば「わり」と慌てて手を引っ込めた。
「んじゃ、帰るか」
昼間より、いくらか慈門君の機嫌が良くなっている。
そのことに少しだけほっとしながら、僕は「うん」と頷いて慈門君とともに昇降口を後にする。
他愛ない会話を交えながら慈門君と並んで帰る。
前ほど盛り上がるわけでも、手を繋ぐわけでもない。緩やかな会話のテンポは今の僕にとって丁度よくあった。
「慈門君、何かいいことあった?」
ふと、会話が途切れるタイミングで気になっていたことをそのまま口にすれば、慈門君は「え?」と驚いたように目を丸くした。
「だって、昼よりも少し元気そうだったから」
「良いこと……そうだな、あるっちゃあるけど……」
「けど?」
「……折と一緒に過ごせたから」
言いながら恥ずかしくなったらしい。語尾が少しだけ萎む慈門君にどう反応すればいいのか分かるず、「そっか」とだけ頷いた。
どんな理由にせよ、落ち込んでいるよりは慈門君らしいともいえる。
……また無理していなければ、の話ではあるが。
「折は……疲れてるな」
「そうかな。……そんなに今日は忙しくなかったんだけど」
「なんかあった?」
尋ねられ、少しだけ考える。
あると言えばあるが、彼に伝えるような内容ではないだろう。常楽先生と純白君の顔を思い浮かべながら僕は小さく首を横に振った。
「大したことはないよ。いつも通りかな」
「……ふーん」
「でも、慈門君が元気だと僕も元気もらえるよ。……だから、元気になった」
歩道の途中。足を止めた慈門君は僕をじっと見つめる。
それもほんの少しの間のことだ。横を自転車が通り過ぎていけば、慈門君は「そうか」とだけ呟いて再び足を進め出す。
「なあ、折。今日折んち行きたい」
「……慈門君」
「変なこととかしないから。……折が嫌がるようなことも。……なあ、ダメか?」
そう不安そうな目でこちらを見下ろしてくる慈門君。
お互い距離を取りつつ、ラインを探っている。それは言葉の端々から感じていたが――これは、どうなのだろうか。
慈門君の言葉を信じたい反面、『まだやめておいた方がいいんじゃないか?』と胸の奥でもう一人の自分が警告する。
でも、この時間からだと母親も帰ってきていてもおかしくないだろう。
慈門君と二人きりになる可能性も少ない。
慈門君が心の底からそう言っているのだとすれば、それに向き合わなければ慈門君に失礼だ。
僕は迷った後、「わかった」と頷いた。
「……本当に? いいのか?」
「なんで慈門君が驚いてるの?」
「や、ダメ元だったんだ。けど、……そっか。よかった、断られなくて」
本当はギリギリまで迷っていたが、わざわざ水を差す必要もないだろう。
僕は適当に笑い返し、それからそのまま足を自宅へとまっすぐ向けることにした。
あなたにおすすめの小説
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って?
いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。