15 / 17
ただ君に幸せになってもらいたかっただけなんです。
03
しおりを挟む僕たちがいたその部屋は旧校舎の倉庫だったようだ。
電気はまだ流れているらしく、よく不良たちが溜まり場にしている場所。
常に人がいるのであまり僕は使用しなかったが、なるほど、なかなか便利だ。
年季は入っているものの掃除をしたら普通に使えるであろう旧校舎を郁君と後にした僕は一旦学生寮へと戻り、郁君を休ませる。
自室内、僕たちの間に会話はなかった。
そして翌日。
当たり前のように登校する郁君に付き添い教室に入る。
その日、いつもなら登校時間には部屋の前にいる渋谷君はいつまで経っても来なかった。郁君はそのことについてなにも言わなかったので僕も気付かないフリをした。
気付けばあっという間にその日一日は終わる。
――夜。いつものように部屋へ帰り郁君を寝かせつけた僕は寝息を立て安らかに眠る郁君を一瞥し、部屋を出た。そして向かうは学生寮内にあるとある部屋。
ノックをすれば、黒い髪がよく似合う男の子が顔を出す。
「こんばんは、蕪木君」
そう名前を呼べば、慌てて着たのか着乱れした服装の蕪木佳夫は驚いたように目を丸くする。
「せんぱい? え、うそ、なんでここに……」
「ちょっと聞きたいことがあってさ。今いい?」
「いいですいいです! 全然だいじょうぶです!」
どう見てもお取り込み中にしか見えないのだが本人がそう言っているのだからまあいい。
「そ、よかった」そう小さく微笑んだ僕は蕪木君を連れ出し、人気のない廊下まで移動する。
そして辺りに人影がないのを確認し、なにやらよからぬ期待をしているのか赤い顔をしてもじもじする蕪木君にとある相談をすることにした。
◆ ◆ ◆
「ボクが、恭次に?」
一通り相談を終え、全く僕にその気がないどころかお門違いな相談をしてくる僕に蕪木君はなんだかショックを受けたような顔をする。
そんな蕪木君に構わず「うん、出来るよね」と尋ねれば、僅かに蕪木君の表情は曇った。そして恐る恐るこちらを見上げる。
「あの、もしかしてせんぱい恭次に……」
「僕は出来るか出来ないかを聞いてるんだよ、蕪木君」
「で? 出来るの? 出来ないの?」歯切れが悪い相手になんとなく苛つきながらそう尋ねれば慌てて顔を上げた蕪木君は「で、出来ます!」と大きく頷き、そしてなにかを思い出したのか不安げに項垂れる。
「出来ますけど……」
「けど?」
「あの、ご褒美とかは……」
反応が悪いので何事かと思えばそんなことか。
バカなのかな、この子。思いながら「あるわけないじゃん」と即答すればぱぁっと表情を明るくした蕪木君は「ありがとうございます!」と頭を下げる。
……ほんと調子狂う。
◆ ◆ ◆
「せんぱいの連絡先……!」
「僕はちょっと出ていくから済んだら連絡してね」
「ええ、ボク一人でですか?」
「ここ、隠れれそうな場所ないしね」
そう言いながら辺りを見回す。
――旧校舎、倉庫。昨日、郁君をいたぶるためだけに用意された場所。
窓はなく、拘束椅子だけが設置されたそこは一見すれば拷問部屋のように見えるかもしれない。
昨日の出来事を思い出し込み上げてくる怒りを抑えながら僕はなにやら不満げな蕪木君を見据える。目が合い、見詰め合うような形になった。
「うー……わかりました、やってみます」
そして、あっさりと折れた蕪木君はそう唸りながら視線を逸らした。
そんな彼に安堵した僕は「うん、頼んだよ」と笑った。
そのまま旧校舎を後にした僕は再び学生寮へと戻ってくる。
歩く度に昨日枷でやられた傷がズキズキと痛んだが、包帯でキツく縛り固定しているお陰でなんとか動かせるようになっていた。
その分、無理な処置に自分の体が悪くなっていくのを感じたが。
――学生寮廊下。
僕は渋谷君の部屋がある廊下まで来ていた。
確か渋谷君のルームメイトは内藤恭次だ。やつにも今すぐ殴りかかりたいぐらいの想いはあったが、それは後だ。
曲がり角の陰に身を潜め様子を伺っていると、渋谷君の部屋の扉が開く。中から現れたのは携帯端末を手にした内藤恭次だ。どうやら命令通り蕪木君が彼を呼び出してくれたようだ。
内藤君が立ち去るのを確認し、携帯を操作する。そこでようやく僕は渋谷君の部屋の前まで移動した。
扉を叩けば、暫くして渋谷君は現れる。
「はい……」
風呂上がりなのかどことなくホカホカとした渋谷君は扉の前に立つ俺を見て驚いたように目を見開いた。その一瞬の隙を狙って扉の隙間に爪先を捩じ込んだ僕はそのまま部屋の中へと潜り込む。
「ッ! おま、えっ、なんで……ッ」
「なんで? 僕が来ることぐらい君なら想像ついたよね、馬鹿なこと聞かないでよ」
部屋に上がり込んだ僕は狼狽え、慌てて僕を追い出そうとする渋谷君の首を掴みそのまま壁に叩き付ける。ダン、と派手な音を立てる壁。その衝撃で息が詰まったのか渋谷君は顔を歪め、そしてそのまま僕の腕を掴んできた。
構わず首を掴む手に力を込める。
「おい、なに言って……っなんだってまじで、いきなりなにすんだよ……っ!」
「内藤君に僕のこと言ったの君でしょ、渋谷君」
「ちげえって、まじ、意味わかんねえから」
掠れた声。焦った顔。
――前々から思っていたが本当に演技が上手い。
まあ郁君を騙し続けてきたのだから相当のものなのだろう。
腹の底から嫌なものがふつふつと込み上げてくる。
「なんなんだよほんと、おいやめろって、御厨……っ」
「僕が君にしたこと内藤君は知ってるみたいだったよ、君が教えたんだよね。まさかまたしらばっくれるつもり?」
「は、はあ? なんであいつが……知らねえよ、俺なんも知らねえって」
「…………」
自分は無実だと必死に説得してくる渋谷君は敵意はないと首を横に振り、両手を上げ降参のポーズをとった。
そしてなにも応えずにいると、渋谷君は「あ」となにかを思い出したように声を漏らす。
「なに?」
「もしかしたらあれかもしれない。この前着替えてるところ見られて、それで……」
「君はほんと嘘が上手だね」
「でも、君の言うことが本当でも嘘でもどっちでもいいよ」渋谷君は勘違いしている。
渋谷君は無実だろうと故意ではなかろうと郁君が傷付いた事実は変わらないし僕はその原因に少しでもなった可能性があるのなら許さない。
言わないが、僕が言いたいことに気付いたのだろう。舌打ちをした渋谷君は僕を振り払おうと暴れた。
構わず腹部に拳を叩き込む。
「ぅ゙、あッ」
体をくの字に折り曲げ、呻く渋谷君をそのまま押し倒せばバランスを崩し尻餅を突く。腹部を押さえ呻く渋谷君を押さえ付け、そのまま彼の上に馬乗りになった。
「甘かったね渋谷君。内藤君を巻き込むならちゃんと誘導しなきゃ。彼、僕を拘束するだけでなにもしなかったんだよ。馬鹿だよねえ、復讐されても敵うはずがないって思ってたのかな。考えが甘いよね本当」
「ちゃんと教えときなよ、郁君を襲うなら僕を殺してからにしろって」そう頬を歪めた僕は固めた拳を振り上げ、そのまま渋谷君の頬をぶん殴る。
骨と骨がぶつかり、嫌な感触が拳に走ったがそれでも構わず僕は渋谷君を殴った。
「ぐ! ぉ゛、おい、ぢょ、まで、ぐッ、ぁ゙……ッ」
顔を押さえ呻く渋谷君の腕を引き剥がし何度も何度も顔面を殴った。拳が痛み、それでも鬱血する渋谷君の顔面を殴り続ける。
「本当は今すぐ君を郁君と同じ目に遭わせたいんだけどね、僕にはそんな趣味はないからさ、だから、ちょっとだけ付き合ってもらうよ」
歯にぶつかったのか拳から血が出る。それを一瞥した僕はそのまま下の渋谷君を見下ろした。
鼻血で汚れ、鬱血と切り傷で腫れ上がった顔を歪めた渋谷君は息をするだけでも痛みを感じるようだ。よく見ると涙が滲んでいる。
「ぁ゙、が……ッ」
これも演技なのだろうか。
思いながら「ああ、因みに君に拒否権はないから」と笑顔で続ければ渋谷君は確かに泣いた。
戦意喪失。ひゅうひゅうと喉を鳴らし酸素を吸う渋谷君はぐったりと横たわり、そのまま動かなくなる。
「……やっぱり素手は痛いね、先に歯ぁ抜いとけばよかったかな。まあいいや」
ぶつぶつと独り言を口にしながらそのまま僕は背後を振り返る。そこには見覚えがある生徒たち数人が立っていた。
「じゃあ、渋谷君をよろしくね」
そして僕は彼らを見渡し、お願いをする。
各々不安や怯えの色を浮かべた彼らだったが全員が全員僕の言葉に大きく頷いてみせた。
今までこの学園に転入してから郁君に近付く連中を潰してきた。それはもう地道な作業に等しくて、時には必要以上の脅迫をしなにかことあるごとに手助けをするように仕向けたりもした。
広い目で見れば渋谷君もその一人なのだろう。
しかし今回は違う。そして予め呼び出していた彼らに頼み、僕は渋谷君を旧校舎のあの倉庫へと連れていってもらった。
0
あなたにおすすめの小説
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
俺の指をちゅぱちゅぱする癖が治っていない幼馴染
海野
BL
唯(ゆい)には幼いころから治らない癖がある。それは寝ている間無意識に幼馴染である相馬の指をくわえるというものだ。相馬(そうま)はいつしかそんな唯に自分から指を差し出し、興奮するようになってしまうようになり、起きる直前に慌ててトイレに向かい欲を吐き出していた。
ある日、いつもの様に指を唯の唇に当てると、彼は何故か狸寝入りをしていて…?
余命半年の俺を、手酷く振ったはずの元カレ二人が手を組んで逃がしてくれません
ユッキー
BL
半年以内に俺は一人寂しく死ぬ。そんな未来を視た。きっと誰も悲しむ人は居ないだろう。そう思っていたから何も怖くなかった。なのにそんな俺の元に過去手酷く振り、今では世界的スターとなった元カレ二人がやってきた。彼らは全てを知っていた。俺がどうして彼らを振ったのか、そして俺の余命も。
全てを諦めた主人公と、主人公を諦めきれないイケメンサッカー選手とシンガーソングライターの再会が導く未来は?
脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない
綿毛ぽぽ
BL
アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。
━━━━━━━━━━━
現役人気アイドル×脱落モブ男
表紙はくま様からお借りしました
https://www.pixiv.net/artworks/84182395
幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。
叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。
幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。
大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。
幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる