ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 11

木野 キノ子

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第二章 乱宴

17 マギーは?

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怒りに燃える私は、おっちゃんの、

「とりあえず、なんか羽織れや、嬢ちゃん…」

ちょっと呆れた声で、我に返る。

「あ、ごめんごめん。でも…私も火の近くまで行ったから、一応見てもらった方がいいと
思って…」

診察を受けるなら、服は結局ぬがにゃならん。

「嬢ちゃんは相変わらずだなぁ…」

おっちゃんの見立てでは…ひとまず私は大丈夫とのことだ。
結構熱かったが、火傷するほどではなかったよう。

そんな私の元に…

「フィリー!!ここか!!」

ギリアムが飛び込んできた。

「会場に戻ったらいないから…本気で探しました!!!」

えらい剣幕だった…。まあ、無理もないよね。
他にも刺客が…入り込んでいるかもしれないんだから。

「は、犯人はどうなりました!!」

聞きたいのはまずそこ!!
するとギリアムは…非常に口惜しそうな…何とも歯がゆそうな顔をして…。

「……自害しました」

「へ?」

ギリアムの話では…私の下着を剥がした人間は、逃げるのが非常に早かったようだが、
そこはギリアム。
しっかりと追いつき、捕まえたそうな。

しかし…。

逃げられないとわかったら、即座に舌を噛んだらしい。

ギリアムが死体を調べた限り…明らかにプロであったという事だから…。
間違いなくジョノァドの刺客だったんだろう。

恐らく…私に恥辱を与えろって言ったのは、バカ王女か王后あたりだろう。
でも…ジョノァドとしては、もう私の力がわかっているから、できれば殺したかったんだ。
だから…私の下着をはぎ取る時…糸が絡んで…みたいな、言い訳が出来るようにしたかった
のだろうな…。

私は…子供の件と、私の考えをギリアムに話した。

「なるほど…それは…あり得るな…」

ギリアムの眉間の皺が、過去最高くらいに深くなり、

「しかし…ひとまずは会場の状況を確認しないといけない。
フィリーはここで休んで…」

「バカ言わないで!!戻ります!!」

「危険です!!」

「だからと言って…。このままおめおめと引き下がれません!!」

そんな私の肩を…ギリアムががしりと掴む。

「ダメです。震えているのに、戻せない…」

ギリアムの悲しそうな眼を見て…。私は初めて、自分の体が震えているのに気が付いた。

確かに…。

怖い…。

あの絡みつく糸…。

プレイとは明らかに違う…。

本当に私を、殺すために纏わり付いた…殺意…。

…………………………………。

でも…。

でもさぁ…。

「このまま引き下がったら…ジョノァドの思うつぼでしょう!!
ジョノァドに協力している人間達を…喜ばせるだけでしょう!!
そんなの…絶対に嫌です!!」

何の関係もない…罪もない子供を巻き込みやがって!!

私の…絶対に引かないという、目の輝きは…ギリアムに伝わったようで…。

「絶対に私から離れるな!!それが条件だ…」

「わかってる!!私だって死にたくない!!」

ギリアムは…そう言いつつも、震えている私の体を…抱きしめてくれた。
ギリアムの熱が…温もりが…私の冷え切った体に…じんわりと染みわたる…。

この世界に来れて良かった…。
アナタに会えて…良かった…。

私は…少しばかり、エネルギー充填の為に、その温もりに酔いしれ…。

そして…。

「じゃあ…行きましょう!!ギリアム…。第二ラウンドをやりに!!」

「絶対に無理はしないと…」

「お約束します!!」

私は…悲しそうな色を孕んだギリアムの目を…そらすことなく真っすぐに見た。
ごめんよ…。
でも…。
売られた喧嘩は、買いたいんだ!!
特に…非道な連中なら、余計ね!!
私には…戦う力が、あるのだから!!

私は…そうと決めたら、速攻でお着換えをする。
エマもユイリンも…心配そうにしていたが、そこは申し訳ないけど…と、思った。

会場は…かなりひどい状況だった。
でもそこは…戦争を生き抜いたギリアムと還暦越えオババの私らしく、しっかりと予備を用意して
おいたのだ。

会場にいた皆様は…フォルトや使用人たちが、上手く誘導してくれたおかげで、けが人はなかった。
火傷も…大丈夫だった。
王立騎士団員や近衛騎士団員も協力してくれたから…、火は迅速に消えて、事なきを得たしね。

皆さまは改めて…予備の会場にお連れしたよ。
もちろん…帰ることを希望されたら、よくお見送りするように言っておいたが…、殆ど帰らなかった
そうな…。

さて…ここで私は、ふと気づく…。
マギーの様子を見に行ってやらんとね。

あの子も…突っ走りやすい子だから、思いつめると…ね。

「マギー。様子はどう?」

私が現れた事に、本気で驚いたようで、あたふたした。
それが落ち着くのを…私は静かに待つ。

「あ、ありがとうございます…。あの…」

「ん?」

マギーは…少しオドオドしながら、

「また…ご迷惑をおかけして…」

言いつつ、下を向きつつ、泣いているみたい。
私は…ほほえみつつ、

「怪我が無いようで、安心したわ。ファルメニウス公爵家主催のパーティーだからね…」

「でも…でも…私…また…私…」

何が言いたいか…わかっちゃうだけに、私はちょっと頭を掻きつつ、

「あのさ…最初からいきなり、なんでも出来る人いないよ」

あっさりと答えると…ちょっと意外そうに、私を見た。

「…私は随分と規格外として皆様から、高い評価を貰っているけどね。
ギリアムに見初められるまで、おおよそ貴族の教育など受けず、勉強する気もなかったから、
ファルメニウス公爵家に入ってから、猛勉強する羽目になったよ。わかる?」

何だか…信じられんって顔しているね。
私は…勉強もせずに、今までの事、できた訳じゃないぞ。

「トイレでのこと、聞いたけどね。
見初められたからって、資格がないと思われれば、粉かけられるのは普通だよ。
私だって、いまでこそ皆に認められているけど、最初のうちはだいぶヒドイ粉のかけられ方したよ。
んで助けてくれる人なんていなかったし、伝手も無かった」

クレアのお茶会は…私はたいしたことないと思ったけど、お上品な方々に話すと、大抵え~って
顔するからね。

「でも…そこから、しっかりと巻き返したんだから…スゴイです…」

まあ確かにそうだけど。
でも…それだって、前世の経験値が無きゃ、無理だったよ。

「あのさ…。さっきも言ったけど、いきなり何でもできる人いないよ。
とりあえず、最低限度レベルは守れているから、いいんじゃない」

「さ、最低限度レベル?」

キョトンとするから、もう少し説明することにした。

「まずね…私はみんなが認めるくらい、凄い事いろいろやってるけどさ…。
それでも未だに、元の身分で蔑む人や、文句言う人や、陰口叩く人は沢山いるよ。
私は一生続くと思っている。マーガレット夫人もそうだと思ったほうがいい」

「でもね…文句だって一つの意見なのよ。
だから私は、できるだけ耳に入れるし、それについて考える。
で、最終的にギリアムと相談して、自分がどうするか決定するの。
私はファルメニウス公爵家に嫁いだ身で、私の評判や行動は、ギリアムに一番影響するから」

「だから…アナタがトイレで、あの3人に言った、ローカス卿が言った意見が一番大切…って
いうのは、大正解。
アナタがとった行動は、ローカス卿が一番影響を受けるから。
人の意見に耳を貸さないのは、マズいけど、耳に入れた上で、取る行動としての考え方は
間違っていないわ、マギー」

「ちょっとずつ…出来ているって事よ。
それを…大切にして、今後も精進すればいいと思う…。
無理しないように…ね」

私がここまで言うと…マギーの目から落ちた涙が、濡れた床の上に波紋を作る。

「あ…りがと…ございます…」

私はそれを見て…もうちょっと話をする気になった。
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