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シンデレラの忘れもの

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ゴーン…、ゴーン…、ゴーン…。

深夜0時の鐘が鳴り、シンデレラは、城から逃げるように去っていきました。
シンデレラを追いかけていた王子の手には、馬車に乗り込む際に外れた右耳のイヤリングが残されます。

大きな真珠のイヤリング…。
こんなに大きな真珠は、見たことがありません。
王子は城内に戻ると、

「誰か、先程の娘を知っているものはいないか!」

と問いかけます。
名も名乗らず去っていった娘を知る者は、誰も居ませんでした…。


翌朝、城下にお触れが出されます。

○○○○○○○○○○○○○○○○○○
・王子の誕生日を祝う舞踏会で、王子とダンスを踊った娘を妃とする。

・娘が忘れていったイヤリングをその証とする。

・覚えがある者は、対となるイヤリングを持参の上、城に出向かれたし。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○


3日が過ぎました…。
この間に、数名の者が、

『もしかして、私では…?』

と、城へ遣って来ましたが、対となるイヤリングを持参出来た者は居ませんでした。
お触れに、娘の似顔絵と特徴が書き加えられます。

【腰まで伸びた金髪】
【青い瞳】
【身長160~165cm】

情報提供者には、褒美を取らせるとも記されていました。


翌日、城には情報提供者の長い列が出来ました。
そのほとんどが、褒美目当ての嘘…、勘違い…、見間違い…。
そんな中、目の不自由な、物乞いが遣って来ました。

「おい! ふざけるな!
目の見えないお前が、似顔絵の娘の情報を持ってきたと言うのか!!」

王子の横に控えていた大臣が、厳しい口調で物乞いをとがめます。

「いえ、橋の上で物乞いをしていたところ、城に手紙を届けて欲しいと娘さんにお願いされたもので…。」

「なに!?」

王子は、椅子から立ち上がると物乞いに近付きます。
物乞いは、懐から手紙を取り出すと王子に手渡しました。

――――――――――――――――
拝啓、王子様。

先日の舞踏会は、私の人生で一番楽しいひとときでした…。
本当に、ありがとうございました。

馬車に乗る時、落としてしまったイヤリングですが、もう片方のイヤリングも、今私の手元には有りません。
ご自由に処分して下さい。

お妃様にしてくださると言うお触れを見た時、幸せで、胸が一杯で、泣いてしまいました…。
でも、私と王子様では、身分が違いすぎます…。
どうか、私の事は忘れて、素敵なお妃様を見つけて下さい。

真珠のイヤリングの娘より
――――――――――――――――

王子は、イヤリングが真珠であること…。
そして何より馬車に乗る際に落としたことが書かれていたことから、この手紙は、間違いなく探している娘が書いたものだと確信しました。

王子は物乞いを問い詰めます。

「娘と会った橋とは、どこの橋だ?
何時頃に会ったのだ?」

物乞いは、

【サウス村へ向う橋】
【1時間ほど前】

であることを教えてくれました。

「他に何か覚えている事はないか?」

王子の問いにしばらく考えていた物乞いでしたが…。

「そう言えば…、娘さんから麦の香りがしました…。
今は、ちょうど収穫の時期だから、娘さんは農家の人かも知れませんね。」

「なんだと!?」

王子は驚きました。
見たことも無い大きさの真珠の持ち主…。
てっきり貴族か豪商の娘と思っていたからです。
王子は、物乞いに沢山の褒美を与えると、部下を引き連れてサウス村へ向います。


もし、本当に農家の娘であるなら、サウス村に住んでいるに違いないと王子は思いました。
なぜなら、あの辺りで麦の栽培をしているのは、サウス村だけだったからです。
王子と部下は、必死に馬を走らせます。


一行は、日暮れ前に、サウス村へ到着しました。
ちょうど、農民達が家路につこうとしているところです。

「お前達!
ちょっと聞きたい事があるのだが、話をさせて貰えないだろうか?」

突然の王子の来訪に農民達は驚きます。

「この村に金髪で、青い瞳の娘は居ないか?」

農民達は、しばらく話し合っていましたが…。

「あっ!
そう言えば、あの娘は青い瞳じゃなかったか?」

「あぁ、確かに青い瞳だった!」

「でも、髪の色は栗色だったよねぇ。」

王子が話しに割って入ります。

「その娘とは、この似顔絵の娘のことか?」

農民達は、似顔絵を見て…。

「うーん…、似てるけど…。
こんなに綺麗じゃなかったよなあ。」

「もっと、汚れていて…。
ほこりだらけで…。
でも、顔立ちは似てるような…。」

要領を得ない会話に苛立ちを覚えた王子。

「えぇい!
その娘は、どこに住んでいるんだ!
誰か住まいまで案内しろ!!」

農民達は、顔を見合わせると、どこに住んでいるかは誰も知らないと答えます。

「どう言うことだ!?」


農民達の話では…。
今朝、娘が仕事を手伝わせて欲しいとやって来ました。
理由を聞くと、お金が必要とのことだったので、手伝って貰うことにしました。
昼過ぎに目標金額分の作業が終わり、娘は手間賃を受け取って帰りました。


「その娘の名は!
何て名だ!!」

「“エラ”と名乗っておりました。」

「エラか…。」

娘の名前が分かって、ホッとした様子の王子。

「王子様、もう日が暮れます。
今日のところは、城へお戻り下さい。」

暗くなってきた事を心配した部下の進言により、王子一行は帰路につきました。


城に戻った王子は、大臣に“エラ”と言う名の娘を探すよう命令します。
大臣は、少し考えると難しい表情を浮かべました…。

「おそれながら申し上げます。
エラという名前で、人物を特定する事は、出来ないかも知れません。」

「何故だ!?
この国の者であれば、城に有る人別帳に名が記されているであろう。
人別帳を調べれば、分かることではないか?」

王子の疑問に大臣は…。

「王子様もご存知の私の娘、エレオノーラは、普段エラと呼ばれております。
つまりエラと言う名は、愛称かも知れません。
一般的に、“エレノア”、“ガブリエラ”、“イザベラ”などの名前も愛称として“エラ”が使われます。
そして愛称は、人別帳に記されておりません。」

「ならば、どうすれば良いのだ!」

「そうですなぁ…。
おぉ、良い考えが浮かびました。」

大臣の考えを聞いた王子は、強く頷くのでした。


翌日、王子一行は、再びサウス村へ…。
サウス村へ到着した王子たちは、村人を集めると同行の画家に似顔絵を手直しさせます。

30分後…。
村人達が納得する出来栄えの似顔絵が完成しました。
髪はボサボサで埃まみれ、顔も薄汚れていて、継ぎはぎだらけの服を着た娘…。
最初の似顔絵と比較すると、確かに顔立ちは似ていますが、同一人物とは思えません。

村人から、エラは町の方から来たと聞き、王子達は町へ向います。
途中、出会う人に似顔絵を見せ、

「この娘を見たことがあるか?
エラと言う名前の娘を知っているか?」

と尋ねます。
町へ入って直ぐ、似顔絵の娘を見たと言う人に出会いました。

「それで、娘はどっちの方へ行ったのだ!」

「この娘さんは見たのは、あそこの雑貨店です。
何やら買い物をしているところを見かけました。」

王子達は、雑貨店へ…。

「ご主人、少々尋ねたいことがあるのだが…。」

「これはこれは王子様。
どのような御用でございますか?」

王子は、店主に似顔絵を見せます。

「この娘が店に来たであろう。
ご主人は、このエラと言う娘がどこの何者か知っておるか?」

「ああ、昨日来られた方ですね。
この方は、羊皮紙を買われました。
それで、手紙を書きたいとおっしゃりましたので、ペンとインクをお貸ししました。
しばらくそこのテーブルで、手紙を書いておられましたよ。
初めてのお客様でしたので、どこのどなたかは存じ上げません。」

部下達は、雑貨店を中心に聞き込みを行いましたが、新たなエラの情報は有りませんでした…。


夕方になり、城へ戻った王子…。

「誰もエラを知らないなんて、一体どう言うことだ!」

王子は、イライラと歩き回ります。
そこに、部下から報告を受けた大臣がやってきました。

「おおっ、大臣!
お前の言うとおり、似顔絵を新しく書き直し、エラの痕跡を追ってみたが、手がかりが途絶えてしまった。
他に何か良い手は無いか?」

大臣は、新しく描きなおされた似顔絵を手に取ると、じっと見つめ…、ポロポロと大粒の涙を流し始めます。

「…この娘は、虐待されているのでしょう…。
年頃の娘がこんなに汚れて…。
こんなボロを着て…。
とても人前に出られたものではありません。
それでも王子様へ手紙を書くため、勇気を振り絞って人前に出たのでしょう…。」

同じ年頃の娘…、同じエラと言う愛称の娘を持つ大臣は、オイオイと泣き始めます。
言われて初めて、王子も気付きました…。
王子の目にも涙が溢れます。

「大臣! 私はこの娘を救いたい。
何としても救いたい!
どうすれば良い!!」

大臣は、涙を拭います。

「エラ自身、こんな姿を人に見られたくないだろうし、家の者も虐待がばれるので、あまりエラを表に出さないのでしょう。
そのせいで誰もエラを知らないのだと思います。」

「ならば、どう探せばよい!」

大臣は、しばらく考え、

「王子様…、私に全てをお任せ頂けませんか?」

と力強く訴えます。
王子は、大臣の肩に手を置くと

「頼む。」

と言いました。


翌朝、城下にお触れが出されます。

○○○○○○○○○○○○○○○○○○
・城で働くメイドを募集する。

・通常のメイドより数倍過酷な作業を課すため、応募者は健康で若い娘のみとする。

・最低10年間、何が有ろうと家へ帰る事は許されない。

この条件で、メイドとして働く者には、前払いとして1年分の給料、金貨50枚を支払う。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○

大臣の作戦は、普通の娘には耐えられない条件で募集を出すことでした。

【10年間、家へ帰れない。】

これは、良好な関係の家庭では考えられない条件です。

【金貨50枚を前払い。】

これは、厄介払いをして金を手に入れたい人間にとって魅力的な条件です。
大臣は、エラが虐待されているので有れば、必ずその家族が応募にくると考えました。


翌日、1組の家族がメイドの応募にやってきました。
母親と2人の姉…、そして…。

「大臣様。
私どもの一番下の娘をメイドとして雇って頂けないでしょうか?」

見るからに意地悪そうな母親に紹介された娘が、ペコリと頭を下げます。
さすがに、埃まみれ、継ぎはぎの服ではありませんが、似顔絵の娘…、エラに間違いありません。

「10年間、家族に会えなくなるが…、この条件で良いのだな。」

「はい。
実はこの子は私の本当の娘ではございません。
前妻の娘なのです…。
そのせいだか、姉達との折り合いが悪く、家を出たいと申していたところに、今回の募集がありました。
これは渡りに船と思い、応募にまいったのでございます。」

エラは、うつむいたままジッと黙っています。

「娘、名は何と言う。」

大臣の問いかけに、継母が答えます。

「あっ!
この子の名前はシンデレラと申します。
どうか、エラとお呼びください。」

「…変わった名だな…。
シンデレラ【Cinder Ella:灰のエラ】…。」

瞬間、エラの表情が歪み、何か言いたげに、両手がグッと握り締められました…。

「よし!
この娘をメイドとして雇うこととする。
家族の方々に金貨50枚を与えよ。」

家族は、金貨を受け取ると、エラと別れの挨拶をするでもなく、喜んで帰っていきました。
大臣は、その様子を苦々しい顔で睨みます。


「エラ! 紹介しよう。
お前の指導係のエレオノーラだ。
おぉ、そう言えば、お前も普段はエラと呼ばれておったな。
これは困った、エラが2人になってしもうた。
わっはっはっ…。」

大臣は、わざとらしく…、楽しげに笑います。

「はじめまして、エラ様。
エレオノーラと申します。
どうか、エラとお呼びください。」

エラが、うつむいていた顔を上げると、目の前に同じ年頃の可愛らしい娘が立っていました。

「…エラです…。
よろしくお願い致します…。」

エラは、呟くように挨拶しました。

「それではエラ様。
お部屋に御案内致しましょう。」

エレオノーラは、大臣に目配せすると、エラを連れ部屋へ向います。


部屋へ向うエレオノーラの背中に向って、エラが声をかけます。

「あのー…、エレオノーラ様…。」

「はいっ! 何でしょうエラ様?
あっ! それと私の事はエラとお呼びください。
それとも同じ名前では、呼びにくいですか?」

「いえっ! 何だか恐れおおくて…。
それと私の事は呼び捨てでお願いします。
何だか自分じゃないみたいで…。」

エレオノーラは、少し考え…。

「じゃあ、今からお互いを“エラ”と呼び捨てにすることにしましょう!
良いですね、エラ。」

エレオノーラは、振り向くと明るい笑顔を見せます。

「えっ!? そんな、困ります…。
せめてエラ様と呼ばせてください…。」

「駄目です!
私はあなたの指導係ですよ。
指示には従って下さい!」

エレオノーラは、笑顔で頬を膨らませます。
そんなエレオノーラを見たエラは、思わず笑ってしまいます。

「ふふふっ…。」

つられてエレオノーラも笑い出します。
2人は打ち解けた様子で、用意された部屋へ入りました。


部屋に入ったエラは驚きました。
そこは、普通の客間で、メイドの部屋ではなかったのです。

「エラ、これは何かの間違いでは…。」

「あっ! ごめんなさいね。
急な話だったんで、部屋が用意できなかったの。
だから、しばらくはこの部屋を使ってもらうことになるわ。」

エラは納得しましたが、居心地悪そうです。

「それじゃ、最初に荷物の確認をさせて貰うわね。
安全のため、城に刃物や薬は持ち込めない事になっているのよ。」

そう言って、エラのカバンを調べ始めます。
替えの下着に洋服、必要最低限の物以外、何も見つかりません。
と思っていると、カバンの底から小さな袋が見つかりました。
中に何か入っています。

「エラ。 これ、中を見ても良いかしら?」

エラは一瞬躊躇しましたが、

「はい…。」

と頷きます。
エレオノーラは、袋の中身を机の上に出しました。
すると、可愛い小さな真珠のイヤリングが、1つだけ出てきました。

「…これ、もう片方は、どうしたの?」

「…なくしてしまって…。
これは、母の形見なんです…。
だから、片方だけになっても捨てられなくって…。」

「そう…。」

エレオノーラは、全てを知った上で行動しています。
当然、真珠のイヤリングの事も知ってはいましたが…、

(…王子様の手元にあるイヤリングとは、見た目も大きさも違う…。
どう言う事なのかしら…?)

と、エレオノーラは、一人悩んでいるのでした…。


そのころ、大臣は王子の部屋にいました。

「王子様。 似顔絵の娘…。
エラが、メイドの応募にやってまいりました。」

「おおっ! そうか!!」

王子は、嬉しそうに声を上げます。

「それで、これからどうするつもりだ。」

「エラの人となりを見るために、私の娘をつけています。
舞踏会の衣装に真珠のイヤリング…。
エラにはまだ分からないところがあります。
お妃様としてふさわしいか、見極めさせて頂きます。
よろしいですね。」

「うむ…。」

王子は笑顔で頷きます。


「ところで、エラの名前は分かったのか?」

「…継母は、シンデレラと呼んでいました。
しかし、エラはその名を嫌っているようでした…。」

「どう言うことだ?」

「人別帳を調べたところ“シンデレラ”と言う名前は記されていませんでした。
多分、家中での呼び名なのでしょう。
似顔絵に描かれていたように、灰にまみれた姿を見て“シンデレラ(灰のエラ)”と、あだ名をつけたのだと思います。」

「ならば、本当の名前は何なのだ!
人別帳を見たのなら書かれていたであろう!!」

「はい、書かれていました。
とても良い名前です。」

「なら、早く教えぬか!」

大臣は、少し考えると…。

「王子様。
エラは呪いに掛かっています。」

と、とんでもない事を言い出しました。

「どう言うことだ!?」

「継母に紹介されたとき、エラは『違う!』と、自分の名前を訂正する事が出来ました。
なぜ、しなかったのか?
多分、本当の名を名乗る事を禁じられているのでしょう。
エラから家族に対する恐れのようなものを感じました。
反抗すると仕置きを受けていたのかもしれません。
ですから王子様。
エラを家族の呪いから解き放ってあげて下さい。
王子様の力で、本当の名を名乗らせてあげて下さい!」

「わかった…。
私がエラを呪いから開放しよう。」

王子は、力強く宣言しました。


この日、エラは城内を案内されただけで、メイドとしての仕事は何もしませんでした。
部屋に戻った2人は、明日からの仕事について話し合います。

「…募集に“過酷な作業”と書かれていたのですが…。
いったいどんな仕事をするのでしょうか?」

エラは、不安げにエレオノーラに尋ねます。

「怖がらなくても大丈夫ですよ。
あれは、ただの嘘だから…。」

「えっ! どう言うことですか!?」

思わず、本当のことを口走ってしまったエレオノーラは、急いでつじつま合わせの嘘を考えます…。

「えっと~…。
そう! 城で働きたい人は沢山いるの。
だから、若干名の募集の時は、無茶な条件を出して、それでも働きたいって人だけを雇うことにしてるのよ。」

「そうなんだ…。 良かった~…。」

と、安堵するエラ。

(信じてくれた…。 良かった~…。)

と、安堵するエレオノーラ。

「さて、今日の仕事は終わりです。
さあ、お風呂に行きましょう!」

「えっ!? 急にどうしたのですか?」

「城で働く為には、身綺麗にしなければ駄目です!
分かりますね!」

(あぁ…、今日仕事がなかったのは、私が汚れていたからなんだ…。)

そう思ったエラは、少し悲しくなりました。
そんな気持ちを知ってか知らずか、エレオノーラはエラの手を引いて楽しそうにお風呂場へ向います。


「…あのー…。
どうして一緒に入られるのですか…?」

「私には妹が2人居て、いつも一緒のお風呂に入って居ます。
だから、気にしないで良いですよ。」

「いえっ…、そう言う事ではなくて…。」

他人とお風呂に入る事が初めてだったエラは、とても恥ずかしがりましたが、エレオノーラの指示なので逆らうことが出来ません。


「♪フンフンフンフ~ン…。」

エレオノーラは、鼻歌まじりにエラの髪を洗います。

「…あのー…。
自分で洗えますから、洗って頂かなくても大丈夫ですが…。」

「私は毎日、妹の髪や身体を洗っています。
だから、気にしないで良いですよ。」

「いえっ…、そう言う事ではなくて…。」

エレオノーラが丁寧に髪を洗うと、くすんだ栗色の髪は、美しい金色に変わっていきます。
そして埃まみれの身体を洗うと、真っ白な美しい肌が現れました。
エレオノーラは、綺麗になったエラを鏡の前に立たせます。

(!!)

鏡を見たエラは、驚きで声が出ません。
しばらくして、

「まさか、あなたは!
…あの時の魔法使いのお婆さんなのですか!?」

と、とんでもないことを言い出しました…。


お風呂場を出て、部屋に戻った2人…。
エラは、生まれ育った家のこと、そして舞踏会の日の出来事を話してくれました。
エレオノーラは、驚きの表情で話を聞いていましたが、疑問だったことが全て繋がります。

『なぜ、最初にお触れが出された時、城に来なかったのか?』

落としたイヤリングは、大きな真珠だったが、手元に有るのは魔法が解けた小さな真珠だったから…。

『なぜ、似顔絵が張り出された時、城に来なかったのか?』

似顔絵と自分が結びつかなかったこともあるが、魔法の力で金髪に変えられたと思っていたから…。

「それで、どうする?
今の話、王子様にしてみる?」

エラは首を横に振ります。

「城へ来て、あなたを見ていて思いました…。
お若いのに指導係を任されるほど信頼されていて、貴族様以上の立ち振る舞い…。
あなたのようなお方こそ、お妃様にふさわしい…。
私は、そう思います…。」

エレオノーラは、照れて顔が真っ赤です。

「じゃあ、今後の事は、私に任せて貰えるかしら?」

エレオノーラは、笑顔で問いかけます。

「えっ! はっ、はい…。
よろしくお願い致します…。」

すっかりエレオノーラを信頼したエラは、全てを任せることにしました。


その夜…。
エレオノーラは、今日の出来事を王子と大臣に話しました。

「魔法だなんて、そんなバカな!?」

と、2人は疑っていましたが…。

「じゃあ、今からエラを呼んできましょうか?
ひと目見て頂ければ、私の話が真実だと分かりますよ。」

そうまで言われては、信じない訳にはいきません。

「それで、お前から見てエラは、お妃様としてふさわしいと思うか?」

大臣の問いに…。

「もちろんです!
あの子は、良い子です。
私は、大好きです!!」

エレオノーラは、強く訴えます。

「うむ!
ならば妃として迎える準備をせねばな!!」

王子は、満面の笑みを浮かべます。


翌朝…。
城内は、大騒ぎです。
最初に描かれた似顔絵そっくりの娘が現れたから…。

「あのー…。
このようなドレスは、仕事に向いてないと思うのですが…。」

昨夜の内にエレオノーラは、エラに似合いそうなドレスを家から持ってきていました。
髪を整え化粧も施しました。
今のエラは、舞踏会のとき以上に可憐で美しく見えます。

「一体、どこへ行くのですか?」

「謁見の間ですよ。
謁見の間への立ち入りは、正装が義務付けられているのです。
ですから、私もドレスアップしているのですよ。」

エラと同様に着飾っているエレオノーラ。

(信じてくれるかな~。)

と、思いつつ嘘をつきます。

「そうなんだ…。 へぇ~…。」

と、感心するエラ。

(信じてくれた…。 良かった~…。)

と、エレオノーラは安堵しました。

「…でも昨日、案内してくださった時は、ドレスを着ていなかったけど…。」

と、エラが呟きます。

(ギクーーーッ!!)

と、謁見の間に到着しました。
エレオノーラは、扉に立つ衛兵に目配せします。
すると、扉が開かれ中に招き入れられました…。


謁見の間に敷かれている、真っ赤な絨毯の先に、王と王子の姿が見えました。

(!?)

てっきり、

『謁見の間の掃除かな?』

と、思っていたエラは、驚きで声が出ません。

「エラ…、行きますよ。」

エレオノーラにうながされ、エラは進み出ますが、その歩みは夢心地です。
王と王子の前で、エレオノーラにならって、エラはひざまずきます。


王、王子、そして大臣は、前もって聞いていたとは言え、本当に現れた舞踏会の美女の姿に息を呑みます。

「王様、王子様…。
お妃様候補のエラ様をお連れ致しました。
ご検分、よろしくお願い致します。」

驚いたエラは、エレオノーラを見ます。
エレオノーラは、微笑んでウインクしました。

「さあエラ…、立って…。」

エレオノーラは、エラの手を取って立たせると王子の前に進ませます。
王子の横に控えていた執事が、王子に何かを手渡しました。

「エラとやら、これを着けて貰えるか?」

それは、舞踏会の夜に落とした大きな真珠のイヤリングと、母の形見の小さな真珠のイヤリングでした。

エラは、小さな真珠のイヤリングを手に取ると、左の耳に着けました。
そして、大きな真珠のイヤリングを手に取ると…。
ポン!と言う小さな音と共に魔法が解け、大きな真珠のイヤリングは、母の形見の小さな真珠のイヤリングに戻りました。
エラは、泣きながらイヤリングを右の耳に着けます。

「皆の者!
対となるイヤリングを持参した者が遣って来た。
お触れ通り、この者を私の妃とする!!」

わああぁぁーーー…!!

謁見の間に居た者、似顔絵そっくりの娘が気になって様子を見に来た者、みんなが一斉に歓声を上げます。

「エラ…。
お前の本当の名前を教えて貰えるか?」

「はい、王子様。 私の名前は…」

王子さまー、お妃さまー…!!
おめでとうございまーす…!!

エラの本当の名前は、歓声で聞こえませんでしたが、

「…とても素敵な名前だね…。」

と、王子の声が聞こえてきました……。
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