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CASE.10『ヘッドハントヒーロー』
25
四葉と真赤が部屋を出て行った後。暫くして四葉だけが戻ってきた。
やけに疲れた様子で戻ってきた四葉は扉を施錠するなり「ごめん、善家さん」と頭を下げる。
「え、どうしたんですか?」
「……真赤君のこと、僕が軽率に任せたりしたから……嫌な気分になったよね?」
「ああ、そのことなら気になさらないで下さい。俺はほら、この通り平気ですので」
「でも、それでも真赤君の性格を考えれば距離感を考えるべきだったよ」
「四葉さん……」
なんだか戻ってきた四葉さんは元気がない、というか落ち込んでいるようだ。
真赤さんから何か言われたのだろうか。
ベッドから立ち上がり、一先ず立ったままの四葉さんをソファーに座らせる。「いいよ、すぐ帰るから」と四葉さんは断るが、俺が飲み物を準備しようとしてるのを見ると渋々ソファーに腰を落ち着かせた。
「あの、よかったらどうぞ。四葉さん」
「……ごめん、なんか気を使わせちゃって」
「いえ、俺がしたかったので。それに、四葉さんにはお礼を伝えなきゃと思ってたんです」
「……僕に?」
お茶を注いだグラスを四葉の前のテーブルに置く。
四葉はそれをじっと見つめ、それからこちらを見上げた。普段背の高い四葉の上目遣いはなんだか不思議な感じだ。
「はい。……佐渡さんのこと、見つけてくれたんですよね? 真咲さんから聞きました」
「ああ、ああ……それか。巡回中たまたま見かけてね、そしたら君が言ってた佐渡さんと特徴一致してたから」
背が高くて人が苦手なので少し挙動不審なところがあるけどいい人です、と伝えてたのが功をなしたようだ。
ちょっと言い過ぎたかなと思ったが、不審人物扱いされるよりはマシだろう。一先ずは無事解放区内へ潜入できた事実を喜ぼう。
「はい、そのおかげで佐渡さんと今日再会することができました。……ありがとうございます、四葉さん」
改めて頭を下げれば、「いいよ、そんなの」と四葉は慌てて俺の肩を掴んでやめさせる。
「……当たり前のことをしただけだよ。それに、君が喜んでくれるだけで十分だから」
「四葉さん……っ!」
「……なんて、はは。ちょっと臭いね」
自分で言って照れくさそうに四葉さんは笑う。
先ほどよりもその顔に明るさが戻り、つられて俺も破顔した。
「……なんか、調子狂うな」
「え?」
「なんだか君と話してると僕の方がヒアリングされてるみたいでさ、僕がちゃんとしなきゃなのにね」
「四葉さんは十分仕事されてますよ。……四葉さんは真面目なんですね」
「そんなことないよ。サボる暇があればサボりたいし――……って、こんなこと君に言うべきじゃないか。何言ってんだろ、僕……」
「気にしないでください。それに、仕事の愚痴は外部の人間への方が言いやすいと言いますし」
ふと四葉はこちらを見た後、その笑みを強張らせる。
「……怖いなあ、善家さん」
「え? あ、も、勿論協会の規約に引っかからない程度の愚痴ですよ……!」
「分かってるよ。……ふふ」
四葉さんが笑ってる。
今度はいつものの周りに合わせたような笑い方ではなく、自然に漏れたような笑い方だった。
その笑顔をついじっと見ていると、ふと四葉さんの横顔から笑みが消える。
グラスのお茶に口をつけ、そしてこちらを見た。
「……善家さん」
「は、はい……!」
「……真赤君に気をつけてね」
「え? ……あ……」
もしかしてさっきのことだろうか。
思わず唇を押さえれば、「それじゃなくて。いや、それもだけど」と四葉さんは付け加える。
「……色々、だよ。身内のことをこういうべきではないと分かってるけど、善家さん、立場的に結構……ね?」
あ、と思った。
さっきの真赤の口ぶりからなんとなく圧のようなものを感じていたが、それは実際スパイである俺だから感じたわけではないようだ。
四葉も同じものを感じたのだろう。けれど、それをわざわざ俺に忠告する意味はあるのか。
「心配してくださりありがとうございます。けど、その……俺の立場からして怪しまれるのは仕方ないことだと思いますので」
「そんなことないよ。……君はビクテムなんだから、普通は触れられるべきは……」
と、言いかけて、口を塞ぐ。
しまったという顔をする四葉に気づかないフリをし、咄嗟に話題を帰ることにした。
「真赤さんって、仕事熱心な方なんですね?」
「え? ああ、そう……だね。僕もたまに驚かされるよ」
「でもなんだかギャップ、というか……やはり正義感が溢れる方なんですね。ヒーローになられる方というのは」
そう真赤の話題へと変えたとき、四葉の表情が先ほどよりも曇っていくのを見た。
そして、
「……正義感じゃないよ、あれは」
四葉さんはそう小さく溢す。
それはギリギリ俺の耳元まで届いた。
――正義感じゃない?
ではなんのためにヒーローとして人を助けるのか。
「……善家さん、君のお兄さんは確かに正義に燃える人だった。……けど、ヒーローは皆そうとは限らないんだ」
「四葉さん……?」
「ヴィラン相手に手段を選ばず好き勝手できる、というストレス解消を主だってるやつもいる。もちろん、金だけのために働くやつもいる。……だから、あまり人を信じない方がいいよ」
それは暗に真赤のことを指しているのか分からなかった。
けれど、四葉の考え方は分かった。
ヒーローこそ、かつてのヒーローに憧れていた人間ほど向いていない職業だと言う人間もいる。
そして四葉は恐らくそのタイプなのだろう。
「……ごめん、こんなことを言いたかったわけじゃないんだけどな。今のはオフレコで」
「いえ、大丈夫です。……四葉さんの優しさは伝わってきました。俺のこと、心配してくださってることも」
そう、そっと少し離れたところに腰を下ろす。
四葉はこちらをちらりと見た後、息を吐いた。
「……四葉さん、休んでいきますか?」
「いや、やめとくよ。……流石にちょっと、これ以上君に甘えるわけにはいかないからね」
肩にそっと触れようとした手をそっと取られ、そのままやんわりと外される。
「善家さん。君も、早めに休むんだよ」
「はい、今日はぐっすり眠れます。心配事が一つ減りましたので」
そう伝えれば、四葉は微笑んだ。
本当は紅音君のことを聞き出したかったが、あんな話をされたあとだとなかなかタイミングがなく、結局そのまま四葉は部屋を後にした。
「……四葉さん、大丈夫かな」
一人残されたソファーに腰をかけたまま、ぼんやりと去り際の四葉のことを思い出す。
大分心身疲弊しているように見えた。引き抜き候補とかそれ以前に心配だった。
しかし、拒絶された手前しつこく行ったところで逆に負担になりかねない。
今日はまだ体力は残っている。よし、と俺は身につけていたビクテムの濃紺の制服を脱ぎ、畳んでソファーの上に置いた。
少し薄着になったが、これならまあ……下っ端の新入りヒーローと思われ……たらいいな。
鏡の前に立ち、一応上に寝巻き代わりのTシャツに着替えた俺は意気込む。
そして、そろそろ四葉が帰ったであろうタイミングを見計らって夜のヒーロー寮探索へと出ることにした。
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