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ルイスの謹慎~新たな感情~
しおりを挟む~ルイス視点~
(はぁ…なんで、勉学なんてもう一度し直さなきゃいけないんだ?めんどくさい。
女の子たちとも会えないし…
マリアも全部演技だったなんて…やっぱり女ってこえー
ベネッセル伯爵令嬢だっけ?病弱らしいし…相手にはなんないな。てきとーに相手して、さっさと学園に戻ろうっと。)
「ようこそ、お出でくださいました。ルイス王子。」
そう迎えてくれたのは、きっちりと身だしなみを整え、やせ形で丸い眼鏡をかけた壮年の男性で柔和な表情や仕草の中にも聡明さが滲み出ていた。この人物がベネッセル伯爵だろう。
「はじめまして。今回は急なお願いを承諾してくださり、ありがとうございます。1ヶ月、お世話になります。」
(印象はよくしておかないとな~)
王子らしくにこやかにそう挨拶すると、伯爵もにこりと微笑みかえしてくれた。
背を向け歩き出した伯爵が神妙な顔をしていたとは知らずに。
案内されたのは応接室のようで、車椅子に座っている華奢な少女がいた。
「ルイス王子、わたしの一人娘のメルティーです。身体が弱いもので、座ったままになってしまいますが、ご容赦ください。」
伯爵の紹介に少女へと視線を向けると、座ったまま彼女は頭を下げた。
「はじめまして、ルイス様。メルティーと申します。この度はこのような田舎まで足をお運び頂きありがとうございます。これから、よろしくお願いいたしますね。」
小さく鈴のように可憐な声だった。
深窓の令嬢…そんなイメージがぴったりの可愛らしいご令嬢に、これも悪くないと考え直すルイスだった。
「ここはね、こうすると…ほら、簡単でしょう?」
彼女は優しく勉学を教えてくれた。分からなくても嘲笑ったり、ため息をついたりせず、いつも日溜まりのような笑顔でルイスに笑いかけてくれた。
彼女は体調が悪いことも多く、そんなときは花をもって彼女に会いにいった。
色気もなにもない、ただ会って話をするそんな清らかな関係に戸惑い、けれど、心地よいと感じるようになった。
ずっと後悔していることがある。
あのときちゃんと、自分の気持ちに気づいていたら…ちゃんと話を聞いてあげられたらって。
ある日、メルティーが言ったんだ。
「ルイス様、わたしね、今が一番幸せなの。わたしにお友達ができるなんて、思わなかった。このまま、誰にも知られることなく死んでいくのだと思っていたから。
本を読んでるときも、花を眺めているときも、眠るときも…ルイス様のことが思い浮かぶの。
明日はどんなお話を聞かせてくれるのかな?
どうやったら、もっと勉学を分かりやすく伝えられるかなって…
もう、一人でいる時間が怖くなくなったのよ。だからね、ありがとう、ルイス様。わたしと友達になってくれて。」
そうにこやかに残酷なことを告げるメルティーに俺はただ微笑み返すしか出来なかったから。
1ヶ月たったあの日、俺はメルティーに別れを告げにいった。王都に戻る、いままでありがとう、それだけでも伝えたかった。でも、メルティーは体調が悪い日が続いていて会うことは叶わなかった。
また会いにくればいい、そう自分を納得させ城に戻った。謹慎がとけた俺はまた女の子たちと城下でデートを楽しんでいた。楽しくない。そんな感情を振り切るように、以前よりも女の子たちに優しく接した。そしてふと浮かぶあの子の笑顔を俺は何度も顔をふり、否定した。
アレンと顔を合わせると、クスッと嘲笑される。それがなんとも苛立たしかったが…
(これが、おれなんだ。)
そう何度も自分に言い聞かせて。
その一ヶ月後だった。メルティーが亡くなったと告げられたのは。
その報告を俺は呆然と聞いていた。
「…なんで…なんでメルティーが…」
「………ルイス…。」
心配そうに俺の背にそっと手を添える母上の手を俺はすぐに凪ぎ払った。
「おれに、触るなっっ!」
頭がぐちゃぐちゃで…なにも考えられない。考えたくない。
なぜこんなにも取り乱すのか、胸に黒い靄が渦巻くのか、分からないその感情が気持ち悪くてイライラして…何かにあたりたかったのかもしれない。
すぐにアレンが母上を庇うようにして母上の前に立ったのが分かった。そんなこと一つにもイライラして、睨むアレンを俺も睨み返した。
「お葬式に参列されるなら、すぐに準備された方がいいんじゃないですか。」
にこやかに淡々と告げるアレンに
「これも、お前の計算か?こうなるって、お前は分かっていたんだろ!マリアのときもお前の計画だったもんな。
さぞ、気分がいいだろうな、簡単に手のひらで転がせて、俺の気持ちで遊びやがって!
ふざけるなよ!なんでも分かってるような顔をしてムカつくんだよっ」
八つ当たりだって自分でもわかっていた。
でも、言葉が止まらなかった。
「はぁ……ばかばかしい。知ってますかルイス兄上、そういうのを被害妄想っていうんですよ…?」
呆れたようにそう返すアレンにおれはカッとなってアレンに掴みかかった。
殴ろうとしても避けるアレンに余計にイライラがたまって俺は何度も拳を振り下ろし続けた。何分たったのか…急に自分の身体がバランスをなくして俺は尻餅をつくことになった。
アレンかと思ったら、アレンもビックリしたように尻餅をついていた。
その直後頭に激痛が走った。
同じ音がアレンの方でも聞こえて、アレンの小さく呻く声が聞こえた。痛みに耐えながら、薄く目を開くと、仁王立ちで睨み付けている母上がみえた。
「は…母上…?」
なんで?そう言いたそうやアレンの声で、足をかけたのも、拳骨を落としたのもあの大人しい母上だったことが判明した。
「いい加減になさい、二人とも!こんなときに貴方たちいったい何をしているの?
アレン!貴方は誤解を招く態度は改めなさいって何度も伝えたでしょう!もう…」
ぷんぷんと可愛らしく怒っている母上はあの、強烈な拳骨を落とした同一人物にはみえない。
「…ルイス。貴方も…つらいのは分かるわ。その悲しみも。けれど、それをアレンにあたるのはやめなさい。
貴方にはやるべきことがあるでしょう。大切な人なら尚更、会いにいってらっしゃい。」
母上の方がつらそうに、泣きそうにしている。その表情をみた途端かーっと目が熱くなった。
悔しくて、情けなくて、…悲しくて…
このまま引きこもってしまいたい。
そんな俺を急かすように、母上は信じられない程の力で引っ張り立たせると背中をトンと優しく押された。
「いってらっしゃい、ルイス。ちゃんと、その気持ちを伝えてらっしゃい。」
背後からそう、優しい母上の声が聞こえた。
その途端、俺の足は駆け出していた。
着替える間もおしい。俺は馬小屋へと行くとすぐに馬へとまたがった。
早くっ早くっっ。
そう焦る気持ちを押し込んで、あの別荘へと馬を走らせた。
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