ひとまず一回ヤりましょう、公爵様

木野 キノ子

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第8章 暗躍

3 近衛騎士団の団長、王立騎士団に来る

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さて王立騎士団詰所。

団員たちの何か聞きたげな視線を物ともせず、団長室へ入り、書類
整理を始めたギリアムだったが、すぐに…

「失礼いたします」

まるでギリアムが部屋に入ったタイミングを見計らったかのように、
入ってきたのは二人の人間。
一人はテオルド・ルイザーク伯爵、もう一人は…そもそも王立騎士団の
制服ではなかった。

年のころはギリアムと変わらない、地黒だが端正な顔立ちと、鮮やかな
金髪にしゅっとした顎と背格好、しかしながら華奢とは言い均整のとれた
筋肉を持っていることが、その所作からわかる。
ギリアムより多少背は低く、体格も小さく見えるが、常に鍛えているので
あろう。

「ごきげんよう…。
ギリアム・アウススト・ファルメニウス公爵閣下に、
ローカス・クエント・ケイシロンがご挨拶申し上げます」

ケイシロン家は同じ公爵ではあるが、公爵の中にも明確な序列が
ある。
ギリアムは第一位のため、当然序列は上なのだ。

「今日は随分とかしこまるんだな、ローカス卿。
言っておくが、私の返事はローカス卿の想像通りだぞ」

「……まだ何も言っておりません」

少しばかり、うわずった声色に変わる。

「まず、そちらに提出した請求書は正当な額だ。
盛ったりなどは一切していない。
あと私の婚約者について、話すことは何もない」

すると今まで澄ましていたローカス卿の眉根が一気に吊り上がり、

「ホンットお前は、昔っからいけ好かねぇな、おい!!」

食って掛かった。

序列が上のギリアムに対し、この言葉遣いにはいくつか理由がある。

まずケイシロン公爵家は、ファルメニウス公爵家から分岐した最初の
家門である。
以降、武を競い合い、ともに発展してきた経緯があり、親交が深い。
そしてギリアムとローカスは幼馴染で、さらにローカスはギリアムより
2歳年上のため、子供のころの言動がついつい出る。
それについてギリアムが一切咎めないから、この先もあまり変わらない
だろう。

「レティア王女殿下が壊した調度品はさておき…。
花の値段がなんでこんなに、たけぇんだよ!!」

「それについては資料を添付したはずなのだが?」

公爵邸の花壇には、平民でも普通に買える花から、中には1本が平民の
給料の云か月分という高額な花まである。
今回近衛兵たちは、ごてーねーに高い花ばかり、無残な状態にしていき
ましたとさ。

そしてローカス卿は何を隠そう、近衛騎士団の団長だ。

「せめて一言ぐらい、言ってくれても…」

と呟けば、

「ならば言わせてもらうが…」

ギリアムはきつめの視線を送り、

「こちらは予約を入れて来る正規の客に対しては、しっかりとその旨
注意している。
今回は予約なしの上、相手が王女殿下とあっては、使用人はすべて
そちらの準備に追われた。
そして気づいたころには、誰の命令か、自主的かは知らんが、我が家の
庭園を安全確認の名目で、だいぶぐしゃぐしゃにし終えていたのだが?」

ローカス卿は頭を抱える。
反論のしようがないからだ。

「まあ…しかしローカス卿には、一抹の同情はしているよ」

「え?」

ローカス卿は驚いて、思わずかなり間抜けな声を出してしまった。

ローカス卿の知るギリアムという男は、そんな言葉を発する人間では
なかったからだ。

「せめてローカス卿がいれば、今回の不始末と不祥事はだいぶ避けら
れたと思うからな」

ローカス卿は難しい顔をして頭をかく。

「だからレティア王女殿下が押し掛けた時点で、ローカス卿が不在という
ことはすぐに分かった。
まあ、おかげで私の独壇場にできたがね」

ギリアムは不敵な笑みを浮かべる。

「ちょっとは手加減してくれよな…」

前髪を無造作にぐしゃりと撫でる。

「人が嫌だということを、何度もやる人間に、手加減する理由がない」

そんなギリアムの言葉に、ローカス卿は盛大なため息をつき、

「その厳しさと杓子定規さ、ちょっとは緩めた方がいいぜ?
周りに人、いなくなるぞ」

呆れながら言えば、

「ふむ…ローカス卿の意見について、どう思う?
テオルド卿」

するとそれまで直立不動だったテオルド卿が、

「我らの仕事が仕事ですから…。
ギリアム公爵閣下は、むしろちょうどよろしいかと…」

顎を触りながら、静かに言う。

「テオルド卿の意見が参考になるか、バカ!!」

実はテオルド・ルイザーク伯爵は若かりし頃、賞罰に対し平民だから
貴族だからで手心を加えるのはいかがなものか…と、当時の上司(当然
貴族)に物申し、左遷された。
しかし左遷先でも一切腐らず、功績をあげ、見事に返り咲いたという
非常にギリアムと相性の良い性格とエピソードの持ち主だった。

「まったくお前の周りがこんなんじゃあ…婚約者殿も大変だよな~あ。
すぐに泣きわめいて、逃げ出すぞ~」

するとギリアムの顔色が一瞬だけ変わったのを、ローカス卿は見逃さ
なかった。

「用件はそれだけか?」

「婚約者殿については…」

「しゃべらんぞ」

「わかっている…ただ、建国記念パーティーが終わったら、席は設けて
くれるのだろう?」

「それはローカス卿の、今後の行動次第とさせてもらおう」

「ホンットお前はよ~~~~」

机に突っ伏すローカス卿。
しばしして、盛大なため息とともに立ち上がると

「ギリアム公爵閣下に聞いたオレがバカだった…」

という捨て台詞とともに、団長室を出た。
テオルド卿が見送るために、伴う。

詰所の廊下を歩きながら、

「で?(ローカス)」

「は?(テオルド)」

「本当にテオルド卿も会ったことはないと?」

「私は嘘は大嫌いです」

「マジかよ…クソ…!!」

ローカス卿は詰所の廊下を曲がる。

「!!お帰りでは?」

「いや…せっかく来たから他の奴らの顔が見たくてね…
だめか?」

「…いえ、ご自由に」

そして廊下の終着点。
ひときわ大きな扉を開けると…

「おーっす、差し入れ届いてるかぁ?」

「ローカス卿!!
ゴチになってまーす!!」

騎士団員たちの陽気な声。
しかしローカス卿の後ろの人影を見て、

「げ…!!テオルド卿…。
あの…これは…」

「ああ、そのまま。
ローカス卿から話は聞いている。
ギリアム団長には私から言っておく」

途端に歓声が上がった。

実はこのローカス卿。
騎士団員たちに、意外にも人気があった。
公爵という高い身分でありながら、気取らず、こうやって
差し入れをし、話をする。
それで手を休めている団員が咎められると、決まって自分が
手を止めさせたと言って、下に絶対被害がいかないように
するからだ。

さて、ほかの団員達もいるが、ローカス卿のお目当ては、
ギリアムの側近五人組だ。

側近五人組もそのことをわかっているようで、自然とローカス卿と
円陣を組むような位置に座るのだった。


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ローカス卿…

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