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怒りの矛先は……

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「あら。陛下に捨てられてしまったのね。
…………お可哀想に。陛下に取り合って頂けないからわたくしの元にいらしたのね?」

「なっ!捨てられてなんていないわよ!あなたが陛下に命令したからでしょう!」

「まぁ……。現実を受け入れられないのね。」

お可哀想…またそう口にしながら首を振り、同情したような眼差しを向けるわたくしに、彼女は顔を真っ赤にし、手を振り上げた。

パシッとそれほど大きくない音が、静まり返った広場では端まで聞こえる程に響き渡った。

そのまま掴み掛かろうとする彼女を、一緒にきた二人の女性はマズイと感じたのか両腕に左右捕まり馬車に乗せようと必死に後ろに引きずり止めている。だが、彼女の目は血走り、聞くに絶えない罵声をわたくしに浴びせながら、わたくしに近寄ろうと抵抗をしていた。

「お二人とも、彼女から手を離してあげて。」

必死に止めようとしてくれる彼女たちには悪いけれど……それではわたくしが困るのよ。

戸惑い手を離そうとしない二人にわたくしは笑顔で殺気を放った、たったそれだけで二人共ひッッ!と手を離し腰を抜かしてしまったようだ。

抑えのなくなった彼女にはもう怒りしか残っていないのだろう。淑女は走ることをよしとされないが…抵抗して乱れた髪を振り乱しながらわたくしに掴み掛かろうと走りより手を伸ばしてくる。

5…4…3…2…。

そんな彼女を止めようと、市民や貴婦人たちが駆け寄るよりも早く、彼女の指先がわたくしの服に触れようとした。
バシッそんな生易しい音ではない凄まじい音が広場に響き渡り、彼女はくるくると数回回りながらりながら広場を転げていった。

駆け寄ろうとしたまま固まる市民や貴婦人たち。

彼女の取り巻き二人は身を寄せあい泣きながら震えている。

それを視界の端に捉えながらわたくしはゆっくりと地面に横たわる彼女へと近寄った。
わたくしがそこにたどり着く頃には、彼女はなんとか起き上がり呆けたように地面に座り込んでいる。

「大丈夫…?ごめんなさいね。手加減したつもりだったのだけど…怪我はない…?」

心底心配したように彼女の顔を伺うと、彼女はわたくしの顔を呆けたまま見つめたあと突然ヒィィィィッと奇声を発した。

「ごめんなさい…ごめんなさいッッお許しください!」

泣きながらそう乞う彼女に

あら…わたくしったら、まるで悪役みたいね。
なんて、心の中で苦笑した。

さらに近づくわたくしにさらに青ざめる彼女。

その間にすっ…と、もう一人の取り巻きの女性が現れた。彼女は恐れることもなくしっかりとわたくしの瞳をみるとゆっくりとカテーシをとり、頭を下げたままわたくしの許しを待っている。

本来、王族に話しかける際には許可があるまで話しかけても、頭をあげてもならない。彼女は愛人の一人ではあるがきちんとそれを分かっているようだ。

「…頭をおあげなさい。」

「ありがとうございます。王妃さま。わたくしはジャスミルート子爵家の三女ナタリーと申します。この度の○○様の不躾な行い代わりに心より謝罪申し上げます。わたくしは陛下より監視を賜っておりました。彼女は反逆罪として、捕らえさせて頂きますので、お怒りは当然かと存じますがなにとぞ、ご容赦いただけないでしょうか。」

「………そこをどきなさい。」

「王妃さま!どうか……っっ」

「聞こえなかったのかしら。そこをどきなさいと言っているの。」

彼女は耐えるように瞳を閉じると頭を下げ、道をあけた。わたくしはもう彼女に視線を向けることなく、座り込みわたくしに怯え震えるあの女性へと歩を進め、

「ごめんなさいっっ」

とわたくしは抱きついた。

はぁ?と思う人もいるでしょう。というか、まさに市民も貴婦人も取り巻きの女性二人もはぁ?という顔でこちらをみている。

「あなたまるで震える兎みたいだわぁ。
本当にごめんなさいね。わたくしまだ手加減が上手くできなくて…敵意を感じると勝手に身体が動いてしまうのよ。
こんなか弱い可愛らしい女性に手をあげるだなんて…わたくしが悪かったわ。」

そう言われた彼女は口をあんぐりとあけ、わたくしをみつめていた。

「それにしても、こんな可愛い人たちを弄ぶなんて…最低だわ!貴方たちはこんなに陛下のことを慕ってくれていたのに手紙ひとつで終わらせるだなんて…貴方たちの怒りは尤もだわ。
でもね、本当にわたくしは何も知らないのよ。
いまはこんな状況でしょう?わたくしも陛下も忙しくてお会いしていなくて…こんな返答しかできなくてごめんなさいね。」


「……そ…んな…じゃあ、陛下は本当にわたくしのことを……?」

絶望。そんな言葉が彼女の顔には現れていた。
それほどまでに彼女たちは陛下を愛している。異性としての愛しいという感情を知らないわたくしにとって、それほどまでに誰かを愛せる彼女たちがわたくしは少し羨ましく思った。

「……ねぇ、このまま終わりなんて納得いかないでしょう?わたくしに協力させてくれないかしら。」

驚きと不安が入り交じった表情で彼女たちは視線を交わしあった。

(女性の心を弄び傷つけた罪を陛下にはきっちりと反省していただかなくてはね………?)
陛下へのおしおきに思考を巡らせわたくしは笑みを浮かべていた。
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