ひとまず一回ヤりましょう、公爵様

木野 キノ子

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第3章 追憶

2 ポチと名付ける

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私が包帯っ子とやり取りしていた時、ちょうどいい具合に私を呼ぶ、
おっちゃんとおばちゃんの声が。

「おっちゃーん、おばちゃーん。
こっちこっち~」

私が声を上げると、がさがさと茂みが揺れて、二人が現れた。

「ああ、よかった、フィリーちゃん!!
心配したのよ」

おばちゃんが駆け寄ってくる。
おっちゃんが後ろで、安堵の表情を浮かべる。

心配かけてごめんよ。
私、子供じゃないから大丈夫だよと言いたい…。
って、今はそれどころじゃない。

「おっちゃん…あの子…おっちゃんの本に書いてあったのと同じ
だと思うんだけど…」

おっちゃんは、包帯っ子を一目見て、

「ほう…、よくわかったな、フィリー嬢ちゃん。
あんなにひどいのは、オレも初めてだがなぁ…」

包帯っ子は大人が来て、いよいよ後ずさる。

「どこの子なんだい?」

おばちゃんの当然の疑問。

「わかんない、自分のこと何も喋らないの。
でも治療しないと、どんどんひどくなるだろうから、おっちゃん
を呼びに行こうと思ってたの。
ずっと歩き続けてたみたいで、もう歩けないみたい」

「なるほどね。
おい、坊主!!
治療してやるから」

おっちゃんが近づこうとしたら、その子は咄嗟に木の枝を拾い
ぶんぶん振った。

「くっくるな!!
あっちいけ!!
治療なんか受けない!!
どうせ治らないんだから!!」

するとおっちゃんは、ちょっと難しそうな顔をした。

「おっちゃん、どうしたの?」

おっちゃんは60過ぎではあるが、若いころ旅続きだっただけ
あって、足腰はいまだ頑丈、ついでに筋骨隆々。
子供が木の枝を振り回すぐらい、軽くいなせると思う。

「ん~、ちょっとまずいかもしれねぇな」

「なにが?」

「あの坊主…。
今まで散々、治療受けてきたけれど、ちっとも効果がなかった
んだろう。
まあ、この寄生虫を知っている医者は、この国にはまずいない
だろうから…当然ちゃ当然だ」

「だから?」

「あの坊主は治療しようとしても、薬を飲まねぇだろうし、
自分が生きること自体も、もうあきらめているみたいだ…。
医者に言わせると、こういう患者が一番厄介なんだよ。
治す方法を知っていても、治せない事さえある」

そんな…。
私は改めて包帯っ子を見た。

確かにこの年なら、人に世話をされていておかしくない。
病気の子ならなおのこと。
なのに、山の中に一人でいた…。
もしかしたら、捨てられてしまったのかも…。

「ねえ、あんた…。
捨てられちゃったの?」

私の言葉に、包帯っ子は木の枝を振り回したまま、

「ああ、そうだよ!!
みんな僕なんかいなくなればいいって!!
早く死ねって…!!」

言葉がそれ以上でないようだ。

…私は拳をぐっと握りしめた。
前世の私は子供を持つことは無かった。

でも同僚や友人の子供を、よくかわいがった。

本当にかわいかった。

子供がいたら大変なことも多いし、事実そういった話も愚痴も
結構聞いたものだ。

でもさぁ…。

みんな石にかじりついて子供育ててたし、捨てようなんざ少しも
思っていなかった!!

わかってる…。
子供育てたことない私に、何も言う資格ないってな…。

…………………………………。
だから!!!

私がやってやるよ!!

私が包帯っ子を育ててやるよ!!

私は前世、自分の快楽を極限まで追求して生きてきた。
快楽の追求こそ、私の生きる意味。
それは今世でも変わることはない、不変の法則。

その私に言わせれば。
……包帯っ子をここで見捨てたら…。
私はこの先の人生、絶対楽しめねーんだよ。

それに!!

ムカつくんだよ!!
見てやがれ、包帯っ子の周りの大人!!

私がこの子を、立派に育ててやる!!
後で返せって言っても、返さねぇぞ、絶対!!

覚悟を決めた私は、包帯っ子に向かって、スタートダッシュを
切る。
瞬発力には自信があるのだ。

私は包帯っ子に突進し、見事に懐に入り込み、抱き着くことに
成功する。

「お、オマエ!!何してんだよ!!
病気がうつる!!」

「うつらないって言ったでしょ!!
アンタの病気はうつんないの!!」

そう。
この寄生虫は経皮感染はしない。

「わかったら治療を受けなさーい!」

「や、ヤダ!!」

「受けなさーい!!」

「ヤダってば!!」

という、何とも子供らしいやり取りが繰り広げられていたのだが、

「離れろってばぁ!」

包帯っ子が木の棒を私の方に振った。
…もちろん威嚇のつもりだったのだろうが。

私の額をかすった木の棒は、私の額をぱっくり割った。
流血した私の額を見て、包帯っ子はひるんだ。
もちろん、ふつーの子供なら、泣きわめいて離れるんだろうが、
私は包帯っ子を抱きしめる力を、さらに強くする。

私の服に、包帯っ子の血と膿が染みて、額の血は止まらない。
でも私は気にしない。
前世の経験で知っていたから。
まず、頭部は血管が集中しているから、軽い傷でも出血量は多い。
だいたい前世、一見で出禁食らうような乱暴客に当たった時は、
こんなもんじゃ、すまなかったっての。

「治療を!!う・け・な・さ・い!!」

私はハッキリした口調で、包帯っ子の眼を真っすぐ見据え、
言った。
私の額から出た血が、ぽたぽたと包帯っ子の体にたれる。

「な…なら…」

包帯っ子は木の棒をさらに私に向けようとはしなかった。
それだけでもよかったわい。

「だ…だったら…」

「ん?」

「お…お前…僕にキスできるか?」

へえ…。
私は迷わず包帯っ子に口づけた。

しかも触れる程度のものではなく、歯と歯茎がぶつかるような…
ディープキスだ。
あ、舌も少し触れたよ~。
この寄生虫、経口感染(唾液感染)もしないって、わかってたし。

「これでいい?」

呆けている包帯っ子に問えば、

「……う、うん」

大分素直になった。
よっしゃよっしゃ。

「じゃ、名前」

「……ない」

「じゃあ、好きにつけなよ」

「……」

「何にも喋らないなら、アンタのことポチって呼ぶわよ」

「君がいいなら、それでいい…」

いいんかい!!
まあ、ポチはこの世界じゃ、犬の名前として定着していない
からなぁ…。
深く考えないようにしよう。
後で改名してもいいし。

そうしておっちゃんがポチを抱え上げ、診療所兼自宅まで連れて
行った。
私はと言えば、私の額の血を見たおばちゃんに泣かれてしまい、
逆に困った。
おんぶすると言ってきかないので、しょうがないから甘んじた。
幸い小さいけれど入院設備はあったので、ポチはその一室に入れ
られた。

おっちゃんが処方した薬を黙って飲むポチ。
おばちゃんの用意してくれたご飯を、私と一緒に静かに食べる
ポチ…。

まるで借りてきた猫のようにおとなしくなったポチ……。

……………………………タマに改名するか。
……ちっっがーう。

私の額の傷は、結局転んだ時についたものにした。
ポチがやったって言うと、さすがに温厚なうちの両親でも、
怒るだろうと思ったから。
怒ってポチのそばに寄らないようにさせられると、面倒だった。

実はポチ、すごくおとなしくなったのだが、代わりに私のそばを
離れなくなってしまった。
何をやるにも私の後をついてきて、私の真似をする。
ポチが私を心の拠り所にしていたのは、おっちゃんもすぐに
わかったから、両親には上手くいってくれたようだ。
ありがたし。
まあ、ケガは全面的に私の自業自得だからね。
後悔なんか微塵もしてないし。

ちなみにポチの足の豆は、一晩寝たら治ってしまった。
私の後をちょこちょこついてきて、かわいいのなんの。

ちなみに朝の薬草採取は、私はしばらくやめた。
なぜなら薬草採取に行く私に、ポチがついて来ようとするからだ。
これだけは、何度言ってもやめないので、おっちゃんの指示で
ポチの世話係を担当することになった。
おっちゃんとおばちゃんがいない間の私たちは、診療所隣家の
ばあちゃん(80代)に預けられた。

まあ、精神的にはいい大人として、可哀そうなポチにつきあって
あげるか。

などと思いつつ、私は日々を過ごした。


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おっちゃんとおばちゃん、心配かけてごめんよ



舐めんなよ!!
わたしがこんな事で、躊躇すると思ったか!!

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