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ただ君に幸せになってもらいたかっただけなんです。
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エピソード5【ただ君に幸せになってもらいたかっただけなんです。】
――郁君が怒っている。
――理由は解らないがきっとまた僕が粗相をしてしまったのだろう。
一人きりの室内。素っ気ない郁君の態度を思い出す度に気が沈む。
しかし、凹んだからといってうじうじ部屋の中で大人しくするような真似をする気はない。
郁君が部屋を出ていって暫く。
部屋を出ていった郁君の後をつけるため、玄関から廊下へ出たときだ。
「あっ、せんぱいっ!」
ふと聞き覚えのある声。前方に目を向ければ驚いたような顔をした蕪木佳夫が悲鳴染みた声を上げ、何事かと目を丸くしたときだった。
視界の隅で影で動いた。その次の瞬間、背後からなにか白いものが伸び、そのままそれは僕の口許を塞ぐ。
布だ。口を塞ぐそれが白い布を握りしめた手だと気付いたときには遅く、いきなり口を塞がれた反射で息を飲んだ瞬間ぐらりと地面が揺れる。
「っ、……」
薬か。鼻と口を塞ぐように押し付けられた布を嗅ぎ、湿ったそれにそう直感する。
慌てて手を引き剥がそうとするが、逃げろと警報を鳴らす防衛本能に反して全身は重くなり指先からは力が抜ける。
びっくりしたまま僕の背後に目を向ける蕪木君の姿を最後に、僕の意識は一旦そこで途切れた。
次に目を覚ましたとき、僕は薄暗い部屋の中にいた。
アロマかなにかだろうか、部屋には胸焼けを起こしそうなくらい甘ったるい匂いが充満している。
只でさえ最悪の目覚めに拍車を掛けるのは部屋に流れる音楽だった。脳を揺さぶるような低音のBGMは平衡感覚を取り戻していない僕に軽い目眩を覚えさせてくれる。
そして、更にトドメが。
「せんぱい、要人せんぱい、起きてくださいっ」
うっすらと開いた瞼の向こう側には蕪木佳夫らしき小柄な少年がこちらを覗き込み、ガクガクと僕の肩を揺すってくる。
オレンジ色の照明でぼんやりとしか見えないが、確かに蕪木佳夫だ。
「……君は」
あまり会いたくない相手だったが全くもって状況が飲み込めない今、背に腹は変えられない。
「ここはどこなんだ」そう蕪木君に尋ねれば、蕪木君はぽっと頬を赤くしもじもじと顔を逸らす。
「それは……」
「お、やっと目ぇ覚ましたのかよ」
そう言いかけたときだった。一人の青年がこちらへと歩み寄ってくる。
聞き覚えのない馴れ馴れしい声。目を向ければ、そこには制服を着崩した黒髪の生徒がいた。
いきなり現れた第三者に驚いたが、よく見ると辺りには人影が蠢いている。
狭くはない室内。ここは寮の部屋かどこかだろうか。思いながら立ち上がろうとしたとき、手首と太股にちくりと痛みが走る。
その鋭い痛みに眉を寄せ、自分の足元に目を向けた。
そして、目を見開く。
「あんま動くなよ。それ、動けば動くほど深くいっちゃうから」
拘束椅子というのだろうか。両手両足腰足首と至るところを枷で椅子に固定され、その枷の内側には鋭い針が生えている。
どうやら今動いたことによって針が刺さったようだ。
手首がじんと熱くなり、針が刺さった箇所からは血が溢れる。僕は慌てて針を抜いた。
なんで自分がこんな椅子に座らされているのかわからず、無言で目の前の生徒に目を向ける。
傍に立つ生徒はなかなか整った顔をした、真面目そうな青年だった。
「それにしても随分とまあよく寝てたな。最近よく寝れてなかったのか? お前が暢気にぐーぐー眠ってたせいで待ちくたびれちゃっただろうが」
「俺も郁ちゃんも」なんなんだろうかこいつは。
まるで旧知の知人を相手にしてるような馴れ馴れしい口調で語り掛けてくる生徒を訝しげに思っていた僕は、その生徒の口から出た聞き慣れた固有名詞に停止した。
次の瞬間、タイミングを見計らったかのように部屋の電気が明るくなった。
そして、目の前の光景に息を飲む。
「か、郁君……っ」
向かい合うように置かれたソファーの上、郁君はいた。
そのソファーの周りには複数の生徒が立ち、郁君の体を押さえ付けている。
口、肩、腕、胸、腰、太股、足首。四方から伸び、自由を封じ込めようとしてくる手から逃げようとしていた郁君は椅子に拘束された僕の姿を見て目を見開く。
「かなめ、なんで……お前……っ」
そう、ショックを受けたような顔をした郁君が隙を見せたときだった。
ソファーへ歩み寄った黒髪の生徒はそのまま郁君の上に馬乗りになる。軋むスプリング。嫌な予感に全身が硬直した。
「そりゃ郁君が喜ぶだろうと思って連れてきてやったんだよ、サプライズだってサプライズ」
言いながら黒髪の生徒は郁君の着ていた服を掴み、そのまま乱暴にたくし上げる。青年の行動に驚いたのは郁君の方だった。
「っなに……ッ、すんだよ……っ!」
顔を強張らせ、無理矢理脱がせようとしてくる青年の腕を引っ掻き、なんとか引き剥がそうとする郁君は青年の体の下で身じろぎをした。
青年から逃げるように大きく揺れる腰。無理矢理露出した厚くはない肌。必死に逃げようともがく郁君を助けるわけでもなくにやにや笑いながら青年に加勢して郁を封じ込め、服を脱がそうとする周りに全身の血が煮えたぎるのがわかった。
「やめろっ! 今すぐ郁君から離れろ、汚い手で触るなッ」
慌てて立ち上がり駆け寄りたいのに全身を縛り付ける拘束帯が邪魔で儘ならない。焦燥からか声が掠れる。
枷を引きちぎろうと腕に力を入れるが、針が深く刺されば刺さるほど痛みで痺れた手首からは力が抜けた。それでも尚、歯で食い縛った俺は自力で枷を壊そうとする。
細くはない長い針が皮膚を突き破り肉を裂くように血管を傷付け、刺さった箇所からは血がだらだらと流れた。
「おい、落ち着けって。あんま暴れたら出血多量で貧血起こすぞ」
「いいから触るなって言ってんだろ!」
「へえ、こいつのことになると馬鹿になるってまじだったんだな。意外と熱血なのか?」
軽薄な笑みを浮かべたままこちらを一瞥した男は「ま、あんたに興味ねえけど」と笑う。その下品な笑みに、どっかの血管がぶち切れるのがわかった。
そんな僕を笑いながら服を剥かれ、唯一残った下着を脱がされまいと身構える郁君。その男はそのまま郁君の腿に触れる。
「けど、近付いてくる男不能にしてまで守ったケツって興味沸くよな」
慌てて振り払おうと足をバタつかせる郁君の足首を捉えた青年はその指を郁君の下着の裾の下へと滑り込ませる。その下にあるものを想像し、僕は全身から血の気を引かせた。
「おい、やめ……っ」
ダメだ、これ以上はダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだダメだダメだダメだ。
焦る頭とは裏腹に体は動かず、針を刺したままガチャガチャと拘束具を引き千切ろうとするがビクともしない。
こんなに近くにいるのに。今すぐにでも郁君の上に覆い被さる男を殴り殺したいのに。
体は動かない。
僕は自分を殺したくて堪らない。
「ひッ」
息を飲むような小さな悲鳴とともに郁君の体が跳ねた。
薄い下着の下、青年の手が動くのを見て僕は奥歯を噛み締める。
「ぁ、やだ、やめろ……っ、やめろってば……っ! やめてくれぇ……っ!」
見たくない、聞きたくない。なのに郁君の声は脳内で反響し、頭がおかしくなりそうだった。
僕はなにをしているんだ。こんな枷くらいさっさと壊せるだろう。
自分を叱咤する。しかし、痛みを堪え一気に根本まで針を突き刺した状態で枷を壊そうとすればするほど穴は広がり肉が裂けドクドクと溢れる血は手をぬるぬるにし、逆に滑りをよくしてしまうだけで。
あまりの激痛に焼けたように痺れ始める手足は思うように動かず、ただ大人しく見ていることしか出来ないこの状況が悔しくて悔しくて仕方がない。
「体がちっせえからかな、よく絡み付いてくるな。どっかのユルマンとは大違いだ」
「なにそれ、ボクのこと言ってんの?」
「お前じゃねーよユルマン」
「言ってんじゃん!」
血を流しながらも試行錯誤をするがどうすることも出来ずただ途方に暮れる俺を他所に楽しそうに談笑する青年と蕪木君の声が耳障りで堪らない。
頭がくらくらして、呼吸が浅くなる。
出血のせいか、それともこの部屋に充満した濃密な匂いのせいか。いや、それだけではないはずだ。
焦りだけが募り、聞こえてくる郁君の声に胸が張り裂けそうになった。
「は、ぁ……っ、やだ、いやだ、内藤、なんでこんなこと、内藤……っ!」
「いやーごめんな郁ちゃん、俺ずっとお前のちっちゃいケツに捩じ込んで中出ししまくるのが夢だったんだよな。痛くても我慢しろよ? 俺ちんこでけえから」
「っ、な……は?」
耳を塞ぎたくなるような青年の下品な言葉の数々に呆れたように目を丸くする郁君。
そんな郁君に構わず指を引き抜いた青年はそのまま下着を脱がすように郁君の腰を持ち上げ、剥き出しになったその臀部に手を這わせる。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ! やめろ、内藤、内藤……っ!」
今にも泣き出してしまいそうな悲痛な声に僕は唇を噛み、血を滴らせる手首の枷をギチギチと鳴らす。
ただ傷口が広がるだけで、気付けば手首同様針付きの枷が付けられた足首は真っ赤に染まりズボンの裾は血で湿っていた。
それでも構わずジタバタと身動ぎをする俺を一瞥した青年、もとい内藤は郁君の体を抱き抱え、そのまま自分の膝に乗せる。
背面座位。そんな単語が脳裏を掠めた。
「ほおら、御厨要人。よく見とけよ、いまからお前が大切にしてきた郁ちゃんの綺麗なケツマンコに俺のちんこハメんだよ。興奮するだろ?」
「ぃ、やだ、見るな……っ、要人! 要人っ、見るんじゃねえ!」
「あーもう暴れんな暴れんな、すーぐ気持ちよくしてやるからな、郁ちゃん。御厨要人、ほら、目ぇちゃんと開けよ」
立ち上がり、逃げ出そうとする郁君の腰を掴み自分の下腹部をその臀部に押し付け郁君の耳朶を甘噛みすれば、郁君は怯えたように肩をすくませる。
大人しくなった郁君から視線を離した内藤はこちらに目を向け、「佳夫」と蕪木君を呼んだ。
小さく顎でしゃくりコンタクトを送る内藤にむっと唇を尖らせる蕪木君は「わかってるよ、指図しないで」とそっぽ向く。そして、こちらを見た。
「要人せんぱい、ごめんね騙して。ボクは本当はこんなことしたくなかったんだけどこのバカ恭次がしつこくてね、ごめんねせんぱい、こんな役立たずで嘘つきなボクにいっぱいお仕置きしてくださいっ! ボク頑張ってバット三本目入るように頑張るから、だから、あの……せんぱい?」
押し黙り、無反応の僕に蕪木君は不安そうな顔をしてこちらを覗き込む。
「なんだ、ショックで失神かよ。童貞には刺激が強すぎたか?」項垂れたまま、顔を上げようとしない僕に内藤は笑った。
その声に反応するようにゆっくりと目を開けば、内藤と視線が絡み合う。
無理矢理開脚させられた郁君に目を向けないように気を付けながら、僕はただ内藤をじっと睨んだ。
「好きにしたらいいよ。挿入れるなりなんなりしたらいい」
「……は?」
その僕の言葉に驚いたのは内藤だった。意味がわからないと目を丸くする内藤のその膝の上、まるで鈍器かなにかで殴られたようなショックを受ける郁君は「かな、め」と掠れた声で名前を呼ぶ。
僕はそれに答える代わりに拳をきつく握りしめ、内藤を睨み付けた。
「その代わり、僕はお前を許さない」
平静を取り繕うことも出来なかった。
怒りで声が震え、唸るように語気がキツくなる。
「へえ、俺を慶太たちみたいにする気か? 辱しめて半殺しにして一生お前の言いなりにさせるのか?
――おもしれえ、やれるもんならやってみろよ」
そんな僕に流し目を向ける内藤は「やれるもんならな」と挑発的に笑う。余裕たっぷりの声。僕が動けないとわかってるからこその余裕が癪に障った。
頭が特別いいわけでもないし飛び抜けた趣味があるわけでもない。寧ろ手先は不器用で、言いつけを守ることも出来ない落ちこぼれだけど、それでも少しは成長していたと思っていた。
役に立てるような人間になることが出来ていたと思っていた。
でも、どうやらそれはただの過信だったらしい。
現に、僕は守るべき人間を守ることが出来ずただ眺めることしか出来ていないのだから。
「ぁ、やめろッ、や、ぁ……っ!」
「すっげえ締まりいいな。ほら、もっと可愛い声で鳴けよ」
「ぁッ、あっ、や……ッ、ぁ、や……め……ッひ、んん……っく、ぁ……ッ!」
室内に響く艶かしい郁君の声。
目の前のソファーでは複数の男相手と性行を交わす郁君がいて、僕はその行為を延々と見せられていた。
椅子の両サイドには見張り役の生徒が二人。脱力し、項垂れる僕の髪を無理矢理掴み顔を上げさせられる。目を閉じる度に殴られ、頬が痛んだ。
あまりの怒りと不安と絶望と落胆で情緒は不安定になり、腹の底からは吐き気が込み上げてくる。
憤怒を通り越し、言い知れぬ虚無感が全身を襲った。
先程内藤の口から出た渋谷君の名前。渋谷君には口外しないように言いつけていたはずだがどうやらあの男が内藤にチクったのだろう。
混乱の末冷静になった頭の中、僕はふといつの日か渋谷君の身辺を調査したときのことを思い出す。
内藤、ナイトウ――そうだ、郁君を落とせるか落とせないかで渋谷君と賭けていた生徒の名前が確かそんな感じだったはずだ。
特に珍しい名前というわけでもないが僕は内藤が渋谷君と繋がっていると確信する。
そう言えば、蕪木佳夫も内藤や渋谷君たちと知り合いのようだ。
偶然か、或いは必然か。どちらにせよ内藤に対する気持ちは変わらない。
静かに全身の神経を支配する殺意を隠す気にもなれなかった。
腫れた顔を晒したまま、僕は郁君の足を掴みそのまま挿入に夢中になっている内藤を眺める。
無意識の内に唇を噛んでいた。
血で固まった手首からはまた鮮血が流れ始める。
「恭次のやつ、よくやるよなぁ。榛葉に薬までやらせるなんて、流石に同情するわ」
「早く俺にも輪姦して~」
あちこちから聞こえる湿った水音に喘ぎ声。
盛っているのはソファーの上の連中だけではないようだ。
連中を遠巻きに眺める傍観者たちの言葉に僕は耳を傾ける。
薬。その単語に僕はどこからか発生しているこの甘い香りのことを思い出す。
目を覚ましたときから漂っていた濃密なアロマ。あれにもなにか入っているに違いない。
じゃないと、有り得ない。郁君があんな声を出すなんて。
やり場のない憤りは自分の体を傷付けることでしか解消されず、わざと針に皮膚を食い込ませればそんな僕の体から流れる血が気になったらしい。不安そうな顔をした蕪木君が近付いてくる。
「せんぱい、あの、血が……」
「触らないで」
「ご、ごめんなしゃいっ」
「…………」
目も向けずに吐き捨てれば慌てて手を引っ込める蕪木君は目を輝かせる。嬉しそうだ。しかも噛んでるし。
蕪木君には悪いが僕は彼に興味はないし構ってられるような余裕もない。
「っ、ぁ、は、ぁあッ!やめ、抜いて、ぬいて、お願い、内藤っ」
「……っ」
内藤に体を貪られ悲鳴を上げる郁君から目を逸らすことが出来ず、ただ、チャンスを伺う。
しかしそのチャンスは一向にやって来ず、ただ焦りだけが体の中で詰まれていく。
「……せんぱい」
自分の不甲斐なさに泣きそうになって、顔をしかめる僕に蕪木君は眉を垂れ、悲しそうな顔をした。
そして、なにを思ったのか僕の足元に跪き股座に顔を埋める。
「蕪木君」
「恭次のやつに手ぇ出すなって言われてたんですけど、やっぱ無理です。だって、辛そうなせんぱい見てるとボクまで辛くて……っ」
目をきらきらと輝かせぷっくりとした唇の端から涎を垂らす蕪木君はそれを舐め取りながら穿いていたスラックスに手を伸ばす。
馴れた手つきで前を緩め、下着に指を潜り込ませる蕪木君に僕は眉を寄せた。
辛くてってなんだ。ただヤりたいだけの間違えだろうが。
そう殴り掛かりたいところだったが、全身の枷が邪魔で蕪木君から逃げようとすればするほど傷口が開くばかりだった。
「やめてくれ蕪木君、蕪木君」
「良いです、遠慮しないでくださいせんぱい。ボクの口、いや口マンコ好きなだけ犯して喉に種付けしてください。なんならせんぱい専用にしてもいいですから」
下着から萎えた性器を取り出し、恍惚とした蕪木君はいいながら小さな唇を寄せそのまま先端をぱくりと咥える。
躊躇いなく舌を絡み付かせる蕪木君は唾液でたっぷりと全体を濡らし、しゃぶった。股座で動く蕪木君の小さな頭を睨みながら、僕は腹の底から込み上げてくる嫌悪感に全身を緊張させる。
突拍子のない蕪木君の行動はこの部屋に漂うアロマのせいかと思ったがよく考えてみればこいつの頭が可笑しいのは前々からだった。
「っ、ねえ、ちょっと……っ」
他人の体温、息遣い、自分に触れるあらゆるものが気持ち悪くてあまりにも堪えきれなかった僕は身動ぎをし、蕪木君を呼び止める。
蕪木君もあまりにも嫌悪感を剥き出しにした僕の異変に気付いたのだろう。
唾液で濡れた唇からじゅぷりと性器を吐き出した蕪木君は唾液にまみれた状態のまま寝ている性器に目を見開いた。
「あれ、なんで? ボク、フェラ得意なのに……」
ショックを受けたような顔をしてツンツンと性器をつつく蕪木君に顔を引きつらせた僕は「悪いけど僕、君じゃ勃たないから」とだけ答えた。
昔から、性欲がある方ではなかった。
思春期と呼ばれる年頃になってもそういうものに興味が沸かず、寧ろ嫌悪を覚える程で今までなにかを性対象とし興奮したことがない。
勃起不全、というやつだろうか。
「えっ、うそ、そんな……」
目に涙を溜め、心なしか嬉しそうな蕪木君になんでこいつは悦んでいるのだろうかと疑問に思いながら唾液でいやらしく濡れた性器に顔を近付け至近距離で見詰めてくる蕪木君が気持ち悪かったので堪らずその顔に唾を吐けば「ゃんっ!」とか言いながらビクンと体を跳ねさせ、そのまま僕の膝に倒れ込みビクビクと魚のように跳ねながらはあはあと息を乱れさせる蕪木君は顔にかかった唾を拭うどころか頬を染め恍惚な笑みを浮かべる。
本当、僕はこの子が苦手だ。
――郁君が怒っている。
――理由は解らないがきっとまた僕が粗相をしてしまったのだろう。
一人きりの室内。素っ気ない郁君の態度を思い出す度に気が沈む。
しかし、凹んだからといってうじうじ部屋の中で大人しくするような真似をする気はない。
郁君が部屋を出ていって暫く。
部屋を出ていった郁君の後をつけるため、玄関から廊下へ出たときだ。
「あっ、せんぱいっ!」
ふと聞き覚えのある声。前方に目を向ければ驚いたような顔をした蕪木佳夫が悲鳴染みた声を上げ、何事かと目を丸くしたときだった。
視界の隅で影で動いた。その次の瞬間、背後からなにか白いものが伸び、そのままそれは僕の口許を塞ぐ。
布だ。口を塞ぐそれが白い布を握りしめた手だと気付いたときには遅く、いきなり口を塞がれた反射で息を飲んだ瞬間ぐらりと地面が揺れる。
「っ、……」
薬か。鼻と口を塞ぐように押し付けられた布を嗅ぎ、湿ったそれにそう直感する。
慌てて手を引き剥がそうとするが、逃げろと警報を鳴らす防衛本能に反して全身は重くなり指先からは力が抜ける。
びっくりしたまま僕の背後に目を向ける蕪木君の姿を最後に、僕の意識は一旦そこで途切れた。
次に目を覚ましたとき、僕は薄暗い部屋の中にいた。
アロマかなにかだろうか、部屋には胸焼けを起こしそうなくらい甘ったるい匂いが充満している。
只でさえ最悪の目覚めに拍車を掛けるのは部屋に流れる音楽だった。脳を揺さぶるような低音のBGMは平衡感覚を取り戻していない僕に軽い目眩を覚えさせてくれる。
そして、更にトドメが。
「せんぱい、要人せんぱい、起きてくださいっ」
うっすらと開いた瞼の向こう側には蕪木佳夫らしき小柄な少年がこちらを覗き込み、ガクガクと僕の肩を揺すってくる。
オレンジ色の照明でぼんやりとしか見えないが、確かに蕪木佳夫だ。
「……君は」
あまり会いたくない相手だったが全くもって状況が飲み込めない今、背に腹は変えられない。
「ここはどこなんだ」そう蕪木君に尋ねれば、蕪木君はぽっと頬を赤くしもじもじと顔を逸らす。
「それは……」
「お、やっと目ぇ覚ましたのかよ」
そう言いかけたときだった。一人の青年がこちらへと歩み寄ってくる。
聞き覚えのない馴れ馴れしい声。目を向ければ、そこには制服を着崩した黒髪の生徒がいた。
いきなり現れた第三者に驚いたが、よく見ると辺りには人影が蠢いている。
狭くはない室内。ここは寮の部屋かどこかだろうか。思いながら立ち上がろうとしたとき、手首と太股にちくりと痛みが走る。
その鋭い痛みに眉を寄せ、自分の足元に目を向けた。
そして、目を見開く。
「あんま動くなよ。それ、動けば動くほど深くいっちゃうから」
拘束椅子というのだろうか。両手両足腰足首と至るところを枷で椅子に固定され、その枷の内側には鋭い針が生えている。
どうやら今動いたことによって針が刺さったようだ。
手首がじんと熱くなり、針が刺さった箇所からは血が溢れる。僕は慌てて針を抜いた。
なんで自分がこんな椅子に座らされているのかわからず、無言で目の前の生徒に目を向ける。
傍に立つ生徒はなかなか整った顔をした、真面目そうな青年だった。
「それにしても随分とまあよく寝てたな。最近よく寝れてなかったのか? お前が暢気にぐーぐー眠ってたせいで待ちくたびれちゃっただろうが」
「俺も郁ちゃんも」なんなんだろうかこいつは。
まるで旧知の知人を相手にしてるような馴れ馴れしい口調で語り掛けてくる生徒を訝しげに思っていた僕は、その生徒の口から出た聞き慣れた固有名詞に停止した。
次の瞬間、タイミングを見計らったかのように部屋の電気が明るくなった。
そして、目の前の光景に息を飲む。
「か、郁君……っ」
向かい合うように置かれたソファーの上、郁君はいた。
そのソファーの周りには複数の生徒が立ち、郁君の体を押さえ付けている。
口、肩、腕、胸、腰、太股、足首。四方から伸び、自由を封じ込めようとしてくる手から逃げようとしていた郁君は椅子に拘束された僕の姿を見て目を見開く。
「かなめ、なんで……お前……っ」
そう、ショックを受けたような顔をした郁君が隙を見せたときだった。
ソファーへ歩み寄った黒髪の生徒はそのまま郁君の上に馬乗りになる。軋むスプリング。嫌な予感に全身が硬直した。
「そりゃ郁君が喜ぶだろうと思って連れてきてやったんだよ、サプライズだってサプライズ」
言いながら黒髪の生徒は郁君の着ていた服を掴み、そのまま乱暴にたくし上げる。青年の行動に驚いたのは郁君の方だった。
「っなに……ッ、すんだよ……っ!」
顔を強張らせ、無理矢理脱がせようとしてくる青年の腕を引っ掻き、なんとか引き剥がそうとする郁君は青年の体の下で身じろぎをした。
青年から逃げるように大きく揺れる腰。無理矢理露出した厚くはない肌。必死に逃げようともがく郁君を助けるわけでもなくにやにや笑いながら青年に加勢して郁を封じ込め、服を脱がそうとする周りに全身の血が煮えたぎるのがわかった。
「やめろっ! 今すぐ郁君から離れろ、汚い手で触るなッ」
慌てて立ち上がり駆け寄りたいのに全身を縛り付ける拘束帯が邪魔で儘ならない。焦燥からか声が掠れる。
枷を引きちぎろうと腕に力を入れるが、針が深く刺されば刺さるほど痛みで痺れた手首からは力が抜けた。それでも尚、歯で食い縛った俺は自力で枷を壊そうとする。
細くはない長い針が皮膚を突き破り肉を裂くように血管を傷付け、刺さった箇所からは血がだらだらと流れた。
「おい、落ち着けって。あんま暴れたら出血多量で貧血起こすぞ」
「いいから触るなって言ってんだろ!」
「へえ、こいつのことになると馬鹿になるってまじだったんだな。意外と熱血なのか?」
軽薄な笑みを浮かべたままこちらを一瞥した男は「ま、あんたに興味ねえけど」と笑う。その下品な笑みに、どっかの血管がぶち切れるのがわかった。
そんな僕を笑いながら服を剥かれ、唯一残った下着を脱がされまいと身構える郁君。その男はそのまま郁君の腿に触れる。
「けど、近付いてくる男不能にしてまで守ったケツって興味沸くよな」
慌てて振り払おうと足をバタつかせる郁君の足首を捉えた青年はその指を郁君の下着の裾の下へと滑り込ませる。その下にあるものを想像し、僕は全身から血の気を引かせた。
「おい、やめ……っ」
ダメだ、これ以上はダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだダメだダメだダメだ。
焦る頭とは裏腹に体は動かず、針を刺したままガチャガチャと拘束具を引き千切ろうとするがビクともしない。
こんなに近くにいるのに。今すぐにでも郁君の上に覆い被さる男を殴り殺したいのに。
体は動かない。
僕は自分を殺したくて堪らない。
「ひッ」
息を飲むような小さな悲鳴とともに郁君の体が跳ねた。
薄い下着の下、青年の手が動くのを見て僕は奥歯を噛み締める。
「ぁ、やだ、やめろ……っ、やめろってば……っ! やめてくれぇ……っ!」
見たくない、聞きたくない。なのに郁君の声は脳内で反響し、頭がおかしくなりそうだった。
僕はなにをしているんだ。こんな枷くらいさっさと壊せるだろう。
自分を叱咤する。しかし、痛みを堪え一気に根本まで針を突き刺した状態で枷を壊そうとすればするほど穴は広がり肉が裂けドクドクと溢れる血は手をぬるぬるにし、逆に滑りをよくしてしまうだけで。
あまりの激痛に焼けたように痺れ始める手足は思うように動かず、ただ大人しく見ていることしか出来ないこの状況が悔しくて悔しくて仕方がない。
「体がちっせえからかな、よく絡み付いてくるな。どっかのユルマンとは大違いだ」
「なにそれ、ボクのこと言ってんの?」
「お前じゃねーよユルマン」
「言ってんじゃん!」
血を流しながらも試行錯誤をするがどうすることも出来ずただ途方に暮れる俺を他所に楽しそうに談笑する青年と蕪木君の声が耳障りで堪らない。
頭がくらくらして、呼吸が浅くなる。
出血のせいか、それともこの部屋に充満した濃密な匂いのせいか。いや、それだけではないはずだ。
焦りだけが募り、聞こえてくる郁君の声に胸が張り裂けそうになった。
「は、ぁ……っ、やだ、いやだ、内藤、なんでこんなこと、内藤……っ!」
「いやーごめんな郁ちゃん、俺ずっとお前のちっちゃいケツに捩じ込んで中出ししまくるのが夢だったんだよな。痛くても我慢しろよ? 俺ちんこでけえから」
「っ、な……は?」
耳を塞ぎたくなるような青年の下品な言葉の数々に呆れたように目を丸くする郁君。
そんな郁君に構わず指を引き抜いた青年はそのまま下着を脱がすように郁君の腰を持ち上げ、剥き出しになったその臀部に手を這わせる。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ! やめろ、内藤、内藤……っ!」
今にも泣き出してしまいそうな悲痛な声に僕は唇を噛み、血を滴らせる手首の枷をギチギチと鳴らす。
ただ傷口が広がるだけで、気付けば手首同様針付きの枷が付けられた足首は真っ赤に染まりズボンの裾は血で湿っていた。
それでも構わずジタバタと身動ぎをする俺を一瞥した青年、もとい内藤は郁君の体を抱き抱え、そのまま自分の膝に乗せる。
背面座位。そんな単語が脳裏を掠めた。
「ほおら、御厨要人。よく見とけよ、いまからお前が大切にしてきた郁ちゃんの綺麗なケツマンコに俺のちんこハメんだよ。興奮するだろ?」
「ぃ、やだ、見るな……っ、要人! 要人っ、見るんじゃねえ!」
「あーもう暴れんな暴れんな、すーぐ気持ちよくしてやるからな、郁ちゃん。御厨要人、ほら、目ぇちゃんと開けよ」
立ち上がり、逃げ出そうとする郁君の腰を掴み自分の下腹部をその臀部に押し付け郁君の耳朶を甘噛みすれば、郁君は怯えたように肩をすくませる。
大人しくなった郁君から視線を離した内藤はこちらに目を向け、「佳夫」と蕪木君を呼んだ。
小さく顎でしゃくりコンタクトを送る内藤にむっと唇を尖らせる蕪木君は「わかってるよ、指図しないで」とそっぽ向く。そして、こちらを見た。
「要人せんぱい、ごめんね騙して。ボクは本当はこんなことしたくなかったんだけどこのバカ恭次がしつこくてね、ごめんねせんぱい、こんな役立たずで嘘つきなボクにいっぱいお仕置きしてくださいっ! ボク頑張ってバット三本目入るように頑張るから、だから、あの……せんぱい?」
押し黙り、無反応の僕に蕪木君は不安そうな顔をしてこちらを覗き込む。
「なんだ、ショックで失神かよ。童貞には刺激が強すぎたか?」項垂れたまま、顔を上げようとしない僕に内藤は笑った。
その声に反応するようにゆっくりと目を開けば、内藤と視線が絡み合う。
無理矢理開脚させられた郁君に目を向けないように気を付けながら、僕はただ内藤をじっと睨んだ。
「好きにしたらいいよ。挿入れるなりなんなりしたらいい」
「……は?」
その僕の言葉に驚いたのは内藤だった。意味がわからないと目を丸くする内藤のその膝の上、まるで鈍器かなにかで殴られたようなショックを受ける郁君は「かな、め」と掠れた声で名前を呼ぶ。
僕はそれに答える代わりに拳をきつく握りしめ、内藤を睨み付けた。
「その代わり、僕はお前を許さない」
平静を取り繕うことも出来なかった。
怒りで声が震え、唸るように語気がキツくなる。
「へえ、俺を慶太たちみたいにする気か? 辱しめて半殺しにして一生お前の言いなりにさせるのか?
――おもしれえ、やれるもんならやってみろよ」
そんな僕に流し目を向ける内藤は「やれるもんならな」と挑発的に笑う。余裕たっぷりの声。僕が動けないとわかってるからこその余裕が癪に障った。
頭が特別いいわけでもないし飛び抜けた趣味があるわけでもない。寧ろ手先は不器用で、言いつけを守ることも出来ない落ちこぼれだけど、それでも少しは成長していたと思っていた。
役に立てるような人間になることが出来ていたと思っていた。
でも、どうやらそれはただの過信だったらしい。
現に、僕は守るべき人間を守ることが出来ずただ眺めることしか出来ていないのだから。
「ぁ、やめろッ、や、ぁ……っ!」
「すっげえ締まりいいな。ほら、もっと可愛い声で鳴けよ」
「ぁッ、あっ、や……ッ、ぁ、や……め……ッひ、んん……っく、ぁ……ッ!」
室内に響く艶かしい郁君の声。
目の前のソファーでは複数の男相手と性行を交わす郁君がいて、僕はその行為を延々と見せられていた。
椅子の両サイドには見張り役の生徒が二人。脱力し、項垂れる僕の髪を無理矢理掴み顔を上げさせられる。目を閉じる度に殴られ、頬が痛んだ。
あまりの怒りと不安と絶望と落胆で情緒は不安定になり、腹の底からは吐き気が込み上げてくる。
憤怒を通り越し、言い知れぬ虚無感が全身を襲った。
先程内藤の口から出た渋谷君の名前。渋谷君には口外しないように言いつけていたはずだがどうやらあの男が内藤にチクったのだろう。
混乱の末冷静になった頭の中、僕はふといつの日か渋谷君の身辺を調査したときのことを思い出す。
内藤、ナイトウ――そうだ、郁君を落とせるか落とせないかで渋谷君と賭けていた生徒の名前が確かそんな感じだったはずだ。
特に珍しい名前というわけでもないが僕は内藤が渋谷君と繋がっていると確信する。
そう言えば、蕪木佳夫も内藤や渋谷君たちと知り合いのようだ。
偶然か、或いは必然か。どちらにせよ内藤に対する気持ちは変わらない。
静かに全身の神経を支配する殺意を隠す気にもなれなかった。
腫れた顔を晒したまま、僕は郁君の足を掴みそのまま挿入に夢中になっている内藤を眺める。
無意識の内に唇を噛んでいた。
血で固まった手首からはまた鮮血が流れ始める。
「恭次のやつ、よくやるよなぁ。榛葉に薬までやらせるなんて、流石に同情するわ」
「早く俺にも輪姦して~」
あちこちから聞こえる湿った水音に喘ぎ声。
盛っているのはソファーの上の連中だけではないようだ。
連中を遠巻きに眺める傍観者たちの言葉に僕は耳を傾ける。
薬。その単語に僕はどこからか発生しているこの甘い香りのことを思い出す。
目を覚ましたときから漂っていた濃密なアロマ。あれにもなにか入っているに違いない。
じゃないと、有り得ない。郁君があんな声を出すなんて。
やり場のない憤りは自分の体を傷付けることでしか解消されず、わざと針に皮膚を食い込ませればそんな僕の体から流れる血が気になったらしい。不安そうな顔をした蕪木君が近付いてくる。
「せんぱい、あの、血が……」
「触らないで」
「ご、ごめんなしゃいっ」
「…………」
目も向けずに吐き捨てれば慌てて手を引っ込める蕪木君は目を輝かせる。嬉しそうだ。しかも噛んでるし。
蕪木君には悪いが僕は彼に興味はないし構ってられるような余裕もない。
「っ、ぁ、は、ぁあッ!やめ、抜いて、ぬいて、お願い、内藤っ」
「……っ」
内藤に体を貪られ悲鳴を上げる郁君から目を逸らすことが出来ず、ただ、チャンスを伺う。
しかしそのチャンスは一向にやって来ず、ただ焦りだけが体の中で詰まれていく。
「……せんぱい」
自分の不甲斐なさに泣きそうになって、顔をしかめる僕に蕪木君は眉を垂れ、悲しそうな顔をした。
そして、なにを思ったのか僕の足元に跪き股座に顔を埋める。
「蕪木君」
「恭次のやつに手ぇ出すなって言われてたんですけど、やっぱ無理です。だって、辛そうなせんぱい見てるとボクまで辛くて……っ」
目をきらきらと輝かせぷっくりとした唇の端から涎を垂らす蕪木君はそれを舐め取りながら穿いていたスラックスに手を伸ばす。
馴れた手つきで前を緩め、下着に指を潜り込ませる蕪木君に僕は眉を寄せた。
辛くてってなんだ。ただヤりたいだけの間違えだろうが。
そう殴り掛かりたいところだったが、全身の枷が邪魔で蕪木君から逃げようとすればするほど傷口が開くばかりだった。
「やめてくれ蕪木君、蕪木君」
「良いです、遠慮しないでくださいせんぱい。ボクの口、いや口マンコ好きなだけ犯して喉に種付けしてください。なんならせんぱい専用にしてもいいですから」
下着から萎えた性器を取り出し、恍惚とした蕪木君はいいながら小さな唇を寄せそのまま先端をぱくりと咥える。
躊躇いなく舌を絡み付かせる蕪木君は唾液でたっぷりと全体を濡らし、しゃぶった。股座で動く蕪木君の小さな頭を睨みながら、僕は腹の底から込み上げてくる嫌悪感に全身を緊張させる。
突拍子のない蕪木君の行動はこの部屋に漂うアロマのせいかと思ったがよく考えてみればこいつの頭が可笑しいのは前々からだった。
「っ、ねえ、ちょっと……っ」
他人の体温、息遣い、自分に触れるあらゆるものが気持ち悪くてあまりにも堪えきれなかった僕は身動ぎをし、蕪木君を呼び止める。
蕪木君もあまりにも嫌悪感を剥き出しにした僕の異変に気付いたのだろう。
唾液で濡れた唇からじゅぷりと性器を吐き出した蕪木君は唾液にまみれた状態のまま寝ている性器に目を見開いた。
「あれ、なんで? ボク、フェラ得意なのに……」
ショックを受けたような顔をしてツンツンと性器をつつく蕪木君に顔を引きつらせた僕は「悪いけど僕、君じゃ勃たないから」とだけ答えた。
昔から、性欲がある方ではなかった。
思春期と呼ばれる年頃になってもそういうものに興味が沸かず、寧ろ嫌悪を覚える程で今までなにかを性対象とし興奮したことがない。
勃起不全、というやつだろうか。
「えっ、うそ、そんな……」
目に涙を溜め、心なしか嬉しそうな蕪木君になんでこいつは悦んでいるのだろうかと疑問に思いながら唾液でいやらしく濡れた性器に顔を近付け至近距離で見詰めてくる蕪木君が気持ち悪かったので堪らずその顔に唾を吐けば「ゃんっ!」とか言いながらビクンと体を跳ねさせ、そのまま僕の膝に倒れ込みビクビクと魚のように跳ねながらはあはあと息を乱れさせる蕪木君は顔にかかった唾を拭うどころか頬を染め恍惚な笑みを浮かべる。
本当、僕はこの子が苦手だ。
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