6 / 43
息子と仲直りをしましょう。
しおりを挟む部屋へと戻りすっかり体力の落ちた身体を休ませているとあっという間に夕食の時刻となった。ミラに促され今日からは食堂で食事を摂ることにした。パーティー会場のようなその食堂には長いテーブルと椅子のみが置かれ、しん、と静まりかえっていた。
ミラに促され席に座るとすぐに侍女たちによって食事が運ばれてきた。まるで高級レストランで出るような美しく盛られた食事には感嘆のため息が溢れる。
ミラに視線を向けると肯定するように頷かれたため、スプーンへと手を伸ばした。
どれも素晴らしい味だった。それなのに一人で食べる食事はこんなに味気ないものなのね。
最後に家族3人で囲めなかった食事を思い出し、笑い合いながら囲んでいた前世の食事へと思いを馳せていた。
トントンッ
「……母上。……ご一緒してもよろしいでしょうか?」
視線をそらしながら、不安そうに小さな声でそうアレンは尋ねてきた。
「……勿論よアレン。嬉しいわ。」
安心させるように、微笑みながらアレンの瞳をみつめて答えた。
ちらりとこちらを見つめ、私が微笑んでいることを確認するとほっとしたように息を吐くアレンに申し訳ない気持ちで一杯になった。
そして、離れた席へと着こうとするアレンに、前にいらっしゃいと伝えると顔が強ばり緊張しているかのようにギクシャクと前の席へ腰を下ろした。
侍女によってすぐに並べられた食事を黙々と食べるアレンに、困ったようにミラへと視線を向けると、ガッツポーズを送られた。
そうよ!何を戸惑っているの。せっかくアレンが勇気を出して来てくれたのですもの。母親の私がビビっていてどうするのです!
「アレン。」
そう呼び掛けると、食べるのをやめアレンはカチンと固まった。次の言葉を恐る恐る待っているようだ。
「先程はお見舞いに来てくれてありがとう。嬉しかったわ。」
そして、ゆっくりと顔をあげたアレンの瞳は動揺を現すように揺れていた。
アレン。落ち着かせるように穏やかにもう一度名前を呼ぶとアレンの瞳はやっと私の瞳を捉えた。
「謝って許されることではないわ。私は貴方たちをずっと遠ざけて来た。愛を知らないわたくしには貴方たちとどう関わればよいか分からなかったの。ずっと寂しい思いをさせて本当にごめんなさい。
記憶がないけれど、それでも、いまのわたくしには貴方を愛しいと思う気持ちだけは確かにあるわ。すぐには受け入れられないかと思うけれど、息子である貴方たちのことちゃんと思い出したいの。だから、少しずつでいい。貴方のことを知っていきたいの。」
気持ちが伝わって欲しいと、その瞳に訴えながら、語りかけた。聞き終わると、アレンはまた耐えるように瞼を閉じ、ナイフとフォークを強く握りしめていた。
「わたしも……」
ゆっくりと開いたアレンの瞳は涙を纏いながらも、暖かい色を宿していた。
「わたしも…母上に知って欲しいです。」
6
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。
パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。
将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。
平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。
根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。
その突然の失踪に、大騒ぎ。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる