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立派になっていく息子に涙が出そうですわ
しおりを挟む謹慎は1ヶ月に及んだ。
それぞれ、自分の部屋にて一から勉学の再教育が行われていた。マナーや王族の心得など、幼少の頃に習うものも再度行われた。
アレンは特に優秀で一週間ほどで勉学を終わらせてしまったようで、その後は陛下の仕事を手伝うことになり忙しくしているようだ。
わたくしは空いた時間をみつけてはシリウスとルイスに会いに行った。
「頑張っているようね、シリウス。」
「はい、母上。…お恥ずかしい限りですが、忘れてしまっていることも多くて…苦労しています。」
恥ずかしそうにそう口にするシリウスは、以前のような傲慢さは全く見られなかった。
「もう遅いかもしれませんが、きちんと一から勉強しなおして学園を卒業したいと考えています。
そのあとは騎士の道に進みたい。王族として贔屓されるんじゃなくて、試験を受けて、訓練生から自分の力で這い上がってみせます。」
何度も通ううちに、そう夢まで語ってくれるようになった。
「……そう。騎士になるのは大変なことよ。市民を守る盾であり、剣とならなければならない。
貴方が怪我をしないか、本当に心配だけど…貴方のその志を親として誇りに思うわ。
…強くなりなさい、シリウス。その心が壊れないように。
あなたがこの先どんな決断をしても、わたくしは応援するわ。」
「……ありがとうございます、母上。」
心配そうにそう話す王妃に、シリウスは優しく微笑み返した。
1ヶ月で謹慎を終えると、シリウスは学園の寮へと戻っていった。その目はしっかりと意思を持ち、明るく輝いてみえた。立派になりつつある息子に嬉しいと感じつつも、離れていくその背中をわたくしは少し寂しく思った。
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一方のルイスは最初こそ一緒にお茶を飲んでくれたものの、視線を合わせず、壁を造り続けていた。
その後は面会も断られるようになった。
講師の話では授業もまともに聞かず、なかなか勉学が進まないようだ。
常にイライラしているようで、舌打ちをしたり、物にあたることもあるのだとか。
侍女を口説き始めたと聞いたときは侍女長がすぐに対応し、年上のものたちに変えてくれたようで…問題は起きなかったと聞きわたくしも肝が冷えるようだった。
事態を重くみたわたくしは、陛下に相談することにした。
「…どう思われますか、陛下。」
「これでは、謹慎にはならんな。今まで自分の気の向くままに行動してきたんだ。縛られるのは相当なストレスだろう。勉学だけでなく、性格の方も強制する必要があるな……。」
「それならば、環境を変えてみてはいかがですか?」
執務室で陛下の仕事を手伝っていたアレンが、手を止めてそう話に加わった。
「ベネッセル伯爵家には優秀なご令嬢がいらっしゃるそうです。ですが、身体が弱く車椅子でないとベッドからも移動できないのだとか。そのため、学園にも一度も登校されたことがないのですよ。
ルイス兄上も病弱なご令嬢には流石に手を出さないでしょう。彼女から勉学を教えて頂く代わりに、彼女の話し相手になる。…なんてどうでしょうか?」
にこにことそう話すアレンだったが、きっとなにか他にも考えがあるのでしょうね。
陛下をみると同じことを考えているようで、わたくしをみて頷いた。
「そうしよう。ベネッセル伯爵もとても常識があり、考古学にも精通していらっしゃる。そのご令嬢も伯爵によく似て博識だと噂で聞いている。
女性の扱いが上手いルイスなら、彼女のよき話し相手になるだろう。伯爵にその旨の手紙を送っておく。
王妃よ、返事があるまで、ルイスを気にかけておいてくれ。」
「はい、勿論ですわ。」
是非に。と了承の手紙が届いたのはすぐ翌日のことだった。
ルイスにすぐに知らせにいくと、目を輝かせ、その日の授業もにこにこと受け、喜んでいるのが手に取るように分かった。
その二日後、ルイスはベネッセル伯爵令嬢の療養先の別荘へと向かうため、1ヶ月の荷物をまとめアレンと陛下の選んだ数人の従者とともに城をあとにした。
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