白い象

つなざきえいじ

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白い象

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○○○○○○○○○○○○○○○○
白い象は、神様の生まれ変わり…。
白い人は、神様の使い…。

昔々、村に疫病が蔓延した。
村人は、次々に亡くなっていった。

そんな時、近くの森に白い象が産まれた。

しばらくして、白人が村へ遣って来た。
白人は、村人に薬を与え、多くの命を救った。
また、村人に知恵を与え、文明世界への扉を開いた。

白人が去って数ヶ月後、隣村の若者が白い象を狩った。
するとその若者は、疫病にみまわれた。
疫病は村に蔓延し、村人が次々に亡くなっていった。
そして隣村は、滅んだ…。

だから、白い象を決して傷つけてはならない。
もし傷つける者があれば、決して許してはならない。
さもなくば、呪われるだろう…。
○○○○○○○○○○○○○○○○

さて、こんな伝説の残る村の近くで、二頭の象が産まれました。

一頭は普通の象で、名はパオウ。
もう一頭は真っ白な象で、名はパオン。

同じ日に産まれた二頭は、本当の兄弟のように仲良く暮らしていました。


ある日、この村に三人の白人が遣って来ました。
村人は、白い象の誕生に続いて、白人が現れた事で、何か良い事が起こるのではと、大喜びで白人を歓迎しました。
しかし、白人の口から信じられない言葉が飛び出します。

「象狩りをしたいのだが、案内を頼む。」

驚いた村人は、伝説を語り白人に問いかけます。

「あなた達は、神様の使いではないのか?」

その時、白人のリーダーがニヤリと笑いました。

「俺達は、神の使いだ。
白い象神を助けに来たのだ。」

村人達は、どう言う事か尋ねました。

「群れの中に悪い病気を持った象がいる。
俺達は、白い象神に病気がうつる前にそいつを退治しに来たんだ。」

このリーダーの嘘を村人達は信じました。
そして案内役として村の若者を一人つけます。
白人達を乗せた車は、若者の案内で象の群れへと向いました…。


しばらく、車を走らせると象の群れが見つかりました。
群れの中に白い象の姿が見えます。
白人達は、車から降りるとライフル銃を構え、狙いを付けます。

「おい!
分かっていると思うが、絶対白い奴に当てんじゃねえぞ!!
傷つけてもなんねえ。
なるべく白い奴から離れた象を狙え!!」

リーダーは、村の若者に聞こえないよう、小声で仲間に指示します。

「あと、殺し過ぎると怪しまれるかも知れねえ。
だから一人二頭までだ!
分かったな!!」

リーダーの言葉に仲間達は頷きました。


木陰で休んでいた象達は、見慣れない人間が近付いて来たことに気付きます。

「何だ!? あの人間は?」

「何だろうね?
何か棒を持ってるみたいだけど…。」

象達が普段見かける村人は、黒髪で上半身裸、褐色の肌…。
今見ている人間は、金髪で白い肌、サファリジャケットを身に着けています。
しかし、村人と良い関係を築いていた象達は人間を警戒する事はありませんでした。

ダーン…。

一発の銃声を合図に、ダーン、ダーン、ダーン…、と銃声が鳴り響きます。
撃たれた象が、ドスンと膝をつき倒れました。
群れは大混乱、みんな一斉にその場から逃げ出します。

「パオン! 逃げよう!!」

一緒に遊んでいたパオウの言葉で、駆け出そうとしたパオンの瞳に、両親の倒れる姿が映ります。

「父さん! 母さーん!!」

パオンは、両親の方へ駆け出します。
それをパオウが止めました。

「駄目だ! 逃げないとお前もやられるぞ!!」

パオウは、パオンの鼻に自分の鼻を絡めると無理やり引っ張ります。
その時、母親の声が聞こえてきました…。

「パオン! 逃げ…て…。」

パオンは、涙を流しながらパオウと一緒に逃げました…。


六頭の象が撃たれました。

「これで、象神様は守られたのですね…?」

殺された象達を悲しげな表情で見つめながら案内人の若者が尋ねます。
するとリーダーは首を横に振り…、

「象神の横に居た一頭…。
あいつが悪い病気の元凶だ!
象神に弾が当たる危険があったから狙えなかった。
許してくれ…。」

と悔しがってみせます。

「謝らないで下さい。
明日、象のエサ場に御案内します。
明日こそ、仕留めましょう!!」

若者の言葉に白人達はニヤリと笑うのでした。


翌日、象達は悲しみを抱えたまま普段の生活に戻っていました。
その様子をリーダーと案内人の若者が遠くから双眼鏡で見ています。

「ちくしょう!
今日も病の元凶が、象神の側に居やがる!!
これじゃあ、狙えない…。
みんな、先に病気をうつされた象を狙うぞ!!」

リーダーは、若者に嘘をつきます。

「何頭、病気なのでしょうか…?」

若者が呟きます…。

「病の元凶を除くと六頭だな…。
群れから離れた場所に居る奴はわからねえ。
そうだ!
もし、象神が病気になったら、病気で苦しむ前に殺してしまっても良いか?」

リーダーは、白い象を気にすることなく狩りをしたいと考え、若者に尋ねます。

「駄目です! 絶対に駄目です!!
象神様を傷つけたら、たとえ神様の使いのあなた方でも、私達は許さないでしょう。」

(ちっ!)

若者の言葉に、リーダーは苦々しい顔で舌打ちしました。


この日も、六頭の象が撃たれました。
翌日もその次の日も象達は殺され続けました。
何故ならパオンの側には、いつもパオウが居たから…。
群れも半数程に数を減らしていました。

この頃から象達が、パオンを虐めるようになります。
何故ならパオンの体が白いから…。

「お前! 白い人間の仲間だろ!!」

「違うよ!」

「じゃあ何で、お前は狙われないんだ!」

「…」

「やめろよ! パオンは両親を殺されているんだぞ!!」

パオウは、パオンをかばいますが、白人に狙われるのは、パオンから離れた場所にいる象ばかり…。
パオンの近くに居た白人が、わざわざ遠くの象に狙いを変える姿も見られています。

(このままだと、パオウも仲間外れにされちゃう…。)

そう思ったパオンは、群れから離れることにしました。

「しばらく一人にして欲しいんだ…。
大丈夫! 明日には元気になるから!!」

そうパオウに言って、パオンは群れから離れます。


パオンには行きたい場所が在りました。

虹の森…。

伝え聞いた話では、そこへ行けば体の色を変えることが出来る…。
嘘みたいな話だけど、どうしても確かめたいと前々から思っていたのです。

(長いこと群れから離れるとパオウが心配しちゃう…。
急がなくっちゃ!!)

パオンは、北へ走ります。


その日の夕方、パオンは虹の森に着きました。
虹の森と言う明るい名前とは裏腹に、生き物の気配がしない、うっそうとした森。
パオンは森の奥に進みます。


しばらく進むと大きな岩があり、その上で真っ白なライオンが眠っていました。
ライオンは、パオンの気配に気付いたのか目を開けます。

「お前も、体の色を変えに来たのか…?」

ライオンは、パオンの白い体を見て尋ねました。

「うん! 僕、パオン。
虹の森は、自由に体の色を変える事が出来るって聞いて来たんだ。
どうすれば、体の色が変えられるのか教えてよ。」

ライオンは、首を横に振ります。

「自由になんて変えられないよ…。
変えられるんなら、俺の体が白い訳ないだろ。」

(やっぱり、嘘だったのか…。)

パオンは、ガッカリした様子で引き返そうとします。

「まあ待て。
自由には変えられないが、お前が望む色には変えられると思うぞ。」

(??)

パオンには、言ってる意味が分かりません…。

「ついて来い。」

ライオンは岩から飛び降りると森の奥へと進みます。
パオンは、ライオンの後について行くことにしました。


少し進むと小さな沼がありました。
ライオンは、足を止めます。

「ライオンさん、一体どう言うことなの?」

パオンは、尋ねました。

「あいさつが遅れたな…。
俺の名はライオ。
よろしくな。
ところでパオン、お前がなりたい色は何色だ?」

ライオの問いにパオンは答えます。

「灰色だよ!
僕、みんなと同じ色になりたいんだ!!」

ライオは、大きく頷きます。

「それは良かった。
自由には変えられないが、灰色には変えられる。
それが虹の森さ。
虹の森って名前と色が変わるってことで、話が大きく伝わってるんだよ。
かくゆう俺も、自由に色が変えられると思って来たんだがな。」

ライオは、ポリポリと頭を掻きます。

「えっ!?
じゃあ僕の体、灰色に変えること出来るの?」

パオンは喜びます。

「ああ、出来る。
だが、簡単には変えられない。
辛く苦しい思いをすることになるが…、お前に耐えられるか?」

ライオは、真剣な表情でパオンを見ます。

「僕、自分の色を変える為なら、どんな事でも頑張る!
だから教えて!
何をすれば良いの?」

ライオは頷くと沼に目を向けます。

「この沼に浸かる事で、お前の肌は、この沼と同じ灰色に染まる。」

「えっ!? それだけで良いの?」

とんでもない試練を考えていたパオンは拍子抜けしました。

「じゃあ、僕、入るね。
どれくらい、浸かってれば良いの?」

「一晩だ…。」

ライオの言葉にパオンは絶句します。

「日が沈んでから、昇るまでの間…。
途中で、もし眠ってしまったら溺れてしまうだろう…。
もう直ぐ、日没だ。
それまでに、どうするか決めろ。
俺としては、今日一日体を休めてから、明日にした方が良いと思うが…。」

パオンは、考えていました…。

(…明日、戻らないとパオウが心配しちゃう…。)

パオンは、決心しました。

「僕、今日入るよ!」

「そうか、じゃ俺が見ていてやる。
ここから入って鼻だけ外に出しておけ。
ただし、お前が眠ってしまって溺れても、俺の力じゃ引っ張り出すことは出来ない。」

パオンは、頷きます。


ザブザブザブ…。

日没を迎え、パオンは沼に入ります。
全身、沼に浸かり鼻だけライオの前に伸ばします。
ライオは、鼻の前に座ります。

「パオン! 聞こえるか!!」

ライオが声をかけます。
パオンの鼻が少し持ち上がりました。

「よし!
これから定期的にお前に声をかける。
もし鼻が上がらなかったら眠っていると判断して、お前の鼻に噛み付く。
分かったか!」

パオンの鼻が少し持ち上がりました。
パオンとライオの長い夜が始まります…。


深夜…。
パオンは、ウトウトと眠りそうになりますが、ライオに助けられ何とか頑張っていました。

(白い人…、僕と目が合ったのに僕を撃たなかった…。
本当に僕のせいで、白い人が来たのかな?
僕の色が変わったら白い人は居なくなるのかな…?)

沼の中で何も出来ないパオンは、答えの出ない問題をひたすら考えていました…。


翌朝…。

「パオン。 よく頑張ったな!
もう出ても良いぞ!!」

パオンは、ライオの声と鼻先に感じる暖かな日差しで、朝が来たことを知りました。

ザブザブザブ…。

フラフラのパオンが、ヨタヨタと沼から出てきます。
パオンは、身体をブルンと一振りしました。
すると泥が弾け飛び、灰色に染まった体が現れます。

鼻先を除いてですが…。

それでもパオンは、大喜び。
そんな様子を笑顔のライオが見つめます。

「パオン!
今日は、水浴びしないようにな。
明日になれば、その色は、お前の色になる。」

「うん! 分かった!!」

パオンは嬉しそうに答えました。

「…で、鼻先は白いままで良いのか?」

ライオは、笑いながらパオンに尋ねます。

「早くパオウに見せたいんだ。
パオウに見せたら戻ってくるね。
だから、またね。
ありがとう! ライオ!!」

パオンは、お礼を言うと、急ぎ足で群れへと向います。
ライオは、笑顔でパオンを見送りました。


(パオウ、驚くかな?
やっぱり、鼻も灰色にしてからの方が良かったかな?)

そんな事を思いながら、パオンは走り続けます…。


ゾウの群れが見えました。
群れまで、もう少し…、パオウの姿も見えます。

「パオ…」

パオンが呼びかけようとした、その時…。

ダーン…。

銃声と共に倒れゆくパオウの姿が見えました。

「パオーーウ!!」

パオンは急いで駆け寄り、鼻先で心配そうに身体を揺さぶります。

「パオウ! パオウ! 大丈夫、パオウ!!」 

ダーン…。

ドスン!

銃声が鳴り響き、パオンはパオウと向かい合う形で倒れました。
パオウの閉じていた瞳が開きます。
パオウは、白色の鼻先を見て呟きました…。

「パオンなのか…?
どうしたんだ、その色?」

「僕、皆と同じ色になったんだよ…。
明日には、この鼻先も灰色に変わるよ…。
これで、ずっと一緒に居られるね…。」

痛さをこらえパオンが、微笑みます。

「ごめん…。 俺、撃たれちゃったから…。
もう、一緒には居られないよ…。」

パオウが、痛みに顔を歪めます。

「僕も撃たれたよ…。
一緒だね…。」

パオンが満面の笑顔を見せます。

「撃たれて喜んでんじゃねえよ…。」

呆れた様子でパオウは笑います。


2頭は、お互いの鼻を絡めると、ゆっくり目を閉じました。

「一緒に死んだら、一緒に生まれ変わるのかな…?」

パオンが呟きます…。

「ああ…、きっと一緒に生まれ変わるさ…。」

「じゃあ…、また…友達になって…くれる…。」

「ああ…、俺達は、ずっと…、友達…さ……。」

微笑を浮かべたまま、2頭は息を引き取りました…。


ザバー…、ザーザーザー…。

突然のスコール…。
白人達は、車に戻ります。

しばらくして、スコールは去りました。
白人達がゾウの元に戻って来ます。
すると真っ白なゾウが死んでいました。

「…神様殺した…。
お前達、神様の使い違う…。
お前達! 悪魔の使い!!」

案内人の若者が、怯えながら白人達を置き去りにして、村へと走り去って行きました。
白人達は、村人との約束を破った事を知り、慌てて車に乗り込むと猛烈なスピードで、その場を離れます。

「ちくしょう!
誰だ、白いゾウを撃った奴は!!
この村で、狩りが出来なくなったじゃねえか!!」

仲間達は、首を横に振り自分が犯人では無いと訴えます。
白人達が、この村に来る事は二度と有りませんでした…。



パオンとパオウが亡くなって数日が経ちました…。
白人の脅威は去り、残されたゾウ達は平和に暮らしています。
ゾウ達の話し声が聴こえてきました…。

「やっぱり、パオンがいたから仲間が殺されたんじゃないか?」

「きっとそうだよ!
あいつが居なくなったら白い人間も居なくなったじゃないか!!」

「あいつが、白い人間を連れてきたんだよ。
とんだ疫病神だ!!」


この話は、ライオの耳にも届きます。
(俺が違うと言っても、白い人間が居なくなったと言う事実があるいじょう、誰も信じないだろう…。
なあ、パオン…。
俺は、お前を苦しめただけだったのか…?)

ライオは、パオンを思い一人涙するのでした……。
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