作り物は嫌ですか?

田原摩耶

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ただ君に幸せになってもらいたかっただけなんです。

02※

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 どれくらいの時間が経ったのだろうか。
 室内には精液独特の臭いで充満しアロマと混ざって吐き気を催す程の悪臭に変わっていた。

「あーダメだ、締まり悪ぃ。やり過ぎだお前ら」

 骨抜きになったみたいにぐったりとする郁君の腰を掴み、肛門を弄る内藤は吐き捨て、引き抜くと同時に色々なやつに掴まれて赤い手の痕が残った郁君の臀部を叩く。
 乾いた音とともに郁君の体が跳ね上がり、そのまま項垂れた。
 抵抗する気力も残っていないようだ。
 何回も複数の男から挿入された郁君の肛門はここから見てもわかるくらい開いており、内藤の指が引き抜かれたそこからは白濁が溢れる。
 掴まれつねられ吸われ引っ掛かれ、あらゆる箇所を弄られた郁君の全身は傷だらけで。
 頭を丸め自分の体を守るようにソファーの座面で丸まる郁君の背中は酷く痛々しく、直視できるものではなかった。

「だって念願の榛葉とセックス出来たんだし仕方ねえじゃん」
「なー」
「張り切りすぎだっての」

 そんな郁君を気にかけるわけでもなく内藤たちは楽しそうに笑う。
 怒りで全身がたぎったが、僕は必死で自分を押さえ付けた。そしてその場にいる全員の顔を一人一人記憶に焼き付ける。ある程度冷静になった今、自分がなにをすべきか見当ついていた。

「まあいいや、んじゃそろそろお開きにすっか。飽きてきたし」

 そして、やつらのリーダー格らしき内藤はそう笑いながら郁君に目を向け、無防備になった肛門に再び手を伸ばす。その手にはなにか握り込まれているのに気付いた。伸びてくる手に反応し、慌てて逃げようとする郁君の腰を捕らえた内藤はそのまま白濁を垂らす肛門に手にもったそれを挿入する。

「っんぅ……ッ」

 ぬちゅりと音を立て、すっかり拡張された郁君の肛門は簡単に異物を飲み込み、呻く郁君は背筋を震わせた。
 そして、付け根まで挿入した指を引き抜いた内藤は糸を引くそれを舐めとり、郁君に笑いかける。

「頑張ってくれた郁ちゃんのためにここに御厨の拘束を解く鍵、入れておいてやったからな。自分で指突っ込んで掻き出せよ」
「……ッ」
「もしあれだったら俺が掻き出してやるけど?」

 にやにやと笑いながら下品なことを口にする内藤の言葉に周囲は沸く。
 そんな外野に顔を赤くした郁君はキッと内藤を睨み付けた。

「誰が……っ」
「ふん、薬が切れてきたみたいだな」

 起き上がり、今にも噛み付きそうな郁君に内藤は残念そうに笑う。そして、こちら、もとい僕の足元に転がっている蕪木君に目を向けた。

「……まあいい。おい、ドマゾ野郎。帰るぞ。ケツ貸せ」
「やだ、ボクまだせんぱいといる」
「そんな平凡といたってつまんねえだろ。俺が気持ちよくしてやっから」

 ソファーから離れ、こちらへと歩み寄ってくる内藤は僕の足を舐めながらオナっては一人楽しんでいた蕪木君を引っ張り上げ、無理矢理立たせる。

「やだって、おい恭次、離せってバカ!」
「慶太も呼んできてやるから大人しくしろ」
「え? ほんと?」
「ほんと仕方ねえやつだなお前は、浮気者が!」
「あっ、やっ、んん……っ! ちょっと、嘘ついたなお前!」

 きーきーと声を張り上げる蕪木君を脇に抱える内藤はこちらを見るわけでもなくさっさとその場を後にした。
 そしてリーダー格の内藤が去ったのを合図にその室内にいた連中はぞろぞろと解散する。
 ソファーの上の郁君は引き留めるわけでもなくじっと人がいなくなるのを待つ。
「俺が鍵取ろうか?」なんてセクハラするやつもいたがそれでも郁君は動かなかった。
 やがて、部屋の中には僕と郁君だけになり、本来の静粛が室内に戻ってくる。

 不思議だ。外野がいたときは直視することが出来たのに、二人きりになった途端に郁君の顔を見ることが出来なくなった。

「…………」
「…………」

 ひたすら沈黙。
 お互いに動くことが出来ず、声を掛けるにもなにを言うことも出来ず、気まずい空気が走った。
 顔を上げるのが怖くて、俯いたまま僕はただ時間が過ぎるのを待つ。

 人がいなくなってどれ程経っただろうか。きっとまだあまり時間は経ってないはずだ。ソファーが軋み、郁君の影が動く。

「は、……んぅ……っ」

 殺したような吐息混ざりにくちゅりと湿った音が響く。
 咄嗟に顔を上げれば、ソファーの上、僕に背中を向けたまま自分の下腹部に手を伸ばした郁君はそのまま肛門から精液を掻き出すように体内をまさぐり、やがて目的のものを手にすることに成功したようだ。
 なにかを手によろよろと僕の元へ歩み寄ってくる。
 否、歩くというよりも這いずると言った方が適切なのかもしれない。
 腰に力が入らないのか、四つん這いという不格好で必死に近付いてきた郁君は僕を拘束する椅子の枷を掴み、そのまま僕の顔を覗き込む。

「……要人」

 掠れた声。
 赤く充血した目は焦点が定まっておらず、目が合えば郁君は泣きそうな顔で苦笑を浮かべた。
 精液がかかった髪は所々固まってしまっていて、いつの日かの郁君と確かに重なった。
 ああ、また僕は助けることが出来なかったのか。
 正面から向かい合うように郁君は僕を拘束する枷の鍵穴に内藤から貰った鍵を差し込み、ひとつひとつ開錠する。
 おまけに、郁君にこんなことをさせるハメになるなんて。
 最後の最後まで、傷付いている郁君に頼らなければならない自分が歯痒くて悲しくて情けなくてムカついて気持ち悪くて、顔が歪む。
 そんな僕に気付いたのか、郁君は気にしなくていいとでもいうかのように無理していつも通りに振る舞おうとするその姿は痛々しくて、最後の一つ、手首を固定する枷が外れたとき僕は堪らず目の前の幼馴染みを抱き締めていた。

「っ、かな」
「ごめんなさい」
「……っ」
「……僕のせいで、また、郁君が、僕がちゃんとしなかったから、ごめん、ごめんなさい、郁君、ごめんね、ごめんね、ごめん」

 血で濡れた手を伸ばし、華奢なその体を抱き締めればその腕の中で小刻みに震える郁君に気付き、目から涙が溢れた。
 謝ろうとする度に嗚咽が混ざり、それでも謝られずにはいられなくて、ただ僕はひたすら目の前の幼馴染みに謝罪する。
 今の僕にはその謝罪内容を明確に示すことが出来る程の冷静さは残っていなかった。
 郁君への罪悪でいっぱいになった胸は謝っても謝ってもそう簡単に消えることはなく、寧ろ込み上げてくるばかりで、子供の頃に戻ったみたいにしゃくり上げて泣いて謝った。
 そんな僕を無理矢理引き離すわけでもなく、ただ哀れむような目で僕を見据え、肩を掴んでくる。

「……要人、やめろ。血が出てる」

 そのまま手首を取られ、優しく触れられれば枷の針で深く傷付いたそこにピリッとした鋭い痛みが走る。
 視線を向ければ、ぽっかりと空いた穴から赤い血が溢れ出していた。
 抱き締めるのに夢中になっていたお陰で僕が触れた郁君の体には血がつき、それに気付いた僕は慌てて郁君から手を離す。

「っ、ごめん、汚すつもりじゃ……すぐに拭くから」

 言いながら、郁君にハンカチを渡そうとしたときだった。

「やめろ」

 腕を引っ張られたと思ったら、郁君はすがるように僕の胸元に顔を埋める。
 視界の隅で動く郁君の明るい茶髪に全身が緊張した。

「謝るな」
「……」
「……頼むから、謝らないでくれ」

 掠れ、くぐもった声。
 触れた箇所から流れ込んでくる体温に鼓動は加速する。
「郁君」寂しそうに丸まったその赤い痕にまみれた小さい背中を抱き締めようとしたが、自分の手が血で汚れていることを思いだし、躊躇した。

「……あいつが言ってたこと、本当なのか。慶太たちになんかしたって」

 そして、僕が迷っていたときだった。ゆっくりと顔を上げた郁君はそのまま僕の顔を覗き込み、「答えろよ、要人」と静かに促す。
 そこに先程までの笑みはない。どこか不安そうな色を帯びた郁君の目に見据えられ、僕は口ごもる。
 だけど、尋ねられれば本当のことを答えるしかない。

「……そうだよ」

 自分でも驚くくらい冷めた声が出てしまった。
 郁君は驚かない。やっぱりか、と諦めたような雰囲気すらあった。

「俺のために、俺のせいでそんなことしたのか」
「……郁君には、今まで通りでいてもらいたかったから」
「ふざけんじゃねえ!」

 問われるがまま、正直に答えた矢先のことだった。
 腕を掴んでいた郁君の細い指先が皮膚に食い込み、いきなり声を張り上げる郁君に僕は目を丸くする。
 そこには確かに怒った郁君がいて、無意識に身がすくんだ。

「余計なことすんじゃねえよ、誰がいつそんなこと頼んだんだ!」
「っ、だって、郁君が」
「だってじゃねえよっ!」

 ぐっと肩を掴まれ、そのまま至近距離まで詰めてくる郁君は僕を睨み付ける。
 久し振りに聞いたまじ切れした郁君の怒声に全身がビクつくのがわかった。
 どうすればいいのかわからず、ただ僕は目の前に迫る郁君の目を見る。
 瞬間、僕を睨み付けていた郁君の顔はぐしゃりと歪んだ。

「そのせいでお前が危ない目に遭ったら意味ないだろ……っ」

 眉を寄せ、目を細め、苦しそうに喉奥から声を絞り出す郁君は僕の肩を掴んだまま嗚咽を漏らした。
 その目に涙が滲んでいるのを見て、僕はただ戸惑う。
 そんな風に言われるとは思ってなかっただけに、尚更。

「郁君……」
「頼むから、もう二度と暴力はやめてくれ」
「……郁君は僕に黙って友達が傷付くのを見てろって言うの?」
「そうだよ」

「俺はお前の手を汚す程落ちぶれたくない」キッパリと切り捨てる郁君は僕を見据えたまま静かに続ける。

「俺のことを思うなら、これ以上俺に恥を晒させないでくれ」
「…………」

 それは僕にとって酷な言葉だった。
 郁君の恥――そう考えたことはなかったしそんなつもりもなかった。僕はただ郁君を助けたかった。
 それだけだったのに、郁君にとって僕の気遣いはただの恥だったらしい。
 今まで頑張ってきた全てを全否定された気分だった。悲しくて、泣き叫びたかった。
 だけど、郁君がそう言うならそうなのだろう。

「わかったよ、郁君」

 だから、泣かないで。

 こちらを見上げる郁君に微笑みかけた僕は小さく頷いた。
 いくら郁君のためでも、否、ためだからこそその本人が嫌がったら止めるしかない。

 だから、今度は郁君のためじゃない。……僕のために僕は行動する

 逃がすまいと強く腕を引っ張ってくる郁君の手に触れた僕は、そのまま火照った郁君の手を握り締めた。
 安心したように緊張を綻ばらせる郁君を見詰めながら僕は人知れず決意した。
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