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SSS
たのしい浮気のススメ【浮気先輩×受け←後輩】
「なあ、どうして別れるとか言うんだよ」
好きだった男に引き止められて、何故嬉しいという気持ちよりも悲しみの方が強いのか。自分でも考えたくなかった。
「だって、もう無理なんですよ。俺達。というか先輩、先輩だってそうじゃありませんか」
「なにが」
「俺のこと、もう好きじゃないでしょう」
「誰もそんなこと言ってないだろ」
すかさず応える恋人だった男に、ただやるせなくなる。心の底で求めていたのは『好きだ』の三文字だった。けれど、それを口にしてくれないのだから。
「おい、待てって」
「離してください、もう……無理です」
「いいから落ち着けって……っうわ、危ないだろ!」
掴んでくる元恋人――サークルの先輩の手を振り払い、俺は足早にその場を逃げ帰ったのだ。
「……ったく、なんなんだよあいつ。……あーもしもし、どしたー?」
「……はあ」
一人で部屋で飲んでいたらそれこそ余計滅入ってしまいそうだった。だから、行きつけの飲み屋のカウンターで呑んでいたら隣の椅子に見知った顔の男が座る。
「どうしたんですか、そんな顔して」
そうこちらを覗き込んでくるのは後輩だ。サークルは違うが大学が同じで、たまたま家が近いという後輩。それだけなのだが、やたらこいつは俺がこうして一人酒を飲んでいると現れる。
そして、今回も例に漏れずということらしい。
「……別に、なんでもない」
「彼氏さんと上手く行ってないんでしょう、どうせ」
「どうせってなんだよ」
「貴方は分かり易すぎるんですよ。……ほら、そんなハイペースで呑んでたらまたぶっ倒れますよ」
「……倒れない」
「貴方をおぶって連れ帰らなきゃならないの、俺なんですからね」
「別に、頼んでない」
「頼んでなくとも家が近いんですからそうなるんですよ。……ほら」
抱えていたジョッキごと奪われ、俺は隣で笑う後輩を睨む。
「……っ、返せよ」
「だめです。……なにがあったか話してください、少なくとも一人で自棄酒するよりはよっぽど健全だと思いますよ」
「………………ここじゃ、無理だ」
「そうですか、じゃあ場所移しますか」
言うなり、店主に声を掛けて空いてる個室へと移動することとなる。やけにテキパキしてんのが余計腹立たしいが、既にアルコール漬けになっていた俺の足ではやつから逃げることはできなかった。
――個室内。
「……なるほど、それは予想外でした」
「予想外ってなんだよ」
「貴方の方から別れる、なんて。彼氏さんも大層驚かれたんじゃないですか?」
「どうだかな。あの人だってきっとせいせいしてるに決まってる。俺がいなくなれば堂々と遊べるって」
そう、後輩に返してもらったジョッキに口をつければ、「浮気のこと、知ってたんですか?」と隣に座っていた後輩は目を丸くした。元々あの人が女好きだってのは知ってた、承知の上で告白したのはこっちだったし。
「……嫌でも耳に入ってくる」
「それなのに、今までよく一緒に居ましたね」
「……あの人が別れたがってるのは分かってたから」
「だから意固地になってたと」
「意固地って言うのやめろ。……俺は、ただ」
「……」
「そりゃ、爪痕だけでも残してやろうと思った……けど、俺なんかじゃ傷一つつけられない」
べりべりと、吐露すればするほど仮面が剥がされていく。今まで塞ぎ込んでいた言葉は口から言葉となり涙となりぽろぽろと溢れるのだ。
そして、俺をじっと見つめていた後輩は目を細めた。
「――傷つけたいんですか?」
かたん、と後輩は手にしていたグラスをテーブルに置く。そして。
「……な、に」
こちらへと顔を寄せてきたと思えば、視界が暗くなる。唇に柔らかく押し付けられる感触に驚いて咄嗟に離れようとしたとき、「先輩」と耳元で後輩に呼ばれ体が緊張した。
「俺がいい復讐の仕方、教えてあげますよ」
「お前……」
「彼氏……ああ、元彼氏さんに傷をつけたいんですよね。でしたら、俺が協力しますよ。先輩」
「……っ、どういう……意味だよ」
「そのままの意味です。だから、先輩は謝りに帰ってください。あの人のところに」
「……おい」
「それから今まで通り恋人としてあの人と過ごして――それから、俺と浮気をしましょう」
いつもと変わらない飄々とした笑顔を浮かべ、後輩は青ざめる俺の頬をそっと撫でる。
「貴方を傷つけた分を全部あの人に返して、それからあの人に注いだ愛情を俺に向けてください。……そうすれば、貴方は報われます」
「お前、頭おかしいよ……」
「でも先輩、笑ってますよね」
指摘され、つられて口元を手で抑えた。「呑み過ぎですよ」とくすくすと笑う後輩。
こいつの言ってることは倫理に反してる。愛されたかった、気まぐれでもいいから少しでも振り向いてもらいたかった俺と正反対の言葉だ。
分かってるのに、何故こうも強く惹き付けられるのか。
俺は残っていたビールを一気に飲み干した。脳を焼き切るようなアルコールの熱に、気分が高揚する。
「……まだ、お前を愛するには足りないくらいだ」
おしまい
好きだった男に引き止められて、何故嬉しいという気持ちよりも悲しみの方が強いのか。自分でも考えたくなかった。
「だって、もう無理なんですよ。俺達。というか先輩、先輩だってそうじゃありませんか」
「なにが」
「俺のこと、もう好きじゃないでしょう」
「誰もそんなこと言ってないだろ」
すかさず応える恋人だった男に、ただやるせなくなる。心の底で求めていたのは『好きだ』の三文字だった。けれど、それを口にしてくれないのだから。
「おい、待てって」
「離してください、もう……無理です」
「いいから落ち着けって……っうわ、危ないだろ!」
掴んでくる元恋人――サークルの先輩の手を振り払い、俺は足早にその場を逃げ帰ったのだ。
「……ったく、なんなんだよあいつ。……あーもしもし、どしたー?」
「……はあ」
一人で部屋で飲んでいたらそれこそ余計滅入ってしまいそうだった。だから、行きつけの飲み屋のカウンターで呑んでいたら隣の椅子に見知った顔の男が座る。
「どうしたんですか、そんな顔して」
そうこちらを覗き込んでくるのは後輩だ。サークルは違うが大学が同じで、たまたま家が近いという後輩。それだけなのだが、やたらこいつは俺がこうして一人酒を飲んでいると現れる。
そして、今回も例に漏れずということらしい。
「……別に、なんでもない」
「彼氏さんと上手く行ってないんでしょう、どうせ」
「どうせってなんだよ」
「貴方は分かり易すぎるんですよ。……ほら、そんなハイペースで呑んでたらまたぶっ倒れますよ」
「……倒れない」
「貴方をおぶって連れ帰らなきゃならないの、俺なんですからね」
「別に、頼んでない」
「頼んでなくとも家が近いんですからそうなるんですよ。……ほら」
抱えていたジョッキごと奪われ、俺は隣で笑う後輩を睨む。
「……っ、返せよ」
「だめです。……なにがあったか話してください、少なくとも一人で自棄酒するよりはよっぽど健全だと思いますよ」
「………………ここじゃ、無理だ」
「そうですか、じゃあ場所移しますか」
言うなり、店主に声を掛けて空いてる個室へと移動することとなる。やけにテキパキしてんのが余計腹立たしいが、既にアルコール漬けになっていた俺の足ではやつから逃げることはできなかった。
――個室内。
「……なるほど、それは予想外でした」
「予想外ってなんだよ」
「貴方の方から別れる、なんて。彼氏さんも大層驚かれたんじゃないですか?」
「どうだかな。あの人だってきっとせいせいしてるに決まってる。俺がいなくなれば堂々と遊べるって」
そう、後輩に返してもらったジョッキに口をつければ、「浮気のこと、知ってたんですか?」と隣に座っていた後輩は目を丸くした。元々あの人が女好きだってのは知ってた、承知の上で告白したのはこっちだったし。
「……嫌でも耳に入ってくる」
「それなのに、今までよく一緒に居ましたね」
「……あの人が別れたがってるのは分かってたから」
「だから意固地になってたと」
「意固地って言うのやめろ。……俺は、ただ」
「……」
「そりゃ、爪痕だけでも残してやろうと思った……けど、俺なんかじゃ傷一つつけられない」
べりべりと、吐露すればするほど仮面が剥がされていく。今まで塞ぎ込んでいた言葉は口から言葉となり涙となりぽろぽろと溢れるのだ。
そして、俺をじっと見つめていた後輩は目を細めた。
「――傷つけたいんですか?」
かたん、と後輩は手にしていたグラスをテーブルに置く。そして。
「……な、に」
こちらへと顔を寄せてきたと思えば、視界が暗くなる。唇に柔らかく押し付けられる感触に驚いて咄嗟に離れようとしたとき、「先輩」と耳元で後輩に呼ばれ体が緊張した。
「俺がいい復讐の仕方、教えてあげますよ」
「お前……」
「彼氏……ああ、元彼氏さんに傷をつけたいんですよね。でしたら、俺が協力しますよ。先輩」
「……っ、どういう……意味だよ」
「そのままの意味です。だから、先輩は謝りに帰ってください。あの人のところに」
「……おい」
「それから今まで通り恋人としてあの人と過ごして――それから、俺と浮気をしましょう」
いつもと変わらない飄々とした笑顔を浮かべ、後輩は青ざめる俺の頬をそっと撫でる。
「貴方を傷つけた分を全部あの人に返して、それからあの人に注いだ愛情を俺に向けてください。……そうすれば、貴方は報われます」
「お前、頭おかしいよ……」
「でも先輩、笑ってますよね」
指摘され、つられて口元を手で抑えた。「呑み過ぎですよ」とくすくすと笑う後輩。
こいつの言ってることは倫理に反してる。愛されたかった、気まぐれでもいいから少しでも振り向いてもらいたかった俺と正反対の言葉だ。
分かってるのに、何故こうも強く惹き付けられるのか。
俺は残っていたビールを一気に飲み干した。脳を焼き切るようなアルコールの熱に、気分が高揚する。
「……まだ、お前を愛するには足りないくらいだ」
おしまい
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