ひとまず一回ヤりましょう、公爵様

木野 キノ子

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第3章 追憶

3 蜂蜜騒動

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幸いポチに悪さしている寄生虫は、一般的に手に入る虫下しで
駆除できるそうだ。
ただ、血と膿はなるべく綺麗に洗って、清潔な包帯を巻かねば
ならない。

最初はおばちゃんがやろうとしたのだが、ポチが物陰に隠れ、

「フィリーがいい…」

と、消え入りそうな声で訴えたため、

「私がやるよ」

と言った。

そしたらなぜか、ポチがぎょっとしてた。
……なんだい、私が嫌がるとでも思ったのかねぇ…。

確かに、かなり汚くて臭い状態だったから、おばちゃんは心配
してたな…けどさぁ。

前世の職場が…その…最初はきれいでも、最後は汚れる状態
だったから、そん中でふつーに寝たりしたし…。

それに付け加えてさあ、私セフレとめっちゃぐちゃぐちゃに
エッチしまくって、掃除せずに仕事行って…帰ってきたら…その
まあ、言葉に言い表せないような状態になってたこと…一度や
二度じゃなくてね…それ何度掃除したか…、うん。

だから気になんなかったのよ、うん。
ホントに!!

そんで実際ポチの体を綺麗にしてやって、手際よく包帯を巻いて
あげた。

包帯を巻くには自信あるよの!

前世の顧客に包帯プレイ大好きな奴がいたからさ~。
そこで培ったスキルじゃ!!

…………………………………自慢になんねぇ~ってか、
できねぇ!!

ちなみにスキンシップもかなりした。

ポチは最初、自分の体を気にしてか、近くに寄ってきても私に
触ろうとはしなかった。

そんなポチを抱きしめたり、頭をなでたりをよくしてあげた。
するとポチは、そのたびにとても嬉しそうだったので、私も
嬉しかった。

そう言えば、何度か言われたっけ…。

「汚くないの?
イヤじゃないの?
臭くないの?」

みたいなこと。
そのたびに、

「なんで?
汚くて臭いのはいいことだよ。
ポチの体が、悪いものを出そうとしてる証拠だもん。
私、ポチのこと大好きだも~ん。
だから嬉しいよ~」

…って言ってあげたっけ。

そして5日がたつと、ポチの体は随分綺麗になってきて、動き
回っても大丈夫になった。
おっちゃんが驚異的な回復力だと、驚いとった。

ポチと過ごす中で私も一つ、すごーく驚いたことがある。
それは…。
ポチの驚異的な記憶力!!

私はポチの世話をする以外の時間は、もっぱらおっちゃんの
書いた医学書を読んでいた。
すると決まって、ポチが寄ってくる。
私は本を汚すわけにはいかないから、ポチに絶対本に触らない
という条件で、一緒に見ることを許した。

そしておっちゃんの本を、私の復習も兼ねて、一通り見せたの
だが…。
何とポチは、その内容すべてを事細かに暗記してしまった。
内容のみならず、書いてあるページ数、しまいには絵まで忠実に
再現し…そのうまいこと…。
画家でも顔負けだろう。
おっちゃんはかなりリアルに、精巧にスケッチをしていたのだが、
疾病、薬草(毒草含む)の絵を、かなり正確に再現した。
これにはおっちゃんも、舌を巻いていた。

ポチの脳みそには、スマホアプリでも入ってんのかい?
…と、言いたくなってしまったよ。

ポチもほとんど治ってきたある日。

「ただいま」

あ、おっちゃんとおばちゃん帰ってきた。

「お帰りなさーい」

私はポチと二人で迎えた。

今日は二人で少し離れた町まで行って来たそう。
診療所はお休みで、私は隣に住むばーちゃん家に、ポチと一緒に
預けられていた。

「いい子にしてた?」

「はーい」

二人仲良く返事をする。
最近ではポチも、だいぶおっちゃんとおばちゃんに慣れた。

「今日は何しに行ってたの~」

私が聞けば、

「ん?フィリー嬢ちゃんがオレに話してくれた、蜂蜜の話を
知り合いの医師に、しに行ってたのさ」

あ…それかぁ。

「蜂蜜の話って?」

私の服をくいくいと引っ張ってくる。
ポチは私の興味のある物、私に関する物は何でも知りたがる。

「ん~、1歳未満の子供には、蜂蜜を食べさせるのは良くな
いっていうこと」

「そ~なの?」

ポチはきょとんとしとる。
まあ、だろうね。

ポチと出会う少し前。
偶然にも私は、診療所に尋ねてきた近所のおばちゃんが、蜂蜜を
見せ、

「娘が赤ん坊を連れて帰ってきてるから、食べさせてやろうと
思って…」

と言っているのを聞いて、思わず

「だめ――――――――!!」

と叫んで、飛びついた。

「1歳になってない赤ちゃんに、蜂蜜はダメ!!絶対!!」

みんな訳が分からなかっただろう。
この人が知らないだけかもしれないが、この世界の遅れた医学では、
蜂蜜が1歳未満の赤子に毒であること…知れ渡っていない可能性は
高かった。
もちろん前世の世界の常識が、今世の世界で同じかどうかは別と
して…。
もし同じであったら、私は赤子を見殺しにすることになる。
どんなに変な子扱いされても、それだけは嫌だった。

でも幸いにも、おっちゃんは世界中を旅していろんなものを見て
来ただけあって、頭は柔軟だった。
私を別室に連れて行き、話を聞いてくれた。

さて、どうしよう。

細菌という概念のないこの世界で、ボツリヌス菌と言っても
信じてもらえるわけがない。
もっと言っちゃえば、私は医学なんざ知らないから、詳しく説明
することもできない。

50年生きた、すべての知識と頭をフル回転し私が答えたこと
は…。

蜂蜜は栄養とエネルギーが大変高い。
でもだからこそ、生まれたばかりの赤子は、高すぎるエネルギー
に対応できず、体が壊れてしまう。
ここに来る前、辺境から来た旅人の話を聞いた。
その人の村では、蜂蜜をとったら大人と1歳以上の子供はみんな
健康で元気になったが、1歳未満の子供だけは、逆に亡くなって
しまった。
だから自分はそのことを、できるだけ多くの人に伝えて回って
いる。
私にもいろんな人に、伝えてほしいとお願いされた。
旅人の名前も風体も覚えていない。

こんなことを、かなりしっちゃかめっちゃかに言ったと思う。
幸い私の外見は5歳の子供。
理路整然と話せるほうがおかしい歳だ。

おっちゃんは私の話を最後まで聞いてくれて、大分考え込んだ
あげく、何と蜂蜜を持ってきたおばちゃんに、あげないほうが
いいと言ってくれた。

というのも実はおっちゃん。
私の作り話と似たような事例を、知り合いの医者から相談された
直後だったらしい。
その村では、栄養補給のために蜂蜜を与えていた。
その結果、大人と1歳以上の子供の栄養状態は、大分改善したが
逆に1歳未満の子供の死亡率だけが上がってしまったらしい。
しかも一つの村だけでなく、複数の村でそういうことがあった
そうな。
地域も場所も、時期もばらばらだったらしいのだが、状況は
皆一緒。

ゆえに今日、おっちゃんは知り合いの医者に、その話をしてきて
くれたそう。
そしてその医者は、今後1歳未満の子供にのみ、蜂蜜を与えずに
様子を見ると言ってくれた。

よかった!!
本当に良かった…。

「そうだったんだ…」

「うん…だからポチもその話をしてくれない?
1歳未満の子供に蜂蜜はダメって」

「わかった」

ポチは私に対して、本当に従順だ。

しかしおばちゃんは…なんだか顔が暗い。

「おばちゃん?」

「ああ、お昼にしようねぇ。
二人ともお腹すいたでしょ?」

何だかごまかされた気分だ…。
こういう時、本当に5歳の子供なら、無遠慮に聞けるのだろう
が…。
私は50歳越えだ。

もしかしたらおばちゃんは、蜂蜜で子供を無くしているのかも
しれない。
なら、おばちゃん自身が話をするまで、こちらから聞くわけには
いかない。
大人の常識だよね、うん。

お昼を食べた後、おっちゃんの処方した薬を飲んだポチの体を
私はいつも通り綺麗にしてあげる。
でももうほとんど、血も膿も出なくなった。
かさぶたもだいぶ取れて、綺麗になってきた。

よかったよかった。

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人の体の汚れ落とすなんざ、朝飯前よ。

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