ひとまず一回ヤりましょう、公爵様

木野 キノ子

文字の大きさ
19 / 71
第4章 交渉

2 公平であれ

しおりを挟む
さて、どうするか…。

まさか前世の話はできないし…まして…。
4桁を軽く超える男性経験がありますなんて、私が超好きな公爵様に
言ったりしたら、卒倒しかねないしな~。

でも、幸いと言いたくはないけれど!
今世も最底辺…一般平民の家庭ですら、もう少しいい暮らしして
いますよと言えるような、お貴族様として暮らしていたおかげで…。

この手の話のネタはかなりあるんだよね~。

「それではやはり、結婚の申し出自体をお断りするしかないようですね」

「っっなぜですか!!」

「公平性を期すと言うのは…何よりこの私を守るために必要な行動だから
です!
ただ公爵様にそれをする気が無いなら…公爵様は私を守る気が無いという
ことだと考えさせていただきます」

「……もう少しわかるようにご説明いただけませんか」

ホントに納得できねーって顔してる…まあ計画通りだけどさ。

「これはお話ししようかどうか迷っていましたが…」

「やはりお話ししたほうがいいようですね…」

意味深な雰囲気を作るのもうまいよ、私。

「実は公爵様が求婚にいらした日の翌日…噂を聞きつけたようで
ある男爵家の一家が予約も取らずにいきなり来たんです」

「その一家は母の実家と懇意にしていますが、私たち家族はその一家を
ハッキリ言って嫌っています」

「なぜ?」

「言葉遣いは丁寧なのですが、私たち家族を見下すことで
自分たちの虚栄心を満たしているのが良くわかる人たちなので」

「…」

「そこの令息がまた、かなり性格が悪いんですけどね。
私にしつこく聞くんですよ。
どこの誰に求婚されたのかって…。
あ、私は言いたくなかったのでテキトーにはぐらかしてました」

「…」

「そしたら業を煮やしたのか、誰も見ていないことをいいことに
私の腕を思い切り掴み上げました。
あ、これ証拠です」

私は長袖シャツをまくり上げる。
その腕にはまだ生々しい、掴まれた手の跡がくっきりとついていた。

そしてそれを見た公爵様の顔色が明らかに変わる。

「ここからは、腕を掴み上げられた状態で言われたことを正確に
お話します」

「随分と身分の高い人間を釣り上げたようだが、調子に乗るなよ。
どうせお前の体が目当てに決まってる。
お前は、体は小さいが胸もケツもしっかり出ていて、本当に男を
欲情させるからな。
ああそうだ、出来るだけ捨てられない様に、今からオレが男を
誑し込む術を体に教えてやるよ」

「…まあ、もっと言いたかったみたいですけど、さすがに
聞くに堪えないので、思い切り叫んだら母が気づいて追い払って
くれ」

私が言葉を紡ぎ終わらぬうちに、私の顔の前…正確には斜め前を
物凄い速度で何かが落下した。

その落下したものがテーブルに叩きつけられた音で、私の言葉は
かき消された。

まあ…予想通りすぎる。
公爵様が鬼の形相で、テーブルの上に拳を叩きつけたのだ。
石でできているテーブルには見事なヒビ…手ぇ大丈夫か?公爵様。

「…名前……」

「はい?」

公爵様はテーブルを鷲掴みにして、ヒビがさらに広がっている。
うん、手は大丈夫なようだ。

「その令息の名前を言ってください。
二度とそのようなことが無いよう、完璧に処理いたします」

うぉ、処理って言っちゃってるよこの人!

「…何をする気ですか?」

「貴方がそれを知る必要はない」

「でしたら何もしないでください」

「…っなぜ?!!」

「では公爵様にお聞きしますが…」

ここでも少し間を置き、呼吸を整える。

「公爵様はなぜ私が嘘をついていないと思うのですか?」

「なっ…」

「だって何も証拠はないですよ?この腕の手の後だって
その令息がつけたものだって証明できませんよね」

「そっそれは…っ」

公爵様は黙り込んでしまった。
う~ん。
ま、いじめるのはこのくらいにしておくか…。

「失礼いたしました。
しかし、わかっていただきたかったのです」

「人間は自分の眼で見たもの、耳で聞いたものしか
原則信じないということを…」

「それは…」

「私は今の発言全て、公爵様に嘘は一切ついておりません。
そして公爵様も、私を完全に信じて下さってとても嬉しかった
です」

「…」

「しかし周りが同じとは限らない」

「もし今回の件で公爵様がその令息に何らかの処罰を与えた場合」

「特に私を妬んで貶めようとする者は…」

「あの女は公爵様の寵愛をいいことに、気に入らない人間に
不当な罰を与える、とんでもない悪女だ…ぐらい言うでしょうね」

「そんなことは私が言わせな」

「不可能です」

私はかなりきっぱりと公爵様の言を遮った。

「だいたいコバエは一匹倒したところで、すぐわんさか湧きます」

「コ…コバエ?」

「ん~、コバエじゃなければゴキブリか…。とにかく鬱陶しい
害虫とお考え下さい」

「つまりどれだけ退治しても、いなくなることは無いのです」

わけわからんって顔の公爵様。
まあ、よろし。
最後まできいてくださいな、と。

「そういう害虫の対応で私が一番良いと思うのは…
まず第一に様子を注意深く伺いながら…ほっときます。
大量発生されるとかなりメンドくさいので、様子を見る
必要はありますが、よほどうっとうしくない限りほっときます」

「は…はあ…」

「んで、あまりにもうっとおしければ、うっとおしい分だけ
軽くペシーンとはたきます。
それで十分ですよ」

「し…しかし…」

「ではお聞きしますが公爵様…。
恐らく公爵様はご自身が悪口を言われた分には、そこまで怒らない
のではないでしょうか?」

「そ、それは…」

「私に対しての侮辱だから、非常に怒ってらっしゃる。
違いますか?」

「…」

「腕の事だって、私だから怒るんですよね?
腕を掴まれたのが公爵様だったら、それこそしれっとしてらっしゃる
でしょう?
だって、公爵様はそんな奴に腕を掴まれたところで、痛くも痒くも
ないでしょうから」

「は…はい…」

ここで私はお菓子を一つつまむ。
うん、おいしい。
さすが公爵家のシェフ!
並みの腕じゃねぇ!!

「まあ、結局何が言いたいかと申しますとですね。
今回被害を受けたのは、他の誰でもない私なんですよ。
その私に何も言わず、罰を与えるのはやめていただきたいと
いうことです」

「あなたは…」

「はい?」

「どうして平気なのですか?悔しくないのですか?
悲しくないのですか?辛くないのですか?」

私よりずっと悲痛そうな顔してる…複雑やな~。

「別に平気だとは言っておりません。
悔しい、悲しい、辛いは当然ありますよ」

「だったら!!」

「けれど害虫は一匹潰したところですぐに別のが出てきます。
事実、我が家を見下しているのは、その一家だけではありませんし。
いちいちかまってたらキリがありません。
それが理由の半分です」

「…?!
なら、もう半分は…」

「先ほどもお話ししましたが…公爵様の醜聞につながるからです」

「そ、それは」

「公爵様が気にしなくても、私が気にします!!!」

公爵様の眼を睨みつけるように、真っすぐ…見る。

「私、公爵様に再三言いましたよね?
公爵様の事が好きだと!!
私が好きだから公爵様が怒るのと同じように、私だって公爵様が
好きだから、公爵様の事をひどく言われれば怒ります!!」

「どうしても緊急性を要して、相手の意思を確認できず処罰しな
ければならない場合もあるでしょう。
でもだからこそ!
そうでない場合はお互いに尊重し合い、バカにされた本人がどうして
欲しいのかを聞くべきだと思います」

私は公爵様から眼をそらさなかった。
そして一呼吸置く。

「先ほどの公平性の話…公爵様は確かにご不満かと思います。
でもあれをしっかり書かないと、公爵様は女の言いなりになって、
しょーもないなんて言う人が必ずいます。
例え他の人に見せるものでなかったとしても、私が嫌なのです。
それをご理解いただけないなら、結婚するのは難しいと判断いたし
ました」

「私は守ってもらいたくないわけではありません。
しかしそれ以上に私という人間を尊重してくれない人と
一緒にいる気はありません。
それなら一生独身でいたほうが良いです」

悪いね公爵様。
わたしゃ還暦越えのおばはんだから、この辺の意思は曲げないよ。
絶対にね。


--------------------------------------------------------------------------


怒り心頭の公爵様

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...